13-16



「あ、あの…ね!えっと…、私が誘って採寸に行ったんだよ!ジャンバール悪くない!」
「…んなことわかってる」








…でしょうね。









沈黙が耐えきれなくて
なんか居たたまれなくて
それを打ち破ろうと口をついて出たのはそんなどうでも良い話。


話の流れはさておいて
私の発言への返答と共にこっちに向いたその顔がなんだか見られなくてぱっと目を逸らしてしまった。













…あれ言っとくか。
いつかは言わなきゃいけない。

折角リスクを承知で得られた有益そうな情報。
何もなかったとはいえローに伝えなきゃまるでその意味がない。


それにこの場の雰囲気を変えるならあれが一番な筈。





そう思って、重い口を開いた。





「あのね、私──
「久々に揃ったんだから何かしようぜ!!何する?」


タイミングが被ってしまったシャチを押しきって最後まで言葉を続ける事は、できなかった。





ドフラミンゴの話。
しなきゃなって思ってたんだけど。

人数多いなら麻雀かって、そそくさと準備を始めるシャチに流されるように
顔が笑顔を作る。


ご飯の時も、今も感じてるその視線に
応える事は出来なかった。















することがあるから、その場は賑やかに滞りなく過ぎていく。

こんな時でも麻雀は楽しい。
相変わらず弱すぎるベポとシャチからたんまり点棒をいただいて、いつもの如く私とローのトップ争い。

麻雀の流れでなら、ローの顔を見るのは平気だった。




「ローさんローさん、さっきからツモ切り目立ちますけど張ってますか」
「切りたきゃ切れよ。確認するって事はおまえもそれ切れりゃ張れるがデカい手進むんだろ」


いやもう
ペンギンも危な過ぎてさっきからずっとベタ降りなんだけど。


勝負ではこの状況は全く喜ばしくない。
でも自然と会話ができることが、なんだか嬉しかった。






「俺もう安パイないからウイちゃん道切り開いて。キャプテン絶対張ってっから。これはもう絶対張ってっから」


よく言う。



さっきから振り込んですらないものの
ペンギンは結構危険牌をズバズバ切ってる。


こっちも高いか…


降りながらも回って回って更に回って
なんとか平和のみの三面張まで一向聴。

待ちは広い。
けど安い。

上がって流せるならそれに越した事はないけど、果たしてこれは通るのか…





邪魔な“北”を手元でくるくると弄ぶ。

河に一枚だけ見えてるそれは
鳴きなしでダマでツモ切りし続けるローにも
“中”でひと鳴きしてからそんなローに全突っ張りな捨て牌をかますペンギンにも危険過ぎる。








…やめた
ここはもう降りよう。


“北”を手牌に残してローとペンギンに安パイなそれを捨てる事は
上がりに行くのを諦めたという事。


私が河にそれを切ったと同時に山から牌をツモったベポが、ニヤリと口端を吊り上げた。


「リーチ!」
「えー…マジか」


ペンギンの発言と心の声が被った。

いくら巧くないベポだって
流石にこの状況ならローとペンギンが張ってる事くらいは読めてる筈。


ってことはこっちも高いのか。


事実上の追っかけリーチ。
ふんふんと鼻を鳴らしながら手元の牌を並び替える白熊に、片鼻の脇がひくひくと引きつった。










白熱した戦いが繰り広げられるリビング。


途中でどんどん増えていく参加者に
気付けば麻雀卓は3つになってて

人が増えればローと同じ卓になることも少ない。

皆となんて事ない話をしながら
ちょっとでも笑えそうなタイミングを見計らっては思い切り笑って

楽しいんだけど、なのになぜか心は虚しくて


その気持ちに気付かないようにまた笑って







疲れるなって感じたの。


ハートの海賊団の皆は大好きだ。


でも一人になりたい
作り笑いをしなくても良い所に行きたいって

夜の戸張が降りてくる窓の外に
何度も目が奪われた。






「相変わらずのバカツキ具合だな」
「運も実力の内でしょ?」


卓が3つもあって、どこも基本勝ち残りルールで進んでるのに
負けと縁遠いこの人と私があぶれるなんてどんな偶然だろう。


「次おまえどこに入る」
「直接捲る気?…狙い打ちにする気満々な人とは同じ卓で打ちたくないな」


戦績をメモした紙に目を落としては、今も打ってる3位のペンギンの手配を後ろから覗き込んでるロー。


今のローの頭の中は麻雀の事でいっぱい。
そう思ったら、その顔を伺い見ることにそんなに抵抗は感じなかった。


自分とペンギンの点差を計算しながら
どの位までなら負けても捲られないか。


きっと私を捲る為にどこまでリスクを侵せるかをこの良すぎる頭はシミュレーションしてる。


私に向く事はないその真剣な目。
負けず嫌いで、難しい確率の計算をいくつも重ねて
頭の中はそれでいっぱい。

そんな横顔を見てたらなんだか
心がぽかぽかするみたいな、温かい気持ちになった。


分かりやすくあーだこーだ言う事はないんだけど
この人は勝負事が大好き。


相変わらずだ。





「どうした、にやけた顔をして。そろそろ夕飯の準備するがまだ打ってるか?」
「に、ニヤけてないよ!…ご飯一緒作る!教えてくれるって約束したじゃん!」
「…逃げんのか」 


