「なー人狼ゲームやろうぜ!」
「なにそれ?」
ゲームの準備を終えて甲板に戻ると全員が一斉にこっちに視線を集める。
ブラーヴェ組は人狼ゲームを知らないらしく、顔に疑問符を浮かべていたものの
説明はウイが上手いことやるだろう。
「おもしれーからとりあえず中入れって。」
肉も一通り焼き終えていたようで
各自食べ物と飲み物を手に船室へと入っていく。
船縁に背を預けて話し込んでいたキャプテンとソニアも
それに続くように移動を始めた。
「ソニア、さん、ちょっと良い?」
「ソニアで良いわ。なにかしら。」
艶やかなストレートの黒髪をなびかせるミステリアス美女。
老けているとかではないものの
落ち着いた物腰や余裕のある振る舞いは、大人の女性と称するのがぴったりだろう。
キャプテンは俺がソニアを呼び止めたことを横目で確認したものの
そのまま船室へと入っていった。
「じゃあソニア。完結に言うとウイのことよろしくね。」
「ふっ。あなたたち揃いも揃ってどこまで過保護なの?」
クスクスと笑うソニアは、初めて見た時も思ったがとても美人だ。
口元を隠しながら笑うその仕草にも
どこかしら上品さや色気を感じる。
出会い方が違ければ是非一晩だけでもお相手願いたい程だ。
「俺たちが出航した後さ、アイツのことめちゃくちゃコキ使ってやってよ。暇させとくとくだんねぇ事ばっかり考えっから。」
「頼まれなくても今までの分もしっかり働いて貰う予定だったんだけど。あなたのせいって事にして更に頑張って貰おうかしら。」
体は丈夫だからそうしてやって、と口にした俺に
ソニアは微笑みながら頷いた。
今まででんでんむしでよく話をしていたとは言え
多分ウイは、最初からこいつらに対して
俺らと同じようには甘えられないだろう。
俺らだって
一年以上一緒に過ごしてやっとこれだ。
初めて出会った頃のウイの様子を思い出す。
人当たりも良く一見テンションの高いただのアホ。
自分だって最初の頃は騙された。
表面に被った人懐っこい皮のせいで中身がそうでないことを悟られない。
ウイは相当に拗れた人見知りだ。
「あなた達どういう構図なの?ややこしいわね。」
「ご想像にお任せするけど。」
相変わらずクスクスと笑っているソニアは恐らく
キャプテンの気持ちも
俺の気持ちも
ウイの気持ちも分かっている。
キャプテンとも話し込んでいたようだし。
ソニアはきっと
さっきも同じような事を言われたんだろう。
「モテるわねウイは。でも分かるわ。」
「うちの自慢の姫君ですから。」
「守りたくなるんでしょう?」
ああいう器用そうで不器用な子、とソニアは穏やかな顔で呟いた。
器用そうで不器用。
なるほど
ドンピシャだな。
「誰にでも懐くようで、実際誰にも心を開かない。男なら自分にだけはって、思っちゃうわよね。」
「……キャプテンがあんたのこと苦手そうにしてる理由、なんとなく分かったわ。」
なるほど。
伊達に年食ってねぇな。
なんだか全てが筒抜けになったかのように錯覚してしまう程
ソニアは漠然とした気持ちを言葉で表現するのが上手い。
これは、わざわざ俺が頼みに来るまでもなかったか?
流石に色々と達観し過ぎているこの女には勝てる気がしない。
「ウイにはこれから沢山役に立って貰わなきゃいけないのよ。その分、受けた恩は何倍にもして返すわ。」
「それは心強いこと。」
ウイを客寄せパンダにして名を売ろうとしているらしいこいつらが
その恩を何倍にもして返す、と。
ウイが海軍に捕らえられた時といい
それ以外の時でも
ソニアをはじめとしたブラーヴェの職人達はそれはそれはウイのことを気にかけていた。
あんな短期間一緒に過ごしただけで
1年近くもでんでんむしで連絡を取り合っていたくらいだ。
ソニアも
食えねぇ女だとは思うけど
トップに立つ人間はこのくらいの方が頼もしいか。
「個人的に、応援したい気持ちもあるんだけど。」
「ん?」
なんでもないわ、と相変わらず隙のない微笑みを浮かべるソニア。
特にソニア自身に興味があるわけではない。
中ではゲームの開始を待っている奴らも煩いだろう。
どちらからともなく
俺らは船室へと戻るべく足を進めた。
「じゃあ人狼ゲームのルールを説明するね。」
このゲームはやって見せるのが一番分かりやすいだろう。
ハートの海賊団の皆にデモンストレーションを頼んだ。
「今回は私がゲームマスターを務めます。では役割を決めましょう。」
皆に村人2枚、狼と占い師が1枚ずつのくじをそれぞれ引いて貰う。
中身を確認すると皆は顔を伏せた。
「では、狼さん顔を上げてください。」
顔を上げたのシャチだ。シャチはローを指差すと再び顔を伏せる。
「次に占い師さん、顔を上げて下さい。」
顔を上げたのはペンギン。誰を占うかを問うと、彼はローを指差す。
大人気だな、ロー。
このメンツなら一番の厄介者はローだ。
「指差した人が村人なら親指を上に突き立てる。狼ならコレ。」
中指と薬指を親指と合わせ、手でキツネさんを作ってブラーヴェの皆に見せる。
ローは村人だから、ペンギンに見せるサインは親指を突き立てる方だ。
ペンギンはそれに頷くと再び顔を伏せた。
「皆さん顔を上げて下さい。昨晩狼に噛まれたのはローです。ローは幽霊になっちゃったので、こっちに移動ね。」
