13-11
「っとに…どこ行った。アイツとジンベエ…」
「さぁな。知らねぇ。陣の向こうへ出るなと女帝達には言われてるんだがな…」
投げ飛ばされぶっ飛ばされた傷だらけのクルー達が戻って来た。
麦わら屋をどうにかしろとは言ったものの、その対象に何が起こったかをわかってるだけに
理不尽な役目を言い渡されたこいつらの顔もどこか神妙だ。
「いやー…しかしここが噂に聞く女ヶ島。」
「男が踏み込んだら石になって帰れねェって聞いてるけど。…命を賭ける価値はあるかもな。」
「本当に女だらけの九蛇海賊団…!!い〜い匂いだったなァ〜〜♡」
前言撤回。
「夢の女人国…覗いてみてぇなァ♡」
「死ぬぞ、おまえバカだな♡」
こいつらの頭の中は基本こんなモンだ。
「メスの熊いないかな」
「「女“人”国だよ!!」」
「すいません…」
アホらしい。
ギャーギャー煩ぇクルー達を呆れた目で見やりながら
ふと思うのはウイのこと。
ベガス聖の話によれば、ウイも泣いて喚いて暴れて
散々な様子らしい。
…なぜだ
おまえはダチなら誰でも
死ねばそんな風に取り乱すのか?
考えたくもねぇ可能性は
何度振り払おうと頭を過った。
麦わら屋の気持ちも
ウイの気持ちもわかる。
わかるからこそ、自分がコラさんに抱く気持ちと
同じ物を火拳屋に重ねているだろう事がわかるからこそ
黒い靄が晴れない。
ボウン!!
ギャオオォ…!!!
「なんだァ!?」
「…なんかねー、デカイ海王類が…沈んで浮いた」
自然現象とは思えない物音に眉根を寄せれば、双眼鏡を覗き込むペンギンが沖合いで起こったことをただありのままに述べた。
「死んだ!!何かにやられたぞ…!!」
「あのデケぇのが…!?」
「相手の生物は!?見えたか!?」
ペンギンにちょっと見てよと覗かされた双眼鏡の先には、口をあけ息絶えた事が見て取れる海王類。
急に沸騰でもしたように、あの狂暴ででかい海王類が突如命を落とすもんなのか。
おっかねぇ海だ。
「!?」
停泊しているポーラータングの脇で水飛沫が上がる。
何かが上陸してきたことは明らかなその様子に
クルー達がどよめいた。
「え!?人!!?」
「おい!おまえ誰だ!!!」
「いやあ参った。」
海中から顔を出したのは、人
遠目にはどこのどいつだか検討もつかねぇが、何でもねぇことのようにこの島に顔を出したその男の声には聞き覚えがあった
「おお、キミ達か…シャボンディ諸島で会ったな」
「え〜〜!?“冥王”レイリー!!!」
シルバーズ・レイリー
海賊王ゴールド・ロジャーの右腕
その副船長をも努めていたこいつとは、確かにあの島で顔を合わせた
ヒューマンショップで、すげぇ覇気を撒き散らしやがった
それだけじゃねぇ
今もそうだがこの呑気なジジィには、隙が全くねぇ
「いやいや…船が嵐で沈められてしまってねぇ…泳ぐハメになってしまった。思う程体が動かんものだな。年をとった」
「じゃあさっき海王類と喧嘩してたのも…?」
「あんたか…!!!」
能力者じゃねぇのか
泳いで来たとも言ってやがるし、実際に海から顔を出した
海賊王の船のナンバー2
現役の頃は今以上の実力を持っていただろう
悪魔の実の力に頼らずとも、上には行ける
やはりここから先の海では覇気が必須
そういうことか。
「あぁ…そうそう。ルフィ君がこの島にいると推測したのだが」
「!!?」
今はシャボンディでコーティング屋を営んでるらしいこの男
一線から退き長閑に余生を過ごしているかと思えば、やはりただそれだけではないらしい。
「てめぇ、何が目的だ…?どうやってここを割り出した」
「ははっ!そう睨むな!…約束しよう、“敵”ではない」
推測、直接それを耳にしたのではなかったとして
このジジィはどこで何を聞いた…?
