トリプル肉ミックスキムチ鍋はベポにもシャチにも大好評で
野菜を減らしたにも関わらず買ってきた肉を鍋を3回転させて
皆は全て平らげてしまった。
明日のご飯は野菜まみれにしてやろうと心に決めると
栄養学に興味を示したローは
ここに居たらほぼ肉の今日の鍋に眉をひそめたんだろうなと
かまくらの中に見当たらない彼が浮かべるだろう表情を思い描いて笑ってしまった。
笑ってみて
急に虚しくなった。
もう、ローは食事の栄養バランスなんてどうでも良いのかもしれない。
ここに居ないローが今誰とどこで何をしているのか
実際どうしてるかなんて分からない。
でも、頭の中では何度掻き消しても同じ答えが浮かんでくる。
お人形みたいに綺麗な顔をした
笑顔が素敵な
女子力の高いナイスバディ。
ローはきっと、
今も彼女と一緒にいるんだろう。
「ウイ〆に雑炊食いたい。」
ペンギンの言葉にはっとする。
「あんなに食べてまだ食べるの?」
「〆食わねえと鍋終わんねぇだろーが。」
全く。
胃袋どんな構造してるんだろう。
シャチとベポも雑炊を食べたいらしく
仕方ないなと立ち上がる。
まただ。
早く飯取りに行こうぜと一緒に立ち上がったペンギンがかまくらの外で待っている。
「ペンギン。」
「あ?」
かまくらを出ると
寒ぃとポケットに手を突っ込んで体を縮こまらせているペンギンの名前を呼んだ。
なんてことないような顔でこちらを振り向いた彼は
寒いと言いながらも私が出てくるのをちゃんと待ってくれている。
「ありがとね。凄い心強い。ペンギンのおかげ。」
「……惚れちゃう?」
ニヤリと笑いながら見下ろしてくるペンギンを
呆れが滲み出ているだろうと思われる顔で見上げた。
いつも絶妙なタイミングで
本当に然り気無く助けてくれる。
「かもね。」
早く行こう!と手を引っ張ると
ペンギンは私が掴んでいない方の手でぽりぽりと頭を掻きながら視線をさ迷わせていた。
自分で聞いといて照れんのか。
なんだか良く分からないけど
私は本当に周りに恵まれている。
「寝ちゃった。」
「だろうな。」
雑炊を食べ終えて、鍋セットをかまくらから撤収してくると
船室まで結構な距離があったせいか体が冷えたらしいウイは
寒いと暖炉の前で丸まっていたと思ったら
少し目を離した隙に眠ってしまっていた。
「で?結局昨日キャプテンはステラと宜しくヤってきて、今日もステラんとこ居座ってるってことで良いの?」
「今日どこ行ったのかは知らねぇけど、昨日は部屋取って二人で消えていった。」
ソファーでシードルに口をつけるペンギンはシャチの言葉にへぇ、と目を細めた。
シャチはシャチで眠ってしまったウイに毛布をかけている。
船に着くまでの話も伝えると
ペンギンは何も言わずにすやすやと寝息をたてるウイに目を向けた。
「ウイを一人にすんな。風呂でも寝る時でも。」
日中疲れさせときゃ自然と寝落ちすんだろ、と頬杖を付くペンギンの姿に
鍋を食べながら散々こき使われたとウイが文句を言っていたのは
ペンギンの策にまんまと嵌まっていたのだと理解する。
ペンギンがそういう事を出来るなんて意外だ。
計画性のない人間の典型だと思ってたのに。
ごめんペンギン。
「昨日、俺が寝落ちしちまった後。こいつ一人で泣いてたんだよ。」
「え!?」
泣くだろうなとは思っていた。
寝ていると油断したんだろうとは思うけど
ウイが人前で泣いた事には内心衝撃が走った。
「俺も見てるけど、お前らも気にしといてやって。ちょっと目ー話すと葬式みたいな顔してっから。」
「……善処はするけど期待すんな。」
俺いたたまれなさ過ぎて上手くやれる自信ねぇとシャチが自ら戦力外だと申し出た。
「ベポはイケんだろ。」
「……一人で泣かせなければ良いんでしょ。それなら任せて。」
ウイはきっと、俺と二人になったら
それはそれは号泣すると思う。
一人ぼっちで声を殺して泣くよりは
それもそれでマシなんだろうけど
今ウイはペンギンと一緒に居た方が良い気がする。
お株を取られてしまったようで少し面白くないけど
昨日からのペンギンの働きには目を見張るものがある。
本当に、キャプテンなんかよりペンギンの方が良いんじゃないの?これ。
「ん……。」
朝起きると
そこは見慣れた自分の部屋じゃなくて
枕がやけに高くてふさふさしてると思ったらベポのお腹だった。
両脇にはシャチとペンギンが物凄い寝相で寝ていて
寒いというのに足どころか体半分以上が布団からはみ出ている。
「風邪引きますよー。」
小さな声でそう呟きながら
二人の布団を直してあげた。
ベポは、
良いだろう。
寒いの好きだろうし。
私たちはどうやら地下二階の皆の部屋で
2つのベッドをくっつけた上で4人で寝ていたようだ。
昨日暖炉の前が温かくて
うとうとしていたと思ったらそのまま寝てしまっていたらしい。
皆の優しさが温かい。
彼らの寝顔を眺めていたらなんだか微笑ましくなって
自然と笑えてる自分に気が付いた。
「いつまでも、甘えてちゃいけないよね。」
優しさは嬉しいけど
負担にはなりたくない。
散々甘えておいて
今更かな。
皆を起こさないようにそっとベッドを抜け出して
階段を登った。
リビングに上がると
窓から見えるまだ薄暗い空に雪がぱらぱら舞っていた。
私はそのまま階段を登って
自分の部屋ではない方の扉を少しだけあけて中を覗いた。
ローが帰ってきてる。
ローのベッドは布団の中に人が居ることを示すように盛り上がっているし
ちらりと彼の黒髪が見えた。
帰ってきて
くれないと思ってた。
暫くご飯は要らないって言ってたから
ステラさんとずっと一緒に過ごすのかもって
そう覚悟してたのに。
「……風邪引くなよ。」
昨日出掛けにローが言った言葉を思い返す。
あれは、どういう意味?
