12-43



ザパァァアンッ!!!


「!!!?」
「うわァアアアア!!」
「モビーディック号が来たァーーー!!」


大飛沫を上げて姿を現した白ひげ海賊団の本艦。



「次いで3隻の白ひげ海賊団の船!!」
「湾内に侵入されました!!!14人の隊長達もいます!!!」



海面から顔を出すと共に弾けるシャボン。
穏やかだった湾内は、突如海中から現れた4隻の船にその水面を乱される。

立ち上がる水飛沫が太陽に反射して輝いた。



「“白ひげ”……!!」
「グラララララ…、何十年ぶりだ?センゴク。」



現れた艦隊に、センゴクは険しい表情でその船長の名を呟く。


広場はまさに混乱状態。


現れるとは思っていたものの、世界最強の海賊。
それが今目前に現れる。


それは何よりの威嚇。
脅威。


海兵達はその事実に身を震わせた。







モビーディック号の船首部に続く階段が
カツンカツンと靴の音を響かせる。


最前線。
敵に最も近い場所。


通常の戦ならば、大将は最も奥地にその居を置く。


しかし今、この男が最前線に構えることに
意味はある。



最奥まで攻め込まなくとも戦線に参加する

暗にそう言うかのようなこの布陣。



大艦隊を引き連れて、海軍最高戦力に挑む男が
今船首部に姿を現した。



「俺の愛する息子は無事なんだろうな……!!」



いくらその体が大きかろうと
隆々とした筋肉を纏う屈強な戦士だとしても


それは所詮一人の人間。


しかしその一人の人間の登場は
マリンフォードの公開処刑場に有り得ない程の威圧をもたらした。


「グラララララ……!ちょっと待ってな……エース!!!」


好戦的な目で敵を捉え、ニヤリと口端を吊り上げる白ひげ。



待っていろ、今助ける。



そう伝えられた囚われの身であるエースは
助けに来ると聞いていて尚、その姿を目の当たりにし

叫んだ。



「オヤジィっ!!!」



喉が裂けるのではないかと言う程の叫声。
耳をつんざくような心からの叫び。


分かっていたとしても、それは止められなかった。


その叫びは群衆の喚声を切り裂き
白ひげの元にそれを届けた。




「……こうも急接近されるとは…。」


本当だよね。
私もびっくり


来るって言ってた
どんな方法で乗り込んで来るかまではパパは教えてくれなかったけど


でもパパ達なら本当に来るんだろうなって
実際にマリンフォードの厳重な警備を目の当たりにしても
そう思ってた

パパだから。


こんな敵陣の真っ只中
謂わば四方を敵に囲まれた状態


それなのにパパはいつも通り、あのグララララって豪快な笑い声を響かせてた。


制止を振り切ってモビーディック号を飛び出して来てから、暫くぶりにその姿を見る。


私はパパの本気も
海軍の総戦力も詳しくは分からない


でも
頼もしく見えた


その逞しい胸が
堂々と立つ姿が


ふと、目が合った気がした。








一瞬だけ周りの雑踏が止んで
気配すら消えて


その空間に私とパパの二人きりになったような、そんな錯覚に襲われる。

パパはこっちを見たまま何も言わない。

寧ろ本当に目が合ってるのかも分からない
どれが私か分からないかもしれない

いくら敵陣に飛び込んで来ようと
それだけの距離が私達の間にはあった。


パパのシンボルとも言える白い三日月型のひげに隠された口元が
笑った気がした



それは挑戦的な笑みとも違う
不敵な感じでもない



仕方ねぇ邪々馬だ…
本当にやりやがったのか



そんな事思ってるんじゃないかなっていうような
どこか呆れたような、温かい穏やかな顔

私にはそう見えた








心配かけてごめんね
でも、絶対にエースを連れて帰ろうね



そんなこと思ってたら、自然と口元が笑ってた


パパとお揃い

きっとおんなじ顔してた






あとは…



「…っ…!!!」



この思い詰めた顔で落ち込んでる私の彼が立ち直ってくれなければ始まらない。

どんなに周りが救おうとしても
エースが無気力じゃどうしようもない。



ショックなのも、押し潰されそうなのも、混乱してるのも、疲れてるのも、嬉しいのも、分かるよ。

解るから…




お願いだから助かる事を諦めないで。

くじけてしまわないで。




後でいくらでも聞いて上げる。
抱きしめてあげる。
一緒に泣いてあげる。




だから今だけ
もう少しだけ頑張って。



叶うなら

その震える肩を抱きしめてあげたかった。





親父が力を込め
握りしめた拳で


ドオォォォオオオン!!!


大気を砕く。



ミシミシと音を立てて亀裂の入った空間に反響するように
周囲が歪み、海面は異様な盛り上がりを見せた。


グラグラの実。
地震人間。



それが親父。



海兵達はその超常現象に、恐れ慌てふためく。



親父は本当に、俺を奪い返すつもりだ。

こんな俺を
こんなところまで

助けに来てくれた…



「親父…みんな……俺はみんなの忠告を無視して飛び出して来たのに。」


今海軍に捕まってるのは
親父の息子であって、そうじゃねぇ。


親の言うことも聞けねぇ俺は
都合の良い時だけ親父の息子じゃいられねぇ…!!


「何で見捨ててくれなかったんだよォ!!!俺の身勝手で!こうなっちまったのに…!!!」


見捨ててくれたら良かった。

ゴールド・ロジャーの血を引くから
勝手に飛び出したから


それで死ねたら
このまま死ねれば…


こんな気持ち味わわずに済んだ…!


