6-53

「では、狼さん顔をあげて下さい。」



カレンの声に顔を上げた私たちは
真っ先に幽霊二人にドヤ顔で視線を送る。

口元に手を当てて声を出さずにあらあら、と言うようなリアクションをしているソニアと
やっぱりなとでも言いたげに呆れた目で私を見ているロー。

二人のリアクションに満足すると、私は早々に相方であるディゼルに目線を戻した。






二人にはそんな気なんてないんだと思う。

でもなんだか、
お似合いすぎる二人が並んでいるのは見ていて楽しいものではない。





ディゼルはどう?とでも言うようなジェスチャーを私に送る。
私はそれに頷き、アオイを指差した。

次に消えて貰うべきは占い師。
きっとアオイは、これまでのデモで見た通り
最初の夜にローを占ったんだろう。

これまでの流れは
ローを狼としても村人としても残しておいてはいけない人物だと連想させるのに十分だ。

占ったローは村人だったのに
初夜にローは噛まれなかった。

狼に真っ先に狙われるだろうと思っていた村人のローが噛まれなかったことに驚いたらしいアオイの心情は
面白い程顔に出ていた。

ディゼルと目を合わせたまま頷くと、彼はカレンにジェスチャーでアオイを噛むことを伝えた。



「それでは占い師さん顔をあげて下さい。今晩は誰を占いますか?」



確定だ。
最初から意識を向けていればちゃんと分かる。
何かが動く気配は、アオイが座っている位置から感じる。



「おはようございます!昨夜噛まれたのはアオイでした!はい、幽霊席にバイバーイ!」



アオイが舌打ちと共に席を立つと、私たちは今日吊る人物の相談を始めた。

残っている村人は
ペンギン、ベポ、シャチ。

ここで誰かを吊れば私たちの勝ち。
ディゼルか私が吊られても、私たちにはワンチャンある。

狼は村人が多い場所では村人のふりをして大人しくしているけど
獲物が自分たちと同じ人数になれば
昼間だろうと襲いかかる。

今日私たちのどちらかが吊られても
夜に1人減らして残った二人のどちらかを吊れば良い。

このメンツならいける。
ディゼルも上手くやるだろう。



「あと狼って1人だよね。誰だろ?」



私は残りの村人候補達に舐めるような視線を送った。





「えー。マジで誰?」
「誰だろう。僕ウイ以外皆の性格あんまり分からないからな。ウイが曲者なのは知ってるけど。」



ディゼルの言葉に確かに、と私に疑いの目を向けるチームハートの海賊団。
ずっと黙ってるのも不自然だもんね。
良いよ、そのくらいなら平気でかわせる。



「ディゼルも中々怪しいけど?でも最初の時結構噛む人決まるの早かったよね。ローと相談したとなると皆も怪しい。」
「俺じゃねーよ。」
「俺も違う。」
「俺も違ぇ。」
「僕も狼じゃないよ。」
「残念だけど私も違うし。」



チームハートの海賊団はもう半信半疑だ。
疑いの度合はきっと均衡。
このままだと運ゲーになってしまう。

あの3人のうちの誰かを的にしなければ。



「ねえシャチ。なんでアオイを噛んだの?」
「は!?知らねえよ俺じゃねぇし!」
「本当に?私ならアオイは噛まないよ?ディゼル辺りを噛んだと思う。」
「だから違ぇって!!」



