13-20



なんか
面白い程びくつくその反応が伝わってくる度に

びっくりしたんだろうけど、それとは別の何かしらの感覚がこの体に走ってる事を物語るそれに


やっぱり結構興奮する。


「キャプテンルーム張ってっかもしんねぇじゃん」
「だったとしても!!…これは…!!ダメ!!」


涙目になりながら柔らかさを堪能してた方の脚を肩から外しちゃったウイに
本当こういうとこは頭悪って思いながらもう片方の脚にかぶり付いた。


「ゃっ…!ね…ぇ!!それやめて!」


絞め殺されるんじゃないかって程に引き剥がそうとしてくる腕の力が結構容赦なくて
こういうとこはイヤイヤ言う割に欲しがりな尻軽女達とは違うんだって実感する。


でも所詮ウイちゃんは女の子。
本気で掴みかかってくるこの腕は邪魔でこそあれそこまで障害にはならない。


「んっ…!!ったぃ!!」


真っ白な内腿に咲いた鬱血した紅い花。


その跡を愛し気に舌でなぞれば、半分パニックなウイがポカポカ頭を叩いてくる。

いやポカポカとか可愛いもんじゃない。
ガチなぶん殴り。

結構凄い音してる。
適度に痛い。


「嫌?」
「良い訳ないでしょふざけんなッ!!バカ!!ペンギンのバカ!!」


顎をがしりと掴むその手は
ウイのぬくもりを伝えてくれてて。


顔周りとか首周りっていう、中々他人に触れられる機会のない場所にウイが自ら触れてくるっていうこの状況。

それがおいたの禁止宣告でもなんでも
こんな些細過ぎる事で喜ぶ自分は随分と謙虚なものだと思う。



こんなに好きになった女は初めて。
でも俺も良い歳した男だし、出来ることならこんな淡い戯れだけじゃなくその先のモノが欲しい。


それなのになんで






今こんなに満たされたような
幸せな気分になっちゃってんだろうか。


これだって束の間の馴れ合い。
早かれ遅かれどうせ仲直りするんだろうし

そうなればまたあの番犬が邪魔してくる。


「年中発情期!変態!!」
「発情すんのも変態なのも別に悪い事じゃなくない?」


片足だけを肩に引っ掻けてるウイの腕が、開き直んなって凄い音を立てて頭を横殴りにした。


なんて暴力的なんでしょう。
いつからこんなに狂暴な子になっちゃったんだろうか。







…狂暴なの、前からか。


船縁に着いてた背中を浮かして、ずっと担いでた存在を勢いを付けて背面に放り投げた。


「え…っ!?ちょっ!!ふざっけんッ…ぎゃーーッ!!」




ザバーン


悪い子にはお仕置き。
どんな腹立ってようと人の頭ポカポカ殴っちゃいけません。


腰で結わいでた結び目を解して
着なれたつなぎから足を抜いたと同時に船縁を蹴る。





ザバーンッ!!






