「お前、少しは空気読め。」
「俺も自分のタイミングの悪さにびっくり。」
おったまげーとケラケラ笑っているペンギンが普段通りすぎて
とんでもない所を見られてしまった恥ずかしさとは別に
昼間の一件のことを思うとペンギンに対する申し訳なさが胸を襲う。
「まぁ、良かったじゃん?俺も子守りから解放されそうで一安心。」
ペンギンの言葉に
あられもない姿になっている自分の格好も忘れて扉の方に目を向けると
ばっちり目が合ったペンギンはにかっと笑った。
ごめん、本当に。
ありがとうペンギン。
「で?キャプテン達は麻雀しねーで続き楽しむの?点ピンなのに。」
「……行くから先に下行ってろ。」
ローがとてつもなく大きなため息をついて不快そうに頭を掻いた。
ペンギンはローに言われた通り先にリビングに戻るつもりでいるらしい。
彼らしいと言えば彼らしいけど
ペンギンは去り際にきっちり爆弾を落として行った。
「キャプテン。ウイ初めてなんだから急いで突っ込んでから来るとかナシね。」
ニヤリと笑ったペンギンは
じゃあお先ー、と階段を降りていった。
つ、突っ込むって。
いや、確かにあのままペンギンが来なければそういうことになってたのかもしれないけど
なんだか色々な想像と回想が頭の中で再生されると
ローに色々されていた時の比じゃないくらい顔に熱が集まってくる。
大人ヤバい!
破廉恥!!
「……行こっか。」
なんだか今更ながら気恥ずかしい。
ローの顔を見ないように
パジャマのボタンをとめていく。
「やるのか?麻雀。」
「え?ローも行くんでしょ?」
ソファーに正座する体勢になっている私は
背もたれに寄りかかり両腕をそれに乗せて項垂れているローの顔を覗きこむ。
うん。
機嫌悪いね。
邪魔された事を残念と思ってくれるのは嬉しいけど
正直ちょっとほっとしてる。
流石に心の準備とか出来てなかったし
まず私の気持ちが定まっていないのに
その場の状況に流されてああいうのはやっぱりいかんと思うのよ。
流されてしまったなら、それは死ぬ気で泳ぎきる所存でいるけど
選べるならちゃんと考えたい。
とくに服も乱れていないローは私を待ってくれているのか立ち上がる気配がない。
不機嫌さが惜し気もなく滲み出てはいるけど
行くって言ってたし、あんまり待たせても冷やかされそうな気もする。
着いて来てくれると思って先にソファーから立ち上がると
腕を引かれて温かいぬくもりの元へと引き戻された。
「行くな。」
「ど、どした。……ローが行くって言ったんじゃん。」
そうでも言わねぇとあいつ出ていかねぇだろ、と面白くなさそうな声で話すロー。
後ろからきつく抱き締められているせいでローの顔が見えない。
振りほどこうにもローはそうさせるつもりはないらしく
離すつもりはないらしいローの腕に手を回してみた。
参ったな。
どうしよう。
「お前に考える時間を与えて良くなった試しがねぇ。」
エスパーか。
確かに時間を貰って考えたら
どちらかと言えば
私はまた逃げようとする気がする。
それくらい
幸せだった。
失う恐怖は
それが大切であればあるほど大きい。
最後までしなくても
あんなに幸せだったなら
そんなことになってしまったら
本当に、どうなってしまうんだろう。
「図星か。」
「うーん……。」
きっと
考えたって、結果は同じなんだ。
どんなに考えたって
不確かな物が定まる訳じゃない。
新しい検討要素なんてもう何もない。
今までずっと同じことを考えて
同じ答えを導いてきた。
ローは私の体を左腕一本で抱え直して
空いた手で私の髪の毛をくるくると玩んでいる。
少しは機嫌が直ったのだろうか。
「ここまで分かってやってんだとしたら、あいつも中々タチ悪ぃな。」
「え?」
あいつって誰のことだ?
私、じゃないよね?
ペンギン?
何のこと?と上を向いてローに問いかけると
そのまま唇を奪われる。
「ンんっ!!」
執拗に舌を絡め吸い上げてくる激しいキスは
上を向いてそれを受け止めているせいか
少し苦しさを感じた。
「お前はんな事知らなくて良い。」
あんなに強引なキスをしておいて
知らなくて良いと言われて不服そうな顔をしたらしい私の頭を
今度は優しく撫でてくれる。
こんな特別待遇に慣れてしまったら
私あなたなしじゃ生きていけなくなっちゃうよ。
私は本当に
どうしたいんだろう。
今こうやって
ローの腕に抱かれて
甘やかされて
愛されて
もう一生分の幸せを使い果たしてしまったんじゃないかと思うくらい幸せだ。
ずっとこのままで居たい。
私の気持ちに応えて欲しい。
あーもー本当にどうしよう。
この際アミダくじとかで決めてしまおうか。
ローの腕をぎゅっと握ってみる。
ねぇ、助けて。
あなたを好きすぎて辛い。
私はバカだから
すぐに決心が揺らぐの。
きっと
あなたの胸に飛び込んでも
私はまた些細なことで
あなたを疑う。
あなたが私のことを好きとはっきり聞いてしまった今
きっと私は今まで以上にその気持ちに執着する。
あなたの気持ちの揺れに過敏になって
落ち込んで
周りに迷惑をかけて
傷付けて
私自身
そんな自分は好きじゃない。
自分でも好きになれないものを
好きでいて貰える自信がない。
「言ってる傍からすぐこれか。お前も大概懲りねぇな。」
ローの手に導かれるように
私の顔は大好きで仕方のない人の顔と向かい合う。
私は今
そんなこと言われちゃうくらい
情けない顔をしてるんだろうか。
ローの目は
いつでも真っ直ぐだ。
自分が決めたことを何度も覆すのは好きじゃない。
本当に彼らしいと思う。
私なんて
もう何度も覆しすぎて
どっちが表だったか分からないくらいだ。
私も本当はそうだよ。
自分の決めたことを貫ける人になりたい。
だからそんなあなたが
好きなんだ。
「ドン引きされること言って良いですか。」
「……聞かねぇって言ったら言わねぇのか。」
察しが良いな。
流石です。
でもローは、聞いてくれるんでしょ?
