13-3
「くっ…!!ルーム!」
反応出来んのか?
光の速さに。
いくらルームの中が俺の支配空間とはいえ
対象を認識し指示を下す時間がいる。
必要なのは間合い。
それはデカければデカい程時間を稼げる。
ただ待つしかないこの時間。
黄猿に狙われる因縁なら、俺らにもある。
麦わら屋がこっちに来なくても、いつアレの照準がこっちに向いてもおかしくねぇ…!
大事なモンを守ってるその状況で、更に強敵が現れた。
これは益々見知らぬヤツにそれを渡さねぇ流れ。
どうする。
結構な距離だが上空の赤っ鼻までルームを伸ばして無理矢理乗せちまうか…
手首のビーズを1つ、ミサンガから外した。
「よしっ!!任せたぞ馬の骨共〜〜!!せいぜい頑張りやがれ!!!」
「受けとれジャンバール!!よし!それでいいんだ!!」
渡すのか。
あの鼻顔面だけじゃなく中身も中々ひでぇな。
薄情ともとれるその行動に片鼻がひくりとひきつる。
まぁ、良い。
無駄な体力を使わずに済んだ。
「……海へ潜るぞ!!!」
いつの間にかジャンバールを舎弟のように使っているベポはこの際放っておこう。
兄貴分の言い付け通り、新入りが麦わら屋を受け止めたのを確認して船を出すよう指示を出す。
「うわー…ひどい傷だよ。生きてるかな!!急ご…」
「“麦わらのルフィ”〜“死の外科医”ロ〜…!!」
臨戦体勢
黄猿が腕に光を纏いこちらを見下ろしていた。
来る。
「くそ…ルーム!!」
やれんのか?
俺に。
極力広範囲に張ったサークル
これを維持し続けるのは結構キツイ
あの速さを撃ち返すのは無理だ
間に合わねぇ
弾き飛ばせねぇなら…軌道を逸らす!!
「八尺瓊勾玉」
海底に潜り全速力でその高度を下げるポーラータングに
光の砲撃が襲いかかる。
…いける
「っとに…!好き放題撃ちやがって!!…タクト!」
ルームの端に捉えた軌道上に船を置くそれの進む道をねじ曲げる。
流石光、一瞬だ。
でもこれくらいなら、出来る…!
ドガーンッ!!
浅瀬にぶち当たったこの船を襲う筈だったそれは、海中に轟音を響かせて砂を舞い上がらせた。
「キャプテンすげぇ!!」
「良いからさっさと潜れ!」
窓にへばりつき外の様子を食い入るように覗くクルー達
連続で来たら処理しきれねぇぞ…流石に!!
「タクト!」
ボゴーンッ!!
どんだけ撃ちやがるんだという光の猛攻をかわしながら、手のなかの小さな個体を握りしめる
俺までここで死ぬ訳にはいかねぇ
引きちぎったせいで尖った角が手に食い込んだ
感覚が研ぎ澄まされている
自分は今、ベストの状態
ただ愛した女の為
そんな動機はこんなにもコンディションに影響するもんなのか
ウイが作ったこれが、俺に力を与えてる
非科学的すぎるそれを体感しながら、死と隣り合わせなこのスリルに自分の口端がつり上がるのを感じた
それは勝ちを確信したからこその無意識の反応
殺人的な威力を誇る光の雨は、深海に阻まれ
遂に途切れた
「キャプテン!お魚さんはともかく麦わらがヤバい。俺が見てもヤバい。早く」
「すぐ行く」
ルームの範囲を縮小しその端で捉えた死にかけた男二人の体をスキャンする
…よく生きてたな
こんな体内の全てが異常な状態で生きてる人間、見たことねぇぞ…
血も足りねぇ
外傷を受けすぎてCRPやら白血球やらの割合が多すぎる
意識がねぇせいか少しずつ体内からその量を減らしていく興奮物質
そんな状態だというのに薬中でもこれよりはマシだ
あの度を越えた馬鹿はこれがもたらすものなのか?
