12-44
「なんて力だ…!!正に伝説の怪物!!!フッフッフッ…!!」
己に襲い来る脅威。
それを前にして高らかに笑う天夜叉、ドフラミンゴ。
海賊なれど七武海。
常日頃の七武海としての恩恵。
それと引き換えに収集されたその力の及ぶところはいかに。
「グラララララ…!!」
さぁ行け。
海水の楯であり矛であるそれを従え笑う白ひげ。
それを迎え撃つのは氷を操る三大将の一人、青雉クザン。
設えられた3つの椅子。
処刑台を守るその場所から姿を消したその男は
襲い来るその海水を
人の購えぬ脅威を撃ち留める。
「氷河時代!」
双手に別れ、マリンフォードを目掛けいざそれを飲み込まんと迫り来る海の怒りは
パキリと音を立てその勢いを無くす。
「青キジィ……若僧が…!!!」
先程まで津波であった物は、まるで巨大なオブジェかのように凍りついていた。
大津波が巻き起こるのも
それが氷と化すのも
「うわ…」
「__止まった…!!」
通常考えられぬような出来事。
常識では計り知れぬ事が一瞬で二つも起こるこの処刑場。
選りすぐりの海兵とは言え
次元の違う戦いに氷の壁をただ呆然と見上げる者も少なくはない。
ヒエヒエの実の能力を自在に操る氷結人間。
それが青雉、クザン。
白ひげの特攻の一撃を無効化した男は、そのまま反撃の一手を繰り出す。
「両棘矛!!!」
海賊艦隊の親玉目掛けクザンが飛ばした氷の刃。
上空からの攻撃。
結晶の生成速度も、それが標的に向かっていくスピードも
まるで一瞬。
しかしそれが白ひげの体を貫くことはなかった。
氷が生み出された影響でほんの僅かに下がった気温。
それに反応するように
白ひげが撃ち出した拳は再び大気に亀裂を走らせる。
その亀裂は氷の刃のみならず、クザンの氷の体にまで及び
それを粉々に砕いた。
「クザンさんっ!!」
「…大将が…一瞬で!?」
海兵達に動揺が走る。
最高戦力の一角が呆気なく崩れ去る場景は、まさに衝撃。
しかし青雉もこれしきの事では終わらない。
砕けた氷の欠片が海面に触れた瞬間、それまで海であったものは氷河へとその姿を変えた。
悪魔の実の弱点。
それは海。
超人的な力を得る事と引き換えに
能力者は海に嫌われる。
しかしそれに触れる以前に
その大量過ぎる質量をも氷へと化してしまう青雉。
悪魔の実のペナルティが無に等しい彼は、さらにその能力であるロギアの特性をいかんなく発揮し
氷の欠片を集結させてはその中から蘇る。
「湾内も全て氷に!!」
「船の動きを封じられた!!」
ここは俺のテリトリー。
そう言わんばかりのクザンは、その氷の海に手を付き、海軍側の最前線に
再び人の体を型どって現れた。
「砲撃ィイ!!!」
「モビーディックを破壊しろォ!!!」
足止めを食らった4隻の白ひげの船。
動かぬ巨大な的に、砲撃が集中する。
モビーディック号。
数々の戦線を潜り抜け高みに上り詰めた船。
しかし真に恐ろしいのは
その船の乗組員達。
母船の動きを封じられ
袋叩きと言わんばかりの集中砲火を浴びせられようと
ここで終わってやるような男達ではない。
「さァ行くぞ。」
「いい足場が出来た。」
「俺達の力を見せてやれ!!!」
ウオォオオオオ!!
雄叫びと共に
砲撃を受ける艦隊から人の群れが溢れ出す。
「隊長達も出てきたぞ!!!砲撃を休めるなァ!!!!」
氷漬けの湾内で、双方の戦力は衝突した。
銃声
刃の交わる音
叫び
破壊音
断末魔
広場に乗り込もうと攻め入る海賊達の猛攻は凄まじく。
前線は徐々に押し退けられる。
しかし
海軍とてそう易々やられる訳もなく。
いつの間にか、三大将が腰かけていた椅子は
その内の二脚が空席となっていた。
太陽とは違う、黄色い閃光が辺りを照らす。
「とうとう…始まったな……!!」
処刑台の上から戦況を見渡すセンゴク。
この現場の最高責任者でもある男の目に、この戦はどう映っているのか。
そしてその傍らに
何の言葉も発せずに
唖然と
信じられないものを見るかのように
入り乱れる人の群れを見下ろすエース。
信じぬとも
受け入れぬとも
これは現実。
一人の命の為に
沢山の命が至るところで消えていく。
それが現実。
ピカピカの実の能力者、“光人間”。
海軍本部大将、黄猿ボルサリーノ。
入り乱れ出した戦線の上空から、狙い打つは敵の大将。
「八尺瓊曲玉」
目映い光、光速とも言えるその光の玉の威力は計り知れない。
黄猿の手のひらから繰り出される無数の光は、白ひげ目掛け襲いかかる。
「黄猿が来たァーー!!」
「オイオイ…眩しいじゃねェか…」
さして動じず
照らされた光に対当する白ひげは
それが己に届かぬ事を知っていた。
ドドドドドドドッ!!!
