12-47



駆け抜けた。
戦場を。


襲い来る海兵を薙ぎ倒し、その隙間を縫うように
前へ前へ。



「おまえを捕まえないと天竜人がうるさくてねぇ〜…麦わらのルフィ…」


そこに立ち塞がる海軍大将黄猿。
その長い脚の延長線上をただ真っ直ぐに駆け抜けるルフィ。

この二人には因縁があった。
因縁?

果たしてそう呼べるのだろうか。

ヒューマンショップ。
人を金で売り買いする、表向きは“職業安定所”。

その場所でルフィは天竜人に牙を剥いた。
そこに居合わせた巷を騒がせる億超えルーキー

モンキー・D・ルフィ
ユースタス・キッド

そして、トラファルガー・ロー。

この3人が束ねる海賊団は天竜人の怒りを買い、今や命を受けた海軍大将に追われる身。


目映い光が辺りを照らし、黄猿の脚から放たれたいくつもの光線がルフィを襲う。


「DEATH WINK!!」
「おわっ!!」


光速の弾丸。
それは常人が避けきれる物ではない。


革命軍イワンコフが放ったまばたきは、ルフィを爆心地から吹き飛ばした。




ズズゥーン!!!




コンマ数秒後、それまでルフィがいた場所を中心に閃光が炸裂する。




「…!!危ねェっ!!ありがとうイワちゃん!!!」
「ヴァターシはヴァナタを死なせない事だっキャブルが使命なんだよ!!行くっチャブル!!」


イワンコフ。

頭身のバランスが些かおかしい顔面インパクトのありすぎるオカマ。

その濃すぎるメイクから繰り出されるウィンクは、光の速さを超えた。
正に顔面凶器。

ルフィに先を急がせ、その身は黄色の大将を引き受ける。
このおと…オカマにはそれだけの実力があった。






仲間達に背中を押され

ルフィはただ走る。
兄の元へ。





「止まれ!!」
「ぐわっ!」


振り下ろされる金棒。


「行かせるかっ!」
「っこの!」


立ち塞がる屈強な海兵達。


「__一人一人が強ェな!!」


それを凪ぎ払いながらも
息を切らせそうながらもルフィは進む。

全てを避けきれる訳ではない。
攻撃を受け、ゴム人間であるその体を切り刻まれながらも

血を流し、それを拭い、
ただひたすらに走った。





「来るな!!ルフィー!!!!」


兄の叫ぶ声にちらりとその目線を向けながらも
弟は止まらない。
止まれない。


「わかってる筈だぞ!!!俺もおまえも海賊なんだ!!思うままの海へ進んだ筈だ!!!」


喉が切り裂ける程の、怒号。
エースは己を囚える錠の事など飽きる程に理解している。
しかしそれも忘れる程に身を乗りだし、叫んだ。


「俺には俺の冒険がある!!俺には俺の仲間がいる!!!おまえに立ち入られる筋合いはねェ!!!」


危険な場所に、来ないで欲しい。
ずっと守ってきた存在。
大切だから、大事だから、守ってきた。


「おまえみてェな弱虫が俺を助けに来るなんて!それを俺が許すとでも思ってんのか!!?こんな屈辱はねェ!!!」


本当はもっと違った言い方がしたかった。
おまえまで道連れになるな、おまえは生きろ。

俺はおまえが、大事なんだ…!!