ローはまたかとつまらなそうに私の脇に移動する。
大丈夫だよ。
今日は人数もいるから私も参加できる確率も高いし、新メンバーが沢山いる。
毎回始まる前に襲撃されてしまう哀れなローも、今回はその頻度も減るだろう。
ブラーヴェの皆に
死人は口なしなので幽霊は一切ゲームの進行に口出し出来ない事を説明する。
「では、話し合いを開始して下さい。時間は5分です。」
ローを除いたハートの海賊団が今日吊し上げる人を決める話し合いを開始する。
最初はほぼ情報がないから、誰が狼だと思う?とかそんな感じ。
狼のシャチは勿論誰が狼か分かっているから余裕ぶっこいてベポじゃねぇの?とニヤニヤしている。
疑いをかけられたベポは俺は違うよと言いながらシャチをじっと見定めるように見つめていた。
「はい。じゃあ今日吊す人は誰ですか?」
せーのという掛け声と共に皆が一斉に狼と思われる人物を指差す。
シャチ2、ベポ1で今日吊すのはシャチだ。
「ハイ、ではこれで狼は居なくなりました。村人の勝ち!」
これが人狼ゲーム。
嘘をついて騙し合い、村人は狼を
狼は村人を排除していく。
集団的頭脳戦だ。
「へー。これって占い師が占った人が狼だった場合って、話し合いでそれ教えたらダメなの?」
「狼が複数居る場合は教えても良いかもだけど夜には噛まれるだろうね。自称占い師が本物かも分からないし。」
ブラーヴェ組はなるほどとこのゲームの奥深さをなんとなく理解したようだ。
「ただやってもつまんねぇじゃん?負けた方はこれね。」
ペンギンがジョッキに並々注いだアップルブランデーを片手にニヤリと笑う。
負けたチームが分担して飲みきる。
二人だけの狼が負ければそれはそれは痛手だ。
飲みたがり感満載のアオイとカレンは面白そう!と目を輝かせているし
曲者感の強いソニアとディゼルは動揺も見せずに微笑んでいる。
怖っ!!
こういう人達一番怖っ!!
最初は罰ゲームなしの練習ということで一戦交えてみた。
ペンギンとベポが狼で、やはり二人は真っ先にローを噛んだ。
私はニヤつく口元を抑えるのに必死だ。
この練習2回で植え付けたイメージは後程しっかり利用させて頂こう。
結局中々の観察眼を持つソニアに見破られてしまった二人は
彼女の巧みな集団先導術にかかって吊るされてしまい
今回も村人の勝利でゲームを終えた。
「じゃあここから本番ね!ゲームマスターもくじ引きで決めるよ!」
皆は人狼ゲームにハマってきたのか
それぞれ口元をニヤつかせながらくじ引きを引いていく。
ゲームマスターとして手を上げたのはカレンだ。
それ以外の全員が顔を伏せた。
「はーい!それじゃあ始めまーす!狼さん顔を上げてください!」
私は顔を上げると、同じく狼のディゼルと目があった。
ディゼルは親指でソニアを指差している。
やっぱディゼルとんでもなく腹黒いじゃん。
今までの流れでは、曲者を先に一掃するのがセオリーだと皆の頭の中に刷り込まれている。
初めてこれをするブラーヴェ組は勿論、
チームハートの海賊団も少人数でしかやったことがなければそういう固定観念が生まれているだろう。
丁度反対側に座るディゼルは
ジェスチャーで参加者を半分に区切り、
私側はディゼル、ディゼル側は私、と指示を出した。
やだな。
何しようとしてるかまで一緒かよ。
私はニヤリと口元をつり上げて相方にオッケーサインを送った。
「それじゃあ次に占い師さん顔を上げてください。今晩は誰を占いますか?」
顔を伏せたまま周りの気配に集中すると何かが動いている気配は感じる。
でも流石にそれがどこかまでは分からないや。
「はい!皆さんおはよー!!昨晩噛まれたのはソニアです。はい!ソニアは移動ね!」
目を覚ました村人達に動揺が走る。
いつも初日に噛まれていた誰かさんが生きているんだから。
私は自分の担当の村人達の顔色を伺う。
油断しすぎでしょ。そんなに驚いたらバレちゃうよ?
ちょろすぎるおバカさんを確認した後でローの方を向くと
彼はなるほどな、と生存者全員の顔を見渡してため息をついていた。
流石ロー。
早速ハメられた事に気付いたようだ。
ディゼルは頼りになりそうだけど
あのジョッキを二人で飲み干さなければならないリスクは減らしておくに越したことはないだろう。
私は疑うような目線をローにむけて飛ばした。
カレンの話し合い開始の声で、早速私たちはざわつく。
「これ分かりやす過ぎだろ。俺ら勝ったな。」
「まだもう1人居るんだから油断できないでしょ。」
「でもとりあえず今日吊るすのはキャプテンで決まりだね。」
ローを除く全員が満場一致で今日吊るのはローということで頷いている。
「お前ら本当にアホだな。簡単に踊らせられやがって。」
「見苦しいよロー。ローが話し合いに参加してる時点で狼確定でしょ。」
そうだそうだと囃し立てる外野にため息をついたローは、言っとくが俺は違ぇからなと吐き捨てた。
うん。そうだね。
ごめんよロー。私の為に尊い犠牲になってくれ。
「じゃは今日吊られたのはローです!では皆さん夜になりました。顔を伏せて下さい。」
うんざりしながら幽霊席に移動したローが、ソニアのすぐ隣に腰かけるのを見て
ちくりと胸が痛んだ気がした。
これはゲーム。
ソニアの次にローが幽霊になっただけ。
他意なんて、ない。
私はゲームマスターの指示に倣って顔を伏せた。