6-40

結局日付が変わるまで飲んだ後
キャプテンはステラと二階の宿に消えて行った。

怨み殺してやるくらいの勢いで二人を睨み付けたけど

それはどちらの視線と絡まることもなかった。







「なに?どういうこと?俺頭がついてかないんだけど。」
「知らないよ。でもそういう事でしょ。」



シャチが頭を抱えながら世界の終わりみたいな顔をしている。




「ウイに何て言うんだよ。これ。」
「聞かれたらありのままを話せば良いんじゃない。」



弁護してやるつもりなんてない。

俺はキャプテンだけの味方であるつもりなんてないし

どうするかは全てを知った上でウイが決めることだ。

どうせとてつもなくへこむんだろうけど
キャプテンがそういうつもりなら
それをウイに伏せておく方が残酷だ。




ステラはその辺の一夜限りの女じゃない。

キャプテンは誤解されてもおかしくない行動をウイの前でとった。

そして実際に
ステラと過ごす為に宿に消えて行った。




「つーかペンギンの方も大丈夫なのかよアレ。」
「良いんじゃない?ペンギンの方がウイのこと大事にしてくれそう。」



お前も分かってたなら止めろよとシャチがため息をつく。

分からない訳ないだろう。



ウイもキャプテンのことが好きだし
キャプテンもウイのことを特別だと思っていると思ってた。



ペンギンもそんな二人が大切だから
二人の気持ちを知っているから
ウイとキャプテンの仲をひやかしながらも応援していたことも分かってた。



でもこうなるなら話は別だ。



ペンギンは確かに節操はないけれど
ウイへの気持ちを大っぴらにして良いとなれば

あんなキャプテンよりウイを大事にしてくれる気がする。

ウイだって
ペンギンと居るときはいつでも楽しそうだ。




「なぁ。これ終わるの待ってた方が良いやつ?」
「ウイの前に戻す前にどういうつもりなのかは聞かなきゃ気が済まない。」




何て言い訳しようと許せる気はしないけど
言い分くらいは聞いておこう。


もう何杯目になるのかは覚えていない酒を
込み上げてくる苛立ちと一緒に飲み込んだ。




「なんだ。お前らまだいたのか。」




明け方
二階から降りてきたキャプテンの声にはっとする。

うたた寝してしまっていたようだ。




「もう気は済んだの。」
「一々突っかかってくんな面倒臭ぇ。」




一睡もしていなかったらしいベポは
寝不足のせいなのか怒りのせいなのか

若干目が充血していた。



店を出ようとするキャプテンを追って外に出ると

辺りはまだ薄暗くて

雪が音を吸収してしまったかのように
しんと静まり返っていた。




「ちょっと。ちゃんと説明して。どういうつもり。」
「何がだ。」




前を歩くキャプテンが苛立ちのこもったベポの声に振り向く。

致してきた筈のキャプテンの顔は浮かない様子で
ポケットに手を突っ込んだまま気だるそうに立っていた。





「何がって何。自分が一番身に覚えあるでしょ。」
「……別に言い訳するつもりはねぇよ。」
「キャプテンは!!ウイのこともっとちゃんと好きだと思ってた。」





開き直りとも取れる発言をするキャプテンに
ベポが堪らず声を荒げる。

両者睨み合いが続く中
誰にも睨まれていない筈の俺が
一番内心冷や冷やしている。

キャプテンもどうしてベポの怒りに油を注ぐような言い方をするのか。





「言い訳するつもりはねぇと言ってる。自分で決めたことだ。何度も言わすな。」
「あっそう。じゃあもう知らない。」





先に衝突した視線を逸らしたのはキャプテンだった。

そのまま船へと歩き出す。

着実に

第二ラウンドの会場が近づいている。





まだ朝も早い。

まだ寝ているか

もしかしたらウイは眠れずに起きているかもしれない。




キャプテンが部屋に戻ったら

取り敢えずペンギンを叩き起こそう。

先に
戻ってからのウイの様子も聞いておいた方が良いだろう。















地下にあいつ居なかったらどうしよう。




ウイの部屋であいつが寝てたらどうする。


それもそれでまた修羅場だ。









足取りは重いのに




近くの酒場にしたせいで

あっという間にこちらの気も知らずに羽の旗をはためかせる


見慣れたアイボリーの船に着いてしまった。





扉を開けて船室へと入るキャプテンに少し遅れて中に足を踏み入れると

風を凌げるだけにしては暖かすぎる空気が肌を覆った。




パチパチと薪が燃える音が聞こえる。




消し忘れたらしい暖炉を覗こうとすると





キャプテンが一点を見つめたまま固まっている。





その視線の先を辿ると

そこには




抱き合って眠るウイとペンギンの寝顔が

こたつ布団から覗いていた。












心の準備が出来ないまま


第二ラウンド開始のゴングが頭の中で響き渡った。







キャプテンが物凄い形相でペンギンの胸ぐらを掴み上げると

んぁ?と間抜けな声を上げながらペンギンが目を開いた。



「お帰りキャプテン。今何時?」
「てめぇ。どういうつもりだこれは。」



ペンギンが掴みあげられているせいで
彼の胸に頭を預けていたウイは転げ落ち
んぅ、と呻き声を上げたものの

彼女はまだ夢の中だ。

問いに答える様子もないキャプテンに
ペンギンは自ら時計に目をやって
まだ5時じゃんと欠伸をしながら頭を掻いている。

寝惚けてるのか
