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ウイの口から語られたその全貌。




こいつ本気だ。
本気で俺をここから救い出そうとしてやがる。

ただ勢いに任せて飛び出して来た訳じゃねぇ。


生き延びたいと思う気持ちもあった。
でもそれは非現実的過ぎて
それがどこかで願う気持ちを否定してた。

ウイが言ってんのは俺をここから解放する現実的な手立て。
それを聞いて初めて、生き延びるということにリアリティを感じる。

簡単な事じゃねぇ
上手くいかねぇ可能性だって多大にある

でもそれが成功すれば俺は、まだ生きられる。



「…という事だから。満身創痍のとこ悪いけどよろしくね。」
「…そこは構わねぇけど…。親父達も来てんのか…?」



ウイの役目は俺をこの海籠石の手枷から解き放つとこまで。
その先、このマリンフォードを脱出する為には…



「来てるよ。」













確かにこれが外れても
俺一人じゃここを逃げ延びれねぇ。


一人でも厄介すぎる海軍大将が三人。
他の連中も、きっと親父が出てくる事を見越して手ぐすね引いて待ってやがる。


そんな中に
本当に親父達が…




ぎりり、と奥歯を噛み締めた。



本当に俺は、とんでもねぇ事をしちまった。
親父達が来てる。



本当に来てくれたという嬉しさと

今からでも遅くはない
来ないで欲しい、捨て置いて欲しい

自分のせいで犠牲になる大事な家族の姿を見たくねぇ想いが


どろどろに混ざりあって収拾がつかない。






「絶対助けるから。」





優しい声。


不安を取り除いてくれようとする
安心を与えてくれようとする

聞きなれた
一番聞きたかった声。



それでも不甲斐ない自分への怒りは収まらない。

俺はなんて事をしちまったんだ。
なんであの時、親父の言い付けを守らなかった。










「…大好きだよ。」

















…え?











想定すら出来てなかった
思いもよらない言葉が鼓膜を揺らす。


聞き…違いか?


こいつ今、なんつった?







「………は?」
「やだなぁ。折角勇気振り絞って告白したのに…。」




確かめる為に上げてしまった顔。

それは世にも恐ろしいウイの睨みで一蹴された。






「…おまえ、アイツの事…好きなんじゃねぇのかよ。」


そうだ。
ウイが好きなのはあの愛想悪ぃくそ医者野郎。

何度も想いを伝えて、あいつを理由に断られ続けてきた。


「エースが居なくなっちゃうって、死んじゃうかもしれないって思ったら…私の方が死ぬかと思った。」


これはやっぱり幻覚で幻聴なんだろうか。

流石に出来すぎてる。
こんな未来は、想像ですらできなかった。


「ごめんね、甘えてばっかりで。…気付くの遅くて。…でも私、エースの事が好きだよ。」



“エースの事が好きだよ”




“好きだよ”

“好きだよ”


