12-45



「撃て撃てェぃっ!!!休むなァ!!!」


鳴り止む事のない砲弾の音。
至る所で巻き上がる黒煙。


「怯むな!!広場へ踏み込め!!!」


穴を掘り進めるように、海兵隊を凪ぎ払い進軍を続ける白ひげ海賊団。


「隊長達を止めろォー!!!」
「陸に上げるな!モビーディックを落とし白ひげを討ち取れェー!!!」


一歩も引かない。
寧ろここから踏み込んで撃ち崩す。

迎え撃つ海兵達の士気も留まる事を知らない。



そんな湾内の氷上の戦いとは別に
湾の入江、衝突する両陣営の遥か後方で歓声が上がった。


「行けェリトルオーズJr.!!!」


空に写し出される巨大な黒い影
それは辛うじて人の名残を感じさせる。


巨人族の中でも更に巨体。
もはやそれを人と呼べるのかも難しい、凶悪な面構え。


「エースぐんは優じいんだ…絶だいに死なぜねェ。」


咆哮と共に湾内に踏み込まんとするオーズに、海軍中将の巨人部隊が動く。


「人を見上げるのは初めての経験だ」
「アレを止めるのは我々の仕事!!!」


人の10倍近くの大きさを誇る並の巨人族が
オーズの前ではただの人に見える。

通常サイズの人間など、彼の前では最早塵に等しい。


オーズは海軍の艦を丸々抱え上げてはそれを他の艦目掛け投げ飛ばし道を切り開いた。
その威力、一撃で沈む敵の数は最早桁違い。



いくら巨体
いくら膨大な力とは言え

その特攻は些か目立ち過ぎる。


「オーズ駄目だ!!!おまえのデカさじゃあ標的にされるぞ!!!」
「エースぐん!!今そごへ行ぐぞォオオ!!!」


目に見えてそちらに集中し出す戦力と砲撃に、エースは叱るように叫びを上げた。

オーズの耳にその言葉は届かない。


エースが彼に与えたもの。

優しさ。
生まれて初めて気遣われたあの時、その大きな体の奥深く
並の人間と同じ大きさの、小さな心に灯った温かい感情。


オーズはそれを忘れない。
巨人族の中でも更に異質なオーズは、その身を気遣われた事などただの一度もなかった。


「ウォオオオオ!!!」


そしてまた1隻、オーズは海軍艦を抱え湾の掘りを抉り飛ばす。


「オーズが湾内への突破口を開いたぞォ!!!」
「続けェーーー!!」


海賊達の歓喜の声を背に受けながら、オーズはその足を進める。


大好きな、優しい、友の元へ。






巨体とは言え、傷が付けば血は流れる。

強靭な肉体とは言え、砲弾の熱と衝撃はその身を削り
痛みだって感じる。


「オーズめ仕様のねェ奴だ。死にたがりと勇者は違うぞ。」
「おやっざん!!!止めねェで欲じい!!オイダ助けてェんだ!!!一刻も早ぐ!!エースぐんを助げてェんだよォ!!!」


