6-47

「俺はお前が好きだ。」



ローの言葉が
体に
心に
じんわり染み込んで来る。


真剣な目で愛の言葉を紡ぐローの姿は
やっぱり格好良すぎて


本当にこんな人に好きになって貰っちゃって良いのだろうかとむず痒くなる。



「お前は?」



ローの言葉に一人悦に浸っていた気持ちを現実に引き戻す。




言っちゃおうかな。
もう本当に今更な気がするし。


むしろさっきまで私がローを襲うような事をしておいて


仲間だよ!とかそれもそれで問題な気がしてきた。






ねえ、
あなたを信じてみても良い?




肩を掴んでいたローの手が
私の髪を耳にかけて優しく頭を撫でてくれる。




「お前は俺が好きか?ウイ。」




どくんと胸が跳ねた。
覗きこむように顔を寄せられると

本当に格好良すぎて胸が締め付けられる。

ローは自分の顔が格好良いことを分かってて
私をドキドキさせようとして
こういうことしてくるんじゃないかとすら思えてくる。






もう、ゲームオーバーだ。
この人には勝てない。




口を開こうとした途端

服の中で何かが転がり落ちるのを感じた。


私はそれが落っこちないように咄嗟に両手で自分の体を抱き締めると

服の中を転がっていた物の正体に予測がついてしまって
自嘲が溢れる。




「どうした。」
「指輪。……母様の指輪、チェーンが切れちゃったみたい。」




私は服の中からそれを取り出すと
相変わらず細かい光を反射させて輝く手の中の指輪を眺めて
ため息をついた。





なんでこのタイミングで
こういうことするかな。




母様が、ダメだよって
私にそう言ってるの?





「ウイ?」




私を見つめるローの目に
不安というか、焦燥感のような色を感じる。


どうしよう。


今なら
指輪のせいで戻ってきた理性がある今なら

言わずにいることも
言ってしまうことも出来る。




言いたい。




伝えたい。




でも、
引っ張ってもいないのにこのタイミングで
母様の指輪のチェーンが切れたことが
どうしても引っ掛かる。


あの時も、
ローが偶然流されそうになっていた私を
引き止めた。


こんなに何度も
偶然が起こり得るものなの?






手の中の指輪を

ぎゅっと握りしめた。


ローは何も言わないまま
ただ私を見つめながら髪を撫でてくれてる。


大丈夫だよ、話してごらんと言うように。


手の中の指輪はそれとは逆に
握り締める力に応じて留め具の角が指に刺さるようで痛い。


忘れてしまったの?ウイ。
この指輪に彫られた言葉の行く末が


どうなったのか。










母様はそんなこと言わない。
これは私の空想だ。











「私今から、めちゃくちゃな事言うかもしれないけど。聞いてくれる?」



ローは私を優しい目で見つめたまま
黙って頷いた。




「もうバレバレなんだと思うけど。……私ローのこと好きだよ。」




怖くなって
視線を落としてしまった。

反応が怖い。



でも、顔を見なければちゃんと言える。



「……大好きだよ。」



ローは何も言わない。
何のリアクションも示さない。



相変わらず頭を撫でてくれているローの手が
止まらないのが逆に怖い。



「好きだけど。……好きだから。ローの気持ちには応えられない。」



何を言ってるんだろう。
そんなこと言われたって

ローだって困るだろうに。



「応えられないのに。ローを見てると、気持ちが抑えられなくて。」



決めたことは周りにどんな逆風が吹こうがそれを守り通すローに
本当に、何を言ってるんだ私は。



「でもふとした時に、やっぱりダメだって。私には無理だって。それの繰り返しで。」



言葉にすると
改めて自分のダメさを痛感する。

とんでもなく自分勝手で
どうしようもないバカな考え。



「諦めようとしても、進もうとしても、すぐ決心が揺らぐ。自分がどうしたいのか分からないのに、後悔してばっかりで。」



諦めようとしても諦められなくて。
手を伸ばそうとしても怖くなる。




ローは何も言わない。



どんな顔して
こんなバカげた話を聞いてくれてるんだろう。



「お前、バカだろ。」



ローの声に顔を上げると
仕方なさそうな
それでいて優しい目が私を見下ろしていた。



前にも聞いた。
その言葉。


やっぱりローは、酔っていても


ローだったんだね。




「お前は俺に、どうして欲しい。」



ほら、そう言うと思った。

だったら私も、それに倣おう。



「私はありのままのローが大好きだよ。私の好きになったままの、ローで居てくれたらそれで良い。」



ローはじっと私を見つめている。

あなたのその
強い意志の宿った目が、大好きだよ。



「つまり俺は俺の好きなようにやって構わねぇってことだな。」



ニヤリと口角を上げたローの目には
何かを企んでるような色が宿ってる。

これは、
なんだか違うように伝わった?



ローが片腕で私を抱き抱えると
もう片方の手をソファーの背もたれについて

いとも簡単に私の体をソファーに転がした。
視界には両腕をついて私に覆い被さるロー。

呆気に取られた私は目と口が開きっぱなしだ。



「あ、あの……。ローさん今日はお疲れでしょ?」



もう寝なよと恐る恐る口を開くと
目は優しいのに
怪しげに笑っているローの手が私の輪郭をなぞった。



「問題ねぇ。むしろ今ので元気になった。」











ノー!!








いや、ノーじゃねぇ落ち着け自分!!!