「帰れよルフィ!!!!なぜ来たんだ!!!」


この弟には、穏やかに理屈を解いても通用しない。
だからこそ
こんな言い方でそれを伝える事しか出来ない。


叫びすぎて
目眩がした。







「おれは弟だ!!!!!」



眩む視界で処刑台の床板を見下ろすエースの耳に届く、大事で大切な弟の声。


「海賊のルールなんて俺は知らねェ!!!好きなだけ何とでも言えェ!!!」
「わからず屋が…!!」


奥歯を軋ませ、屈強な海兵達を次々に投げ飛ばす弟の姿を追うその目は
やりきれなさで満ちていた。

巨人族の海軍中将に行く手を阻まれたルフィが腕を風船のように膨らまし、その身の数倍以上の敵を吹き飛ばす。


「エ〜〜ス〜〜!!!俺は死んでも助けるぞォオ!!!!」


ルフィがいる場所は今や救出部隊最前線。
彼の踏み出す一歩が、海軍の防衛ラインを侵す。

無鉄砲で熱い弟の想いは
エースの胸に熱いものを込み上げさせた。






「マルコ…アレを死なすんじゃねェぞ…」
「了解」


たかがルーキー。
駆け出しの若造。


「踏み込まれ過ぎだ。後ろに控えているヤツらもいる…、少し数を減らすか。」
「今更異論はないわい。」


両戦力とも
この一人の少年を無視出来ない。


センゴクは処刑執行人に耳打ちをすると、殺伐とする戦場へとその身を投じた。

ガープもまた、命じられた通り宛がわれた持ち場へと向かう。
肩を落とし、打ちひしがれた孫の背中に
一度だけ目を向けて。












持ち場に戻った処刑人二人が、エースの前へその刀を振り下ろした。










「…なァ、ウイ。俺はどうしたら良いんだ。」


弱々しく呟かれた言葉。
その声は肩の震えに呼応するように震えていた。


「助かりてぇって…思ってた。思ってたけど…なんだこれは。」


ぽたり、と
エースの伏せられた頭からは水滴が零れ落ちる。


「こんなにして貰ってまで…俺が助かる意味ってあンのか…?」
「いい加減にして」


ぴしゃりと放たれた声。


「…助けたいから来た。命懸けで戦ってる皆の気持ちを、意味がないみたいに言わないで」


処刑人に扮した少女は紡ぐ。
その胸の内を。


「私にはここに来た皆の気持ちが分かる。エースと過ごした時間が楽しかったから、明日もエースに会いたいから」


他の者達の声を代弁するように


「私の未来に居て欲しい人だから、ここに居る」


いつの間にか、その声は穏やかなものへと変わっていた。
エースの抱える葛藤や重責を溶かすかのように
優しい響きが込められた声。


「…正直私も怖いよ。身の程知らずがよくもこんなところ乗り込んで来たなって、さっきまで我ながら落ち込んでた。」


自嘲するようにそれを話す少女に目を向けるエース。
彼女の目は己を見てはいなかった。


「人が死ぬって、命懸けで助けるって…どういうことか分かってなかった。」


真っ直ぐに戦場を見据えて、その目は消え行く家族の命をしかと見届けていた。


「でもやっぱり今も助けたい。…だから、一緒に帰ろう?」


二人の視線が絡み合う。
それは先程までの強い意志を宿した眼差しではなく、愛する者を慈しむ暖かい瞳。

エースの目に
先程とは違った感情がもたらす涙が滲んだ。






「俺の父親は…ゴールド・ロジャーだぞ。」
「私の父親は妻と娘を売っ払って愛人と暮らそうとしてたロクデナシだよ。」


肩書きなら勝てないけど
父親の人間性が子供に遺伝するなら。

受け継いだ禄でもないものなら、私も負けない。


「…違ぇだろ。おまえそれ聞いて…何とも思わねぇのかよ。」
「びっくりしたけど、もっとヤバい極悪人だと思ってたから。…正直拍子抜け。」


本当に拍子抜けだった。
凄い連続殺人鬼とか、連続婦女暴行事件の犯人とか、そんなの想像してたから。

私は素敵な海賊に出会い過ぎた。


エースが嫌いなお父さん。

ごめんね、エース。
私、きっとゴールド・ロジャーは素敵な人だったんじゃないかなって思うの。

なんでかな。


「ここに来るより前からエースのお父さんの話、聞いてたよ。…知ってて助けに来た。大好きな人の父親が海賊王って、私知ってた。」
「…言えよ、先に。…嫌われたんじゃねぇかって、肝冷やした。」


盛大なため息を吐くエースが可笑しくて、笑いを必死で堪えた。


知ってたよ。
なんでエースがこっち向いてくれなくなったのか。


「私に嫌われたくなかったんだ?」
「ったりめぇだろ。…っとに。」


面白くなさそうな顔をしてるエースが可愛い。

私Sっ気あるのかな。
なんだかエースをからかうの、好きかもしれない。


「ねぇ見て、エース。」


名残惜しくても
大好きな人からその視線を広場に移した。


相変わらずな戦場。
地獄絵図。


「皆エースを追い詰めたくて来てる訳じゃないよ。」


傍らに膝を付く存在が、同じ方向に目を向けたのを感じる。


助けようと必死で、血を流しながらも更に前へ踏み出して来る皆。
その姿が、見えるでしょう?


横目で顔を伺えば
思い詰めた顔でそこを見据えるエースが、そっと目を閉じた。





「…もうどんな未来も受け入れる。」


『俺は死んでも助けるぞォオ!!』


「差しのべられた手は掴む…!!」


『おまえを傷付けた奴ァ誰一人生かしちゃおかねェぞエース!!』


「俺を裁く白刃も受け入れる…」


『ちょっと待ってな…エース!!』


「もうジタバタしねェ。」


『一緒に帰ろう?』


「みんなに悪い。」
「白刃は受け入れて貰っちゃ困るなー。」


人が折角一大決心したってのに
なんでこう、茶化すんだ。


窘めるように見上げれば
その顔が、見惚れちまうくらい綺麗に笑った。


「あれがルフィくんかー…ねぇ、どこが弱虫なの?超強いじゃん…。」


ウイの視線の先に目をやれば、鷹の目のミホークと対当するルフィの姿。

その男の振るう太刀筋の先で山が抉れる。
驚異的過ぎる剣技。
そんな相手に、ルフィは押せはしなくともまともにやり合っていた。


「知らねぇ間に強くなったんだな、アイツも…。俺のが強ぇけど。」
「はいはい。」


あしらわれるような返事に眉を潜めつつも、眼下の戦いは本当に激戦で。

白ひげ海賊団やさっき一緒に落ちてきたヤツらに助けられながら
ルフィは着実に近付いて来る。


本当に、おまえの周りに面倒見させるっつー特技はたまげたもんだよ。


「ね、ねぇエース…!アレなに!双子!?いや、二人じゃないな…123456…
「パシフィスタだ。」


基本喋んねぇから、また存在を忘れていた。


ロイがパシフィスタと呼んだ複数のデカイ人影。
そこから放たれた光線が傘下の海賊達の船を襲った。


「…くっ…!なんだアイツは…!!」
「パシフィスタだ。」





こいつ、…結構天然とかそっちの部類か?

さっきも言っただろうと真顔でそう答えるロイとは、緊急時には上手く連携が取れそうもない。


気を取り直してそのパシフィスタに目を向ければ
それは湾内に雪崩れ込んだ海賊艦隊を包囲するかのように、圧倒的な破壊力で次々と仲間の船を沈めていく。

それと同時にどこからともなく聞こえだす機械音と、岸壁から伸び出す壁。





上から見てるからよく分かる。
海軍は親父達を…湾の中に包囲するつもりだ…。




destruct at reality.