13-19
「…ペンギンも、そう思う?」
「え?…んー、見ようと思えば見える程度のギリギリのラインを攻めたよね。絶妙。お上手」
いや…
そういうこと言ってるんじゃないんだけど。
でも見ようと思えば見えるのか。
やっぱそうなのか。
怒られるってわかってたしな。
わかっててやったのは事実。
こういうので怒られるのも初めてじゃない。
確かに学ばないな。
私は。
…ドフラミンゴが危険人物だってわかってた。
ローとの繋がりがバレたらより危ないって、それもちゃんとわかってた。
でも危ないからこそ
そんな人を討つのに手を焼いてるって知ってたからこそ
それでも諦めないローだからこそ
私にしか出来ないことで役に立てたらなって
それがローの助けになったら良いなって思ったのに。
「いっぺん死ななきゃわかんねぇのかってとこは同感。…本当に、危ないことはもうやめて欲しいです」
「…結構極秘っぽい情報手に入ったんだよ?それ知らなかったせいで皆が…死んじゃったりしたら!そっちのが私はやだ」
私は弱いけど
戦う力がない人は人の心配することも許されないの?
「やでもダメ。ウイちゃんも一応女の子なんだから、守られる事に慣れなさい」
「男女差別。…悪いことじゃないじゃん。情報得られる事は」
男だからとか
女だからとか
そういうのは使いたい人が自分の行動を正当化するのに使えば良い。
それを理由に人に何かを強要するのは押し付けだ。
男とか女とか、自分でどうにもできない事だし
そもそも男女のこうあるべき姿って、人によって違うでしょ。
きっとすごく不満げな顔してて、納得できないのが伝わってたんだと思う。
「じゃあ女だから守られろじゃなく、好きな女守りたい男心尊重してって言えば聞いてくれんの?」
「…あんまし変わんないじゃん」
はいはいって呆れたような声が聞こえてきて
掴まれてた膝はポンポンってあやすように叩かれる。
子供扱い
まるで駄々をこねる子供の面倒でも見てるかのよう
駄々こねてる訳でもわがままでもないのにって
悔しくなる。
でも今の私はとんでもなく面倒臭いんだろうなって思うのに
見放されないのも
こうして傍に居てくれるのも
ありがたいなって思った。
「じゃあ論点を変えてみましょう。キャプテンは情報とウイの安全なら、ウイの安全の方が欲しいと思う」
船縁に沿って歩くペンギンは、たまに私を海に落とすような素振りを見せては脅かして来たり
急にくるって回ったりしてビビる私を見ては楽しんでた。
「誰かの為に何かしたいなら、その誰かが一番望んでる事が何かって。そこ考えてあげることは出来ないの?」
「…はいはいわかりました。…ごめんなさい」
言い方は違えど言われてる内容はきっとローと変わらない。
それなのになんでペンギンに言われるとすんなり心に沁みて
悪かったな、至らなかったなって思えるんだろう。
「よしよし。素直素直。良い子良い子」
「バカにしてるでしょ」
馬鹿女なんでしょ?ってこっちを見上げて目を細めるこの人は本当に、大人だ。
普段不真面目でしかないのにお説教が上手。
怒られた後に嫌な雰囲気を残さないのも上手。
…敵わないな
「でもキャプテンも悪いから。半分八つ当たりでしょアレ。…腹立ったんだろうねー。心配なのと、色々都合も…あっからねー」
「なにその色々な都合って」
そんな自分の都合であんな言い方されたんだったら更に腹が立つ。
私も悪かったとは思うけどさっきの言われようはやっぱりムカつく。
それへの憤りは収まらない。
「それは内緒、約束だから。でもウイにとっては悪くない事なんじゃない?」
「は?悪いでしょ。最悪でしょ。なんでそんなローの勝手な都合で怒鳴られたりしなきゃいけないの」
意味わかんない
なに
もう
このモヤモヤどうしたら良いのよ
「初めて見た」
「あ?」
下から感じた視線に凄い形相で応じれば
目があった途端爆笑された。
なに。
もう、今さらこの不機嫌さを隠す必要もないでしょ。
「ウイも怒るんだーって。ねぇ知ってる?人って全く思い当たる節のない事言われても腹立たないらしいよ」
ペンギンは、私を元気付けに来てくれたんじゃないんだろうか。
黙りこくった私を、してやったりとでも言いたげに見上げてくるその顔から
居たたまれなくて目を逸らした。
…確かに
あるんだろうな。
思い当たる節が。
あの腹が立って仕方ない暴言の数々は私の事だっていう
自覚が。
そっか。
なんか納得したくないけど納得。
皆の前でずっと気を張ってて
色んな事考えてて
頭がいっぱいいっぱいだった。
そんな中で更に問題事増やされて、処理しきれなくて
私もムキになっちゃったとこはあると思う。
でも本当だ。
私気を付けるから大丈夫って過信して
今のところ何もないからって安心して
調子に乗ってたかもしれない。
「ウイちゃん自分より可愛くない女にブスって言われても腹立たないでしょ。それとおんなじ」
「他になんか例えなかったの」
わかりやすいと思ってって、おどけるこの人は本当に私と物の見方が違うんだな。
タイミング良くかかってきたドフラミンゴからのでんでんむしに
見張られてるかなって肝を冷やした事があった。
どうしようって。
エースの事があって忘れてたけど、取り返しのつかないことしでかしたんじゃないかって
怖かったし
ほんの少しだけ後悔した。
…そっか。
思い上がりも
自惚れも
勘違いも
本当はわかってるけど
そんな人だって思いたくなくて、知られたくなくて。
だからそれを皆の前で指摘されて腹がたったのか。
でもやっぱりあそこまで酷い言い方する必要ってあった?
