12-31



「…聞かないの?何で今まで出なかったとか。」
『聞いて欲しいなら聞くけど。』


いつかも聞いたな、そんな事。


なんでペンギンは自分勝手なマイペースっぽいのに、こういう時だけどこまでも奥深く空気を読むんだろう。


「上手く、話せないから。…聞かないでくれてて助かるけど。」
『へぇ…。そっちは任すけど。キャプテンそろそろ相当ご立腹だから何とかしてくんない?』


ペンギンは呆れたような声でローとか皆の心配ぶりを話してくれた。
あと、今日でんでんむしで話した事は内緒にしといてって。


『話さなくて良いから取り敢えず無事だって伝えてやってよ。』
「どうやって。」
『そんくらい自分で考えなさい。』


あぁ…、流石にそこまでは上手い事やってくれないのね。


でもなんか、少し元気は出たかも。


後悔にどっぷり浸ってる私じゃない私と普通に話してくれるペンギン。


ベガス聖とかパパとも話はしたけど、気が緩み過ぎっていうか
もう隠しようがないほどダメな私で接してしまったせいで気持ちは沈む一方だった。


エースの件と関係なく、“私”として接することは
少しだけ冷静さといつもの自分を取り戻せた気がする。


『今だとキャプテンの焼き餅面倒臭ぇから、明日の昼間にでも連絡よこして。』
「焼き餅?」


なんだ、それ?


『自分はあんなにかけても出ないのに、俺のでんでんむしには出たって知ったらキャプテン怒り狂うでしょ。』
「…確かに。」


よし。
取り敢えず何とか連絡はしなきゃ。


いくら悲しくたって、このままじゃダメだ。
最悪途中でガチャ切りしてでも無事な事は伝えよう。


…こんな思いを好きな人にさせてるなんて、良い筈ない。


「じゃあ明日…かけてみる。」
『健闘を祈る。』


薄情者。


…違うな。
ペンギンは薄情なんかじゃない。


こうやって話さなければ私はきっといつまでもあのままだった。


薄情なのは私だ。



ペンギンとのでんでんむしを切った後、久しぶりに少し眠れた。

リビングでエースのリュックを抱き締めて眠ってたら、窓から差し込む日差しが目に痛くて目が覚めた。


そういえばお腹が空かない。
こんな時にお腹も減ってないのに自分の為だけにご飯なんて作る気が起きない。


…まずは皆にでんでんむしか。


テーブルに置いた能面面のそれ。
ハートの海賊団に繋がる番号を押しては、最後の1つがどうしても押せない。


でも今日かけないと、明日は更にかけにくい。
嫌なことから逃げてばっかりじゃダメだ。


なにもしないよりはマシだろうって
最悪ガチャ切りの逃げ道を確保して最後の番号を押した。


ぷるガチャッ


『てめぇ今まで何してた…!』


わぁ。
やっぱり怒ってる。


『おい…怪我とかしてねぇか。』
「して…ないです。…ごめん。」


ローの声がどこか弱々しい。
怒りたい気持ちと、心配してくれてる気持ちが葛藤し合うような
どっちも譲れないようなそんな声。


やっぱりローは凄い。
心配してくれてるんだろうなって分かってた。


ローなら心配してくれるって、分かってたけど
直接声を聞くだけでなんだか心があったかい。


『なにしてた、今まで。』










…やっぱそう来るか。


どうしよう。
言ってしまいたくなる。

助けてって。
どうしようもなくつらいって。


『おい聞いてんのか。何してた今まで。…なんで出なかった。どんだけ肝冷やしたと思ってる。』


…ごめんなさい。


わかってた。
心配かけてるって。


わかってたけど、どうして良いかわからなかった。


エースが捕まっちゃって
エースに依存し過ぎていた自分に気付いて
こんなことになっちゃってるのは私がエースに大変な事押し付けて遊び歩いてた事が原因で
周りの制止も聞かずに考えなしにただ突っ走ったのが原因で
良かれと思ってした事が事態を悪化させて


自業自得過ぎて
でも今私がどんなに悔やんでも償いきれない程の結果を生んでしまって
その尻拭いを自分ではやりきれそうもなくて


色んな気持ちがぐちゃぐちゃ過ぎて
何も、言えない。



『…今どこに居…
『まぁまぁ。無事だったなら良かったじゃん。』


…知らないって言ったくせに。
自分で考えろって言ったくせに。


『おまえは黙ってろ。』
『黙ってても良いけど。そんな問い詰められたらウイちゃん何も言えないでしょ。』


結局助けてくれるんだ。
ペンギンは。


『…何ともねぇんだな。』
「うん。」


ポーラータング号では今、どんなやりとりがされてるんだろう。
でんでんむしが繋ぐ先には、ローとペンギン以外の誰が居てどんな顔してるんだろう。


想像出来る皆の顔が、きっとどれもほっとしてるんだろうなって
散々連絡してくれたのに無視しちゃって怒りたい筈なのに

皆私が無事だったことにほっとしてくれてるって
そう思うとなんだか本当にやりきれない。


なんて事しちゃったんだろう。


『…バカな真似だけはすんな。本当に。』














バカな真似…か。


エースを助け出す為に、その為に動いてくれようとしてるパパ達の手助けが出来るように情報を集めようとしてる事は
バカな事なのかな。


『…またすぐかける。絶対出ろよ。』


何も言えずにいたら、でんでんむしはそれだけ伝えてぷつりと切れた。








能面面に戻ったでんでんむしと、ただ見つめ合うだけの時間。


果たしてこれは目が合ってるんだろうか。
いやそんな事はどうでも良い。



大切な人を助けたいと思う事は
バカなことなの?



ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる



予告通り着信を知らせる音が鳴り響く。


「もしもし。」
『今どこにいる。何しようとしてる。』


ローを止めてくれる声が聞こえない所を見ると、きっと自分の部屋に移動して来たんだろう。


…やっぱりローはそうなるよね。
どうしよう。


無事なのは分かっただろうし、切っちゃおうかな。


『ウイ…一旦戻れ。戻ってこい。』


すがるような声だった。






「どうして…どうしてバカな事って言うの?エースを助けたいって思うのはバカな事なの?」



私のせいなの。


私のせいでこうなった。
それなのに何もしないでいるなんて出来ない。






『思うことはバカじゃねぇ。でもおまえは…普通思い止まれるとこにも平気で突っ込んでくだろ。』


あぁ、なんだそっちか。


ローはエースに対抗心燃やしたりしてるから、だからそんなに冷たい事言ってるのかと思った。


「ベガス聖に、エースの事何か知らないか聞いてたの。パパ達は助けに行くみたいだから、役にたてたらなって。」
『ここでも聞けんだろ。良いから戻ってこい。』


それはそうなんだけど。


でも少しでも近くに居たい。
遠くに居たら、何か出来る事を思いついても何も出来ない。


「情報収集だよ。私にしか出来ない。…直接聞きたいし、迷惑かけてばっかりだからベガス聖にもちゃんと謝ってお礼言いたい。」
『…約束できんのか。必ずまた戻って来るって。』


約束か。
脱獄の手伝いがバレて海軍にも捕まらないで
死ななきゃ良い。


助けるんだもん。
私も無事じゃなきゃ意味がない。
それなら約束できる。


そもそもインペルダウンに忍び込むのが危ない事だってくらい私だってちゃんと分かってる。
っていうか無理だ。


『…正直俺は怖い。』





…ローに怖いものなんてあったんだ。


ローの口から出てきたとは思えない言葉。
一瞬聞き違いかと耳を疑ったくらいだ。





『前に俺らを庇って捕まったみてぇに、また今回もなりふり構わず何かやらかすんじゃねぇかって、…俺は怖い。』
「でも今回は!私のせいなの!私が言い出したし…それなのに私、エースが捕まっちゃった時何も知らずに遊んでた。」


前は確かに衝動的な行動だったかもしれない。


でも今回は違う。
私にはそれをする理由がある。


寧ろそうしなきゃいけない。
…じゃなきゃ許されない。



『無責任で良い。』










え?











『無責任でも最悪でも、バカでもアホでも何でも良い。俺はおまえが手の届かないとこに行く方が嫌だ。』









ねぇ。















どんな顔してそんな事言ってるの?















喜んでる場合じゃないのに、喜んでられるような立場じゃないのに
後悔で締め付けられっぱなしだった心臓がトクントクンと鼓動を刻む。


懇願するようなその声はまるで
冷えた心をあたためてくれてるみたいだった。




「心配かけてごめんね。」
『全くだ。』


返す言葉もございません。

ローは私が何かしでかすんじゃないかって思ってるみたいだけど
実際私に出来る事なんてきっと殆どない。


ただ、何も出来なくてももがいていたいだけ。
罪悪感を減らしてるつもりでいたいだけだ。


「パパ達にも連れていかないって言われてる。安全なとこにいろって。」
『全うな父親で良かったな。なら尚更親の言うことは聞いておけ。』


パパの言うこと、ちゃんと聞くよ?
パパは私の反省を尊重してくれた。


なら私は、後悔しないためにやれることをやるっていう反省点を生かすべきだ。



「インペルダウンに忍び込むとか、流石に無理って分かってる!危ない事なんてしようがないじゃない。」
『それをやるのがおまえだろ。』


ローは私を何だと思ってるんだ。

これはチェスじゃない。
私がそれを得意な自覚はある。

でも実際の私は、ポーンより役に立たない。


「早い方ができる事も多いでしょ?今出来る事をしたい。本当に危ないのは…パパ達だよ。私じゃない。」
『…おまえつまり、聞く気がねぇんだろ?』


盛大なため息が受話器を通して聞こえて来た。


本当だね。


私ローが心配してくれてるのを分かってても、安心させてあげる為に出来る事をしようとしてない。


何を言われても、でもだってって
自分の我を通す事しか考えてない。



『正直腹立つ。』



はっきり言うなぁ。


私が聞き分けなさ過ぎて、ごめんって謝りつつも聞く耳なんて持ってなくて
ロー達からしたら小言も心配も言う気が失せるようなバカだってなんとなく分かってる。


でも今回ばかりは本当に、私はローの言うことを聞けない。



『おまえが何かしでかさねぇか心配なのもある。でもそれが火拳屋の為だってのが何よりも気に食わねぇ。』
「凄く、助けて貰った。…私がこの前ローに、ずっと伝えようとしてた事言おうとできたのも…元を正せばエースのおかげだよ。」



また聞こえたため息。


エースの為に私が何かしようとするのが面白くないなら、私がローに告白しようとしたのがエースのおかげって事なんて尚更聞きたくない事だろう。


でもごめん、ロー。




私どうしてもエースを助けたい。




destruct at reality.