13-28



「お?なに、仲直りしちゃったの?それ」
「まあな」


ポーラータングに戻れば、朝飯時だからかここで寝落ちしてた奴ら以外の姿もそこにはあった。


「新しいの随分可愛いのね、似合う似合う。…それにしては浮かない顔じゃん」
「そうでもねぇだろ」


ペンギンは目敏い。
それとも俺が今色々と駄々漏れなのか。


他のクルー達にも好評だった帽子。
気に入ったこれへの評価にも、今はプラスの感情なんて何も感じなかった。


「それウイが作ったの?昨日?…なんだ起きてたんだ」


細めた目で見定めるようにこっちを見下ろしてくる白熊は
昨日までの態度は崩さないものの、どこか嬉しそうだった。


「キャプテン!ウイこっちで飯食うって?」
「あぁ、風呂入ってから来るんだと」


了解、と言うシャチの返事と共に鼻を擽る焼き魚の匂い。















自分の好物である筈のそれが食卓に並ぶことがわかっても
どうしても重苦しい胸の内が晴れない。









アイツは…
火拳屋に惚れたのか?




死んでんだぞ、相手。












尋常じゃない落ち込みよう
俺らから逃げるようにマリージョアを出立したこと

合流してもどこかしら避けられてて
目も合わせねぇ

公開処刑の前はあんなに火拳屋のことばかり口にしていた癖に
全く口にしなくなった理由

今までは最後までは許さねぇ癖に
ある程度までは寧ろ欲しがってたアイツが俺を拒む理由







成立して欲しくない仮定は
仮にそうだとすると全てに合点がいく


火拳屋へ向きかけていた気持ちが、死で分かたれたことによって増した
そして今もアイツはそこに操だててると。


俺の事を嫌いになった訳ではねぇから、それを言いにくい
言えねぇけど受け入れはしねぇ、と。





「おはよー!朝お魚?いい匂い!」
「ねー仲直りしちゃったんでしょ?つまんねぇの」


気持ちを切り替えて来たのか、食堂に顔を出したウイの笑顔は完璧だった。


「飯食ってからで良いからちゃんと髪乾かしなさい。風邪引きます」
「はーい」


首にかけたタオルで髪をかき混ぜるペンギンに、唇を尖らせて返事をするこいつを取り戻すにはどうすれば良いのか。




諦めてやるつもりなんて、更々なかった。







朝ごはん食べながら
皆にローと仲直りしたよって伝えた。


皆がつまんねえとか
もっとやれとか

そんな事言いながらもどこか嬉しそうだったから


なんだか余計言いにくい。


まずは本人に。
ローが別に周りにそれを言わないなら言わなくて良い。


でも絶対本人には
ローには言わなきゃいけない。


さっきは咄嗟にびっくりしたって取り繕っちゃったけど
ローはどう思ったかな。


凄く勘がいい人だから
もしかしたら気付いてるかもしれない。


でもちゃんと言わなきゃ。


髪をちゃんと乾かして、気合いをいれる為に櫛を入れる。
短い髪はとかさなくても大体すとんって落ち着いてるんだけど
なんとなく大事な話するならちゃんとしなきゃって。




よし。
行くか!!!





