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愛する家族を救う為
強大な戦力に立ち向かう者


世界の平穏を守る為
異端たる者を粛清しようと立ち上がる者


愛する人と共に歩む為
自分の足でその一歩を踏み出す者


友の願いを叶える為
自らの属する組織に背を向ける者




「何だガープ。作戦に異論でも?」
「…いや、相手は海賊…同情の余地はない…。」




家族を思い
己の信ずる正義を思い
強すぎる双方の想いにその身を焼き付くす程の葛藤を抱える者


「ジジイ…」


処刑台の片隅、処刑執行人とは対をなすその角で此度の戦を眺めていた老将、ガープ。


若かりし頃凌ぎを削りあったゴールド・ロジャー。
本気の命の奪い合い。

そこに生まれた、確かな絆。


「ならば…」
「黙れ!よかろう…ここにおるくらい」


今のエースと同じように、死を目前にしたその男が
ガープに遺した言葉。


『敵だがおまえ程信用できるヤツはいねェ!俺が保証する!!』


死にゆく者とは思えぬ程、それは晴れ晴れとした笑顔だった。


『産まれて来る子に罪はない!!ガープ!!俺の子を頼んだぜ!!』


海軍と海賊。

相反する立場にありながらも
それを追い捕らえる事を生業としながらも
立場が違ければこの関係性は違っていた。


本気で刃を交えて来たからこそ分かる、その人間性。


そう思うのは、何もロジャーだけではない。


ロジャーの情報を頼りに、彼の死後
その命を繋ぐ赤子を宿す女の元を秘密裏に訪れた。


父も父なら、母も母。

ロジャーの選んだ女は海軍の目を欺く為に、己の命を削ってでも
愛する男の遺したものをこの世に生み出そうと懸命に戦っていた。


『オギャー!オギャー!』
『“エース”…彼がそう決めてた…__この子の名は…“ゴール・D・エース”__彼と私の子……』


無事に子を産み、愛しげに宝物を抱えその名を告げた女は
眠るように事切れた。


エースは頑なに父の名を嫌い、自らの名を“ポートガス・D・エース”と名乗って来た。

しかし皮肉にも“エース”というその名前こそが、父親の遺した名前。

幼き頃から、似ずに育ってくれと望みながらも
父親を嫌いながら成長するエースの目には、戦友のそれと同じ面影が確かに宿っていた。




「悪党に同情はねェが…家族は違う…!!」


膝を付くエースと、その横に佇むセンゴク。

エースの傍らに胡座を掻き腕を組むガープの脳裏で
散々世話を焼かされた幼き日のエースとの思い出が


『痛ェ!』
『ルフィを殴んなよクソジジー!!』


まるで昨日の事かのように駆け巡る。


「わじゃあどうすりゃええんじゃい…!!!……!!」


歯を食い縛り、家族と正義に揺れる老将の瞳から零れ落ちる

涙。


「エース貴様…!!なぜわしの言う通りに生きなんだ!!!」


エースはずっと、ガープに疎まれている思っていた。

厄介払いするかのように山賊のアジトに放り込まれ放置された幼き頃。
たまに顔を付き合わせれば、口煩く毎回同じ言葉を口にする。


『ええかおまえらは!強い海兵になるんじゃ!!』


それは幼き頃から暗示のように言われ続けた言葉。

出生の秘密を明かして置いて
己を脅かす海兵になれと
その元に身を置けと諭すガープは、自分を恨んでそれを口にしていると思っていた。


「ジジイ…!!」


それがいつか己を裁く刃から
敵対する海賊の忘れ形見を守りたい一心で吐かれた言葉であったとは

幼いエースにはその言葉の裏側にある己を思う家族愛を推し測る事など出来なかった。




「……今更。妙な気を起こせばおまえとて容赦はせんぞガープ」
「…フン、やるならとうにやっとるわ!!!」


涙を流し顔を伏せながらも、海軍中将ガープの紡ぐ言葉に震えはない。


ガープは分かっている。
今その命を脅かす脅威から孫を救う事のできない身の上も。

今更それを口にしてもとうに遅い事も。



エースの心は揺れに揺れた。


そしてそれを傍らで見守る少女の心もまた、揺れた。


こんなにも強く想う心を抱きながら、それを止める事の出来ないガープの心情。

それは、愛に飢えた彼女には想像も出来ない

複雑な愛のカタチ。




「だからおめーはやりすぎだってんだよ!!」
「コイツのまばたきのせいだ」
「ヴァターシのせいにする気!!?クロコォ!!!」


それは遠くに命を奪い合う喧騒を聞きながら、二つの強き想いにその身を焦がすガープが胡座を掻く処刑台の

遥か上空から微かに聞こえてくる、別の音。



「おいなんだあれは…何か空から降ってくる!!」


マリンフォードの上空
太陽を陰る一つの黒い影。


「え」


エースは祖父の想いに締め付けられた心を抱え
そんな中一見あり得ない形を象るその影を
信じられないと、正にそう言いたげな面持ちで見上げた。


「ああああああ…!!あ!俺ゴムだから大丈夫だ!!」
「貴様一人で助かる気カネ!!何とかするガネー!!」
「こんな死に方ヤダッチャブル!!誰か止めて〜〜〜ンナ!!!」
「てめェの提案なんて聞くんじゃなかったぜ“麦わらァ”!!畜生ォ!!」