何がどうなってこうなった。
あの後ローは確か能力使って心臓を私にくれたはず。


なんで?


場所か?
場所が甲板とかじゃなくて私の部屋なのがいけないのか?













あ。



「どうした。百面相か?さっきまでの積極的なお前はどこ行った。」










私ローに気持ちに応えられない方の理由言ってねぇ。

ローはあの時

気持ちが離れて行くのが怖いと言った私に心臓を取り出して渡してくれたんだ。

それ言ってないのに
くれる筈ないんだった。



「あの、あのね。ちょっと落ち着こう。うん。」
「ありのままの俺が好きなんだろ?なら問題ねぇだろ。」













あかん。

そうだこの人こういう人だった。

人の言うことの端々まで全て拾って
絶好のタイミングでそれを言質に取ってくる。




不敵に笑うローが
くやしいけど格好良い。










私、どうしたら良いんだこれ。





「あの、待って!待とう!それが良い!!」
「もう十分待った。」





ごもっとも。
ダメだ。
この人に口で勝てる気がしない。




「俺はお前が好きで、お前も俺が好きなら問題ねぇだろうが。」




そう言って顔を寄せたローが
額と
瞼と
頬に
唇を落として行く。

触れるだけの優しいキスが
胸をきゅうっと締め付ける。

言葉だけじゃなく
何もかもが勝てる気がしない。

ステラさんにはしなかった
キスとか、こういうのを
ローは私にしてくれる。

私にだけしてくれる。

私、良いのかな。

気持ちに応えられなくても
このままローに身を任せちゃって

良いのかな。

手の中の指輪を握り締める。

あんなに歯止めをかけていたそれを握っても
このまま流されない方法が思い付かない。



「んぅっ……。」



ローの唇が私のそれを塞いで
甘い刺激が口の中に広がる。

絡め囚われた私の舌は
逃れようともせずにそれに応えるように絡み付く。



うっすらと目を開けると
目を細めたローが色気を纏った表情で私を見ていた。



ここで落ちてしまっても
自分を抑えて渡りきることができたとしても



どちらにせよ
待っているのは地獄だ。



不安を抱えて
失う恐怖に怯えながら傍にいるのか

抑えきれない気持ちを抱えて
ローがいつか私を忘れてしまうのを遠くで待つのか




ローのキスにすがり付くように応えていると

ローの手が
パジャマの中に入って来た。

体のラインをなぞるローの指先が
本当にいちいち厭らしい。


「ゃぁっ……、んっ……。」


触れるか触れないか
それくらい優しく這い回る指が
ぞくりと背中にむず痒い何かを走らせた。

ローの指がなぞった跡が
熱を持ったみたいに体を熱くしていく。



「お前は可愛いな。」



そう言って笑うローの顔は
今まで見た中でも一番穏やかで

本当に大切な物を見るような、そんな目をしていた。






反則だ。

イエローカード。
いや、レッドカードだろ。





ふいに垣間見えたローの笑顔に心臓を射抜かれて呆然としていると

ローの唇が首筋から下へ下へと降りて行く。

くすぐったいようで
体が疼くような

大人の愛のコミュニケーション。



落ちてみよう。

この人に突き落とされる地獄なら
それもそれで本望だ。




「ぁ……ろ、ロー!」
「どうした。」



顔を上げたローの表情が
なんだかエロい。


熱に浮かされたような
そんな顔で私の唇を塞ぐ。


猫が甘えるように唇や舌を舐められると
男の顔をしているローがなぜか可愛く見えた。



「……ロー可愛い。」
「随分余裕だな。いつまでそれが続くか楽しみだ。」



可愛いという言葉に一瞬不服そうな顔をしたローは
鼻先を合わせながら挑発するような顔でそう囁く。




余裕なんて
ある訳ないじゃないか。




あれよあれよという間に
いつぞやのようにブラのホックは呆気なく外されてしまっているし


体を這い回るローの手や舌のせいで
なんとも言えないムラムラというか
疼きというか


体の芯がきゅんとする。


今まで見たこともないローの表情も
いつもより低い声も


それだけでもうノックアウト寸前なのに。





悶え殺す気か。





「ゃあっ!ちょ……、んんっ。」



気温は低い筈なのに
体が熱い。

はだけたパジャマのせいで
空気に触れた肌がひんやりと気持ちいい。


こんなに熱に浮かされて
恥ずかしくて
息も上がって
なんだかどうしようもない気持ちなのに


ローの顔に余裕しか見えないのがなんだか悔しい。

















ガチャ



「ウイー!麻雀やんね……あらあらまぁ。」
「……てめぇ。ノックくらいしろ。」




ローが振り返って急に乱入してきたペンギンにドスの利いた声をあげた。
ペンギンはまぁまぁとおどけた声で答えながら
今さら遅いわと突っ込みたくなるタイミングで扉をノックしている。


私は扉の方に顔を向けることも出来ずに絶対に真っ赤になっている顔を両手で覆った。




「てめぇわざとじゃねぇだろうな。」
「そう思いたいならご自由に。まさかさっきの今でこんな急展開。流石の俺でも想像出来たかどうか。」



顔なんて見なくても
ペンギンがニヤニヤしながら喋っているのが簡単に想像がつく。

ローはため息をつきつつペンギンにさっさと消えろと凄むものの
ペンギンもペンギンで仲直り記念に点ピンでやろーぜと引かない。


ああ。

穴掘って埋まってしまいたい。




destruct at reality.