要らなくなって捨てられた私への同情?
そもそも、捨てる以前に拾われてないか。
自分の気持ちへの突っ込みを自分自身で入れては
結構へこむ。
あれから大分時間は経ったものの
ペンギンのおかげで
被害者面でへこむ醜い自分の姿は影をひそめていた。
やめよう。
考えたって、どうにかなることじゃない。
部屋のバスルームで熱いシャワーを浴びて
気合いを入れる。
いつまでもくよくよしてはいられない。
あれから一週間が経った。
ダメな私が顔を出さないように努力する暇もないくらい
優しい皆は常に傍に居てくれた。
四人でお風呂に入ってみたり
凍った湖を見つけてはスケートを楽しんだり
雪合戦をしたり
夜はくっつけたベッドをそのままにして
滑らない話や怪談を楽しんで
いつも私は寝落ちしちゃってた。
ローとは殆ど顔を会わせなかった。
皆のおかげで
あー私大丈夫じゃんって
思えるようになってた。
「一緒行くし。」
「一人で大丈夫!!本当にすぐ帰ってくるから!!」
乙女には色々事情があんのよと
着いてくると言って聞かないペンギンを諦めさせようと奮闘するが
は?だってお前今生理じゃねえだろとけろっと言うペンギンに度肝を抜かれる。
「生理かどうかとか、分かるの?」
「大人の男舐めんなよ。」
ニヤリと笑うペンギンに
感心する所じゃないんだろうけど
尊敬と言うか、素直にすげーなと思った。
なんでだろ。
それはさておき
どうしても乙女な物を買いたいのと何とかペンギンを振り切って船を出た。
私としたことが
大好きなベポのつなぎの布地を買い忘れていたのだ。
街を散策していた時に見かけた布地屋さんで
さくっと買い物を済ませて店を出る。
2着分のオレンジの布は折り畳めばバックに入ったし
何よりシャチとペンギンの物と同じ素材が手に入って本当に良かった。
皆の優しさもありがたいけど
ずっとこのままじゃ作業が進まない。
あまり遅くなっても文句を言われるだろう。
取り敢えずさっさと帰ろう。
港への道を早足で歩いた。
「あら?えーっと、なんだっけ。ウイちゃん?そう!ウイちゃんだったわ!」
背後から聞こえた声の主には覚えがあった。
私の記憶が間違ってなければ
きっと
会いたくない人ランキングで殿堂入りは確実なあの人だ。
「覚えてる?」
ぎぎぎと音がするんじゃないかと思うほどぎこちなく声のする方を振り向くと
この声は誰でしょうクイズの答えが正解だったことを知る。
忘れられるなら忘れたい。
ステラさんは今日も寒いのに
ファーのコートからは素敵な脚線美と胸の谷間がしっかり覗いていた。
「こ、こんにちは。」
「こんにちはー!一人?ペンギンは一緒じゃないの?」
にこにこと愛想良く対応してくれるステラさんは
やっぱりあんまり悪い人には見えないと言うか。
あんなことさえなければ土下座してでもお友達になりたいくらい、素敵な雰囲気を纏っていた。
「ペンギンは……船で待ってます。なので私、早く戻らないと。」
「あら!じゃあお邪魔虫はいないのね!!」
両手を顔の前で合わせて嬉しそうに笑うステラさんは
人の話を最後まで聞かない特技をお持ちのようだ。
美味しいお店あるのよ!紹介してあげると、ステラさんは私の腕を取って船とは逆方向に歩きだした。
前に見た時とはネイルが変わっていて
キラキラ輝く爪や指輪が隠れないようにという配慮なのか
手袋をしてないステラさんの手は冷たくて
私の手首を掴んでいる手にも
実際そんなに力は込められていない。
きゅっと握られた手首に感じるか弱い力と
にこにこしながらあそこのパンケーキは最高なのよーというステラさんの愛くるしい仕草に
ステラさんに骨抜きにされる男の人たちは
きっとこういう少し強引で、可愛らしい魅力にメロメロになってしまうんだろうなと
なんだか他人ごとみたいにそう思った。
「ウイちゃん嫌いな物とかあるー?」
「特に、ないです。」
結局連れて来られたのは
少し意外というか。
可愛らしい内装のお店を想像していただけに
打ちっぱなしの木材で統一された味のある雰囲気のお店に
なんだか少し親近感が沸いた。
別なの頼んで半分こしようねと
私の分まで注文を済ませたステラさんは
渋いマスターと楽しげにお喋りをしている。
マスターはステラさんの美貌にデレデレだ。
鼻の下がとんでもなく伸びている。
当然か。
自分にはない必要とされる脂肪をふんだんにお持ちのステラさんが羨ましい。
私なんて
先日ペンギンに二の腕のお肉をムササビと称されたぐらいだ。
世の中不公平すぎるだろ全く。
「皆は元気?あの子達ってば本当に薄情よね。ぜーんぜん顔出しに来てくれないんだから。」
そう言って頬を膨らましているステラさんの発言に
引っ掛かる所がある。
ローは、ステラさんと一緒に居るんじゃないの?