「私ね、ちゃんと……んぅっ!」
噛み付くようなキスだった。
荒々しくて
私が応える余裕もないような
そんなキス。
「ふ……んっ、ロ……ぉっ!」
聞きたくないって
言わせないって
そう思ってくれてるの?
瞑った目頭が熱い。
これはキスが激しいせい?
それとも
自分が言おうとしていることが
この温もりを手放そうとしていることが
悲しくて、辛いから?
最後かもしれない。
このキスが、最後のキスかもしれない。
貪られるように
激しく求められているのを感じる。
鼻で呼吸はできる筈なのに
それじゃ全然追い付かなくて
ローの胸を押して口から酸素を取り込むと
そこに割って入ってくるローの舌に
更に深くまで口内を荒らされる。
酸欠なのか
ローのキスにとろかされているのかは分からない。
体が熱くなって
思考がぼやけていく。
口の中で溢れてしまいそうな
お互いの混ざりあった唾液をごくりと飲み込んだ。
ローの証を体の中に留めておきたい。
くらくらして力が入らない腕に何とか力を込めて
私はローをソファーに押し倒した。
馬乗りになるように倒れこんだ私の頭は
ローの腕にしっかり抱え込まれていて
それでも激しく求めてくれるローの頭にすがり付いた。
ごくり
ローの喉が音を立てて唾液を飲み込むのを聞いて
それを嬉しく思う自分は
やっぱり変態なんだろうか。
「ロー、大好きだよ。」
「知ってる。」
好きな人を押し倒すって
こんな眺めだったんだ。
私とソファーに挟まれて
この狭い空間で
私だけを見上げているということが
こんなに愛しく感じるものだとは思わなかった。
「私、ちゃんと自信持って好きになって貰えるように、蹴りつけるから。」
「……俺は今のままのお前でも、むしろ手に負えねぇほど好きなんだが。」
ローの手が頬にそっと触れてくる。
なんで力強いあなたは
私に触れる時だけそんなに優しい手をするの?
「ローが好きでいてくれてるのも知ってる。でも私、今の私をローにオススメできない。」
「お前の好きになった俺は、人の指図なんて聞かねぇぞ。」
頬に触れている手をぎゅっと握る。
そうかな?
ローは、私のお願いならいつだって聞いてくれていたけど。
「ローの好きになった私の方が、きっと人の言うこと聞かないよ。」
「……違いねぇ。」
私たちは全然似てないけど
変な所だけ似てるのかもね。
「待っててって、言わないよ?」
「好きにしろ。俺は俺のやりたいようにやる。」
流石
それでこそ私の好きになった人。
私たちは見つめあったまま
触れるだけのキスをした。
「おせーよ!」
ウイと二人でリビングへ降りて行くと
すっかりセッティングされた麻雀セットを囲んでクルー達が酒を飲んでいた。
遅い、と不満げに文句を言うペンギンに怒りが沸くのを感じる。
こいつが邪魔さえしなければ
結果は変わっていただろうに。
「……ウイ、首。」
「へ?」
シャチが目を覆いながらウイの首もとを指差すと
彼女は視界に胸元のキスマークを捉えたらしく
顔を真っ赤にして首もとを手で隠した。
「せっかく黙っててやったのに。」
ニヤリと笑うペンギンにウイは堪らず何か巻くの持ってくると部屋へ戻って行った。
「なに?そういうこと?」
「ついに!?」
シャチとベポが食い入るように身を乗り出した。
なんで覗くほど興味関心があった筈の俺らの動向を
ペンギンはこいつらに言わなかった?
「これは狙い通りか?」
「どしたのキャプテン。怖い顔しちゃって。」
余裕をかました顔でへらへら笑っているペンギンを本気でぶん殴りたいと思った。
「お待たせー!やろーやろー!」
首にネックウォーマーを着けたウイが戻ってくる。
心情的には隠したりせず
俺のものだという証をペンギンに見せつけてやりたいくらいだ。
「最初誰抜け?」
「準備済み。」
ペンギンが裏返した5つの麻雀牌を指差した。
それぞれが1枚ずつ引いて所定の位置につく。
「キャプテン残念。余り物は白でしたー。」
抜けは自分らしい。
ソファーにどかりと腰を沈めると
自然と楽しそうに自分の手配を並べるウイに視線が向いた。
丁度彼女の手配はこの場所から確認できて
配牌の時点で三役確定の二向牌は流石と言うか引きが良い。
親はベポのようだし
ツモにもよるが彼女は速攻で上がりに行きそうだ。