12-33
「ベガス聖!いつもごめんね、ありがとう。」
「久しぶりだえ!…ちゃんと食べてるかえ?痩せた気がするえ!」
ベガス聖のお屋敷着けば、あれも食べろこれも食べろと世界中から取り寄せられたであろうベガス聖お気に入りの食べ物でテーブルが埋まった。
どれも美味しそうだし見たことない物もあるから気になるんだけど、それより今はエースだ。
「後でゆっくり食べるね!…お願いしてた事何かわかった?」
「おい、私はこれからウイと大事な話があるえ。おまえ達は下がって良いえ。」
人払いをかけたベガス聖の横顔を少し緊張しながら見てた。
聞かせられないってことは、何か分かったんだ。
お付きの人達が出ていく間にこれがお勧めだと渡されたボンボンショコラをご馳走になれば、流石というか何と言うか…
「なにこれ凄い美味しい。」
「最近西の海で店を開いたショコラティエに送らせているえ!チョコレートならここが一番だえ!」
そんな所からわざわざ…
でもその位美味しい。
結構ビターな感じ。
ほろ苦いけど甘さもあって、それでいて滑かでカカオの香りも強い。
「いっぱい食べるえ!」
「うん!…あの、それで?」
伺うように顔を覗き込めば、険しくなった表情に嫌な予感を感じる。
「ウイ、落ち着いて聞くえ。」
「良くない、話?…大丈夫。聞かせて。」
ふぅ、と大きな溜め息の後に
真剣な顔のベガス聖が口を開いた。
「ポートガス・D・エースは…処刑されるえ。」
「なん…で?インペルダウンに幽閉されるんじゃ…ない、の?」
「公表されるのは恐らく2、3日後、それから1週間から10日後くらいにマリンフォードで公開処刑が行われるえ。」
公開処刑?
エースが…死ぬ?
「処刑は大掛かりなものになるえ。白ひげも黙ってないだろう事は海軍も分かってるえ。」
言葉の意味は分かる。
でも実感が、沸かない。
エースは死んじゃうの?
幽閉されるんじゃなかったの?
神様は意地悪だ。
折角立ち直ったのに
頑張らなきゃって、そう思えたのに
どうして希望の芽を根こそぎ摘み取ろうとするの。
「それって、どうにもならないの?なんでエースだけ…捕まってそんなにすぐに処刑されるの!?」
「ポートガス・D・エースの父親を、ウイは知ってるかえ?」
深刻な顔で見つめてくるベガス聖。
エースの父親って…世界的な悪党とか言ってた人?
「知らない…けど、それがどうかしたの?」
「私も掛け合ったえ。処刑するなら奴隷に欲しいと。…でもこれは私の我儘が通らない程大きな案件だえ。」
ベガス聖の意向が無視される案件。
天竜人の力が及ばない案件。
なにそれ、どういうこと?
「あの男の父親は…ゴールド・ロジャー。ウイも聞いたこと位はあるえ?」
ゴールド・ロジャーって…あの海賊王の?
エースのお父さんは、海賊王?
「海軍もその情報を掴んでるえ。あの若さで今一番海賊王に近いとされる白ひげの後押しもあるえ。」
「海軍としては出生の件が明るみに出る前に芽を摘み取りたいんだえ。」
なにそれ。
エースは…エースだよ。
海賊王の子供だろうと
海賊王に一番近いパパの後ろ楯があろうと
エースはエースだ。
他の何者でもない。
エースは海賊王の息子だなんて肩書きはとうの昔に捨ててる。
ただ血が繋がってるだけ。
生まれて来てみたら、父親が海賊王だっただけなのに。
それなのに
なんでエースを苦しめるの
なんでエースの首を絞めるの
「私の力が及ばない以上、火拳エースのことは諦めるえ。…ウイが何かしても、私じゃ庇いきれないえ。」
エースとは直接何の関わりもないのに、そう話すベガス聖は見るからに肩を落としてた。
処刑
タイムリミット
カチカチと音を立てる時計に目が止まる。
エースが生きて居られるのは、この針があと何回回るまでなんだろう。
かちこち鳴る秒針が煩い。
私を急かさないで。
考えろ。
何かない?
この状況を打破する何か。
公開処刑
海軍
マリンフォード
海賊王
白ひげ海賊団の邪魔
天竜人
考えろ考えろ考えろ考えろ
何か、何かない?
エースが死なずに済む方法。
処刑を邪魔出来て、エースを逃がせる方法。
「ベガス聖、マリンフォードで公開処刑されるとしたら、その見物に行ける?」
「…?それは、その位なら余裕だえ!」
乗り込める。
「どんな公開処刑になるか…処刑台の配置とか、そういうの。簡単なので良い!…手に入らない?」
「護衛の者達には事前に周知されるえ。それなら分かるえ。」
距離、角度…いける。
「エースを奴隷にしたいって理由、何て話したの?」
「あの若さであの懸賞金、是非とも欲しいって言ったえ。海賊王の息子ならなおのことって。」
…いけるか?
