6-55

その日の夜は
地下で、ベッドを3つくっつけて5人で寝ることにした。

よく考えてみたら
5人で寝るのは初めてだ。

前にここで皆と寝たときは
ローがいなかったし。




懐かしい。

あの時は
こんな気持ちであの事件を振り返る日が来るなんて思いもしなかった。

まだまだ至らない私だけど
あの時よりはマシだって思うよ。


「ねえペンギン。」
「なん、ぶほっ!!」


油断したペンギンの顔面に思いっきり枕を投げつけた。
それを見たシャチとベポはニヤリと笑って畳み掛けるように加勢してくれる。


「お前ら、マジでふざけんなよ。」
「本気だから問題ない。」


じと目で私を睨んでいるペンギンの背後にそっと忍び寄ったシャチが
ペンギンの頭を布団で覆うようにベッドに縫い付けて
それを合図に私とベポがペンギンに飛びかかった。


「っだっは!!お前らマジやめろっ!!」


くすぐり攻撃に笑いながら暴れるペンギン。
ローはそんな私達をアホらしいと呆れた目で見ていた。






「っとに!ふざけんなっ!」
「「「あ。」」」
















こういうのをお約束って言うんだろうか。



「おいてめぇ。覚悟はできてんだろうな。」



布団に覆われて視界不良なペンギンが
私たちに投げたつもりの枕は








ローの顔面にクリーンヒット!







押さえつけたりくすぐったりする手を止めた私たちを不思議に思ったペンギンが布団から顔を出すと

青筋を浮かべたローの傍らに枕が不自然に転がっているのを見て


色々と悟ったらしい。





「ルーム。」
















そのあとどうなったかって?


荷物が殆どなくなった地下の皆の部屋は
ボーリングをするには最適で。


いつか聞いたトランスモードのローの暴挙
バラバラに切り刻んだペンギンでボーリング大会が開催された。


頭をボールにして手やら足やらを倒すローが
一度やってみたかったって
真顔でそんな事を言うものだから


この人本当にちょっと天然なのかもと思ってしまった。


叫びまくるペンギン以外が爆笑しながらペンギンボーリングを楽しんで
気が済んだらしいローがペンギンを元に戻した。





最後の夜は
やっぱり笑いの絶えない楽しい夜だった。



なんだか暖かいなって思って目が覚めたら

どうやら私は
ローの腕枕の下にベポのお腹を敷いて
シャチに脚を枕がわりにされながらペンギンと手を繋いで寝るという

ハートの海賊団スペシャルコースで就寝していたようだ。



目を開けた瞬間、静かに寝息を立てて眠っているローのドアップっていう
嬉しいハプニングのお陰で一瞬でばっちり目が覚めてしまった。



ベポのふさふさのお腹に半分顔を埋めて寝ているローは

常に仏頂面寄りの険しい顔をしている癖に
やっぱりモコモコとか似合うんだよなって、そんな事を思った。

せっかく抱き締めてくれていたのに
眠っていたせいでその嬉しさを噛み締めることが出来なかったことが勿体無い。

今からでも、この幸せを存分に堪能してやろうと思って
起きている時よりあどけない顔で眠るローを目に焼き付けるように
ただ、じっとその顔を見つめてた。










これってこっそりキスしたら起きちゃうだろうか。


ローは周りの気配に敏感だし
眠りも浅そうだ。

起きてしまったら、せっかく抱き締めて貰えてるこの幸せ体勢は
またお預けをくらってしまうかもしれない。


でも、キスしたい。
今日で最後だし。








どうしよう。

究極の二択!!!












待てよ。

ローはもしかしたら既に起きてる可能性も捨てきれない。
確か前、狸寝入りしてたことがあった気がする。

一昨日も良いとこ取りするなって怒られちゃったし
起きてたらロー、また怒るかな。




少しの不自然さも逃すまいとローの顔を凝視する。

伏せられた目はぴくりとも動かないし
私がつけ狙っている唇にも怪しい所は見当たらない。

狸寝入りがバレる原因第一位の
唾を飲みこむ様子もない。








寝てるよね?これ。













いくか?



いけるか?



いけるのか?






