12-39



「罪人は今インペルダウンから護送中だ。今のところ不穏な動きはないが…細心の注意を払うように!」
「「はっ!」」


処刑台の上

ロイに教えてもらった敬礼をビシッと決めながら、出せる限界の低い声を上げた。


マリンフォードの公開処刑場。
昨日の夜も下見で見て回ったけど、改めて見ると凄い。


来賓席のような作りの三脚の椅子に座る
海軍きっての戦力、三大将
数えきれない程の背中に正義の文字を背負った海兵


高さのある処刑台から広場は距離があるけど、そこに犇めく人のざわめきがここまで聞こえてくる。
今は統率が取れてるようだけど、その内この場所は混沌とした戦場に変わる。


ふらつきはしないけど
ただ立っているだけなのに時折眩暈のような感覚に襲われる気がした。


疲れてるのか、いざこの場に立ってみて緊張してるのかは分からない。


今が大事な時なの。
お願いだからもう少しだけ頑張って、私。


ここで倒れたら悔やんでも悔やみきれない。
いつも呆れる程丈夫なんだから、こんな時にか弱さとか出てこないで欲しい。


深く深呼吸をして気持ちを落ち着けながら、来る時を待った。















物音が全くない程静かだった訳じゃない。
ロイとは流石に話せないけど。

でも広場から聞こえてくる音には距離があって


そんな中背後から聞こえて来た金属音と足音。
どんどん近付いてくるその音。














エースだ。













ロイが振り向かずに胸を張って広場側を向いてる以上、私はそれに倣わないといけない。


でもエースが
ずっと会いたかった人が


もう会えないかと思ってた人が近くにいると思うと
近付いて来ると思うと

全身をぞわりと栗立つような感覚が襲う。


ダメだ。
なんかもう既に泣きそうだ。


どんどん近くなる足音は、音だけじゃなく処刑台を伝ってその振動を私に伝えて来て


早くなる鼓動のせいで乱れそうになる息を必死で飲みこんだ。


ざわざわと広場の群衆がこちらに顔を向けて騒ぎ出す。


二人の看守に連れられて来たその人がすぐ脇を通り抜けたその時
一筋の風が私たちの間を通り抜けた。





















エース、今助けるから。


迎えに来たよ。
一緒に帰ろう。







「ここに膝を付け!」


どよめきってこういう事だ。
遠くから無数の声が沸き上がるように空気を揺らす。


広場の人が何を口にしているかなんてどうでも良い。

そのどよめきとは別の、近くで聞こえる看守の声が
エースに膝を付かせて両手を捕らえる枷を処刑台に繋いだ。


もう見飽きる程毎日見てきたそれ。
エースの自由をこんな場所に繋ぎ止める忌々しい鎖。





「あとは頼む。」
「「はっ!」」


同じく返された敬礼。

それを見送って、ロイに教えられた通り前に進み出るとずっと俯いたままだったエースの横顔が視界に入った。








この世の終わりみたいな顔しちゃって。
…似合わないよ?



久しぶりに顔が見れて嬉しかった。

それが例え全身傷だらけで
いつものエースとは似ても似つかないような沈んだ雰囲気だったとしても。


腰に刺した剣を鞘から抜いて、自覚したての恋心を抱く相手の前にそれを振り下ろす。


ひゅっと風を切る音






 



エースの前で交差する2本の刃。


私はこれがエースに振り下ろされるのを、何としてでも止めてみせる。


何が面白いのか
何への歓声なのか


広場から上がる歓喜の声に虫酸が走る。


この人がどんなに優しいか
どんなに素敵な人か

…何も知らない癖に。


止む事のないその声にも
目の前で振り下ろされた刃にも
エースはピクリとも反応しなかった。


ねぇエース、今何考えてる?
すぐ傍に私は居るよ。


落ち着ける為に肺に溜まった息をゆっくり吐き出して
口を動かさないように、周囲に悟られないように


心が折れてしまってる大好きなあなたに言葉を紡ごう。
















「…エースは格好良いよ。」




















何にも反応しなかったエースの肩が僅かに振れた。













信じられない物を見るような目で声の元を辿り上げられた顔は
ちょっと間抜けヅラだったけど


目が合った途端に胸の中で何かが溢れ出す。



「バレちゃうからそのアホヅラやめてよ。」



エースの瞳に灯った光。

全身傷だらけの痣だらけなのは変わってないのに
さっきまでとは全然違う。

これはいつものエースだ。













格好良いって

直接言うって、約束したもんね。





「なんで…」
「助けに来たの。」


空気を読んでくれて助かった。


再び顔を伏せたエースが口元を極力動かさないように言葉を届けてくれる。


「…自分が何やってんのか分かってんのか…!!」
「分かってるよその位。私エースと違ってバカじゃないもん。」


元気付けようとして言った嫌味。
睨み付けて来るかと思ったのに、エースは顔を伏せたまま動かない。








その肩は本当に小刻みに、何かを耐えるように震えてた。



「…なんで来た。…頼んでねぇぞ…!」
「頼まれたって来たくなければ来ないよこんなとこ。」


今度は見るからに肩が振れた。












…素直じゃないな。
嬉しい癖に。


「絶対守るって、約束したでしょ?」
「…だからって…。どうするつもりだ…!どうすんだよ…マジで…。」


今から始まる大救出劇の全貌を話した。


助けに来たとか大層なこと言ってるけど
結局エースにも大分頑張って貰わなきゃいけないから。








「…という事だから。満身創痍のとこ悪いけどよろしくね。」
「…そこは構わねぇけど…。親父達も来てんのか…?」


来てるよ、とそれを伝えれば
エースはギリッと奥歯を噛み締める。


おいおいおい。







…分かるよ?エースの考える事くらい。

自分のせいでパパを、仲間を危険に晒す事が
そんな自分が許せないんでしょう?