覚悟を決めてこうしたのかは知らないが

こちらも中々良い度胸だ。

舌打ちと共に振り上げたキャプテンの拳は



目的の場所に到達することなくペンギンの手に受け止められた。




「何?朝っぱらから。」
「こいつに構うなと何度言ったら分かる。」
「俺今回は殴られる覚えないんだけど。」




そう言って受け止めた拳を投げ返すペンギンをキャプテンが睨み付けた。



「ていうかこっちも離してくれる?せっかく寝たのにウイ起きちゃうじゃん。」
「とりあえずそっから出ろ。」
「無理。足めっちゃ絡み合ってるから俺動けない。」



ペンギンの発言に頭に血が登ったらしいキャプテンが
掴んだ胸ぐらを離すどころかそのまま引き上げて
ペンギンを投げ飛ばす。

二人の足は本当に絡み合っていたらしく
それに引っ張られたウイはぐるりと体を回転させてこたつの脚に頭をぶつけた。



「んぅ!?痛たた……。」



頭を擦りながら体を起こしたウイと
ソファーに激突したペンギンに
こたつの前で片膝をついてどす黒いオーラを醸し出しているキャプテン。


ついに役者は揃った。

ここからが本戦だ。





まだ寝惚けているらしいウイはぼーっとしながら頭を擦り続けている。


覚醒した時に彼女は

この状況を見てどんな顔をするのだろう。


「っとになんだよ。」


背中を打ち付けたペンギンがそこを擦りながら体を起こした。

ずれてしまったソファーの移動距離は
結構な力でキャプテンがペンギンを投げ飛ばしたことを物語っている。



ペンギンの声に反応して顔をあげたウイが
突っ立っている俺とベポに視線を合わせると

一瞬目を見開いた後に
視線を落としておかえりなさいと呟いた。




「何のつもりだ。」
「何のつもりはそっちでしょ。朝から石鹸の匂いなんてさせちゃって。」



ペンギンがニヤリと口角を上げる。

何が面白いんだ本当に。

こういうときにはペンギンの自由奔放さを恨みたくなる。



ほら見ろ。

ウイはペンギンの言葉に目に見えて動揺を示した。


聞こえる声とその位置で

横を向けばキャプテンがそこに居ることは分かっているのだろうけど

そちらに目線を向けることもなく俯いてしまった。




「お前には関係ねぇ。」
「いやあるでしょ。是非聞かせて。今後の身の振り方の参考にするから。」




抱き合って眠る二人に

一瞬最悪の事態を想像してしまったものの

今後の、という所を聞くと
ペンギンとウイが昨日どうにかなってしまった訳ではないようだ。

ペンギンの発言が何を指し示すのかキャプテンにも思い当たる節はあったようで
何も言わずにぎり、と歯を噛み締めた。




「ルーム、アンピュテート。」
「は!?マジかよ。」



ルームの中の出来事で良かったと本当に思う。

キャプテンが振るった刀でペンギンの体と首は綺麗に分断され
ごろんと頭が転がった音に驚いた表情を浮かべたウイは

後ろを振り向いてペンギンの頭へと駆け寄った。



「だ、大丈夫?」
「まあ、なんとか。」



ウイがペンギンの頭を持ち上げ目線を合わせて話している。

キャプテンの能力を知っているとは言え
何とも奇妙な光景だ。











「暫く飯はいらねえ。資金調達の判断はシャチに任せる。」




「ウイちゃん頭くっつけて。」
「これ後ろ向きにしてもくっつく?」
「やめろよてめぇ。色々不自由だろうが。」



ペンギンの頭を片手に状況に似つかわしくない発言をしては笑い合う二人を見つめるキャプテンは



悔しそうな、寂しそうな表情に見えなくもない。



「ステラの船には手を出すな。」



キャプテンはそれだけ言うと階段を登って部屋へと戻ってしまった。



「何?あれ。どういうこと?」



一般的な人間の構造に戻ったペンギンが
ついたばかりの首をポキポキと鳴らしながら呆れたように呟く。



任されてしまった以上責務は全うするつもりではあるが
キャプテンは今回、賞金首狩りには参加しないようだ。

昨晩ステラは彼女が乗っている海賊船の話をしていた。

元よりあまり切羽詰まってもいないこの状況では
ステラが世話になっている船のクルーといざこざは起こしたくない。

これ以上の面倒はごめんだ。




「ちょっと早いけど、朝ごはんにしちゃおっか。」




ウイはキッチンへ周りシンクの下からまな板と包丁を取り出し朝食の準備を始めた。



そう言うウイの表情は

何かを諦めたような

つらそうな、そんな笑顔だった。
















「湯の花どうだったの?」
「本当に温泉みたいだったの!ベポも今度一緒に入ろう!」



ペンギンのリクエストらしい洋風の朝食を食べながら

ウイは湯の花の魅力を存分に語っている。



「本当に二人で入ったんだ。」
「むっつりスケベのウイちゃんは水着着ないで入りたかったみたいだけど。」



俺困っちゃった、とウイの皿からスクランブルエッグを横取りしながらおどけていたペンギンは

皿の持ち主に手をひっぱたかれていた。



水着は着ていたらしい。

うん。

何て言うか良かった。



これ以上面倒の種が増えなかったことにもほっとしたものの

二人が本当に一緒に風呂に入ったらしいことを聞いて



兄心というか



大人の階段を登ったかもしれないウイがそこに関してはけろっとしているのは

ちょっとショックというか

一瞬娘を嫁に出す父親のような感情が沸いた気がした。





destruct at reality.