「ちょっ…!!なにすんのよバカ!!」
「夜の海水浴楽しいでしょー」


塩水が口に入ったらしいウイが顔をしかめながらそれをぺっぺって吐き出してて
それを見てざまぁとか思わなくもない。

蒸し暑かった気温とは違う冷たい海水の温度を心地よく思いながら水を蹴りあげる。


「ねぇ夜の海ン中潜ったことある?」
「…!!ない!!」


まだ潜ってみようぜって誘ってないのに
深く息を吸い込んだウイが海中に消えた。


本当に見たことないものが大好き。
無邪気で、可愛い。


ちらりと視線を向けたポーラータングの誰かさんの部屋の窓に
人影が見えた気がした。


あんだけデカい声でウイが叫んだから、きっと聞こえて気になって顔出しちゃった感じだろう。


どんなツラしてるのかは知らないけど、キャプテンも自業自得。
そこで指咥えて見てれば良い。


深く息を吸い込んで先に潜ったウイに続く。


夜の海は何も見えない。
海の中の景色どころか、恐らく近くにいるんだろうウイの姿ですらも。


真っ暗。






目を凝らしてウイを探してれば、脇腹に浮力で威力を失った蹴りを食らった。


さして痛くないけど視界が悪い中でのこれはややビビる。


ほんとに。
悪戯っ子なんだから。







「ぷはっ!…何も見えないじゃん」
「ほんとそれ。つまんねー。」


立ち泳ぎしながら、顔だけ海面から出てる状態で交わしあう棒読みの会話。
どっちも無表情。
結構シュール。


でもウイとだからそれも楽しい。


「上がっか」
「だね」


普段は労力なく船上に戻れるのに
今日はシャンブルズタクシーは使えない。







先に船への梯子に足をかけたウイから滴り落ちてくる水滴にすら愛しさを感じる俺は行き過ぎてるんだろうか。


「良い眺めー」
「ちょっ!!見ないでよ変態!!どスケベ!!えっち!!」


きゃんきゃん喚き散らすウイは振り返りながら丸太を登っていって
見るなと言われようがその脚の付け根に目が釘付けだったのは言うまでもない。

ただでさえそこは男にとってお宝級の場所。
それが梯子をよじ登る脚の動作で生々しく蠢くのを
この状況でガン見しないヤツなんていないだろう。


「いやエロい。最高。でもこう…もうちょいムチってしてた方が俺は好みなんだけど」
「ペンギンの好みなんて聞いてない!!見ないでって言ってんでしょ!!」


男はいつまで経ってもガキなんだと思う。
好きな女の子につい意地悪しちゃう。

ムキになって怒ってるウイの頭の中は今
俺のことでいっぱい。



全然怖くもなんともないウイの睨みなんてただ可愛いだけだ。








このじゃれ合う俺らの声も
キャプテンは聞いてるんだろうか。


いつも二人がぎゃーぎゃー戯れてるのを見せつけられる俺の気持ちも
少しはキャプテンに思い知らせる事が出来てんだろうか。




















「お風呂入って来……たー」
「おかえりー」


謎の夜の海水浴から戻って
全身びしょ濡れだったからお風呂入ってきた。

ペンギンは今晩こっちに泊まるって言ってたから一階のお風呂を譲って、私は部屋のに入った。


お風呂上がりに階段を降りて来る時にリビングに灯る明かりがどこか懐かしくて。
ソファーに寝転んで棋譜を眺めながら1人でチェス駒を並べてたペンギンの背中が、一瞬エースに見えた。


その場所が指定席だったエース。
けどそこに居る時はいつもぐーすかいびき掻いて寝てたね。


寝るときいつもここだったから。


エースはチェスも出来ない。


ただ夜のリビングで
他に誰も居ない状況で


ソファーの上に居る人が寝転んでる。


それがエースと重なっただけ。







「ん?どしたの」
「…なんでも、ない。棋譜並べてたの?」


どこからどう見たってペンギンなのに
エースとペンギンは見た目も中身も行動も全然似てないのに

ついエースがここに居てくれたらなって、またそんな事考えてしまった。


「この人知ってる?結構独特な打ち方すんのね」
「どれ?…あー、中々面白いよ。それより次の次が凄かった!」









ペンギンが居てくれるだけでも
こんなに心強くて有難いことなのにね。


夜の空だけじゃない。
部屋に置いてある荷物とか、二人で過ごした時間の名残の中に
私はいつもエースを探してる。


「これ並べたら次それ並べるー」
「ペンギンも…棋譜並べる程チェス極め出したんだ」


チェスの試合の記録。
これを実際に並べてみる事で、どう攻めるか、どうかわすか
そういうのを勉強できる。


行き当たりばったりで目の前の駒取る事しか考えてなかったペンギンが
全体の流れを意識してそれを考察してる姿はちょっと違和感。


副船長になってからペンギンは変わったって
ベポもシャチも言ってたもんな。


は?そこでそれ?とか、いちいち文句を良いながら駒を動かすペンギンの背中を
ソファーの後ろから背もたれに体を預けて眺めてた。








違うって分かってるのに
この場所で寝転んでるだけでどうしてもエースの事が頭をチラつく。















「…どした、ほんとに」
「こっち向かないで!」







ペンギンの背中と背もたれの間に
体を滑り込ませて寝転んでみた。









なんでこんなことしたのか自分でもよく分からない。


でも背中だけしか見えなくて
エースの定位置に温かいぬくもりがあって

頭をそこに寄せれば聞こえてくる、ゆっくり拍を打つ生きてる証。


「なんで?」
「なんでも!…ペンギンは棋譜並べてなよ」


意味わかんねぇって文句が聞こえてきて
それでも私のしたいようにさせてくれてるペンギンにほっと息をついて目を閉じる。







エースが生きてたら
こんな風にごろごろする事もできたのかな。


自分で唱えた欲しい言葉より







ただ傍に居てくれるっていう温もりの方が何倍も心強い。











ねぇ、エース
逢いたい




逢いたい








逢いたい








ウイちゃんはどうしてしまったんだろうか。


背中に感じる熱源は、夜とは言え夏島寄りの気候、それも風呂上がり。
普段なら例え相手が女だろうとくっつかれたいとは言い難いシチュエーション。







それがなんでこの子だと嫌に感じないんだろ。


正直暑い。
なんで人ってこんなに熱いんだろ。
やっと冷めてきた熱が触れ合う背中から全身に広がっていく。


「ウイちゃんはどうしちゃったの。キャプテン対策?」
「…じゃあそれで良い」







ってことは違うのか。


ウイは度が過ぎなければ結構スキンシップが好き。
キャプテンに他の男にくっつくなって説教食らう前まではこのくらいなら結構よくあった。


あれからはとんとご無沙汰だったけど。
つーかキャプテンも気持ちはわかるけど付き合ってもないのによくあそこまで独占欲剥き出しに出来るよね。




「振り向かなければ良いの」
「変なこともすんな。…棋譜並べてなよ」


ちぇっ。








ルーム張ってるかもよって言ったから
もしかしたらこれはキャプテンにヤキモキさせよう作戦なのかと思えばそれは違うっぽくて

じゃあなんだ?


流石に俺、自分に向けられる感情には敏感だから
ウイが俺を好きじゃないことも
誘われてるとかじゃないことも
気付きたくなくてもわかってしまう。


ウイだろうとその辺の女だろうと
このままヤれるならこの暑さもなんともない。

耐えましょう。
出来レースなら。










でも絶対違ぇしな。






取り敢えず盤上の駒を動かした。
棋譜も見ずに。


この斬新な打ち方をするチェスの名人の次の手はきっとこれじゃないだろう。


でもテーブルに乗ってる棋譜を覗き込めば背中の熱源と離れてしまう。
夏の風呂上がりでは不快でしかない筈のそれを離したくないと思ってる。











…変なの。
本当に恋って病気だな。


こんな致命的に終わってる戦局は俺が作った訳じゃねぇのに
そこから必死に頭を回転させて起死回生の糸口を探す。


チェスの事を考えながらも
常に頭の中の大部分が背中にくっついてる存在に占領されてる。


嬉しいんだけど
全く意味が分からない。




destruct at reality.