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「という事になりました。…パパ達はどうするの?」
『安全な場所で大人しくしてろと言ったのは忘れたか?』


当日の私の動きをパパにも伝えた。
私だけじゃ無理。
ベガス聖に協力して貰っても
エースに頑張って貰うとしても難しい。


皆の力があって初めて、成功の可能性が見えてくる。


「忘れてない。…でも、何も出来ない遠くでじっとしてられない。これなら少しは役に立てるでしょ?」
『おまえの気持ちも痛い程分かる。だから止めない。…ただ死ぬな。おまえの身代わりに助かっても、エースも家族も喜ばねぇ。』


私が海賊じゃないから
戦う強さがないから
女だから
大事にされてるから


だから危ない事に巻き込もうとしないって分かってる。


でも


商人だって
弱くたって
女だって
大事にしてくれてるからこそ


私だってエースを助ける為に
皆の為に何かしたい。


『何もしなくて済むようであれば何もするな。俺たちももう向かってる。傘下の海賊達も。』
「皆も来てくれるんだ。…でも大丈夫?大将達も皆出てくるみたい。…いくらパパ達が強くたって心配だよ。」


パパ達が黙ってないのを、海軍は見越してるってベガス聖は言ってた。

待ち構えられてる。
邪魔が入らないに越した事はないんだろうけど
パパ達が処刑に乱入して来る事を想定してない筈がない。


『俺らが心配しても聞く耳持たねぇ邪々馬がよく言うじゃねぇか。』
「…本当だね。」


でも私とパパ達はやっぱり違うよ。
パパ達は正面突破。
海軍と真っ向から戦う気だ。

私はバレなければ危ない事なんてないし
その危険は全然違う。


大丈夫かな。


エースも勿論助けたい。
でもパパ達が危ないのも嫌だ。


パパ達が来てくれれば、解放のタイミングを合わせてエースはそっちに合流出来る。
マリンフォードから脱出する手立ても乗り込んで来るパパ達なら考えてる筈。


でもその間、誰一人犠牲にならずにそれを成し遂げる事は出来るんだろうか。


『俺かマルコ、タイミングだと思った時には合図で知らせる。…あとはおまえがここだと思った時に決行しろ。』
「そんな大事なこと私に任せて良いの?」
『おまえの度胸と悪知恵を、信じてる。』







それは…責任重大だ。






「ウイは本当に魔法使いみたいだえ。なんでも作れるえ。」
「そんな事ないよ。出来るようになるまでに失敗したのが、今回は役に立った。」


ベガス聖に用意して貰った物を確認しながら、救出作戦に必要な物を準備する。

私の手元を覗き込むその目はもう興味津々って感じで
食べ物以外にも興味あったんだって、失礼ながら少し笑ってしまった。


「ロイがそろそろこっちに着くえ。執行人の采配はロイと比較的小柄そうな男に任せる方向で動いてる。ロイさえ抱き込めれば何とかなりそうだえ。」
「本当にありがとね、何から何まで。…でもロイ良いって言うかな?真面目だし心配性だし。」


ロイがいい人だって分かってる。
こっち側にロイを引き入れられれば、その成功率はまた上がる。


でもロイは海軍だ。
ベガス聖を慕ってて、私に良くしてくれてるのはあるけど。


協力してくれるかな。
最悪私の作戦をあっちに流されたら終わりだ。


結構なリスク。


「大丈夫だえ。ロイは私に逆らえないえ。ウイの為にも動いてくれるえ。」
「だと良いんだけど。」


専用に改造したでんでんむしが出来上がっていく。
無表情なこれが、エースを助けるのに必要不可欠。


親機の電波を傍受して作動してくれれば良いだけだから、電話とか無線みたいな複雑な改造はいらない。


「それにしてもベガス聖って食材以外でも何でも手に入るんだね。こんなに色々…ちょっとびっくり。」
「こういう所は天竜人に生まれて良かったと思ってるえ。」


ふふんと自慢げに胸を張るベガス聖には本当に感謝しかない。


野生のでんでんむしに火薬、チタン、リン、乳糖、無水硫酸まで。
ここまで本格的な材料が揃うとは思わなかった。


後は…


ちらりと目を向ければ、テーブルの上に並べられた薬品達。
シアノアクリレート、エポキシ樹脂、石膏、他にも見たことの無い物まで沢山。


これは私がこれから頑張らなきゃいけないもの。


調べて、実験して
必ず作ってみせる。


少しでも早く
少しでも確実に


エースを捕らえる枷を解き放つ可能性を少しでも上げる為に。
解放されたエースが少しでも安全に逃げられる為に。






「ウイ、ロイが着いたえ。応接室に来れるえ?」
「うん、今行く!」


でんでんむしはオッケー。
試作品もできた。
後はこれを一発打ってみて、それから改良だ。


一段落した作業を切り上げてベガス聖の後ろを着いていく。
私が頑張る以外で乗り越えなきゃいけない関門。


それが今から始まる。













「ウイ?来てたのか。…後で話がある。」
「…うん?久しぶりだね。色々、情報ありがとね。」


私の顔を見るなり驚いたように目を見開いたロイが、続けてベガス聖に形式的な挨拶をしてた。


なんだろう話って。


「ロイ、頼みがあるえ。」
「なんですか改まって。またどこかへお使いですか?」


早速本題を切り出そうとしてるベガス聖の隣で、伺うようにロイの顔を見つめた。


「違うえ。先に執り行われるポートガス・D・エースの処刑、執行人にロイを推薦しておいたえ。」
「それはまたなんで…。ベガス聖は海賊なんかに興味はお持ちじゃないでしょうに。」


