帰り道に港でベポと合流して一緒に船へ戻った。
シャチにも、ベポにも、遅くなるならちゃんとそう言えと説教をくらい
ちゃんと謝った後にステラさんから聞いた話を
皆に話した。
「ふーん。でも良かったじゃん。」
普段通り、ニヤニヤしているだろうペンギンの顔を直視できない。
あの後ステラさんは、ペンギンて絶対ウイちゃんのこと本気で好きだと思うわと
三角関係萌えるね!と
悪気はないんだろうけどそう言った。
いつもだったら、そんな訳なかろうと思うけど
よくよく考えてみたら思い当たる節がありすぎる。
あの面倒臭がりのペンギンが
ここ一週間私にしてくれたこと。
アルトに着く前に
甲板で話したときも
今考えれば
そうだったように思えなくもない。
私は、ペンギンの気持ちも知らずに
駄々漏れな気持ちを突っ込んで来ない彼の優しさに
随分甘えすぎてしまった。
「皆、ローと仲直りして欲しい。」
「ウイはそれでいいの?」
別に俺らは構わねぇけど、と頬杖を付いたペンギンが優しい顔でこっちを見ていた。
「良いも何も、皆がぎくしゃくしてるのは嫌だよ。ごめんね。私がびっくりしちゃったせいだよね。」
本当にごめんなさい、と頭を下げると
皆は今日ローが帰ってきたらちゃんと話しておくと言ってくれた。
良かった。
「ペンギン、ほうれん草取りに行きたいから付き合って。」
「3階?良いけど。」
流しの下からザルを取り出して階段を登ると
後ろからペンギンがついてくる足音が聞こえた。
「ペンギンどうすんだろうね。」
「あの調子だとまた前みたいな立ち位置に戻るつもりなんじゃねぇの。」
ダイニングでは、シャチとベポが二人が登っていった階段を眺めながら
そんな会話を繰り広げていた。
「なんか、不憫。健気。ペンギンの癖に。」
「事の真相分かっちまった今だと、キャプテンもキャプテンで健気っちゃー健気っしょ。」
まあ確かに、とため息を付いたベポは
良かった報告の筈なのにどこか浮かない顔をしていたウイの心の内を想像しては
まだ一件落着ではなさそうなこの状態に再びため息を付くのであった。
「今日の晩飯何にすんの。」
「ほうれん草でグラタンー。」
3階の温室で食べ頃のほうれん草を引っこ抜きながら
夕飯のこととか、当たり障りないことを話していた。
ペンギンは何度言ってもほうれん草の根についた土を払ってくれなくて
こっちの方が面白いと次々食べ頃のほうれん草を引き抜いて行く。
私はため息を付きながら、土まみれの根からそれを払い落としてはザルに入れていった。
「ねえペンギン。」
「あ?」
ほうれん草抜きにはまったらしいペンギンは
こちらに目を向けることもなくそれに没頭している。
「ペンギンって私のこと好きなの?」
私の言葉に
きょとんとしたペンギンの顔がやっとこっちを向いた。
「何急に。」
「そうなのかなって、思って。」
じっとペンギンの顔を見つめる。
ローがステラさんとよりを戻した訳じゃなかった事を伝えた後も
ペンギンは思った通り、前みたいなリアクションを返した。
ひやかすような、面白がるような
私がローのことを好きなのを分かっているリアクション。
「ウイそれ聞いてどうすんの。」
軽く息を吐き、ペンギンは絡まっていた視線をほどいてほうれん草の収穫を再開した。
どうするって、
確かに。
私聞いてどうするつもりだったんだろう。
好きじゃない、調子乗んなって言われて安心したかったのかな。
ペンギンは根底で私を困らせるようなことはしない。
なぜかは分からないけど、そんな確信めいた予感があった。
否定して貰って、楽になりたかっただけなのかな。
「これどんくらいいるの。」
「あ、もう足りるね。ありがと。」
むしろ採りすぎたくらいだ。
明日の朝ごはん用に茹でておこう。
なんて答えたら良いかが分からなくて
ペンギンが引き抜いてはその辺に投げ散らかしているほうれん草を土を払いながら回収した。
温室の水道で、根っこについた土を洗い流す。
水道脇の壁に背を預けてそれを眺めているペンギンに
私は何を言いたくて、何て答えたら良いんだろう。
「前も聞いたけどさ、俺がお前のこと好きって言ったらお前どうすんの。」
もし、ペンギンが本当に私の事を好きだったら
前にそう聞かれた時よりも
ペンギンを好きになったら幸せだと思える。
ペンギンは私が思っていたよりずっと大人で
私を安心させてくれるのがとても上手だ。
彼がいなければ
ここ一週間
私はきっと生きた心地もしないくらいへこみにへこみまくってただろう。
言いたくないことは言わなくて良いというペンギン。
泣いてしまった私に理由も聞かなければ
ただ側に居てくれて。
特にそれを気にするでもなく
うまく私の気持ちを軽くしてくれる。
私はペンギンのことも大好きだ。
でも
ローへの気持ちとは違う。
ペンギンの気持ちには
応えられない。
それを言葉にして伝えてしまったら
私たちのこの関係は形を変えてしまうんだろうか。
今までみたいに
バカみたいにはしゃぐことも
気兼ねなく腕を組んだり
寄りかかったり
口では散々貶されながらも
甘やかして貰うことは、もう出来ないんだろうか。
「知らねぇ方が良いこともあんだろ?」
「え?」
ペンギンは呆れたような顔で私を見下ろしながら
ため息をついた。
「前に言えねぇことあんのかって聞いてきた話。言わねぇ方が良いことだってあんだよ。色々と。」
それってつまり
やっぱりそういう事なんだよね。
確かに聞かなければ
ペンギンの気持ちを知らずに居れば
ローの事も誤解は解けたし、私が色々と自己嫌悪に陥ってること以外は一件落着だ。
でもそれって私ずるくないか?