確実に怪しい人の思考に傾いている。

寝ている人の唇を奪うなんて
見方によっては犯罪だ。






何の物音もしない空間では
自分の心臓の音だけが、やたらと大きく聞こえる。

なんで今日に限って
ペンギンもシャチもイビキかいてないんだろう。

これじゃ何もしなくてもこの音でローが起きてしまうんじゃないかって思うくらい

頑張りすぎる心臓が
勢いよく全身に血を巡らせてた。




良いとこ取りで結構だ。

ローと一緒に居る度胸もないくせに
それでもローに触れたいと思うことが

自分勝手なことだなんて分かってる。







寂しいんだもん。

本当は離れたくない。

でも、こんな私だから傍には居られない。








起こさないようにできるだけそっと

もうすぐ触れたくても触れられない所へ行ってしまう大好きな人の唇に
自分のそれを合わせた。






こんなにドキマギしながらローに触れるだけのキスするのは
なんだか私の本当の、ファーストキスを思い出させた。



あの時は、自分の気持ちも良く分からないまま

キスとかその先とかを求めてくるローに
訳も分からずただ慌ててた。



あの頃の私が羨ましい。

今考えたら、ローは私のことを好きって
あんなに態度に表してくれていたのに

なんでこの人の気持ちに気付かなかったんだろうって
自分のアホさに呆れてしまう。





『お前がその気なら歓迎だっつってんだよ。』



そう言えば、もうあの時からローは私を好きでいてくれてたのかな。



『お前を放っておける訳ねぇだろ!!』



ローのこと好きって分かってなかったけど
あれは嬉しかったな。



『忘れねえ。だからお前も覚えてろ。』



忘れる訳ないじゃない。
忘れろって言われても無理だ。







最近、別れが近いせいなのか
今までのことを思い返すことが増えた気がする。

どんなローを思い出しても
そんな彼の隣にいるその時の私が羨ましい。




明日の自分に羨ましがられる為に
もう一回くらい、キスしておこう。














「人の寝込みを襲うとは良い度胸じゃねぇか。」
「……ちっ。」



急に肩を押されたと思ったら
寝起きの割には随分しっかりした口調で話すローが私の上に覆い被さっていて

私は眉をしかめて思いっきり舌打ちをしながら
見下ろしてくるその視線を逸らしてやった。



絶対起きてたじゃんやっぱり。

寝起きのローはこんなに目付き悪くないもん。



結構強い力で顎を掴まれて無理矢理正面を向かせられる。
全く反省してないことがありありと滲み出た顔でローを睨むと
それはローの視線と絡まった。





少しずつ


ローの顔が近付いて来る気がして
どくんと心臓が跳ねた。




まだ夜明けだろう。
自分の腕の中で眠っていた筈のウイが僅かに身動いだ後、不自然に硬直した。



散々騒いでおいて驚く程あっという間に寝落ちしたウイに呆れながら

つい先程まで
彼女と過ごしたこれまでを振り返り
あれこれとクルー達と話しこんでいた。

眠りに付いてから然程時間は経っていない気がする。







目を覚ましたらしいウイは起き上がることもせず、ただ腕のなかでじっとしている。

目は閉じていても
こちらに意識が向いて居ることはありありと感じられて

彼女を包んでいる腕に力を込めて抱き締めてしまいそうになるのを
理性が必死に抑えていた。



暫くすると
枕代わりにしていた俺の腕から頭を浮かせたウイが
そっと口付けてきた。



あれほど言っても聞かないとは。
人の言うことを聞かないと自負するだけのことはある。



腕の重みが消えた時点で
ウイが次に取る行動に予測は付いていた。



分かっていて、止めなかった。



ウイに触れたいと思っていたのは
自分も同じだ。

ただ、それを許容してしまえば
曖昧な関係を許してしまえば

ウイはいつまで経っても
自分の殻から出てこないだろう。



抱き締めて欲しがるウイも
キスをねだるウイも



本音を言えばめちゃくちゃにしてやりたくなる程可愛いと思う。

どれだけ自分が伝わらない想いに焦れて
ウイの心も身体も求めていたか

彼女は気付いていないんだろう。





再び顔が近付いて来る気配を感じて
その忍び寄る肩をベッドに縫い付けるように組み敷いた。



一瞬驚いた表情を浮かべたウイは
行いを非難されたことに対して
思い切り顔をしかめて顔を背けると
舌打ちまでしやがった。






本当に良い度胸だ。






そんな彼女の顔を無理矢理こちらに向かせても
睨み付けてくるその目には全くと言って良いほど反省の色が見られない。









これは仕置きが必要か。









不満気に見上げてくる彼女に顔を寄せると
さっきまでの顔が嘘のように期待に満ちたものに変わる。


そんな可愛い気のある反応をした所で見逃してやるつもりはない。




「どうした。期待させたか。」
「本当に意地悪。」


鼻先を合わせたまま
再び不機嫌そうな表情を浮かべたウイの顔を見下ろす。

顔を押さえつけている手の力に贖おうと
必死でこちらに身を寄せようとしているウイには本当に呆れてしまう。

そんな物分かりの悪すぎる彼女を愛しいと感じる自分にも自嘲が込み上げる。


「続きが欲しけりゃ腹括れ。」
「……。」


ウイは途端に眉を下げて唇を尖らせた。

分かれば良い。
俺に触れて欲しいのならば
自分の問題にさっさと蹴りでも何でも付けて来い。


「ローのばか。分からず屋。」
「お前にだけは言われたかねえな。」


話したくないと言う割に
そこを理解しろと言うのは横暴にも程がある。


「それが出来るなら、とっくにしてるよ。」


だろうな。
相変わらずな彼女の様子に溜め息が出る。


「その為に頑張ろうとしてるのに。でも離れちゃうのも……不安なのに。」


そんな顔をされると流石に弱る。

目を伏せて唇を噛みしめながら言葉を紡ぐウイの姿は
抱きしめてしまいたくなる程意地らしい。


「へこたれそうな時、思い出して頑張れるようにって。だから最後にキスしたいって思うのはそんなにダメなことなの?」


すがるような瞳に
己の立てた決意が揺らぎそうになった。





でもだめだ。

キスをねだる彼女を餌で釣るようで、こういう言い方をするのは少し気が引ける。

ただ、俺はキスの一つや二つを代償に
ウイの全てを手放すリスクを増やすつもりはない。


「お前が腹括った暁には、首に縄付けてでも一生傍に置いてやる。だからさっさと蹴り付けて来い。」


俺の言葉に
ウイは残念そうに目を伏せて溜め息をついた。



destruct at reality.