13-18



なんなんだ
本当に。


ウイも
ペンギンも


「あーあ。知らないよ?…なんかさ。キャプテンとウイが揉める度にペンギンには一泡吹かされるよね。普段あんなんなのに」


ベポも。






「何の為に離れたと思ってる。アイツから寄ってったら意味ねぇだろうが」
「それウイ知らないんだから仕方ないじゃん」









…まぁ、確かにそれもそうだ。


にしても、それにしても、だ。
俺はアイツに言ったぞ。


ドフラミンゴが自分の野望の為なら弟ですら平気で殺すような男だと。
俺らがアイツの首を捕る為にどれだけ慎重に動いてんのかだってわかってる筈だ。


「ウイだってキャプテンの為にって思ったんだと思うけど?…まぁ、確かにあの向こう見ずはいただけないよね」
「いつか死ぬぞアイツ。今回ばかりは事情も事情だ…見過ごせねぇ。…なのになんだアレは。まるで反省の色がねぇ…!!」


どれだけ守ろうと手を尽くしても
これじゃ意味ねぇだろ。


っとに…!!


腹が立つ。

こっちがどれだけ我慢してると思ってる。
どれだけ念には念を入れて準備してると思ってる。


「苛立ってるとこ悪いんだけどさ。キャプテン前にウイのこと泣かそうとしてたことあったじゃん」
「…?あぁ」


それがどうした。
なんだ急に。


「なんで泣かせたかったの?…ウイの本音が聞きたかったんじゃないの?」


据わった目で睨みを利かせながら淡々と話すコイツは
きっとキレてる。





…なぜおまえまでキレる。


「さっきも無理して明るく振る舞ってるウイに、頼んでねぇって言ってたけど。…アレは弱いとこも晒け出して欲しいって意味じゃなかったの?」





ただ隠されるのが気にくわなかった。
悲しいなら泣けば良いと思った。

肩でも胸でもいくらでも貸してやる。



頼られてねぇんだなって
出会ったばかりの頃によく見た取り繕った笑顔を貼り付けたウイは
正直面白ぇもんじゃなかった。


勝手にそれをして
それでいっぱいいっぱいだ?

じゃあ泣けよ。
我慢なんてするな。
何で今更それを隠す必要がある。


隠さなきゃいけねぇ事か?
言ったらマズい事でも…あンのか?



きっと気が立ってたのは俺も同じ。
ウイに合わせて普通にしてやってても
アイツは意図的に俺と目を合わせねぇ


気付かねぇふりしてても
ずっとそれが不満だった


「キャプテンが見たいウイの本音ってさ、結局“自分に都合良い本音”だけでしょ。あれだって立派なウイの本音だよ」





















「ちゃんと話す気ないならもう好きにしたら良い。ニシキの時も思ったけど…ペンギンのがウイのこと幸せにしてくれそう」













何も言い返せなかった。
この白熊はたまに痛い所を突いてくる。


ギロリと睨み付けたその顔は、どこか蔑んだように目を細めてこちらを見下ろしていた。


「盗られたって知らないから」








ふんと鼻を鳴らして出ていったベポは、きっとリビングでなに食わぬ顔で麻雀の輪に入りこむんだろう。


ペンギンがウイのとこでなにやってんのか
何を話してんのか
それを考えただけでまた腹の底が煮えくり返る。







「…なんつーか、ドンマイキャプテン」
「状況があまり読み込めないが…色々と災難だったな」


憐れむような視線を投げ掛けてくるシャチとジャンバールにすら苛立ちが沸いた。


「まぁ。俺はわりかし全員の言い分、わからなくはねぇけど」
「ウイは意外と我が強いんだな。目の前で椅子蹴り飛ばす男相手にアレだけ言えるのは大したものだ」


…アレは確かに正直驚いた
あんなウイは初めて見た


でも予想した反応はあれじゃない


ベポの言う通り
思い通りにならないことに
言うことを聞かないウイに腹が立った











「…寝る」
「はーい。おやすみキャプテン」
「ゆっくり休め」


俺もきっと、頭を冷やした方が良い。


大丈夫だ
ウイはヤケになってるとしても何かしでかすような女じゃねぇ
ペンギンだってその辺りは弁えてる


一晩くらい放っておいたところであの二人に何かが起こる事はねぇだろ。









本当にねぇ…のか?






乱暴に閉めたドアの音すら耳障りに聞こえて舌を打つ。


例え今フリーウィングで何が起きていようと
今の自分にはどうこうできる余裕なんてない。


もう寝よう






…疲れた。







…むかつくっ!!!





何!
何なの!!

怒るとは思ってたよ!!
あぁわかってましたよ。



でもなに!!
なにあの言い方!!


どうせ自惚れ屋の勘違い馬鹿女ですよ。









イライラが収まらない頭で電気も付けずに冷蔵庫からシードルの瓶を引っ張り出す。











なに自惚れ屋って!!
私何に自惚れてた!!?
危ないってわかってたからちゃんと色々準備したんじゃん!!


不規則な波みたいに
前兆なく燃え上がる怒りの炎。





キュポンっ


思い出しただけでわなわなと震え出す手で思い切りコルクを引き抜いた。



「っぷはー!!…旨っ!」










苛立ちをぶつけるように傾けた酒瓶は
炭酸なのに一口で半分以上が消え去った。


喉がピリピリする。
分かんないけど、なんか達成感。







大体何なの。
瓶テーブルに叩きつけたり椅子蹴り飛ばしたり!!


あれは何がしたいの。
俺は強いから言うこと聞けと?


ただの八つ当たり?
は?