それはどの程度の人間が入手できる情報で
海軍がここを見つけ出す確率はどれ程のもんなのか
「私が守ろう。選手交代だ」
その目に、嘘はないように見えた
そしていくら衰えていようとこの男は俺らよりも強い
麦わら屋も、暴れさえしなければ後は勝手に回復する
こっちもいつまでもここで油を売ってる訳にはいかねぇ
「2週間。その間だけは安静にさせておけ」
「必ず伝えよう。…もう行くのか?」
岩に腰掛け濡れた服を絞るジジィは、呑気に首を傾げる。
「あぁ、こっちも暇じゃねぇんでな」
「武運を祈ろう」
急な出航に不満を溢すクルー達を睨み付ければ、しぶしぶながらも準備をしだした。
「勿体ねぇじゃん。あそこまで行ったのに」
「入ってみたかったよなー、女人国…」
潜水後、相変わらずクルー達もとい主にペンギンとシャチなのだが
その話題は女ヶ島のことばかり。
「熊いないなら、別に。」
「「うっせぇおまえ!!」」
煩いのはどっちだと舌打ちをする航海士の白熊は、自分が人ではない事に関わる罵り以外には打たれ強い。
冥王は何をする気なのか
何かに誘われるように助けたその命は
今後俺に、世界に
何をもたらすのか。
「そういえばキャプテン、これからどこ向かうの?とりあえずカームベルトから抜ければ良い?」
この辺りの海図を広げて、現在地の目星をつけているベポ。
海流なんて存在しねぇこの近辺の海図は、それはさっぱりしたものだった。
「マリージョアだ」
「…!!アイアイ!キャプテン!!」
目的地を聞いた途端に目を輝かせた航海士が、意気揚々と操縦室に駆け出して行った。
さて。
ここから一週間ってとこか?
あいつは今、どうしてるだろう。
ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
丁度ウイのことを考えていた折に鳴り出したでんでんむし。
その音の出所に目を向ければ、それは何かあれば連絡しろと伝えておいた能天気な天竜人の姿を真似ていた。
「俺だ」
『ウイが逃げたえ!今なにやってるえ!?』
出て早々、騒々しいのはもう慣れた。
それにしても
…逃げた?
「こっちが片付いたから今向かってる。どういうことだ」
『あれから色々あって何とか立ち直ったえ。私とロイのおかげだえ!感謝するえ!』
聞きてぇのはそこじゃねぇ。
がしかし、聞きたい本筋ではなかろうとそれは
何をしているのか気になる人物の話であることに違いはない。
立ち直ったらしいウイは、俺らが迎えに来ることを聞いて
“マリージョアに来るのは危ないから”とそこを発ったらしい。
…その動機なら、こっちに連絡を寄越すのが自然の流れ。
「おい、切るぞ。ウイから連絡が入るかもしれねぇ」
『あっちもこっちも揃いも揃って自己中だえ!わかったえ!達者でやるえ!』
天竜人に自己中と称されるのは中々貴重な経験。
すまねぇなと一言添えて通信を切った。
鳴る気配のないでんでんむし
今はまだ、待つべきか…。
「だからごめんってばー。」
『ごめんじゃねぇよ!おまえはいつもそうやって…──』
長い。
いや、私が悪いんだけど。
でんでんむしにも出ずにずっとやさぐれてたから。
『電話出るくらいできんだろ!!こっちは何かあったんじゃねぇかって!!くそほど心配したんだからな!!』
「うん。本当にごめん。」
アオイって
凄い口悪いけど顔だけ見たらどっかの王子様みたいに可愛い顔してるよなー。
くそほどなんて絶対言わなそうな顔。
ぎゃんぎゃん喚く電話の相手の声が大きすぎるのはいつものこと。
こんなに受話器を離しまくって、頭の中じゃこんなこと考えながら話してるなんて事が知れたら、
更に声のボリュームは増すんだろうな。
だって、しょうがないじゃん。
本当にでんでんむしどころじゃなかった。
エースが捕まった時は、なんて話せば良いかわからなくて敢えて無視してしまってたけど
昨日までの私はそんなこと考える余裕なんてなかった。
謝っても止まないお説教。
これはもう
気が済むまで怒られるに限る。
『まぁまぁ。つらい事があったのは事実なんだから、あなたも程々にね。』
天の助け…!!
