12-49
映像でんでんむしがマリンフォードの現在を伝える場所。
避難先にもなっている、現場から程近い島
シャボンディ諸島。
白ひげの海軍との黙約を臭わせる会話を伝えてすぐ
その映像と音声は途切れた。
「あー…なんで?情報規制?それとも何かあったのかな。」
「知らね。」
ハートの海賊団も、全員総出でその映像を見守っていた。
此度の公開処刑への世間の関心は強い。
海賊なら尚更。
そして彼らにはもう1つ
この処刑に関心を寄せる理由があった。
「ウイも見てるよね。大丈夫かなー…」
「パパって呼んでたのって、アレだろ?白ひげ。刺されてたしなー…」
スクリーンに映し出されていたのは彼らの大事な友人の関係者達。
この白ひげと海軍の戦争は
行き着く所によっては彼女を悲しませる。
「大将三人に元帥までいるんでしょ…正直無理じゃない?」
「でもよ、相手は海賊王に一番近い男だぜ?」
憶測、推測
情報の途切れたこの状況では
彼らに限らずこの戦争を観戦しに集った人々は口々にそれを溢す。
「それにしても、アレがパパね。…なんでウイちゃんは大物ばっかり引っ掻けて来るんだか。」
「それな。天竜人に四皇って…」
少し前、家族が出来たと嬉しそうに報告しては去っていった友人。
海軍本部に殴り込みをかけて未だ捕まらず生存している姿を目の当たりにすると
彼女の家族の強さを痛感する。
「無事に逃げられると良いんだけどね、エース。」
「あの強さでも捕まるとか、新世界って怖ぇなー。」
処刑を待つその人は、彼らも顔見知り。
彼女を通して出会った数奇な巡り合わせ。
その中心人物に彼ら以上に関心のある男がいた。
それは白の繋ぎに身を包む彼らを束ねる長身の男。
「船を出すぞベポ。」
雑談に混ざらず、映像が途切れてからはずっと神妙な顔で何かを考え込んでいた船長は決断を下す。
思考の過程は口にしない性分。
長年連れ添う仲間も、あえてそれを問いただすことはしない。
「…アイアイキャプテン!行くぞおまえら!」
航海士の白くまは何かを心中で悟っていた。
そう、これは普段の彼からは想像も出来ない決断。
計画的で慎重な彼らしからぬ判断。
しかし白くまは知っていた。
自分がついていくと決めた男は、とある“誰か”が絡むと人が変わるということを。
王の力。
それは強大。
白ひげはその大矛で海兵を凪ぎ払い進む。
その矛の振るわれる先では、地震の生む衝撃で人が皆吹き飛ばされた。
その拳が生む大気の亀裂はマリンフォード全体を揺るがし
海軍は次々とその前に倒れる。
センゴクは舌を打った。
倒れ込むオーズの巨体が、最後の一枚である包囲壁を阻む。
徐々に押される戦線。
智将は現状で最善の判断を下した。
一ヶ所のみの逃げ口を残し包囲された湾内の海賊達。
そこに向けられるはサカズキのマグマ。
氷の足場を奪い湾内に沈める。
人が相手をすれば手強すぎるこの海賊達を打ち負かすには、それがベスト。
溶かされていく氷の足場に、白ひげはニヤリと口端をつり上げた。
息子達もその意図を読み取り、白ひげの元へと集う。
マグマを受け燃え盛るモビーディック号前方の海底に
黒い影が姿を現した。
大量の水飛沫を上げ海中から現れたもう1隻の船。
丁度白ひげの足場となる氷が溶けきる寸前に水面から顔を出す船と船長の息は阿吽のそれそのもの。
パドルシップ。
外輪船であるそれがただ1ヶ所の隙間を目掛け突っ込んだ。
そしてそれを、片足を失い地に伏していたオーズが最後の力を振り絞り
引き上げる。
「野郎共ォ!!!エースを救いだし海軍を滅ぼせェエェェ!!!」