ウイが、俺を好き


好き







好き


そうなって欲しいといつも思ってた。
そう期待しながらも
いつかはこっち向いてくれんじゃねぇかって期待しながらも

どこかで無理なんだろうなと諦めてる気持ちもあって。


でも想い会えなくても
気持ちが通じ合わなくても

それでも好きなんだから仕方ねぇ。


ずっとそう思ってた。



「…だから助けに来たの。このままじゃ嫌だって。エースにちゃんと伝えたいって…!エースのこと好きって分かった状態で一緒に…
「遅ぇよ…。」


遅くない。
寧ろ早かった。

こんなこと言ってくれる日が来るなんて
こんな劇的にドラマチックな告白をぶちかまされるなんて

マジで夢にも思わなかった。


「…待ちくたびれた。…でも、…嬉しい。」


俺がウイを好きなのは分かってる筈なのに。
告白っつっても、出来レース。

返事なんて分かってんだろうに
それでもウイの顔はほっとしたように綻んだ。


「言っとくけど…俺はあの不能野郎みてぇに我慢とかしねぇからな。」
「じゃあ救出祝いの宴の日は、可愛いパンツはいとくね。」







…言うじゃねぇか。

俺に抱かれたかもしれねぇって大騒ぎしたあの日
とんでもなく慌てふためいて顔真っ赤にしてた癖に。


今回も照れるもんだと思ってた。
ウイにこんなこと言って、挑むところだ的な返事が返ってきた事なんて一度もねぇから。




ヤバい。
俺が照れる。


どうしよう
嬉しい。



やっぱウイはとんでもねぇ女だ。



いつだってこれ以上ねぇって位好きなのに
簡単にまだ上があった事を俺に突き付けてくる。





「髪…この為に切っちまったのか…?」
「え?」


照れてるのが伝わるのがなんか気恥ずかしくて
そうでなくてもずっと気になってた事を口にした。


ウイの髪
細くて柔らかくて
良い匂いのするその長い髪。


髪は女の命とか聞いたことある。
ウイにとって髪の優先順位がどれ程上位にいたかは分からねぇ。

でも伸ばしてたくらいだ。
大切にしてた筈。

俺もあの髪が好きだった。
短いのも似合うけど。


個人的にはこっちのが実は好きかもとか思わなくもないけど。


「ごめん…折角綺麗な髪だったのに。」
「そこの海兵さんが助けたいならその位腹括れって言うんだもん。」


忘れてた。
この処刑台の上にはもう一人居たんだった。

ウイの視線の先を辿って、伏せた顔のまま目線だけを動かしてその男を視界に捉えた。


「…そういえば誰だ、こいつ。」
「ロイだよ。協力して貰ってる。」


ロイ。
あぁ、こいつが…。


「あぁ…あの時の。いつぞやはお世話になりました。本日も…大変世話になってます。」
「やめてくれ…、キミと馴れ合うつもりはない。」


こっちに目線の一つもくれず
胸を張って俺の前で交差する剣の一端を担っているその男。


どんなヤツかは知らねぇけど、きっと良いヤツ。
口ではそう言ってても、こいつだって相当のリスクを背負ってこうしてくれてる。


「でもありがとな。…ウイが迷惑かけた。」


最後のはなんか
言ってみたかった。


“俺の女がご迷惑おかけしました”的なやつ。


俺も大概浮かれてる
そんな状況じゃねぇと思いつつも。

ウイが来てくれて
生きる為の道筋を照らしてくれて


こんな事口走るぐれぇだ。

参った。
気を引き締めねぇと。


「……全くだ。こんな状況なのにイチャイチャと…!」












なんだ、そんなお堅いヤツじゃねぇのか。


いや言ってる事はお堅い。
でもごもっとも。


こんな生きるか死ぬかの場面で話す事じゃねぇ。


どうしよう。


ちらりとウイの方を盗み見れば、その顔は微笑ましい物でも見るように穏やかで


ドキリと胸が跳ねた。


ウイのこんな顔を初めて見た気がした。






「そういう話は二人きりの時にしてくれ。…これだから最近の若者は…!」
「…だってよ?エース。ほらちゃんと謝って。」
「は?俺か?今のはウイだろ。」


これ、端から見たらさぞ面白いんだろうな。
俯いて処刑を待つ罪人と
これから処刑を執行しようとしてる人の会話じゃない。


言ってる事はこんななのに
3人が3人共真面目な顔で役に成りきってるとこが更に可笑しい。

こんな状況じゃなければ爆笑してた。





結局会話はロイも混ざったまま進んで




でもこれから始まる事を
私たちは忘れてる訳じゃない。


解った上で、その小さな幸せを噛み締めてた。




「…来やがった。」
















エースが表情を険しく変えてそう呟く。
ほぼ同じタイミングで、ロイも口をつぐんで背筋を伸ばした。


私には何が何だかさっぱり分からなかったけど
これは二人に倣った方が良いんだろう。


そう思って握る剣に力を込める。


交わる刃のすぐ傍で伏せられているその顔は
ちょっと前までとは大違い。


後方に意識を集中させながら何かを探ってる。


生きることを諦めてない顔。
目の前のことに一生懸命な、いつものエース。




何も返せてないって
私もしてあげれてないって

甘えっぱなしだった自分にあんなに後悔したのに。


癖って中々抜けない。


強い意志の籠ったこの目を見てると
エースが居るから大丈夫って勝手に安心してる自分が居る。








エースは凄いね。
太陽みたい。






居てくれるだけで、こんなに安心できて
暖かい。







ねぇ、大好きだよ。








真剣モードに切り替わったエースは私の熱い視線になんて気付きもしなくて
でもそんな真剣な顔も格好良いとか思える。


なんで本当に今まで気付かなかったんだろ。


初めて見た表情じゃない筈なのにね。

















戦いには素人の私でも
背後から近付いてくる足音の存在を認識出来た。



それに少し遅れて、広場のざわめきか少しずつ小さくなって

やがてしんとした静けさが一帯を支配する。



















…始まる。




“海軍本部”のある島。
その島の名は“マリンフォード”。

主に海兵達の家族が暮らす大きな町は、現在ひと気もなく静まり返っていた。

住人達には現在、避難勧告が出ている。

それと対比するように
処刑台のある広場に集う無数の蠢き。

世界各国から召集された、名のある海兵達
総勢約10万人の精鋭がにじり寄る決戦の時を待っていた。


マリンフォードは三日月型の島。
その湾頭及び島全体を取り囲む50隻の軍艦。

湾岸に立ち並ぶ無数の銃砲。

軍隊の最前列に構える、海軍公認の海賊“王下七武海”。

抉れた湾の丁度中央前にそびえる処刑台。
そこでは事件の中心人物“白ひげ海賊団”二番隊隊長
ポートガス・D・エースが三時間後に控える運命の時を待つ。


その眼下で処刑台を堅く守るのが
海軍本部最高戦力、3人の“海軍大将”。

青雉、クザン。
黄猿、ボルサリーノ。
そして赤犬、サカズキ。


今ここに、世界の海の上で最も大きな正義の力が
エース奪還を阻止すべく“白ひげ海賊団”を待ち構える。



普段この町で穏やかに暮らす人々の避難先、シャボンディ諸島。
ここで人々は映像でんでん虫が映し出すマリンフォードの状況をモニターを通して見守っていた。

世界各所より集まった記者やカメラマンもまた、世界が注目するこの事件を一早く伝えようと身構える。


東の海
西の海
南の海
北の海

そしてグランドライン。
世界中がその動向を落ち着かぬ気持ちでただ見つめる。

張り詰めた緊張とは裏腹に、白ひげの目撃情報は皆無。

世界を揺るがすこの事件も
あと三時間が過ぎれば全てが決する。







シャボンディ諸島の一角。
映像でんでん虫が映し出すモニターのある広場には
避難民でも記者でもない男の姿があった。

連れの者達が他の民衆と同じく騒ぎたつのを横目で眺めつつ
モニターに背を向け広場の片隅の石堀に腰を降ろすその男の肩には、刀身の長い刀。


男は天を仰ぐ。
その視界にはヤルキマングローブの木々に覆われた隙間から覗く、何処までも果てのない青。


海軍や民衆とは違った種類の関心。
男は処刑台で顔を伏せる者の命の行く末にとある想いを抱いていた。

背を向けたモニターに映し出される処刑台の映像。




そこに


愛する者の姿があることを、男は知らない。





destruct at reality.