海軍は天竜人への体面を気にする。
奴隷の要望を断ったなら、聞き入れてくれる可能性は高い。
「ベガス聖、本当に。本当にいつも我儘ばっかりごめん。」
「どうしたえ?さっきから聞かれてる意味が分からないえ。」
頭上にクエスチョンマークが見えそうなくらい、ベガス聖が混乱してる。
私ができる何か。
何度も失敗してる時間もチャンスもない。
きっとこれしか出来ない。
「私はエースを諦められない。…力を貸して欲しい。」
「海軍大将も総出で出てくるえ!元帥も。そんな状況で打てる手立ては何もないえ!無理だえ!下手したら死ぬえ!!それは聞けないえ!」
必死な形相で肩を掴むベガス聖に
こんな自分勝手なお願いしかしない私を心配してくれるベガス聖に
本当に申し訳なくて仕方ない。
でも諦められない。
何もしないよりマシなら
どんなに危なくても、死ぬかもしれなくてもやりたい。
「エースの公開処刑の見物を…海軍に要請して欲しい。そして私を連れて行って!」
「だからダメだって言ってるえ!海軍大将相手に何が出来るえ!?殺されるか、良くても捕まるえ!」
無茶苦茶言ってるって分かってる。
ベガス聖に迷惑かけちゃうことも。
「処刑人に、挨拶に来させるとか…なんでも良い!処刑前に接触出来ない?」
「…挨拶くらいなら、見物に行けば頼まなくても勝手に来るえ。…なにしようとしてるえ?」
いける。
大丈夫。
考えるだけじゃない。
役に立てる。
「私が処刑人に成り代わってエースを逃がす。」
「なにバカな事言ってるえ!!無理に決まってるえ!!駄目だえ!そんな事させないえ!!」
処刑人って、何人居るんだろう。
1人につき1人?
それならよっぽど大男とかじゃない限り何とかなるんじゃないかな。
背だって体格だってある程度なら偽装出来る。
海軍の正装は、あのマントに帽子は成り代わるには打ってつけだ。
「それしか…ないの!!お願い!!もうこれが最後にするから!もう絶対我儘とか言わないから!!」
「お、落ち着くえ!大体成り代わってどうするつもりだえ?」
勢い余ってがくがくと揺さぶれば、私の必死さが伝わったのか眉を寄せたベガス聖がたじろいた。
考えついた案を話せば、その顔は更に歪む。
考え込むように目を伏せるベガス聖を、じっと見つめた。
お願いベガス聖。
エースを助けられるとしたら、それしかないの。
別にヤケになってる訳じゃない。
ちゃんと考えて思い付いた策。
死にに行く訳じゃない。
ベガス聖にも極力迷惑はかけない。
だからお願い。
私にエースを助けるチャンスをちょうだい。
「バレたらどうするえ?」
「バレないように気をつける。バレてもベガス聖に手引きして貰ったなんて絶対に言わない。」
思いの強さが少しでも伝わるように
少しでもベガス聖が協力してくれるように
そんな思いを込めて視線を受け止めた。
ベガス聖の協力なくして、これは成り立たない。
「私はウイを見捨てる事は絶対しないえ。でもバレれば、いくら私でもお咎めなしとはいかないえ。」
「見捨ててくれて良い。っていうか見捨てて。ベガス聖に迷惑かけたくない。」
もう迷惑なんて散々かけてる。
迷惑かけたくないなんて、どの口がそれを言うんだってくらい今更な話。
でも譲れない。
絶対にエースを助けたい。
だからってベガス聖にも、私のせいで嫌な思いとかして欲しくない。
「バレれば私が火拳のエースを奴隷に欲しくてウイに無理を強いたって言うえ。」
「ダメだよそんなこと!!そこまでしてくれなくて良い。これは私の…我儘だから。」
なんでこの人はこんなに優しいんだろう。
こんなに私に良くしてくれるんだろう。
迷惑しかかけてない。
あの時私を解放してくれた恩さえまだ全然返せてないのに。
「それが嫌ならバレないように、細心の注意を払うえ。…ロイを呼ぶえ。ロイなら他の海軍より信用出来るえ。」
「…ベガス聖。」
処刑執行人は通常であれば二人だとか
片方がロイならリスクも減るだとか
私の我儘なのに
ベガス聖はそんな事する義務も責任もないのに
あれこれと一緒に考えてくれるこの人に本当に申し訳ない。
「材料とか、必要な物は言うえ!すぐ取り寄せさせるえ!」
「本当にごめん。ありがとう。」
ベガス聖の優しさに、涙腺がじんわり弛む。
話したらまた食べなくなると思ったから話す前に食べさせようと思ったのにって
助けてやるからちゃんと食べるえって
そう言われて差し出された焼き菓子を口にした。
それは小麦の香りとバターの風味が絶妙なクッキーで
甘くて、美味しくて
でもクッキー自体の味よりも
ベガス聖の優しさが胸に染みて
必死でこらえないと涙が溢れてしまいそうだった。
絶対に成功させる。
エースを救い出す。
そしてエースをここに連れて来てベガス聖にお礼させる。
そうだ。
1ヶ月無賃労働もさせなきゃだった。
約束は守って貰わなきゃ。
サボってうたた寝なんてしてたら許さない。
ねぇエース。
エースを助ける為に
エースがここに戻って来る為にこんなに沢山の人が力を貸してくれるんだよ。
きっとパパ達も動き出してる。
私が知らないだけで、もっと沢山の人がエースの為に頑張ってる。
だから死なないで。
生きて、戻ってきて。
エースは太陽だよ。
そこに居てくれるだけで周りが明るくなるの。
元気になれるの。
笑っていられるの。
だからどうか死なないで。
生きて。