6-43

「あの、ローはステラさんの所に居るんじゃないんですか?」
「来てるけど。修行ばっかりよ?ずーっと瞑想してるの。あんなので本当に覇気使えるようになるのかしら。」
















ん?















ステラさんはメニューを眺めながら、もしかしたらこっちにした方が良かったかなとと人差し指を顎に当てて眉を下げている。



「お腹に余裕あったらもう一個食べよっか!もしかしてウイちゃんこれ好きじゃない?」



そう言って彼女がメニューをこちらに向ける。

ステラさんの綺麗な指が指していたのは

キャラメルアップルのパンケーキ。





「好き、ですけど。」
「やっぱり!?やだぁー。もうローってばいきすぎてて気持ち悪い!」




かゆいっ!と両腕を擦るステラさんの言動と行動に

さっきから頭がついていかない。






なんだ?

なんか変だぞ。







「あれ?ってことは三角関係?ウイちゃんはローとペンギンどっちが好きなの?」
「あの、なんだかお話が良く見えないというか。ステラさんとローって、……その、より戻したんですよね?」




私の言葉にぱちくりと瞬きをして固まるステラさん。





目、でかっ!!

睫毛、ながっ!





「より戻すも何も、私はローと付き合ってた事なんてないよ?」
「あ……、その。皆に聞いちゃったので。ローの初めての人だとか、この前飲んだ後のこととか……。」




私はほとんど初対面の人にも感情が駄々漏れなのだろうか。

こんな奔放そうな人にまで気を使われるなんて。





「ローのさくらんぼ狩りしちゃったのは本当だけど、むしろこの前のアレは流石に酷すぎると思うの。」





ほお。

さくらんぼ狩り。





チェリーボーイとな。

うん。

今のローしか知らない私はその名称とローの組み合わせに違和感しか感じない。





でもローの初めてをステラさんが頂いちゃったのはやっぱり事実みたいだ。








ちょっと聞いてよと彼女の口から紡がれた先日の一件の真相に

私は唖然としすぎて、開いた口が塞がらなかった。





無言実行にも程がある。



「久々に会えたのにローってば全然冷たくて。」



先に届いたドリンクに口をつけ、眉をしかめながら
ステラさんは一週間前の夜のことを話し出した。


ステラさんが今身を寄せている船のクルー達は結構な猛者揃いで
覇気を使える人もいるらしい。

ずっと素っ気なかったローが、覇気という言葉に反応を示したのを見たステラさんは
覇気の修行を頼んであげるからお礼をして、と

つまり体の関係を迫ったそうだ。



「だって見ない間にあんなに男前になってるのよ?それは興味が沸くじゃない。」



当たり前の事のように話されると
そういうものなのかと納得してしまいそうになる。

何て言うか
悪びれというか
恥じらいもなくセックスが好きと話すステラさんが

格好良くすら見えてきた。


ローはそれを了承したものの
ステラさんが酷いと称したことはその後に起こったらしい。



「何か微妙っていうか。乗り気ではないんだろうとは思ってたんだけど。私裸で迫って断られたのなんて初めてよ。」
「……服、着てても断る人居ないんじゃないですか?」



そうかも!と拳で手のひらを叩くステラさんは、やはりさぞかしおモテになるようだ。

ステラさんも無敗のプライドが疼いたらしくて
それなら仲介はしないと揺さぶりをかけたんだって。



「そしたらロー、何て言ったと思う?」
「……何て言ったんですか?」




もうウイちゃんノリ悪い!と拳を顔の脇でブンブン振り回すステラさんには悪いけど


知識が無さすぎてのれない。


いやあってものれない。
続きが気になる。



「何回イかせりゃ満足だ、だよ?人の事なんだと思ってるのかしら全く。」








何ともコメントがしずらい。

と言うか、ローの発言が良いのか悪いのかも
正直良く分からないかもしれない。

ただステラさんの綺麗な顔が不快そうに歪んでいるのを見ると
それは結構失礼でとんでもない発言なんだろう。




「それで、ステラさんはどうしたんですか?」
「イラっとしちゃったから、満足するまで何度でもって。」



わーお。

なんだか衝撃を通り越して
ステラさんが凄く偉大に見えてくる。



記憶を飛ばしたローに
抱き締めて貰いたいだとか、キスして欲しいだとか
そう思ってる自分は変態じみていると思っていたし




ベポにそれがバレた時も
そんな自分を知られてしまったのが恥ずかしくて仕方なかったのに


なんか、自分の欲の程度がとてつもなくショボく感じる。




その程度で変態とか言ってるのも
それを恥ずかしがるのも


何て言うか自分って凄く小物だなって。




絶対満足してあげないつもりだったのよ、と面白くなさそうに呟くステラさんの様子から見て
軍配はローに上がったようだ。



「ローってばキスもなければ他は一切無視で、唾付けた手でいきなり突っ込んで来たのよ?」
「……あの、ごめんなさいステラさん。わたくしめには刺激が強すぎる上に経験もないので何も言えません。」



あら!ローもペンギンもまだお預け中なの?赤くなっちゃって可愛いー!と頭を撫でてくれるステラさんには悪いが





マスターの方が顔すごいことになってるから!