大体なんでいつもいつもいつもいつも私の行動をローが決めるのよ!!
文句言うのよ!
制限するのよ!!






…関係ないじゃん、ローには。











「ちょっと聞いてよ。酷い。酷すぎる。あんな言い方ってない」

──不能野郎に何か言われたか?







いや



不能ではないんだよ。
きっと恐らく。

でもなんか今腹立ってるからそれでも良い気がする。


「不能野郎に馬鹿とか、勘違いすんなとか、自惚れてるとか…とにかく酷いこと凄い腹立つ言い方で言われたの!もう…ほんっとムカつく!!!」

──ウイ馬鹿で勘違いで自惚れ屋なのか。ウケんな!


瞼の裏で、そばかす顔の大好きな人は
人を指差しながらけたけた笑ってた。

 






笑い事じゃない。
なんで自分の想像なのに上手くいかないの。


アレだ。
エースがそんな人だから。
そんな人過ぎるから…!!


人が怒っててもそれを指差して笑ってるような


…そんな人だった。









「エースは喜んでくれたのにね」

──ん?



どうしたって振り向くエースの顔が
あまりにも本当にそこにいるみたいで。


けど思わず開いた目に映ったのは








誰も居ない夜の、暗い海だった。






「…エースはあんな頭ごなしに怒鳴んなかったじゃん。助けに行った時も、パパと初めて会った時も…喜んでるの駄々漏れだった」

──それは俺、褒められてんのか?バカにしてんだろ。


目を閉じればまた浮かんでくる苦笑いするエースの顔。

からかってるけどそんなとこ嫌いじゃないよって
心の中で返事をした。


エースは危ない事した時だって、あんなに一方的に怒ったりしなかった。


なにやってんだって形式上怒ったりもしたけど
それでも私の気持ちを汲み取ってくれて

それを嬉しいと思ってくれてるのがちゃんと私に伝わってた。












ここに居てくれたら良かったのに。







暗闇で光を放つエースと私の距離は、とてつもなく遠い。

むしゃくしゃして八つ当たりしたくても
おまえは悪くないって慰めて欲しくても


今ここにエースは居ない。








「早く迎えに来て…もうなんか、やだ…」






















「やーい。おっこらーれたー」









突然聞こえてきた声にびくりと肩が震えた。















「…なんで?」
「なにが?」


なにがじゃないよ。
わかってる癖に。


なんでここに居るの?
ローに怒られるよ?


「ウイ星好きだったっけ?」
「……大好きだよ」


蒸し暑いからか、つなぎの上半身を脱いで袖を腰で結んでるペンギンは
器用に腰のポケットに手を突っ込みながら顔を覗き込んでくる。





ねぇエース。
さっきのは惚気に入る?











あの醜態を掘り返されたい訳じゃない。
でも何も言わないペンギンに、逆に居心地の悪さを感じた。



「…ちゃんと謝れとか、そういうの言いに来たの?」
「謝りたいなら謝んなさい。謝りたくないなら、無理に謝る必要ないでしょ」



沈黙に耐えきれなくなって
ローの弁護をして、でも私も悪いからちゃんと謝れって
そう切り返される覚悟で口を開いた。


開いたのに。








返ってきたのは真逆の言葉。


一口ちょうだいって、私の手の中のシードルをひょいと掠めとるペンギンは
なに考えてるんだろ。


何のために
何を言いに来たんだろう。




「仲直りしろとか…そういうの言いに来たんじゃないの」
「別に?いいよそのままで。納得出来ないのに形だけ仲直りする意味ってある?」


…いや、まぁ。
その通りだけど。



ペンギンはハートの海賊団の一員で、副船長。
ローを支える人であって、その右腕。


絶対宥められると思ったのに。
心配過ぎて怒ったんだから、そこは汲み取ってやれって。

あんな言い方したのも、威嚇するかのように物に当たったのも
心配するが故だって


そんな弁護が返ってくると思ったのに。







「ちゃんとバランス取ってね」
「え?…って!!何してんの!!?ちょっ!!わぁ!!」






















「物欲しそうに見てたから。こっちのが近いでしょ。お星様」
「…いや、近く…なったんだけど…さぁ…」











ぐんと感じた重力と
自分以外の人が体を支えてるっていう、このちょっと不安な感じ。


なぜ急に肩車なんてし出したのか…
本当にペンギンは訳が分からない。


意味不明。
何し出すか予測が付かない。



人一人肩に乗せてる癖に
何て事ないように口笛を吹きながらあやすように甲板を歩き回るこの人は本当に

何がしたいんだろう。


「ねぇ、降ろしてよ」
「なんで?ほら、高い高ーい」







…だめだこりゃ









仕方ないなってため息を吐いて、折角だから近くなった星空を見上げてみた。


ペンギンが背が高いからって
どうせ人一人分

少し目線の位置が変わっただけなのに
周りに遮るものがないせいか星に包まれてるみたいに感じた。


小説とかではさ
こういう時、自分の悩みが凄くちっぽけに見えるとか
リフレッシュできるって言うけど





胸の中のモヤモヤは全然収まらない。





「ねぇ、ペンギンまでローに怒られるよ?」
「もう怒られたよ?俺が甘やかすからウイちゃんは調子に乗るんだって」








はぁっ!?











「っんなの!!本当に!!調子乗るとか自惚れとか!!ローは私を何だと思ってんの!!」
「えーっと…なんだっけ?…あぁ!自惚れ屋の勘違い馬鹿女!…そうだそうだ」


中々ネーミングセンスあんじゃんってけらけら笑ってるペンギンを見てると


なんか…
それに腹立てて怒ってるこっちが馬鹿みたいじゃん。


destruct at reality.