でもさ。
…私は良いんかい。

エースさっき私の声聞いた時
私が助けに来たって知った時

そんなリアクションしなかったよね。












とか不満げな事を心の中で思ってみたけど、本当は嬉しい。





私はパパとか、皆とは違うんでしょ?

会えて嬉しいって
助けに来てくれて嬉しいって


そんな気持ちが先に立ったんでしょ?










気持ちを自覚してから初めて感じる、エースのこんな真っ直ぐな想い。
なんだか心の中がこそばゆい。


「絶対助けるから。」


未だにわなわなと肩を震わせているエースを落ち着かせようと声をかけても
その振動は止まらない。


そんな仲間想いのところも
自分に厳しいところも




「…大好きだよ。」









本当、可笑しい。

そのたった一言で
震えていたエースの肩はピタリと止まった。






「………は?」
「やだなぁ。折角勇気振り絞って告白したのに…。」


呆けた顔のエースが伏せていた顔をこっちに向けてしまって
ギロリと睨み付ければ慌てたようにまた顔を伏せた。


「…おまえ、アイツの事…好きなんじゃねぇのかよ。」
「エースが居なくなっちゃうって、死んじゃうかもしれないって思ったら…私の方が死ぬかと思った。」


どんな顔してるのかな。
伏せさせたのは私だけど、今エースがどんな顔でいるのかが気になる。


「ごめんね、甘えてばっかりで。…気付くの遅くて。…でも私、エースの事が好きだよ。」










言えた。






ちゃんと言えた。

好きって、言えた。





「…だから助けに来たの。このままじゃ嫌だって。エースにちゃんと伝えたいって…!エースのこと好きって分かった状態で一緒に…
「遅ぇよ…。」










何も言ってくれないエースが不安で
言い訳みたいに早口で想いを言葉に変えた。


エースはもうこんな私に愛想尽かしちゃったかなって
なんでこんな女好きになったんだろって
無駄な時間過ごしたって後悔させたかもしれない。


離れてる間にエースの心が変わってしまったんじゃないかって、怖くなった。













「…待ちくたびれた。…でも、…嬉しい。」













こんな状況じゃなければ私は泣き崩れてしまってたんじゃないかな。


好きになって
それを伝えて
受け入れて貰える事って


こんなにどっと疲れて
神経磨り減らす事で

嬉しい事なんだ。













「言っとくけど…俺はあの不能野郎みてぇに我慢とかしねぇからな。」
「じゃあ救出祝いの宴の日は、可愛いパンツはいとくね。」


頭を伏せたままこっちを向いたエースの顔は、心なしか少し赤い気がして
私のオッケーカモン!的な発言に目を見開いて驚いてた。






…その為にも、ここを乗り切らなきゃね。


気持ちが伝わるように、好きって気持ちを込めに込めて笑顔を作る。
それなのに一瞬だけ合った目はすぐに逸らされてしまった。


何照れてんだ…今更。
散々抱きついたりキスしようとしたりしてた癖に…。





なんて言うんだろう。


こんなこと考えてる状況じゃない。
それも重々承知。


でも、なんかアレだ。

仕返し出来たみたいで、エースをドキドキさせられたって
照れさせてやったぜ!っていう変な達成感がなんだか楽しい。





次は何て言ったら照れてくれるかな。

きっと、エースは今私が想ってることなら
何を言っても今みたいになるんじゃないかな。


早く全部伝えたい。
聞いて欲しいことがいっぱいある。








「髪…この為に切っちまったのか…?」
「え?」


お互いに口を極力動かせないから、はっきり喋れない。
大声だって出せる訳じゃない。


でもそう言ったエースの声はさっきまで以上に聞き取りにくくて
エースをもじもじさせよう作戦とか考えてたから、うっかり聞き逃すとこだった。


「ごめん…折角綺麗な髪だったのに。」
「そこの海兵さんが助けたいならその位腹括れって言うんだもん。」


ほらそこの人、とでも言うように目線でロイを指す。


ちょっと盛ったけど。
でもきっとあれは、ロイの気持ちを動かすのに一役かってくれたんじゃないかな。


どっちみち切って良かった。
いくら帽子を被るとしても、長い髪はこの作戦にマイナス要素しかない。


「…そういえば誰だ、こいつ。」
「ロイだよ。協力して貰ってる。」


ティーチの時も、ドフラミンゴの時も
ロイの話はエースにしてたから。

エースも名前くらいは覚えてると思う。


「あぁ…あの時の。いつぞやはお世話になりました。本日も…大変世話になってます。」
「やめてくれ…、キミと馴れ合うつもりはない。」


ぴしゃり、と発せられたその声。


私がもし失敗してしまえば処刑を執行するのはロイ。
そりゃそんな人と馴れ合いたくないか…


「でもありがとな。…ウイが迷惑かけた。」
「……全くだ。こんな状況なのにイチャイチャと…!」





ぶつぶつ文句を言うロイにエースがどうしようとでも言いたげな視線を寄越す。







なんか和むな。
こんなやりとりが、日常って感じで余計な力が抜けていく気がする。


破廉恥だのはしたないだの
未だにぶつぶつ言ってるロイは口を動かさずに話すのが上手だ。


さっきの可愛いパンツの下りか。
確かにはしたないし破廉恥だった。

ついうっかり。




destruct at reality.