丸聞こえだから!!




「それで何か萎えちゃって。私別に気持ち良いのも好きだけど、そういうんじゃないのよ。」




まあそれなのに結局イかされちゃったからそこもまた悔しいんだけど、とそう言うステラさんの顔は悔しそうだった。





ちょっと待ってちょっと待って。







なんだか刺激的すぎるステラさんの話に
相手がローだと言うことを途中から忘れて聞きいってしまったけど



ローはステラさんのことを好きな訳じゃなくて

あの時、二人の間には何もなかったの?












あ、何もない訳じゃないか。

うん。









良いか悪いかって聞かれると

正直嫌だわ。うん。










でも











私が想像していたことより

全然マシだ。





なんでローは、それを皆に言わなかったんだろう。

言えば皆だってローに対してあんな態度は取らなかっただろうに。








「早く強くならなきゃいけないんですって。」




私を抱きもしないくせにあんなことした理由、と半ば呆れた顔でコーヒーをすするステラさんの言葉に









胸が締め付けられた。




私のせいだ。










全部、私の為だ。
ごめんロー。



でも本当に、何でちゃんと教えてくれなかったの。
言ってくれたら












言ってくれたらどうだろう?


あの時私
覇気習いたいからちょっとステラ手マンでイかせてくるわ、とか言われて
今みたいに思えたかな。


あ、なんか口調が違うな。
これはペンギンが言いそうなやつだ。





最近ローと話してないせいかな。
もしローがあの時事情を話してくれてたらっていう姿も、言いそうなことも
想像がつかない。






言いそうもないからだ。
そんなこと。




あの時そんなこと言われてたら
私絶対嫌だと思った。





ローは全部分かった上で
ああしたの?



早く私を迎えに来れるようにって
ステラさんにひどいことして、それを皆にも黙って
覇気を習いに行ってたの?

自分一人が
悪者になってまで。










もう、本当に敵わない。

なんでローは
そこまでしてくれるの。
















まただ。

私はまた、ローの気持ちを疑った。





自分が嫌なヤツ過ぎて、激しい自己嫌悪が襲ってくる。



私には、あんなに素敵すぎる人に

大事にされる資格なんてない。











やっと運ばれて来たパンケーキは
結構な高さがあるタイプで
ミックスベリーとホイップクリームがふんだんにトッピングされた物と
ヘーゼルナッツのクリームがたっぷりかかったもの。



ステラさんは取り皿にそれを半分ずつ盛り付けて
見惚れてしまうくらい綺麗な笑顔でそれを私に差し出してくれた。


「本当にびっくりするくらい美味しいの!ふわんふわんだから!食べてみて!」


早く早く!とナイフとフォークを持ってはしゃぐステラさんに

メープル風味でふわふわの、パンケーキの甘さに








なんだか涙が出そうになった。



こんなに心は重いのに
パンケーキは美味しく感じる。


それからステラさんは
ローがステラさんが身を寄せている海賊船で、必ず毎日りんごを食べていることを教えてくれた。



「覇気の修行始める前に絶対!もしかしてって思ったけど、そっかそっかぁ!」



ちょっとメンヘラ感あるけど愛されてるのね、と。


ローがりんごを習慣的に食べるなんて
今まで見たことない。



私がりんごを好きだから?








それからステラさんが話したことは
更に私の心を重くした。










「楽しかった!またね!」



笑顔で手を降るステラさんと店の前で別れて
船へ戻る為に足を進めた。


すっかり遅くなってしまった。

皆が心配してるかも。



さくさくと雪を踏みしめる足取りは重い。
早く帰らなきゃ。
でも、なんだか帰りたくない。




とりあえず、ローの誤解を解かなきゃ。

こればかりは聞かなかったことにする訳にいかない。




それから、




「ウイ!!」




通りの先に
絶妙なタイミングでペンギンの姿を見つけてしまった。

寒がりの癖に
アウターも着ずに息を切らしている彼は

すぐに帰ると言った私を探してくれて居たんだろうか。



「おいどこ行ってた。」
「ペンギン、皆船に居る?」



こっちまで駆け寄ってきてくれたペンギンは少し苛ついてたけど
シャチが留守番でベポが港の辺りを探していると教えてくれた。


また迷惑をかけちゃった。


ごめんね。
ちゃんと反省してます。



「ビックニュースがあるの!!早く帰ろう!」
「なに?」



船に戻ってからのお楽しみ!と笑って見せて
早く早く!とペンギンを促して先を歩いた。


ペンギンの顔をまともに見れない。
















ねえペンギン。








私のこと好きって、本当?



destruct at reality.