ローは、やっぱりステラさんのことが好きなんだろうか。
他の人とステラさんは違う。
他の人はローから離れたけれど
ステラさんは自分から居なくなったって言ってた。
ローが同じ人を抱かなくなったのは
ステラさんのせい?
そんなに、
ステラさんが居なくなっちゃったのが悲しかったの?
再会できたら
私のことはもういらないの?
今まで考えないようにしていたことが
胸に重くのしかかる。
私が自分に都合よく考えすぎていただけで
ローはもしかしたら
私が告白を遮った時に
もう私のことは吹っ切っていたのかもしれない。
だから花火の時も抱き締めてくれなくて
賞金首を斬ってきた時も私の手を払い除けたのかな。
私がしつこかったから
私の気持ちが駄々漏れで
ああ言えば引き下がるって分かってたから
だからあんなこと言ったの?
あんなに舞い上がって
ベポに話を聞いて貰っていたのが恥ずかしい。
いつもそう。
私は払い除けても手を伸ばしてくれる気持ちに浸ってるだけ。
仲間になれないと言っても誘ってくれる皆。
気持ちを聞かなかったことにしても好きでいてくれるロー。
私が言えずにいることを知りたいと言ってくれるローやベポ。
本当は欲しくて仕方ないくせに。
言えなくても、気にしていて欲しいくせに。
手を伸ばさなくても
それは結局掴めなくて
皆に心配かけて
面倒くさいことさせて
それなのに私はそれでも不満なんだ。
鼻が熱い。
視界が滲む。
ねえ、この涙はなんで出てくるの?
ローがステラさんの事を好きなんだって言うことが悲しいのか
自分が情けなくて惨めで仕方ないのか
もう意味が分からない。
「ぐすっ。」
泣いたって仕方ないのに
涙が止まらない。
なんか
呆気なかったな。
ペンギンが言うように
変わってしまう気持ちに怯えて
欲しい物を我慢なんてしなければ
こんなことにならなかったのかな。
あの時私がローを受け入れていれば
ステラさんが目の前に現れても
ローはステラさんの所に行ってしまわなかった?
初恋は実らないって
よく言うもんね。
こんな気持ちになるくらいなら
ローのことを好きになるんじゃなかった。
あの時皆を船に乗せるなんて
言い出すんじゃなかった。
ソニアに皆と離れろって言われた時
皆とお別れしておけば良かった。
栄養失調で倒れた時
あのまま死んでしまえば良かった。
もうどんどん思考が沈んで行く。
寝ているペンギンを起こさないように
鼻をすする音としゃくりを
こたつ布団で吸収させようと顔を埋めるけど
肝心の涙が止まってくれない。
泣くな。
泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな。
被害者面するな。
自業自得だ。
もうやだ。
消えたい。
ぐいっ。
「!?……ぺ、ペンギ、ン?」
急に腕を引かれたと思ったら
抱き締められていた。
一瞬ペンギンが寝ぼけてるのかと思ったけど
背中に回された手が優しく背中を叩いてくれている。
寝てたんじゃ、なかったの?
「どしたの?起きちゃった?」
上擦る声を抑えて
出来るだけ普通らしく言葉を紡いだ。
暖炉の明かりしかないリビングは暗かったし
起こさないように声は抑えていたつもり。
このまま顔を見られなければ
誤魔化せる。
「見ねえから。」
「え?」
私を包んでいる腕に
ぎゅっと力が込められて
ペンギンの胸に顔が押し潰されて苦しい。
「見ねえから。一人で泣いたりすんな。」
胸から熱いものがこみ上げてきて
せっかく収めようとしていた涙が
さっきの比じゃないくらい、溢れてきた。
「ぐすっ。」
鼻を啜る音としゃくりをあげる声が聞こえてきて
意識が浮上した。
どうやら俺は寝落ちしてたらしい。
ドラゴンが去り際に言うセリフを考えていた筈が
気付けばクッションに頬を埋めていて
隣でケラケラ笑っていた筈のウイが
膝を抱えて肩を震わせている。
やっぱ無理だったか。
気を紛れさせようと奮闘したつもりではあったが
今日のあれはウイにとって余程衝撃的だったようだ。
ただ涙を流しているというよりも
これは本格的に泣いている。
そんなに泣きたいなら声をあげて泣けば良いのに。
こたつに顔を埋めて
声を押し殺そうとするウイの背中は
とても小さく見えた。
キャプテンにその気がないなら
ウイを連れて先に帰れば
後を追って戻ってくると思っていた。
ベポもそのつもりだっただろうし
上手いことキャプテンを焚き付けた筈だ。
それでも追ってこないということは
やはりキャプテンはステラに未練があるのだろうか。
ステラは確かに体だけ見れば良い女だ。
顔も体も一級品で
性格だって悪い訳じゃない。
でもキャプテンにとって
あいつはウイより大事なもんなのか?
