12-40
今が昼か夜かも分かんねぇ空間で死を待つ時間。
精神的に堪えた自覚はあった。
もう良いから早く解放されたい
楽になりたい
でも死にたくない
ウイに会いたい
イカれてきた思考回路のまま、自棄になりかけてた。
たまにふと自分をまともな思考に引き戻すのは
親父達が助けに来ちまうかもしれねぇこと。
親父なら
親父達なら、俺は助かるかもしれねぇ
でもここは海軍本部。
いくら親父でも、必ず犠牲は伴う。
俺にその犠牲を払うだけの価値があるのか
我儘、思い上がり
それで招いた結果。
それを救って貰うだけの価値が俺にはあるのか。
俺はその犠牲を償い切れるのか。
希望、後悔、期待、責任
結局それはまた精神を蝕む。
俺の人生は本当に終わっちまうのか
首切り落とされるってのは
痛ぇのか、苦しいのか
死んだらどうなる
もう何から考えたら良いのか
いっそ考えることを放棄して良いのか
分からなかった。
迫り来る死って恐怖を拒みたくても、それから逃れる術はない。
促されるまま進んだ処刑台への道。
その階段を一段上がるごとに
これまでの人生が頭の中を駆け巡った。
物心着いた頃
思い出せる最初の記憶はなんだ?
ジジィだ。
ルフィのジジィに出生の秘密を聞かされた。
聞かされた時はまだ、それがどれだけデカくてヤバい事かなんて分からなかった。
世界を知るにつれて
自分がどれだけ世間に忌み嫌われているかを自覚した。
恐怖を覚えた。
バレたら殺される。
バレたらまずい。
世界中が敵に見えた。
厄介払いとでもいうように預けられた山賊の元で
サボに出会った。
海賊になる。
何にも囚われねぇ、縛られねぇ自由。
海賊になればそれが手に入る。
ずっと見えない闇に追われる切迫感
それが海賊になるという夢が出来たお陰で
サボに出会えたお陰で
逃げる人生から切り開く人生に変わった気がした。
懐かしい。
あれは何歳の頃だっただろう。
一人だったけど
父親の事は言えなかったけど
仲間が出来て
夢が出来た。
ただ訳もなく生き延びてやるという意地だけでしがみついて来た人生が
変わった。
そしてルフィに出会った。
アイツはあの頃から…どっかしらおかしかった。
同じく山賊の元に預けられたアイツは
俺の後をちょこまかと着いてきた。
年下で
弱くて
すぐ泣いて
サボと海に出るために貯めていた海賊貯金。
それを邪魔される訳にも知られる訳にもいかなかった。
本当に心から邪魔だと思ってた。
でもルフィはしつこく俺に付きまとって
ついには山奥にある海賊貯金の隠し場所にまで着いて来れる程になってた。
うざい。
しつこい。
本気であの頃はルフィが鬱陶しくて仕方なかった。
そして遂に、宝を盗んで逃げる途中
俺らに付きまとっていたルフィが海賊に捕まった。
足手まとい。
泣き虫で弱虫なアイツは脅されりゃ簡単に宝の在処を吐くだろ。
厄介払い出来たのは良いものの海賊貯金が奪われるのは避けなければ。
サボと一緒に急いでそれを別の場所に移した。
無事に安全な場所に宝を移し終えて
ほっと一息着くと
邪魔でしかなかったアイツの事が少し気になった。
待てど暮らせど
元、海賊貯金の隠し場所にヤツラは現れない。
気になって覗きに行けば
ルフィは涙と鼻水を垂れ流しながらも
原型が分からねぇくらいボコボコにされながらも
口を割らずに一方的な暴力に耐え続けていた。
なんでこいつ…口を割らねぇんだ
言っちまえば良いのに
弱ぇ癖に
泣き虫の癖に
助かる方法をこいつは知ってるのに
駆け出したのは、一緒にそれを見てたサボとほぼ同時だった
あの時はまだ
それが何か理解できてなかった
衝動的に
こいつを見捨てちゃいけねぇって
本能が俺に訴えかけた。
なんとかルフィを助け出して
なんで宝の在処を吐かなかったかを聞けば、ルフィは俺しか居ないと
俺が居なくなれば他には誰も居ないから、だから秘密は話せなかったと
ルフィはそう言った。
バカじゃねぇか
こいつ
傷だらけの痣だらけで
見るからに痛々しいルフィ
自分だってこんな目にあってあれの在処を話さずにいれるか微妙だ
それなのに…
あぁ、きっとあの時だ
初めて人に必要とされる気持ちを知ったのは
理屈じゃない何か
嘘のない真っ直ぐさ
それは言い方を変えれば、馬鹿
そんなルフィに必要とされることに、自分の存在意義を感じた
サボに感じるのともまた違う感情
あれから俺ら3人は、盗んだ酒で杯を交わした
兄弟杯
あの日俺らは兄弟になった
家族が…出来た
修行も海賊貯金も
それからは3人で頑張った
いつか3人で海に出る
俺だけじゃなくサボもルフィも船長になると言って聞かねぇから
海に出る目標を目指しながらも、具体的には曖昧なまま
そして
サボが死んだ
貴族の息子だったらしいサボは家族に連れ戻されて
家から逃れようとしたのか、一人船で沖へ漕ぎ出した所を天竜人に殺された
遺された俺ら宛の手紙で、全てを知った
俺と違って優しい兄貴だったサボ
ルフィはそれはそれはわんわん泣いた
俺も
悲しかった
そうか
死ねばサボに会えんのか
アイツ何て言うかな
違う
死ねない
あれから成長したとは言え
まだまだ世話が妬けるルフィを残して
俺は死ねない
でも、仲間達の犠牲の上で生き延びてまで
俺はそれを望んで良いんだろうか
違う
分かってる
本当は知ってる
俺に仲間が出来たように
ルフィにも、支えてくれる立派な仲間が出来た
俺が居なくてもルフィは大丈夫
じゃあ俺が生きる意味って
価値って
なんかあんのか?