電話口から聞こえてくるソニアの声にお先真っ暗お説教コースの終わりが見えた。
『もしもし?私だけど。…大丈夫?』
「…うん。だいじょばないけど大丈夫。ごめんね、沢山心配とか迷惑とかかけて。」
何者かの手によってでんでんむしから引き剥がされたアオイに代わって、労りの言葉をかけてくれる我らがギルドマスター。
アオイにも、カレンにもディゼルにもシュウにも
沢山心配かけたと思う。
でもソニアには、その何倍も心配かけた。
頂上決戦に乗り込んだことも
私がエースを好きなことも
知ってるソニアは特に私を心配してくれた筈。
『周りのことなんて気にしなくていいわ。自分の事でいっぱいいっぱいでしょう?』
「だったんだけど、ベガス聖とロイに色々励まして貰って…、頑張ろうって思えるように復活したからもう平気!」
努めて明るい声でそう言い切った。
大丈夫
平気
頑張る
それは私の心を表す言葉じゃなくて、暗示。
言葉にする事でそれは、そうであれと私を奮い立たせる。
『そういえば。どこかの副船長さんがいつか言ってたわね。こんな時のウイには仕事沢山任せて考える時間を与えるなって』
「…そんなこともあったね、懐かしい。良いよ!仕事頑張る!!沢山お休み貰っちゃったからその分働くよ!」
もう2年になるのか。
あの時も私はどん底だったな
今思えば、なにをその程度の事でって呆れてしまう
永遠の別れでもないのに
あの時の私は本当に悲しくて寂しくて
皆と離れたくなくて仕方なかった
そんなことよりも
悲しい事なんていくらでもあるのにね
若かったってこういう事を言うのか。
でもそうだ
仕事で忙しければ、寂しさも悲しさも
考える暇がない
忘れたい訳じゃない
でも、今は考え過ぎない方が良い
忙しくしてた方が良い気がする。
『カレンとアオイをそっちに向かわせるわ。覚えてる?結婚式をプロデュースしたいって昔カレンが言ってたこと』
「覚え、てるけど。…あれ本当にやるの?」
結婚式
確かにそれは私が合流してすぐの頃、カレンがやりたいって言ってた事
楽しそうだなって、そう思ってたけど。
今このタイミングでそれは、なんだか正直気乗りしない
女の子の憧れでもある結婚式
あの時の私は少なからず、それをプロデュースするなら自分がしてみたい事っていう方向性が確かにあった。
でも今は、その夢を叶える相手が
私にはもういない
『次は私が休みを貰うわ。そうなるとディゼルには本部に居て貰わなきゃ成り立たないし』
「そっか。ごめんね、予定より長くお休み貰っちゃって」
出来るのかな
自分には訪れない幸せな恋人達の門出を祝うセレモニーのプロデュース
今の私にそんなこと、思い付けるのかな。
『煩い二人を押し付けて悪いんだけど。騒がしいのも悪くないでしょ、今のあなたなら』
『ちょっ…それどういう意味よ!!』
『俺はウイを励ましに行くんだろ!?押し付けるとか!!押し付けられるの間違いだろ!』
…本当に
ソニアには叶わないな
このタイミングで休みを取るのも
新しいプロジェクト、それも結婚式のそれを今始動させるのも
このメンバーで原案を考えるのも
「オッケー!待ってるね!!」
きっと何か思惑があるんだ。
私の上司は、間違った判断はしないから。