今回ローがステラさんのことを好きかもしれないって思ったとき
言葉では表現できないくらい
辛くて、悲しくて、寂しくて、
一瞬死にたいとすら思ってしまった。
私がローのことを好きだともう完全にバレている今
ペンギンが私のことを好きなのなら
同じように
あの重苦しい嫌な気持ちを感じていて
それなのに
それを表に出さずに笑ってるって
そういうことでしょ?
「お前本当に面倒くせーのな。」
盛大なため息と共にそう言うペンギンの顔はげんなりしている。
返す言葉もございません。
何がしたいのかも分からずに
ペンギンの気持ちを聞いておいて
結局こうやってペンギンに気を使わせている。
「なんで俺が言わないかお前分かってんの。」
「ドアホなわたくしめに、気を使って頂いてるからでございましょうか。」
居たたまれない気持ちでペンギンの顔を見上げた。
想像通りというか
ペンギンはしょうもないものを見るような目でこっちを見ていた。
「俺がそうしたいから。別にお前にどうこうして貰いたい訳じゃねぇ。お前にもキャプテンにも、幸せになって貰いてぇと思ってんのは嘘じゃねーよ。」
本当に、なんでそんなに優しいんだろう。
気持ちが報われないと思った途端に
なかったことにしたくなった私とは大違いだ。
私はステラさんを好きかもしれないと思ったローの
幸せなんて望めなかった。
「まあ別に、俺お前のこと好きだなんて一言も言ってねーけどな。」
「……本当だね。」
どこまでも完璧だ。
私は自分が情けない。
込み上げてくる複雑な気持ちはため息に変わって
それを吐き出した途端に
目尻が下がって頬が弛んだ。
洗い終わったほうれん草の水気を切って蛇口を捻って水を止める。
ペンギンも
私とのこの関係をそのままで居たいと思ってくれてるなら
申し訳ないけど甘えさせて貰おう。
「強いて言っとくとすれば、アレだな。」
「なによ。」
階段へと続く扉に向かって並んで歩きながら
ペンギンが私に伝えたいことの続きを促す。
「超絶男前なキープが居ることだけ覚えといて。」
「……身にあまる光栄でございます。」
まあ俺もいつ絶世の美女に口説き落とされるか分かんねーけどな、とけらけら笑うペンギンに
こんな素敵な人を幸せにしてあげられる人が
早く現れて欲しいと思った。
「お帰りキャプテン。」
覇気の修行の後、ステラが身を寄せている海賊達と軽く酒を交わして船に戻ると
最近は早い時間から地下に引っ込んでいたクルー達がリビングに揃っていた。
ウイの姿が見えない。
ほぼ出払っていたとは言え
出掛けにたまに見かけるウイの周りには主にペンギンであったが
誰かしらが常に傍にいたと言うのに。
「水臭いじゃん。なんで黙ってた訳?」
ペンギンが呆れた顔をこちらに向けた。
「覇気の修行のこと聞いた。」
「誰から。」
ベポがステラ発ウイ経由、と答える。
なんでウイとステラが繋がってんだ。
聞けば今日ウイが出かけた先で偶然会ったステラが
べらべらと余計なことを喋ったらしい。
あのバカ女。
余計なことしやがって。
「勝手に黙ってたんだから謝るつもりないけど。なんで黙ってた訳。」
ベポがこちらを睨み付けている。
最近こいつとは睨まれる以外で目が合った試しがない。
しかし、今日のベポの目には
怒りというより呆れの色が強い。
「……言ってどうする。」
「ウイ泣いてたぜ。あの日。」
自分が固唾を飲む音がやけに大きく聞こえた。
あの日ペンギンと抱き合って眠っていたウイは
泣いていたのか。
「残念だったな。泣かすのは成功したけど、泣いたのは俺の胸でだったみてぇで。」
勝ち誇ったような顔で目を細めるペンギンは
いつか俺がウイを泣かそうとして彼女が泣いた状況を聞き出そうとしたことを言っているのだろうか。
ペンギンは意外と記憶力が良いらしい。
言われるまでこっちが忘れていたくらいだ。
「大事にしてんのは分かったけどさ、流石に黙っとくのはウイ気の毒すぎんだろ。俺マジで扱いに困ったわ。」
気にしているだろうとは思っていたが
シャチの言い分を聞く分にウイは余程落ち込んでいたらしい。
結構けろっとしている所しか見ていないせいか
軽くこっちが落ち込んだくらいだ。
勘違いされたい訳ではなかったが
ウイは俺とステラがどうにかなったと思って気に病み、泣いたと。
気持ちは矛盾ばかりだ。
その事実に、最近沈みがちだった気分が少し浮上した。