降ってくるその塊は
やはり見間違いではなく船。

そしてそこから聞こえる、何度も聞いた弟の声と
弟の象徴を示すその呼び名。


悪運が強い事は知っていた。
しかし、大部分が氷結したこの湾内で
ジョズが抉り上げたその一部。

全体の数パーセントにも及ばないそこに綺麗に着地した船を
そこから顔を覗かせる愛する弟の顔を

エースは唖然と見つめた。


「ルフィ!!!」
「エースーーー!!!…!!やっと会えたァ!!!」


決して実現して欲しくなかった願い。
それが今、目の前で現実の物として現れる。

この場に似つかわしくない、能天気な顔。
偶然出会したかのように、再会を喜ぶ弟の顔。


そしてその弟が引き連れて来た者達の匆々たる面子。


「おい!!アレまさか!!クロコダイル!!」
「革命軍イワンコフ…!!それにジンベエまで!!なんだあの顔触れは…!!!」


助けに来た、そう叫び宣誓する弟に従えられるように
その背後に控える匆々たる面々。


「ガープ!!また貴様の“家族”だぞ!!!」
「ルフィーっっ!!!」


この非常事態に、その中心人物と血の繋がりを持つガープに怒鳴り散らすセンゴクと
頭を抱えるガープ。


激動

正にその文字の如く、秒刻みに状況を変えるマリンフォード。


先の読めぬこの戦況。


果たしてそれの導く先は如何に。





「えれェの引き連れてんじゃないの」


兄を救いに来た弟。

収監されていたインペルダウンへ潜入し、そこに捕らわれていた罪人達を引き連れ
その姿が今このマリンフォードに。

噂の大問題ルーキー、麦わらのルフィ

後ろに控えるは革命軍、元七武海、過去に名を馳せた海賊達。
それが軍艦一隻に大勢詰め込まれ
この状況をひっくり返しにやってきた。


「アレはエースの言ってた…弟じゃねェかよい!」


動揺が走ったのは海軍だけではない。

味方だろう
エースの弟だ

そうは思っていてもまさか…
上空からこれだけ癖の有りすぎる戦力を持ち込まれるとは
完全なる想定外。





「小僧、その麦わら帽子…“赤髪”が昔被ってたやつによく似てるな…」
「おっさんシャンクス知ってんのか!これ預かってんだ!シャンクスから。」


白ひげはとんでもない方法でこの戦争に乗り込んで来た少年の、首にかけられた麦わら帽子に見覚えがあった。

付き合いの長い戦友、仲間とは呼べないにせよ
同じ立場で同じ物を見定め、同じ海で生きてきた。

その実力の程は、自分と肩を並べて称されても遜色ない。




『__新しい時代に懸けて来た。』

その赤髪が昔、左腕を失い新世界へ戻って来た時
トレードマークだった麦わら帽子は男の元から消えていた。




『見てくれ親父!コレ俺の弟なんだ!!』

少し前、エースが自分の事のように喜びながら
3000万ベリーの懸賞金を掲げ笑顔で写真に写るこの少年の手配書を見せに来た事があった。




「兄貴を助けに来たのか」
「そうだ!!」


臆する事もなく、そう言い切るまだ幼き少年。