広場へ降り立った白ひげが、そこを埋め尽くす海兵達をまるでゴミ屑の如く吹き飛ばす。
怒号のような雄叫びと共にそれに続く海賊達。
「出番だ邪々馬娘。機を逃すな…!!」
船長の言葉を耳にした隊長達が、それに頷き四方へ散って行く。
白ひげを迎え撃つは青雉クザン。
そしてジョズが向かうは少し離れた場所で広場を見下ろす来賓席。
処刑台とは違う方向へ走るその男を、黄猿ボルサリーノは見逃さない。
マルコはその青い炎を背に纏い
信頼のおけそうな白ひげ海賊団以外の者達に処刑台に潜む仲間の存在と、エースを救うのに必要な状況を伝えて回る。
戦力を散らせ、と。
それを聞いた誰もが処刑台を見上げた。
顔の見えぬ執行人。
彼女はずっと、この機会を待っていた。
「うわぁあああ!来るえ!!何か来るえ!!!助けろおまえら!!何のためにここに居るえ!!!」
「はっ!」
処刑台から離れた場所から聞こえてくる、聞きなれた友の声。
「もっと強いのを呼ぶえ!!あんな化け物!!おまえらなんかじゃひと堪りもないえ!!!」
…名演技。
ギャーギャー叫びながら護衛の人達を困らせるベガス聖の姿が遠目に見えて
その“天竜人”らしい発言が耳に届いて
こんな状況なのに笑ってしまった。
いかんいかん。
戦況を見定めなければ。
チェスは得意。
自分が仕掛ける最善のタイミングは、一秒だって間違えない。
『ウイ、もう諦めるえ。そんな状態で乗り込んでもウイが死ぬえ。』
『もうちょっと…試してみる。』
それは本当に、公開処刑が行われる数日前の出来事。
中々思うようにいかないそれの実験に励むあまり、迫ってくる期日に焦るあまり
ウイは遂に少しばかりの仮眠も放棄してそれに没頭した。
『そうだえ!何ならこれ、食べてみるかえ?』
『それって…悪魔の実?』
ベガス聖が手に持っていたのは、何とも禍々しいパイナップルに似た果実。
『これ…何の実なの。』
『知らないえ!』
得体の知れぬ物を食べろと言うとは、流石の破天荒具合。
ウイは眉を寄せ、その果物を凝視した。
『…ねぇ、これ貰っても良い?』
『旨くないものに興味ないえ。やるえ。』
彼の基準、それは旨いか旨くないか。
それがどんなに珍しかろうと、高価な物だろうと
その舌を満足させない物は彼にとってはゴミ同然。
『まさか…、ね。』
休む気配のないウイにやれやれとため息をつき部屋を後にするベガス聖。
一人残された部屋の中で、ウイは諦め半分にそれを試した。
悪魔の実の能力者は海に嫌われる。
海籠石は海と同じ効果を能力者に与える。
何かが起きるかもしれない。
そんな期待の元、今ある中で最も硬化速度の早い改良済みのエポキシ樹脂に
悪魔の実の果汁を絞り入れた。
「皆凄いね、まさかベガス聖に目をつけるとは…怪我とかさせてないと良いんだけど。」
「流石に放っておけねぇよな。天竜人。」
目線は広場へ。
処刑台に張り付いてる海軍幹部の猛者達の動きは見逃さない。
「ベガス聖、解ってやってくれてるよ。そしてちょっと…楽しんでる。アレ。」
「変わった天竜人も居るもんだな…。」
喧騒に混じって聞こえてくるベガス聖の金切り声。
エースを逃がす訳にはいかなくても、ここで天竜人に死なれては困るんだろう。
そちらへ急行したピカピカの大将さんに続いて、他の肩に腕章を着けたお偉いさん方が焦ってそっちに流れてく。
「海賊が悪!!?海軍が正義!!?そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!!!」