…私も悪かったけどローだって絶対悪かったと思う。
「謝った方が、良いのかな…でも、やっぱりあそこまで言う必要…ないんじゃないかなって、思うんだけど」
「え、良いじゃん喧嘩しときなよ。折角ウイ独り占めできんのに」
…あぁ、そうだ。
ペンギンはこういう人だ。
なんか
凄いペンギン哲学な思考で謝らなくていいとか、仲直りしなくて良いとか言ってるのかなって思ってたのに
…自分都合かよ!!!
「寧ろ嫌がらせしてやろうぜ!キャプテンも絶対言い過ぎたってどっかで反省してっから。でも頑固過ぎて折れらんないの。…ウケる」
「嫌がらせ…」
なんでもかんでも自分の思い通りにしようとするあの俺様に、ひと泡吹かせることなんて出来るんだろうか。
でも本当にムカついたから
出来るならちょっとローにも少しくらいギャフンと言わせたい。
「嫌がらせって、何するの?」
頭にもたれ掛かるように覗き込んでくるウイの胸が頭にあたって
これぐりぐり押し付けたりしたらまた大騒ぎするんだろうかとかそんなことを思った。
「明日あいつら呼んで皆で海入って遊ぼー。あとクレープ食べたいからクレープパーティーもしよー」
キャプテンはきっと
今俺がウイと何やってんのか気になって気になって仕方ない筈。
ルームを張れば覗かなくてもスキャンで分かるんだろうけど
それがバレれば劇的に女々しい。ダサい。
でも気になる筈。
元から中に居たら気付けないけど
張られる時それを警戒してればルームは見える。
「そんで俺と仲良くして」
「は?…仲悪くないでしょ別に」
恐らくやるなら早朝。
まだ起きてないだろうって時間。
キャプテンも結構本気でキレてたからもしかしたらそこまでしないのかもだけど
例え覗かれてなくても俺が美味しいから俺に損はない。
「キャプテンウイちゃんの事絶対気にしてるから。俺と仲良くしてたら絶対焦る」
「…なんかあんまり、よろしい手口じゃないように聞こえるんだけど…。そもそもフリーウィングで何してようとローこっち来ないでしょ」
頭の上で頬杖をついて悩み出すウイの手は
きっと親指で顎を支えながら人差し指を唇に押し当ててる。
見えないけど分かる。
考え事する時のウイの癖。
「取り敢えず暫く放っとこうぜ。たまにはキャプテン謝るとことか見たいじゃん」
「それは見たい!!」
どうせ考える時間を与えれば、俺の気持ちを利用してるみたいだとか面倒臭ぇこと考え出してやっぱやめるとか言い出すんだ。
押しきったもん勝ち。
「ねぇ。ウイはあんなムカつく言い方しか出来ないキャプテン嫌いになったりしないの」
「…ムカつくけど……嫌い、ではない」
ちぇっ。
だろうとは思ったけど
これでウイの気持ちが冷めてくれれば万々歳だったのに。
そうすれば当て付けとかじゃなく本気で落としにかかれるのに。
…そう上手くはいかないか。
ウイちゃんはキャプテンの論破劇に大層ご立腹だったようで
それからも静けさの合間を縫ってはキャプテンへの文句を吐き続けた。
エースの件があって落ち込んでんのかなって心配してたから、今のこれの方が状況はマシなんだと思う。
でもわかってんのかな。
なんでそこまで腹立ててんのか。
ムカつく、何様だって。
キャプテンのことばっかりが溢れ落ちるその唇。
どうでも良くない人だから
キャプテンだからそう思われたくないんでしょ?
さっき言えなかったもう1つの例え。
“どうでも良い人には何言われても腹立たないらしいよ”って。
そんなキャプテンへの想いを再確認させそうなことは言ってやんないけど。
言わなかったからって、結局自覚がないだけで
キャプテンの言動が気になると言っているようなこの文句の嵐は愛情あってこそ。
へぇとか
ふーんとか
適当な相槌しか打たない俺への文句なんて一言だって出てこない。
所詮ウイちゃんにとって俺はその程度、か。
そう思ったらなんか悔しくて
「いっ…!!ちょっ!なに!!」
肩に抱えてたウイの脚に噛みついてた。
やっとこっち見てくれたのが嬉しくて
もっと見て欲しくて
「ちょっ…!!ゃっぁ!!やめてっ…てばっ!!」
その柔らかい太股を舐め上げてみた。
この海域が暑くて良かった。
生脚。
とんでもなく柔らかい。
顔埋めたい。
餅みたい。
ここで窒息死するならそれも有り。
「仲良くしてた方がムカつくキャプテンに嫌がらせ出来るよ?」
「別に今ロー見てない!!それにそれやり過ぎ!!ちょっ…!!ゃめてよ本…当に!!」
顔を真っ赤にして怒るウイが可愛い。
ムキになって目を潤ませてるそんな顔に、下半身が反応した。
今がこんな状況とはいえ、流石にいたしてしまえば
俺は確実にキャプテンに殺されるんだろうな。