「相手が誰だかわかってんだろうな。おめェごときじゃ命はねぇぞ!!」
「うるせェ!!!おまえがそんな事決めんな!!俺は知ってんだぞおまえ、海賊王になりてェんだろ!!“海賊王”になるのは俺だ!!!」


話の論点がズレている。
そしていくら話題のルーキーとは言えど
“白ひげ”は一端の海賊が肩を並べて対等に話せるような相手ではない。

大声で四皇に食ってかかるルフィに、その様子を見守っていた海兵も、白ひげ海賊団も、囚人達も

度肝を抜かれた。


「…クソ生意気な…。」


この胆力。
どこか目を惹く物がある男だ。


白ひげはその無鉄砲過ぎる少年の姿に、ニヤリと口端を吊り上げた。





「足引っ張りやがったら承知しねェぞハナッタレ!!」
「俺は俺のやりてェ様にやる!!!エースは俺が助ける!!」


モビーディックの甲板で肩を並べる二人の海賊。
その体付きも、背負う物も
まるで異なるこの二人。

しかしこの場に立つ意味は同じ。

白ひげはこんな男が嫌いではなかった。
型にはまらない男。

こんな男こそ、化ける。

戦力としては正直使い物にならない。
見た所覇気もまともに扱えなさそうな、勢いだけの男。

白ひげにとってこの場にルフィが加わった所で何らメリットはない。
この弟以上の戦力ならここには五万と居る。





しかし何かを、感じた。


年は取っても
何度厳しい現実に打ちひしがれても
白ひげも男。

お伽噺のヒーローかのように真っ直ぐな少年の瞳は、白ひげの何かを動かした。











「ありゃあ全部“死刑”でいいんでしょ?センゴクさん…」
「無論だ!!!」


数が増えようと、その所属が異なろうと
所詮海賊。

法を犯す者。

黄猿は食えぬ笑みを浮かべ、それに答えるセンゴクの顔は険しいものだった。












「海賊相手に処刑時刻を守る必要はねェってわけか。何かの準備の後ってのがカギだな…」


白ひげにエースの処刑時刻が早まる事を伝えたルフィは、颯爽と海兵の犇めく戦場へと飛び出して行った。


さっき感じた違和感はそれか…?


少し間を置いて、マルコが持ってきたそれと同じ知らせ。


異なる出所から同一の情報。
それは通常、その信憑性を増させる筈の出来事。

しかし何かが白ひげの中で引っ掛かった。


「冷静になれ、そうやってもれた情報で俺達が焦る事も計画の内だ。」


敵。

しかし幾度も手を合わせ戦ってきたからこそ分かる、センゴクの抜かりなさ。


「うっかり作戦を聞かれるなんてヘマあいつはやらねェ…そういう男だ。」


マルコと共に戦況を眺めながら、白ひげは策を練る。






「親父、どうすんだよい…アイツ。」
「どうもこうも…あの位置にセンゴクが居る状況で下手な事させられるか」


一人分、必要な人数が減っただけ。
ウイにエースを逃がさせるには、あの処刑台から厄介な重鎮達を引き剥がさなければならない。


リミットは刻々と迫っていた。





destruct at reality.