疑心の籠ったような目をシャチに向ける。
急に疑いの目を向けられたシャチは身の危険を感じたのか目に見えて慌て出した。

その様子を動揺と取ったのか
ペンギンとベポがじとーっとシャチに疑いの眼差しを向ける。



「確かにアオイは残しといても害ねぇな。」
「そうだね。なんでアオイ?」



発言出来ない為文句も言えない幽霊のアオイはめちゃめちゃ怒ってる。



すまんなアオイ。キミ、良いお出汁が出そうです。



「そろそろ今日吊るす人を決めて貰うよー?せーのっ!」








本人以外の村人の指がシャチに集中する。



「違ぇのに。」



シャチは私を指差したまま頭を抱えた。
流石に陥れた本人にはバレちゃったか。



「凄ーい!!こうやって狼勝つんだね!!ディゼルとウイの勝ち!!」



カレンの声にペンギンとベポとアオイが驚愕の顔で私たちに視線を集中させた。



「「「マジか!」」」



「中々良い性格してるね、ディゼル。」
「あれだけで指示通ったんだから。どうせウイも同じような事考えてたんでしょ?」



目を合わせてニヤリと笑い合う私たちに
殲滅させられた村人達の罵声が飛んできた。



皆がバカ正直なのが悪いと思うの。
これそういうゲームだし。



村人達はジョッキのアップルブランデーを小さめのコップに分けて
揃って一気に飲み干した。



6人で分けたらロックグラス分くらいしかないじゃない。
つまらん。




結局そのままの席順で人狼ゲームは続いた。

私はローの隣に座っているソニアが羨ましくて
特に話しをするわけでもない二人の雰囲気がしっくり来すぎてて

宴が始まってからずっとローと一緒にいるソニアにもやもやした気持ちを抱いていた。



私は殆ど話せてもいないし
隣に座る機会だってなかったのに。



流石に皆も
徐々に嘘や撹乱が上達してきた。
ローにソニア、ディゼルが曲者なのは周知の事実だし

それにベポやペンギンだって
実は結構な喰わせ者だからな。

性格的にこのゲームに向いてないシャチやアオイ、カレンも
狼にならなければ負けが続く訳でもない。

平均的に結構な量の罰ゲームが執行されて
人狼がコミュニケーションツールになったのか
皆はゲームを始める前より大分打ち解けたようだった。




「ウイ大丈夫?なんだかふわふわしてるけど。」
「ふわふわしてるけど、楽しかったねー。」



少し風に当たってきたら?とソニアに言われると
確かに少し酔いを冷まして来ようかとも思わなくもない。

でもせっかく皆で楽しく飲んでいる時にこの場から離れるのもなんだか勿体なくて。



どうしようかと悩みながらもシードルを飲み続けている私に
ソニアは全くもう、と困ったように笑っていた。



「おい、それくらいにしとけ。」
「え?」



ソファーで膝を抱えていた私の背後にはコップに入ったお茶を持っているローが呆れたような表情で立っていた。



私はとりあえず渡されたコップをお礼を言って受け取ったけど
いつもに比べればそんなに飲み過ぎている訳じゃない事なんて
ローだって分かっている筈なのに。



そんな顔する事ないだろ。



「いってらっしゃい。」



その様子を優しい目で眺めながらクスクス笑うソニアに、なんだか少し恥ずかしくなってしまったものの

ローと話したいなってさっきからずっと思っていた私はこくりと頷いて立ち上がった。



少し前を歩くローの背中を見つめながら




何話そうって

うきうきする心が踊ってた。


「夜の海は気持ち良いねえ。」



常葉樹の多いこの島の四季が春なのか秋なのかは分からないけど
夜になると少しひんやりするこの気温は
お酒の回った体に心地好い。

港に着けていない側の船縁に肘をついて海を眺めているローの隣にお邪魔して
私も輝く星たちを際立たせる真っ暗な海に目を向けた。



「人狼ゲーム楽しかったね。」
「人をコケにしといて良く言うな。」



私が持ってきたお茶をひょいと奪い去り
それに口を付けながら眉をひそめるローを見上げながら

これって間接キスだ!って思いながらニヤけそうになる口元に力をいれる。

周りに誰もいなければ
こういうのはただただ嬉しい。

むしろ間接じゃなく直接して欲しいくらいだ。

図書館デートの帰りも
ローは私を抱き締めてくれはしたけど

キスはしてくれなかった。

その時はくそっ!って
ローのけち!って思ったけど

後から考えると彼らしいなって
私の大好きな自分の決めた道を突き進むローだなって思った。

強くなって私を迎えに来てくれるらしいローが
それをやっぱり私には教えてくれない彼らしさが

言葉を介さないその約束は今も生きてるよって私に言ってくれてるみたいだった。

耳に優しい言葉よりも
それは何倍も、何十倍も、何百倍も私の心を支えてくれてる。

ローが迎えに来てくれるまでには
例えいつか捨てられて一人になってしまっても平気なくらい
私も強く逞しくなっていたいな。

もしそうなれたらその時は
今度こそ皆の仲間に入れて貰って
ローの胸に飛び込みたい。




ローは人狼はやっぱり大人数でやった方が面白いなって
口元をちょっぴり吊り上げた。

ローも好きそうだもんね。
騙し合いや心理戦。

また皆でやろうねって言ったら
次は覚えてろって、挑戦的な顔で陥れる宣言をされて

私もそれに応えるように
思いっきり鼻で笑ってやった。



ローの手からお茶の入ったコップを奪い取ると
ローが海に目線を向けているのを良いことに

ローが口を付けた所からお茶を飲んだ。






本当に私変態だな。
自分で自分が気持ち悪いって思う。





今度ベポに話そう。

きっと彼は、呆れた顔でキモいって言ったあと






笑ってくれそうだ。




私たちは静かな夜の海を眺めながら
武器屋さんに鬼哭のお礼を言いに行こうかとか
そんな他愛のない話をしていた。

内容なんてどうでも良かった。

私の話をローが聞いてくれて
ローが何か応えてくれるだけで

さっきまでのもやもやはどこかへ消えてしまっていた。

ソニアはもしかしたら
私のこんな気持ちに気付いていて風に当たって来たらって言ってくれたのかな。

本当に、どこまでも大人だ。






















「明後日、船を出す。」













「……そっか。」




もう少しくらい、ゆっくりして行っても良いんじゃないかって思ったけど
どうせいつかは行ってしまうんだ。

皆への贈り物も
何度も書き直した手紙も
もう出来てしまってる。



離れることは、ローだけじゃなく
私も決めたことだ。







「お前は本当に、これで良いのか。」








手の中のコップを見つめるように
目線を落としてしまったけど

ローがこっちを見ていることは何となく分かった。

どんな顔して私を見てるのかも
何となく

分かってしまう。




「私はまだ、お勧め物件にはなれてないもん。」
「……そうか。」



止める資格なんてなければ
止めてしまっても
なんの解決にもならない。



「明日は引っ越し準備?」
「ああ。」



その声は少し不機嫌そうで、そんなローに自然と顔に苦笑いが浮かぶ。







明日も忙しいなら、ゆっくり二人で話せるのは
きっと本当にこれが最後だ。



まだお茶の入ったグラスを甲板に置いて
ローにちょいちょいと手招きしてから船尾の方へ向かった。



不可解そうな顔をしたローはちゃんと着いてきてくれてる。



これが本当に最後。
私は何度も何度も自分に同じ言い訳をしてるね。













「おい。」
「なーに?」



船室から誰かが出てきても見えないようにって移動したサンルームの前で
私はローに抱きついた。

案の定頭の上からは呆れた声が降ってくる。

ベポの数百倍抱き心地の悪いこの筋肉質な体も
この匂いも
文句は言いつつも私の我儘を聞いてくれるのも


暫くお別れだ。




「お前は本当に嫌なタイミングでだけ素直だな。」




ため息と共にそう言ったローの腕は
そっと私の体を包んでくれた。


destruct at reality.