まずは治療だ
「メス…おい、そっちの魚肺を損傷してる。まずは麦わら屋だ。酸素マスク付けておけ」
「アイアイキャプテン!」
生きているのが不思議な状態のこの患者は
一体どこまで治せば助かるんだ
「すまん、若いの…!!」
「余計な酸素消費すんじゃねぇ。…大丈夫だ、おまえは確実に助かる」
体をバラして内部で損傷している機関を修復する。
魚が何か言ってるが耳障りだ
全体的に重症なその体を治療しながらも
麦わら屋と型の異なる血液が大量に皮膚やら服に付着している事に気付く
火拳屋の血か…
手は止められねぇ
一刻を争う状況だ
ただ心の中で
一人の男に黙祷を捧げた
その魂が浮かばれる事を願って
キャプテンがもう一人でこなせるって言うから、オペ室からクルー達を連れて出た。
我らが船長の“一人で問題ない”はつまり
“邪魔だ出ていけ”。
折角手伝ったのにそれは余りに酷い言いようだ。
いや言われてないんだけどね。
でもキャプテンの心の内を、シャチとかベポも気付いてる。
「大丈夫かな、麦わら。」
「さぁ。キャプテンで無理ならどうしようもねぇんじゃね?」
心配そうにオペ室の扉を見つめるベポ。
そのオレンジのつなぎには大量の血が付着していた。
もしウイが大人しくしてなければ
戦う術も持たずにあの戦場に乗り込んでいたら
ああなったのはウイだったかもしれない。
そんな事を一人思ってぞっとした。
「副船長!どこ向かえば良いんすか!?とりあえずマリンフォードからは遠ざかるように進んでますけど。」
「どうしようねー。キャプテン今取り込み中だし。…どっちに進んでんの?」
流石のあのハイスペック男も同時にできる事の数は
限られる。
手が離せねぇ時くらい、たまには働くか。
「カームベルトまで最短距離で直進して。」
「了解!!」
なんか着いてきてんだよね。
人でも船でもねぇけど、さっきからずっと。
パッと見たところクルー達は
まだ誰も気付いてねぇ。
伝えれば騒ぐのは目に見えてるし
まだ尾行されているとも限らねぇ。
とりあえず酸素が持つ限界まで離れて
それでもキャプテンのオペが終わらなければ一旦浮上か。
あの竜みてぇな、蛇みてぇなの。
あれが野生の生き物で本能のままに光を追って着いてきてるなら
カームベルトには近付かない。
海王類の巣であるそこを、野生の生物は本能で知っている。
「気のせいだと一番良いんだけどね。」
「は?何が?」
きょとんと首を傾げるベポに何でもないと返事をして操縦室に向かった。
死んだらしいエース。
そして全世界に知れ渡ってるっぽいその事実。
なんでキャプテンが急にマリンフォードに行くなんて言い出して
それでいて麦わらの治療をしてるのか
いつものキャプテンでは絶対に考えられないその行動。
「…罪な女。」
キャプテンにこうさせたのはきっとあの、いつもけらけら笑ってる
破天荒な誰かさん。
結局キャプテンがオペ室から出てくることはないまま
船内の酸素濃度はそろそろ限界域。
「一旦上がろっか。」
「了解!!」
もうカームベルトに程近いというのに、未だ着いてきてるひょろ長い生き物。
…マジで勘違いだと良いんだけど。
「一応、…戦闘準備だけしといて。」
「え…こんな離れたのにっすか?」
なんでとでも言いたげな顔で首を傾げる能天気なクルー達。
余計な心配はしなくて良いけど、不意討ちでズドンは笑えない。
「すげぇ客乗せてっから一応。」
「あー…りょーかいっす!」
海面まではあと数分。
オペ中のキャプテンには話しかけないのが暗黙のルールだけど
これは言っとかないとヤバいやつ。
コンコン
「キャプテン、船内の酸素ヤバいから一旦浮上する。…なんかにつけられてっかもしんねぇ。」
「…こっちもすぐ終わる。数分で良いからもたせろ。」
そんな簡単に言われても。
どっちみちこのまま海底潜ってても窒息だからやるしかねぇんだけど。
「即死はなんとか回避するけど早くしてね。」
返事はなかった。
まぁ、集中してんだろう。
悪魔の実の能力とはいえルームの中の空間を、キャプテンは全部把握した上でミリ単位で意のままに支配してる。
死にかけの人間を救うその奇跡は、何の労力もなく成し得るもんじゃない。
…やるだけやりますか。
「副船長!!海面に船影が!!まっすぐこっちへ向かってます!!」
「そのまま真っ直ぐ浮上して。俺が合図したら旋回…あー、あれか。デカいな…」
恐らく軍艦。
キラキラと太陽を受けて輝く水面を、一直線にこっちへ向かってくるその船底。
ざわめき立つクルー達に戦闘準備をさせて追跡者に目を向ける。
それは浮上し出した俺らを見かねたのか、海面を乱すそれの元へと逃げていった。
これはきっと…嫌なビンゴ。
「旋回!500メートル全速力で逆走して浮上!砲口船影に向けて待機!」
「「「了解っす!!」」」
さて。
どうしようか。
勝たなくて良い。
沈められずにキャプテンを待つ。
あの男は嘘は言わない。
実際酸素の補充が済むまで凌げばこっちの勝ち。
俺らのキャプテンには軍艦一隻の攻撃を凌ぎきるだけの力がある。
「ルフィの容態はどうなのじゃ…!!」
「よく俺たちがここに浮上してくるって分かったね。海軍がまだ追跡して来たのかと思って肝冷やしたよ」
本当肝冷やしたわ。
まぁ、海軍本部の軍艦とのドンパチを免れられんならそれで良いんだけど。
「海底をサロメに尾行させたのじゃ。勝手に話題を逸らすな!ケモノの分際で!!」
「すいません…」
「打たれ弱っ!!」
初対面の人間にここまでふるぼっこにされるベポも珍しい。
一般的に女子供に受けが良いその見た目も、無敵ではないらしい。
普段腹黒いうちの航海士が泣きそうな顔で肩を落としてへこんでた。
浮上と共に先陣を切って甲板に飛び出した俺とベポ。
軍艦の船上に見えた囚人服になんとなくそこに乗ってる奴らに検討が着いてほっと胸を撫で下ろした。
こいつらはきっと麦わらの仲間達
敵じゃねぇ
多分大丈夫だと迎撃体制を取っていたクルー達にそれを伝えて回れば、ほっと安堵の息を吐いた顔が続々と外の新鮮な空気を吸いに出て来た。
俺もこいつらも戦闘は嫌いじゃない。
でも追ってくる可能性のあった戦力が桁違いにヤバすぎた。
キャプテンが手が離せないこの状況で本部の海軍とは流石にまだ当たりたくはねぇ。
それにしても…
「あの谷間に埋まりてぇ」
「分かる。寧ろ俺踏まれたい」
同じく甲板に上がってきたシャチと、ベポを罵る絶世の美女に胸を踊らせた。
すげぇ良い女
俺こいつ知ってる
アマゾン・リリーの女帝、ボア・ハンコック。
七武海の紅一点。