そんな簡単に乗り換えられるような気持ちのために
俺はウイを諦めた訳じゃない。
「ひっく……。」
俺が今後どうすべきかは置いておいて
こいつを放っておけない。
腕を引いてウイの体を抱き寄せた。
驚きで体を硬直させたウイは
今後に及んで泣いているのを誤魔化そうと必死で取り繕っている。
本当に、救いようのないバカだ。こいつは。
見ないから一人で泣くなと
抱き締める腕に力を込めると
俺の腕に軽く添えていただけのウイの手が
袖を握りしめた。
鼻を啜る音としゃくりをあげる声と共に
腕の中のウイの肩が震え出す。
俺はウイの頭に顎を乗せて
どうしたものかと考えながら、すがり付くように泣くウイの背中を擦っていた。
俺
これ、頂いちゃって良いのかしら。
「……ごめん。ありがと。」
「いーえ。もう気ぃ済んだの。」
一頻り泣いた後
ウイがぽそりと謝罪とお礼を述べた。
俺の言葉に鼻を啜りながら頷いたウイは
泣き腫らした顔を見られたくないのか
胸に額を当てたまま顔を上げようとしない。
まあ別に良い。
本人が見せたくないのならそれはそれで結構だ。
「今日はもう寝なさい。明日の朝はスクランブルエッグが良いです。」
「……ペンギン、卵好きだね。」
ふっと鼻から息が抜ける音が聞こえて
ウイは今、笑っているんだろうと思った。
そんな些細なことに
ほっとしている自分がいる。
さっき目が覚めて良かった。
あのままウイを一人で泣かせずに済んで
本当に良かった。
「ふふ。」
「んだよ気持ち悪ぃ。」
胸に埋まった頭を撫でていると
ウイが急に笑いだした。
「ペンギンがこんなに男前だとは思わなかった。」
「お前に見る目がねぇだけだろ。」
俺が男前なのは今に始まったことじゃないだろう。
何がウイのツボにクリーンヒットしたのかは知らないが
どうやら俺のポイントは上がったらしい。
逆にキャプテンのポイントは駄々下がりだろう。
ざまぁ見ろ。
「ペンギンが泣きたくなったら私が胸貸してあげるからね。」
「Eカップ以下の胸はいらねぇ。」
それ世の中の女を敵に回す発言だからね!とウイが顔を上げて睨み付けてきた。
目が充血していて
擦ったのか少し腫れている。
涙袋を親指でなぞると
睨んでいた目力は弱まり
きょとんとした目がこちらを見上げた。
キャプテンがあれだけ口煩く言うのも納得だ。
本当にこいつは、男に対してまるで危機感がない。
「明日かまくら作ろうぜ。」
「じゃあペンギン雪集める係ね!」
しれっときつい役回りを人に押し付ける辺り
少しは調子が戻ってきたんだろう。
キスでもしてやろうかと思ったが
キャプテンの動向に確信が持てない今はまだ
やめておこう。
どう転ぼうが明日は修羅場だ。
どうせまたこいつは落ち込むんだろう。
状況が確定するまではこの役回りで我慢しておくか。
「おい。ウイとペンギンはどうした。」
「帰ったよ。二人で。」
トイレから戻ってきたキャプテンが
早速二人が居ないことに気付いた。
二人で、という所に嫌味をこめて強調して言うと
それを聞いたキャプテンが眉を潜めた。
「あの子達付き合ってるの?随分仲が良さそうだったけど。」
「寒いから一緒にお風呂入るって言ってたしね。」
「まぁ!ラブラブじゃない!」
素敵!と手を合わせてにっこりと微笑むステラとは対照的に
キャプテンが目に見えて殺気立った。
文句言える立場じゃないでしょ。
今は。
「でもペンギンも男前になったわねぇ。昔はあんなに可愛かったのに。振られちゃったわ。」
「ウイに誤解されたくなかったんじゃない?誰かさんみたいに。」
残念そうにそう呟いたステラは
キャプテンの腕に手を絡ませて寂しい、とそれに胸を押し当てている。
ペンギンで良いならペンギンにやれよ。
この牛女。
流石にあそこまで直接的な嫌味を言えば
キャプテンも文句を言ってくるかと思ったのに
苛立ってはいるようだけどそれが飛んでくることはなかった。
「シャチは?シャチも私を振るの?」
「……あー。俺も遠慮しとくー。」
むしろお前は行け!
そしてキャプテンを解放させろ!
何やってんだこの役立たずが!!
シャチもシャチでウイをへこませた原因を作ったステラとよろしくやるのは気が引けたんだろうけど
それでキャプテンが解放されれば一件落着だったのに。
何の為に残ったんだこいつは。
シャチを睨み付けると
マジで勘弁、と手のひらを上げた。
「もぅ……。良いもん!ローは付き合ってくれるわよね?」
ステラは牛のような胸で腕を挟み込みながら
上目遣いでキャプテンを見上げている。
「ロー?」
「………あぁ。」
……そういうこと。
何でそんな面白くなさそうな顔してるのかは知らないけど
キャプテンには正直がっかりだ。
ウイを先に返しておいて良かった。
とてもじゃないけどこんな状況、ウイには見せられない。