ずっと、気になってた。
ドフラミンゴ。
七武海と称された面々の中で、特に何かをする訳でもなく
ただ面白そうに口元を歪めて状況を見守っていたその人。
「“平和”を知らねェガキ共と“戦争”を知らねェガキ共の価値観は違う!!!」
傍観者だったその人が、高らかに笑いながら天を仰ぐ。
「俺に近付くな!!おまえら!!!」
「アトモス隊長!!?」
ドフラミンゴを抑えに走ったアトモスが、狂ったように無差別に周りを攻撃しながら
叫んでた。
「頂点に立つ者が善悪を塗り替える!!!今この場所こそ中立だ!!!」
ドフラミンゴはきっと、何かの能力者。
そして今その得体の知れない能力を使って、アトモスの体を乗っ取ってる。
さっきオーズの足を切り落としたのも、きっとこの人。
近付くなと言われた白ひげ海賊団の皆は距離を置いてるけど
周りの海兵達をも薙ぎ倒すアトモスの巨体は、それを沈静化しようと集まる海軍の注意を引いた。
「正義は勝つって!?そりゃそうだろ!!!勝者だけが正義だ!!!!」
前に一緒に食事をした時に感じた、どこか破壊衝動を感じる人間性。
でもなぜか、それはどこか共感出来なくはなくて。
道徳的ではない、倫理的にも問題がある。
でも彼が
ドフラミンゴが話す言葉は
人間性を物語るそれは
目を背けたくなるような事であっても、事実。
ふと、そのサングラスで分かりにくい目線の先がこっちに届いた気がした。
「なァ、そうは思わねェか?」
どくり、と心臓が跳ねた。
落ち着け、気のせいかもしれない。
ドフラミンゴは私に言ってるんじゃなく、ただ思ってる事を口にしただけ。
その可能性の方が高い。
でもそれは、私が共感できる言葉。
そして今、海軍側である筈のその人は
味方な筈の海軍の戦力を削いでくれてる。
育ってきた環境で
経験してきた事によって
人の価値観は絶対に違う。
私もそう思うから。
私やエースと、親を尊敬してる人達の価値観は
絶対に違う。
権力を握る人達が親を敬えと声高々に唱える。
そのせいで、どんな親でも
親であるが故に崇高な存在に奉り上げられる。
事実大多数の親は子供に敬われるべき存在。
素敵な親も、沢山見てきた。
でも全員がそうじゃない。
そんなの絶対に間違ってる。
その想いが、ドフラミンゴの言葉に共鳴した。
自陣に及ぶ被害を抑えようと集まる海軍を、アトモスを弄びながら抑え込んでくれるその状況が
父様の事を知っているドフラミンゴなら、私にそんな事を問いかけるんじゃないかっていう可能性が
ドフラミンゴは私の存在に気付いてて
何をしようとしてるかまで知ってるんじゃないかって
そんな疑心を煽った。
なんで気づいてるのかも、協力してくれてるのかも分からないけど…
今はそれどころじゃない。
意味が分からなくても、良い状況は利用させて貰おう。
私が今すべき事はエースを繋ぐ海籠石の手錠を解き放つこと。
集中しなきゃ。
残りは…?
処刑台近くで邪魔になりそうな存在。
危険な距離に居る厄介そうな海軍は…センゴクさんただ一人。
「あ、そうそう。後でちゃんとベガス聖にお礼してね。」
「しねェ訳にいかねぇだろ、…ここまでしてもらって。」
他の皆が引き付けてくれてる。
後はこの人だけ、この人を誰かが止めてくれたら
私はこれを打てる。
「ちなみにお礼、エースでバーベキューだから。」
「…本当に破天荒なおっさんだな。」
エースにこの緊張が伝わらないように、心配かけないように。
ふざけた会話を交わしながらも、刻々と近づくその時を待って
自然と手がポケットを撫でた。