にやけてたのか。
…いかんいかん。


ローと並んで座ってたソファーから立ち上がって、夕飯の準備をするから抜けるというジャンバールに私も行くって伝えた。


面白くなさそうな顔で見上げてくるローは
直接私を負かして1位になりたかったんだろう。


悔しそうな顔に、精々頑張ってねってイタズラ心を忍ばせた笑みを送ってリビングを出た。


シャチをたまにはご飯当番から解放してあげよう。
ジャンバールと二人でお料理。


麻雀も好きだけど、それってなんか凄く楽しそうだから。






「わー!旨そう!!」
「見たことねぇのがある!」


麻雀が終わったのか
ガヤガヤと食堂に雪崩れ込んでくる喧騒。


「もうちょっと待っててねー」
「「「「はーい」」」」


手巻き寿司とかじゃなくても、大所帯になりすぎたハートの海賊団の食卓は普段も大皿に盛ってセルフでどうぞスタイルになったらしい。

彩りにトマトを散りばめたサラダに、たっぷり盛り付けた豚しゃぶ。
大皿に盛り付けるとド迫力。


柔らかく豚しゃぶを茹でるコツを教えてあげたら、ジャンバールは食い入るようにそれを聞いてた。


「肉を入れたら火は止めるのか。…なるほど。確かにこれは柔らかいし旨い」


火加減とかそういうのは手際は良くても拘りのないシャチは気にしなそうだし
独学でお料理始めたてのジャンバールにとっては盲点だったらしい。


灰汁を取った煮汁も、旨味を逃さないように卵スープに使い回して
筑前煮やらじゃがいものカレー炒めやら変わり種冷奴やらって

品数も多い食卓の上は賑やかだ。


「飯よそっちゃっても良いっすか?」
「良いよー!ありがとう!」


豚しゃぶに叩き梅乗せちゃいたかったんだけど
ローに恨みがましい目で睨まれるんだろうから別掛けスタイルにした。


ポーラータング号がカウンターキッチンなのは、フリーウィングの影響なのかな。


ご飯の準備をしながら、食卓で賑やかに戯れてる皆の様子が見えるのは何だか幸せな気分になる。


完成したてのポーラータング号を見せて貰った時は凄く大きな船だなって思ったのに
今や人が増えすぎてジャストサイズだ。


色んなことが進んで、変わっていく。


「ウイ?どうしたぼーっとして」
「あぁ、ごめんごめん。私たちも行こっか!」


いかん。
しんみり浸り過ぎた。


お料理仲間と隣同士の席に着いて、皆で手を合わせて“いただきます”の挨拶をした。


昼間と同じように戦場へと化す食卓。


どんだけ食い意地張ってんのよって思いつつも

作ったご飯をを我先にと奪い合う皆の姿を、嬉しいねって台所の友に耳打ちした。


厳つい顔の大男は、そうだなって
穏やかな顔で頷いてくれた。






「これ昼間の梅っすか?旨っ!」
「そうなの。ジャンバールに作り方教えて貰ったの!」


豚しゃぶを口に放り込んだと思ったら、もりもりに箸で掬いとられたご飯がそれを追いかける。


良い食べっぷりだ。


皆の取り皿の上には、意外にもお肉だけじゃなくちゃんと野菜やらもバランス良く乗ってる。


隣の隣に座ってる船長さんのお皿の豚しゃぶには勿論梅は乗ってなかったけど。


「皆意外と野菜も食べるんだね」
「怒られたんすよ!人増えて来て飯が大皿になってから!」


返事をしてくれながらも食べる事は止めないエイジくんが言うには
やっぱりセルフでどうぞってなったばかりの頃は皆肉ばっかり我先にと奪い合って野菜とかは残ってたらしい。


「野菜は日持ちしないから次いつ食えるか分かんないのに肉やら魚ばっかり食って何かの欠乏症になっても治療はしねぇからな!…だったかな」
「お医者さんにそれ言われると確かにおっそろしいね」


私に会うまでパンとか干し肉とかお酒ばっかりだった癖によく言うよ。


皆と別れる前に話した日々の食事の話。
ローは離れ離れになった今もそれをしっかり守ってくれてる。


「これ旨いっすね。ジャンバールこれの作り方覚えた?」
「あぁ、問題ない。…懐かしい味だな」


故郷の味とか、そんな感じなのかな。
筑前煮。


私は家に居たとき、こういうのは出てこなかったけど
海に出たばっかりの頃お世話になった島の人達のお家で教えて貰ったのがこれだった。


「懐かしいか?シャチの母ちゃん作ったこういう煮物くそ程マズかった覚えしかないけど」
「反論はしねぇけど酷ぇ言い様だな」


出た。
ペンギンのシャチのお母さんの料理下手ディス。


…これも懐かしい。


中でも酷かったらしいカチカチのハンバーグ話を面白可笑しく話すペンギンに皆が爆笑して
シャチはどこか照れ臭そうにそれを聞いてた。


ペンギンとシャチはもう、家族よりも長い時間を一緒に過ごしてて
きっとこの先もずっと一緒に居るんだろうなって


この二人の関係性が羨ましくて
とても尊いものに見えた。




destruct at reality.