白ひげと光の矢を結ぶ直線上に
青き光が高速で渦を巻きその光を弾き飛ばす。
「大将の攻撃を防いだ!!!何だ!?青い炎を纏っているぞ…!!!」
「あれは…1番隊隊長!!!マルコ!!!」
冷たい色を宿す揺らめく炎の合間に、マルコが不敵な笑みを浮かべ姿を見せる。
その視線が捉える先には黄猿。
「いきなり“キング”は取れねェだろうよい」
「コワイねェ〜〜…“白ひげ海賊団”」
悪魔の実
それにはいくつかの系統がある。
超人“パラミシア”系
動物“ゾオン系”
自然“ロギア系”
その能力のみでの優劣
属性的な優位差を除けば、実態を持たぬロギアは最強。
覇気を扱えぬ者には、打撃を与えるどころか触れることすら叶わない。
よってその数は少なく稀少である。
しかしそのロギアよりも更に稀少な悪魔の実。
それがゾオン系“幻獣種”。
「黄猿さんの攻撃を正面から受けて…倒れねェ!!効かねェのか…!?アイツ…!!」
「やっぱり噂通りの能力を…!!?」
その背に背負う、蒼き揺らめきが形作る翼。
貫かれ風穴の開くその体は、何度でも蘇る。
「効くよい」
「ウソをつけ〜〜。」
いかなる攻撃を受けても炎と共に再生する
それが1番隊隊長“不死鳥マルコ”。
その2つ名通りの姿へ己を化したマルコは、反撃とばかりに黄猿の元へとその翼を羽ばたかせた。
身を回転させ勢いの増した覇気を纏う脚が、ボルサリーノの頭上に叩き付けられた。
「ん〜〜これは効くねェ〜〜。」
「ウソつけ!」
両の腕で止められた蹴りは、止められこそすれど
その威力は黄猿の体を地に叩きつける。
砲撃かと言わんばかりの粉塵が上がる中、周りの心配を他所に何事もなかったかのようにスタスタと立ち上がる黄色の大将。
「巨人部隊!!空も注意しなよォー!!」
「「「「はっ!!」」」」
巨体の部下達を従え直ぐ様戦線に復帰する黄猿。
覇気が扱えようと、攻撃を与える事ができようと
打撃程度でこの男は倒れない。
「でけェのが来るぞ!!」
黄猿によって奮起させられた巨人族の海軍中将達。
普通の人間の10倍近くの大きさを誇るその体は
それだけで脅威。
「おまえら下がってろォ!!!」
白ひげ海賊団を束ねる隊長達も、一癖も二癖もある猛者揃い。
3番隊隊長、ダイヤモンド・ジョズ。
この世で最も硬いとされる炭素の結晶。
その男の誇る能力は、何にも砕かれる事のない頑丈な肉体だけではない。
「ウオォオオオオッ!!!!!」
湾内を凍てつかせていた氷塊。
ジョズは己の100倍以上の体積があるだろうそれを、海軍陣営目掛け放り投げた。
流石の巨人族ですら、押し潰される事が明白な巨大な氷。
「__まったく、わしらが出払ったら誰がここを守るんじゃァ。」
渋く険しい顔は生まれつきのそれか。
処刑台の守人。
今や戦線に紛れ込んだ他の二人のせいで
そこを守るのは海軍大将、赤犬サカズキただ一人。
ボコボコと己の体を煮え滾らせ、その身から発するものは
赤黒いマグマ。
マグマグの実の能力者、“マグマ人間”。
「大噴火!!!」
その体から生まれ出たとは到底思えない容量の溶岩が氷塊目掛け噴射される。
その熱は氷を個体から液体を経る事なく気化し
上空を覆う巨大な影は瞬く間に姿を消した。
氷を溶かして尚相殺される事のない火山弾は、その勢いを殺さぬまま白ひげの陣営を襲う。
白ひげ海賊団の4隻の船の内1隻がそれを受け炎上しながら傾いた。
それでも尚襲い来るマグマの弾丸。
「派手に点火しやがって。」
モビーディック号に迫り来るそれを、白ひげは大矛で突き刺し受け止める。
受け止めて尚鎮火する事のない、己の愛刀に灯る炎。
蝋燭のようにすら見えるそれを、白ひげは吹き消し赤犬を睨み付けた。
「誕生ケーキにでも灯してやがれ…マグマ小僧。」
「フフフ…派手な葬式はキライか、白ひげ。」
どちらが優勢なのか。
どちらの戦力も強大で異質。
遂に始まった戦争を
処刑台の片隅で固唾を飲んで見守る少女が居た。
戦いとは無縁の世界で生きてきた少女。
いつも彼女は守られ、血生臭い場所から遠ざけられて来た。
慣れた者にとっても
この混沌とした戦場は受け止めきれぬものがある。
そして
これはただの戦ではない。
愛する者を奪い返す為に
愛する者達が己の危険を省みず、その命を懸けて挑む戦い。
ウイは心に焦りを感じていた。
“危険なところ”
それは周りからの再三に渡る忠告がなくともわかっていたこと。
しかしこれはどうだ。
ここまでの残状を
ここまで自分の力の及ばない、圧倒的なそれのぶつかり合いを
果たして本当に想定出来ていたのだろうか。
何かがしたいと飛び出した。
力になりたい、役に立ちたいと。
それは思い上がりの過ぎる浅はかな考えだったのだろうか。
彼女の小さな手が、ポケットの上からこの日の為に必死で作り上げたそれをそっと撫でた。
海軍元帥がこんなにも至近距離にその居を置くのは想定外。
少し離れた先にも、肩の腕章が中将であることを示す老体の海兵が目を光らせている。
本当にチャンスは来るのだろうか。
ここまで来たのは
愛する者の命が終わるその瞬間を、目前で見届ける為であったのだろうか。
その目がこちらを向くだけで、それだけで奮い立つ事が出来るのに。
出生の秘密を公言されて以降、こちらに視線をくれることのなくなった恋人。
鎖で繋がれた両手と父親の誇りを刻む広い背中
それをすがるように見つめるウイの瞳は不安と動揺で揺れていた。