それは叫び。


巨体から発せられるその掠れた轟音は、白ひげの胸を打った。


集中する大砲火を浴び、それでも尚突き進むオーズに
白ひげは直々に息子達に指令を下す。


「__わかってらァ…!!てめェら!!尻を拭ってやれ!!オーズを援護しろォ!!!」
「「「「オォ!!!」」」」


言われなくても、と云わんばかりの勢いで
オーズのサポートに回る白ひげ海賊団。

道を切り開くのはオーズ。
そしてその背側面の守りは彼らが担う。









いだい。
いだいいだいいだいいだい。


あづい。
いだい…


でもエースぐんは…もっといだい。




己と同等の長さを誇る刀身で地面近くを凪ぎ払うオーズは
海軍の戦力を大量に削ぐ代償としてその攻撃を一身に受ける。


全身を襲う痛み、しかしそれでも足は止まらない。


この程度で怯むような気持ちで、彼は今ここに立っている訳ではない。





『ごれは…?』
『ワノ国で作り方を習ったんだ!被ってみろ!』


それはいつか、ふらりと現れたエースがオーズに贈った物。
ワラで編まれた巨大な傘。

オーズはそれを頭に乗せてみた。


『おまえは太陽に近ェから!どうだ!?』


今まで誰もそんな事を気にかけてはくれなかった。
陽の光を熱いとは感じていても、それは当たり前で当然のこと。

誕生日でもない。
何かを貰うような日でもない。


『エースさんこれ2回も失敗してんだぜ!燃えてよ!!』
『自分が火なのにワラなんて編むから!』


げらげらと笑うエースの隊の隊員達。
オーズの頭をすっぽり覆う大きさのそれを作り上げるには、彼が火ではなくとも大変な労力を要したことだろう。


そんな苦労等微塵も見せず
笑い飛ばす仲間達等気にもかけず

効果はどうだと身を乗りだし目を輝かせるソバカス顔の少年。


『ああ…!ごれは涼じい!』
『そうか!良かった!』


白ひげ傘下の海賊であるオーズ率いる海賊団
白ひげ海賊団の隊長であるエースが傘下の海賊の船長に親切を働いたとて
何の得があろうか。


少しの思い遣り。
ただ少しのそれが、オーズにとってはただ嬉しかった。









『雨にも濡れない。ごれは良い♪』
『オーズ船長!何でこんな雨の中外に出てんすか!?』


大雨のある日、エースに貰った傘が己の頭を濡らさない事が
オーズはただ嬉しかった。









『雪がオイダに積もらない。冷だぐない♪』
『船長!何でまた外に!!』


大雪の降りしきるある日
外に居ながら、雪が降るのを眺めながら
冷たい雪が自分の頭に積もらない事が、オーズは嬉しかった。










『コレ、いいなあ……!』


オーズはエースに作って貰ったワラの傘を大層気に入った。

巨大なせいで太陽が近いのも
巨大なせいで雨や雪を凌ぐものがないことも

ずっとそうだったから、いつか自分でも気にならなくなっていた。


そこを気にかけ、苦労して作り上げてくれたこの傘。


快適な事以上に
オーズはそれが何より嬉しかった。


晴れた日も
雨の日も
雪の日も
曇りの日だって


その日から、オーズの頭には常にワラで編まれた傘が乗っていた。


『オイダごれ、気に入ったぞー!!』


一人の巨人に、少年は優しさを与えた。







オーズもまた、傷を負っていた。

しかし砲弾が与える爆撃が致命傷となる事はなく
圧倒的過ぎるその力には並の海兵では歯が立たない。


そんなオーズに迫り来る、海賊であって海賊ではない者。


“王下七武海”


その驚異的な攻撃が次々とオーズを襲った。


「オーズ!!」 


得体の知れぬ衝撃波を真正面からもろに食らったオーズは、倒れずとも白目を向きそのダメージに耐える。


「やめろ…!!ここへは来れねェ…!!」


血塗れになりながらも
どんなに攻撃を受けようとも

己を救おうとその一歩を踏み出すオーズに、エースは胸が張り裂けそうな痛みを感じた。


幼子がただ、母親に手を伸ばすように
忠犬が飼い主に走り寄るように


オーズの純粋でひた向き過ぎるその想いは、エースの胸を強く撃つ。


度重なる攻撃によろりと巨体を傾かせて尚、オーズは止まらない。


「効いてるぞ!!」
「オーズを狙えー!!!」


そして追い討ちをかけるかのような、砲撃の嵐。

友が己を救おうと死に物狂いで戦っている。
エースはぎりぎりと歯を食い縛り、目を背けたくなる心を叱咤し
ただその巨体を見上げる。


「ハァハァ…、ぜめて…七武海一人でも…!!」
「ん?」


息も絶え絶え。
霞み始めたオーズの視界に映る、一人の男。

戦いもせずその戦場を口端を吊り上げ眺めていたドフラミンゴに、オーズの鉄槌が下る。


「ウオォオオ!!!」


岸壁もろともを粉砕する威力の拳は、目当ての人物が立っていたその周辺を跡形もなく叩き潰した。


「フッフッフッフッ…。」


オーズの頭上遥か上を、まるで鳥が羽ばたくかのように身を翻し舞い上がるその男。
この男もまた、七武海。


精力的に戦いに参加せずとも
その実力は折紙付き。


その足が再び地に降り立つ時


「面白ェ!!!フッフッフッフッフッ!!!」


オーズの足は切り落とされ、分断されたそれが宙を舞った。


「オーズ!!!」


もうエースには彼の名を呼ぶことしか出来ない。
足の一本を失い膝を付きながらも、それでも突き進むオーズの手が


「広場へ踏み込んだぞォ!!!」
「止めろ!!止めるんだァッ!!!!」


あと僅か
あと数メートルで届く距離まで伸ばされた時


「角刀影!!!」


エースの目前で、オーズの胸を漆黒の槍が貫いた。




「オーズ。」


あと僅か
寸での所で地に伏すその姿をモビーディックの甲板から見守る白ひげは、その歯を噛み締めた。


「スキを見せたな白ひげ…!!悲しんでるヒマはねェぞ!!」


勝機とばかりにその背後から大斧を構え切りかかる巨人族の中将は
白ひげの撃ち出した拳にその武器を粉々に砕かれる。


白ひげとて巨漢。
しかし巨人族のそれには及ばない。


数倍の体格差をもって尚、白ひげは中将の頭を鷲掴みにしそれを地に叩きつけた。


「オーズを踏み越えて進めェ!!!」
「ウォオオオオ!!!」


船長の号令に答えるように、倒れた仲間の想いを背負い海賊達は駆け出した。


オーズが倒れて尚、その勢いは衰えない。
次々と要所を突破していく白ひげ海賊団の勢いは止まる事がない。

















「グララララ…何か企みやがったな……!?智将“仏のセンゴク”…!!」


全体の戦局を眺める白ひげが、海軍の僅かな異変を感じとる。

それは長年戦の場に身を置く者だけが感じ取れる、勘。
状況がひっくり返される時には、いつもこんな雰囲気が漂っていた。










あれだけ言ったのに、止めるのも聞かずに戦場に出てきた一人娘。


白ひげの視線は、処刑人に扮した娘の姿を遠目で捉えていた。


流れに身を任せながらも、内心動揺しているだろう事が分かる。
出来る事なら、あの邪々馬を危険に晒さず事を終えたい。


ただどうにも、思うように事は運ばない。






アイツも娘だ。
同じ家族。

情けねェ話だが、ここは娘の世話になるしかねェか…?


ちらりと視線を向けた、一角。
端からは見えない、しかし厳重な警備の施されたその場所からこの広場を見下ろす要人の存在を
白ひげは知っていた。


天竜人。
人間をクズかゴミとしか思わない種族。


しかしそこに居る筈のその人だけは
そうではない事を娘から聞かされている。




ウイを動かすにしても、その舞台はこっちで整えねぇとな。


見えぬ何かが辺りを蠢く感覚に眉を寄せながら、白ひげは思考を巡らせる。



愛する家族を、救う為に。



destruct at reality.