残り僅かになった段差
一段上る毎に、近付いてくる何かは恐怖を煽る
そういえばビビりながら階段を登った事が前にもあった
あの時は行き先も前も見えなくても、こんなに怖くはなかった
あぁ、ウイが居たからか
目隠しされて階段をのぼらされながらも
あの時はすぐ傍にウイが居た
初めて会った時、ただ可愛いと思った
面白ぇと思った
なんでか
顔が見たくなった
声が聞きたくなった
冒険の話を目を輝かせて聞くウイに
もっと俺の事を知って欲しいと思った
喜ぶから、楽しそうに聞くから
もっとそんな顔が見たかった
ただ傍に居たかった
同じ空間に
好きだと自覚して
ウイが他の男を好きだと分かったのはほぼ同時
叶わないなら諦めようと思った
でもアイツは俺と同じで
誰にも言えない秘密を抱えてて
自分の父親を世界で一番恨んでて
愛を与えてくれた唯一の肉親、母親を
自分のせいで亡くしてて
弱っちい癖に強くて
笑顔が誰よりも似合って
何かに怯えながらもそれを必死で隠してて
強くあろうと自分を誤魔化して
叶わなくても良い
こいつの支えになりたい
それは俺にしか出来ねぇ
同じ痛みが俺には解る
それを分かちあってくれる嬉しさも、心強さも
頼って良いって安心感も
不安を感じるタイミングも、その引き金も
俺にしか解ってやれねぇ
俺はウイが居てくれるってだけで嬉しかった
一人じゃねぇって、そう思えた
ウイにとっても、俺がそんな存在であれば良いと思ってた
自分にしか出来ねぇこと
ウイにとって、俺の代わりは居ない
俺はルフィが、ウイが居たから自分で居られた
強く在れた
頑張れた
そして知らない内に
俺はそれに依存してた
守られてた
救われてた
走馬灯とは少し違う
ゆっくり人生を振り返れた
もう良いか。
分からない先の事を考えるのも疲れた
どっち道、どう転んでも
最善の未来なんて訪れない
ウイは来ない
親父達も流石に無理だって諦めたかもしれねぇ
もう良い
サボが待ってる
膝を付かされた処刑台の上で
振り下ろされた刃が目の前で十字に交わる
これが俺の首を切り落とすのか
太陽を反射して鈍い光を放つそれに
不思議と何も感じなかった
もうどうでも良かった
「エースは格好良いよ。」
一番聞きたかった声
直接言えといつか約束したその言葉
有り得ないと思いながらも
その声の出所に目を向けた
幻覚でも良いから
死ぬ前に一目、ウイの顔が見たかった
髪が短い
なんで海軍の軍服を着てる
なんでこんなとこに居る
あぁそうか
これは幻覚だった
居る筈ない
有り得ない
この世には本当に神様が居て
流石に俺を哀れんでくれて
せめて安らかに逝けるように
夢を見させてくれてる
でもその夢は
瞬きしても
凝視しても醒めない
「バレちゃうからそのアホヅラやめてよ。」
喋った
ちょっと待て
これはどういうことだ
「なんで…。」
「助けに来たの。」
処刑人に扮したウイ
口を動かさずに声を発してる所を見ると、これはバレたらまずい事なんだろう
夢にしては現実的
リアル
夢じゃねぇのか?
幻覚じゃねぇのか?
現実なんだとしたら…
「…自分が何やってんのか分かってんのか…!!」
「分かってるよその位。私エースと違ってバカじゃないもん。」
本物だ
今ここに居るのは
ウイだ
「…なんで来た。…頼んでねぇぞ…!」
散々来て欲しいと思っておいて、よくンな事言えたと思う
ずっと心の中じゃみっともなくすがってた癖に
会いたくて、助けて欲しくて仕方なかった癖に
口でそう言いつつも、視界が滲む程
嬉しさが込み上げて来てる癖に
「頼まれたって来たくなければ来ないよこんなとこ。」
その言葉に、虚勢を張ろうと必死だった自分の肩があからさまに振れた
“こんなとこ”
“こんなとこ”だ、ここは
来たい場所じゃねぇ
来れる場所じゃねぇ
ここに来て良いことなんて、何もねぇ
「絶対守るって、約束したでしょ?」
それはサッチの仇を討つと親父の船を飛び出したあの日、ウイが俺に言った言葉
あの時は実際に守って貰うつもりなんてなかった
ただウイのその気持ちが嬉しかった
ウイに守られる事なんて有り得ねぇ
そう思ってたのに…
「…だからって…。どうするつもりだ…!どうすんだよ…マジで…。」
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