「いや…俺は行けと言った筈だぜ、息子よ。」
「!!?嘘つけ…!!バカ言ってんじゃねェよ!!!あんたがあの時止めたのに俺は…」


俺は…!

俺は自分に傲っていた。
やって出来ねぇことなんてねぇと、本気で思ってた。


「俺は行けと言った__そうだろマルコ。」
「ああ、俺も聞いてたよい!とんだ苦労かけちまったなァエース!!」


…嘘だ!!


「この海じゃ誰でも知ってる筈だ。俺達の仲間に手を出せば!一体どうなるかって事くらいなァ!!!」
「おまえを傷つけた奴ァ誰一人生かしちゃおかねェぞエース!!!」
「待ってろ!!!今助けるぞオオオオ!!!」


嘘だ…!!
なんでそんな嘘…!


今度はこっちのターンだとでも言うように
盛り上がりを見せる湾内。


叱られて当然。
見放されて当然。


自業自得でこうなったのに…!


全部俺の責任なのに……!!!














こんなに痛ぇ叱り方あるんだなって思った。



優しすぎる嘘が、痛くて


助けると張り上げられたその声は
胸の奥から熱い物を込み上げさせた。






それは
世界中が敵だと感じた恐怖を掻き消した。

親父だけで良い
仲間達だけで良い。


数がどんなに劣ろうと
世界中の大多数が俺が消える事を望んでいても



これがあればそれで良いと思えた。



嬉しいのに



嬉しいのに…!!







そう思えば思うほど、仲間を危険に晒しているこの状況が歯痒くて
戻かしくて


辛くて
痛くて



悔しかった。



欲しかった物が
失いたくなかった物が

そこにある事に困惑した。



大切な物が、天秤にかけられる。
反対側で秤を傾かせるのは、俺の命。


ずっと沈んだままだったそれは
親父一人がそこに乗っただけで簡単にそのバランスを覆す。


どっちが重いかなんてもう判ってンのに…
それは明白なのに


それでも増えて行く反対側の命の重みを、何も出来ずに見ているだけ。
ぎしぎしと天秤が伝えるそれをただ、感じている事しか出来ない。


やめてくれ


俺はそんなに重くない。
俺の命はおまえらが命を懸ける程の価値はない。


低い場所で憧れるように眺めていた生存ライン。


それはそこに届きそうな程押し上げられると
引き換えに沈めてしまった存在の重みに耐えきれないと暴れだす。


どうして俺なんかの為に…


同じ空気の震えでも
罪悪感や責任感に押し潰されそうでも


遠く離れた場所で空気を震わせる振動は
声達は

冷えた心を温めた。








正面と、下しか見れなかった。


親父達とは比べ物にならない程近くにある存在
一番否定されたくない存在

俺の父親を知らねぇ時は、こんなとこまで助けに来てくれた。
大好きと、ずっと欲しかった言葉をくれた。


その顔だけは
見れなかった。


こんなに仲間達が変わらねぇ気持ちを言葉で、態度で示してくれても


それを確かめる勇気が持てなかった。




「とんでもねェモン呼び寄せたなァ…。」
「何を今更言うちょるんじゃぁ。」
「…気味が悪いねェ〜〜…。」


白ひげ海賊団の喚声が広場を埋め尽くす中、処刑台の真ん前に陣取る三人の大将達はその士気の高さに動揺も恐れも見せず

ただ淡々と
冷静に
日常となんら変わらないかのように

眼下の状況に感想を述べる。


そして丁度それと時を同じくして
マリンフォードを襲う低い地響き。


「!!?……!!!」
「何だこの地鳴りは……!!」


ズズズズズズズ


まるで地底を何かが蠢くような
心臓に響く重低音。


それは聴覚だけではなく
この場に集う人々に振動としてそれを体感させた。







「そら来たぞい…さっきあいつが仕掛けた“海震”が…“津波”に変わってやって来る…!!」


ルフィの祖父、エースにとってもそれと呼べる
海軍中将ガープ。


血縁はないとは言え、孫。
ここはその孫の処刑の場。


孫の命を救いに来た、職業柄対極に位置する白ひげが引き起こすこの超常現象を
ガープは何を思いその目に写すのか。


険しい表情で紡がれたその言葉を具現化するように
マリンフォードの全てを飲み込もうと言わんばかりの海の壁がそこに迫る。


「うわぁアアアっ!!」
「見ろ津波だ!!でかい!!」


人がどう足掻いても勝てぬものの一つ


“天災”


それを自在に操る男“白ひげ”


海兵達はその脅威におののき
それは生命を脅かす物として彼らの瞳に映った。


「戦力で上回ろうが勝ちとタカをくくるなよ!!最期を迎えるのは我々かも知れんのだ……!!あの男は…!!」


襲い来る津波
同じくそれを前にして、センゴクは動じない。


しかし彼の発する言葉は仲間達への警告。


「世界を滅ぼす力を持っているんだ!!!」







正義と
大切な者へ寄せる…家族愛のぶつかり合い。


己の掲げる大義と意地、信念をかけた戦いが今始まる。








攻め入るは__“白ひげ”率いる新世界47隻の海賊艦隊。


迎え撃つは__政府の二大勢力“海軍本部”“王下七武海”


誰が勝ち
誰が敗けても



時代が変わる。


1172


destruct at reality.