何を言い出すんだと言わんばかりのその顔は、続く言葉にその表情をどう変えるんだろう。


「ウイを潜入させるえ。ロイはそのアシストをして欲しいえ。」
「なっ…!?なに考えてるんですか!無茶です!危険です!」


ソファーから立ち上がったロイは相当動揺してるのか、大分重い筈のそれが音を立ててずれた。


やっぱり一筋縄では行かないか。


「私はあの男を奴隷に欲しいえ。だからウイに逃がさせるえ。」
「いけません!見つかったらどうするおつもりですか!ウイが危険な目にあってもいいんですか!」



本当に皆、優しいな。

ロイの前でももう既にあの設定を使って庇ってくれるベガス聖も
ベガス聖が他の天竜人とは違ういい人だって分かってるにしても、その命令に背くロイも。


「ウイ!おまえも分かってるのか!危険だ。成功し得ない。辞退しろ。」
「大丈夫。私やるよ。」


その返事に、普段優しくて穏やかなロイがぎりっと奥歯を噛み締める音が聞こえた。
今まで見たことのないくらい、鋭い視線でベガス聖を睨みつけてる。


「見損ないましたよ、ベガス聖。あなたがそんな人だとは思わなかった。」







心が痛い。



違うの、ロイ。
ベガス聖のせいじゃない。





「どんな崇高な人物と思われてたかは知らないえ。私はこういう人間だえ。欲しいものは絶対に手に入れるえ。」
「それと引き換えにウイを失っても良いと?あなたにとってウイも、大事な…欲しいものの一つではないのですか?」


こんなロイ初めて見た。


飄々と、どこかふざけているかのようにのらりくらりするベガス聖にロイの苛立ちは結構限界らしい。
握りしめた拳が、力を込めすぎて震えてる。



「ウイも失わないえ。ウイも火拳のエースもどっちも手に入れるえ!だからおまえも協力するえ!」
「何を根拠に…!バカげてる!冷静に考えて下さい!冗談や遊びでは済まされないんですよ!」











だめだ。


自分の為に濡れ衣を被って非難される大事な友達を、見ていられない。








「違うのロイ。…私が頼んだ。」
「何を!」


興奮してるのか、荒い口調のままこっちに向き直ったロイの目は怒りのせいか少し充血してた。
















「エースを助けたいのは私。私がベガス聖に頼んだ。…無茶苦茶言ってるって分かってる。」
「なんでそんな、こと…。」


事態が飲み込めないのか、眉を寄せたまま開いた口の塞がらないロイにがばりと頭を下げる。



「お願い、…します!!協力してください。」
「さっきから言ってるだろう?無茶だ。あの処刑は上層部総出で警護に当たる。バレても危険。例え逃がせたとしてもどうせまたすぐに捕まる。」














「絶対に何とかする。出来る出来ないじゃなく、協力してくれるか、してくれないかが聞きたい。」


下げた頭を、上げられなかった。


ここで諦めたら
頭を上げたら


エースは助からない。


こんなことしか出来ないけど、でも諦めたくない。


「ウイ、どうしたんだ一体。…協力は、出来ない。僕は海軍だ。…それに、ウイを危ない目に合わせたくない。」








出た。



“海軍”だから。
一番打ち崩すのが難しい関門。







どうすれば良い。
どうすれば首を縦に振ってくれる。



応接室の大理石の床と、重力に従って流れ落ちる自分の髪。
視界に映るそれはこの状況を打ち破るヒントになんてなってくれない。


それでも、下げた頭を上げる事はできなかった。





「ロイ、おまえの両親は南の海に居るんだったかえ?」
「そうですけど。…それが何か?」


ふいに口を開いたベガス聖。


「断るなら、おまえの親を奴隷に所望するえ。」
「な…!!」


ベガス聖…


「なんでそこまで…!僕が協力したとしても、あの男の処刑は止められない!」
「それでも私はやりたいえ。」


ごめん、本当に。
ありがとう。


「ウイも落ち着くんだ!バレないとでも思ってるのか!?海軍は男ばかりだ!背はどうする!」
「…靴で底上げする。」


いつまでも頭を下げたままの私の肩を掴んで、無理矢理顔を上げさせられれば
視界に映るロイの顔は酷く焦燥していた。


「こんな貧弱な軍人なんて居ない!」
「…タオルで補強する。」


腕とか足とか、お腹周りも。


「女は少ない。長髪の男も。いい加減聞き分け…


何を言っても否定するような言葉ばかり並べるロイに、頭がカッとなった。


ロイの腰に刺さってる短刀を引き抜いて、一纏めに掴んだ髪に刃を押し付ける。


ザシュッという音と引き換えに、頭が軽くなった。








「…ウイ。」
「私は本気だよ。エースを助けられるなら、こんなもの要らない!!」


これで伝わるなら
ロイの気持ちが動くなら


髪なんて要らない。



「お願いします。ロイにも、ベガス聖にも。出来るだけ迷惑かけないように気を付けるから!頑張るから!」














「大切な人なの…!私に力を、貸して下さい…!」



再び下げた頭。
もう視界に髪は映らない。











秒針が時を刻む音だけが聞こえる応接室。


お願い、応えて。









下げすぎた頭のせいで、視界は通常とは逆側から滲み出した。


「…はぁ。全く。」



聞こえて来た盛大なため息に顔を上げれば、頭を手で覆うロイが目を閉じたまま項垂れてる。














「僕が危険だと判断した時には絶対に指示に従うんだ。それが条件。…守れるか?」
「ま…守るよ!!ありがとう!!本当に!!ごめんありがとう大好き!!ロイ本当にありがとう!!」


勢い余って飛び付いたら
ロイがソファーに倒れこんで、握ったままだった短刀がロイに刺さるんじゃないかって冷や冷やした。







舞台は整った。

まだ希望は消えてない。



destruct at reality.