部屋の扉を閉めて階段を掛け降りた。


ちゃんと言うからね、エース。
さっきはごめんね。


口には出さなかったけど、これはエースに向けた言葉。
エースからの返事は聞こえなかった。


私がそれを思い浮かべなかった。


早くけじめを付けて、やるべき事を終わらせてしまおうって
だから階段だって早足で降りたのに


気が重いの。
行かなきゃいけない、言わなきゃいけないのに
言いたくないの。


2年間、もう3年?
ずっと抱いてた初恋を終わらせに行く。


本当に、凄く凄く大好きだった。
今もきっと

エースにもローにも、誰にも言えないけど
その気持ちは残ってる。


でもこのままじゃ駄目。


エースへの気持ちは、あの時も今も
私を支えてくれてる。


私に必要なのは、エースだ。






















「あれ?ローは?」
「部屋じゃない?…仲直りした途端さっそく?お熱いことで」


にやって笑いながら答えてくれたベポは昨日もやってたらしいドボンを今日も興じるらしい。

皆がヒューヒュー囃し立てる声が心に突き刺さる。


「煩いな、じゃあちょっと行ってくる!」
「ごゆっくりー」








なんか色々破廉恥な野次が聞こえてきた気がしたけど
無視してドアを閉めた。


私は一世一代の告白をしに行くんだ。


気合を入れるように吐いた息は、周りの空気に溶けて消えた。




コンコン


「なんだ」
「入って良いー?」


船長室
ローの部屋。


この扉をノックするのに、こんな気持ちだったのは初めてだ。
いつだって邪な心に胸を踊らせて、ドキドキわくわくしてたから。


「どうした」
「あの、話…があって」


扉を開けに出てきてくれたローはいつも通りポーカーフェイス。
後ろめたさであんまり見れなかったその整いすぎた顔が
ぴくりと少しだけひきつったように見えた。


「…あの、入って…良い?」


返事がないから
ひきつったように見えたのも気のせいかもしれないくらいの僅かな変化だったから
伺うようにローを見上げれば、少しだけ場所をずれてくれた。


入って良いよって、事だよね?


重い足を部屋の中に踏み出した。











薬品の匂いと
本の匂い

あとローの匂い。


物が少ない訳じゃないけど、いつでもここは片付いてて
私はここでいつでもローが生活してる名残を探してた。


少し捲れた布団だとか
枕の位置とか

テーブルに乗ってる読みかけの本とか
たまに銘柄が変わる度数の強いお酒だとか

お薬作ってたのかなって痕跡だとか
たまに脱いだままのパーカーがソファーに掛かってたりだとか


ここにはローが沢山あって
ここを訪れる度に会えないでいた間のローが垣間見れる気がしてた。


「…なんだ、改まって」


つい感傷に浸ってしまってた。
後ろから聞こえてきたその声にすら、寂しさみたいなものを感じる。


自分で終わらせようとしてるのに
変だね。


「あの、ね…」


顔を見ずに話して良い内容じゃない。


振り返ると同時に視界に映ったローは
やっぱり格好良かった。


不機嫌そうにしか見えない整った綺麗な顔。
細いけど筋肉質な締まった体。
長い手足。
背だって凄く高い。


どこから見ても格好良いんだけどね
私が好きになったのは、見た目よりもこの人の中身だ。


自分があって
自分に厳しくて
色んなこと知ってて
それでもまだ自分に納得してなくて

誰よりも仲間思いで
どうでもいい人には本当に関心がないから
これまで貰った沢山の優しさは特別みたいで
それが更に嬉しくて仕方なかった。


ものの考え方も
ゲームしてる時のローも
実はちょっと天然っぽいところも



この人の好きなところを数えたら
そんなのキリが無さすぎた。







なにも言わないローの顔は、いつもとどこかが違う気がした。


私が何を話そうとしてるのか
やっぱり気付いてるのかな。


「あの、話があるから、聞いて欲しい…です」


ここまで来たんだから言わなきゃ。


エースの為にも
ローの為にも

ううん、自分の為だ。


もう二度と、ローから特別扱いされることはないかもしれない。
寧ろ、顔も見たくないくらい嫌われてしまうかもしれない。


あんなに好きを隠しもせずにさらけ出しておいて
それでいてローの気持ちは受け入れなくて
散々振り回した。


それでもローは、私を好きでいてくれて
心配してくれて
いつだって優しかった。








そんな存在失いたくないよ。
でもね




私ローのこと、人として大好きだから。
ローには幸せになって貰いたいから。


このまま何も知らせずに他の人を好きな私を好きでいるなんて
そんなの絶対幸せじゃない。





つらくても悲しくても、これはちゃんと言わなきゃいけない。




「私ね、───「ドフラミンゴの件か?褒められたもんじゃねぇけど、でけぇリスク取って入手したんだ。折角だから聞いておく」

















お、おぅ…


言いにくくて口ごもって、中々切り出せずにいたら
ローが口にしたのは結構なキラーパス。


言わずにこの場をなんとかするにはナイスアシストなんだろうけど
ドフラミンゴの件も話さなきゃいけない。


くそ…
出鼻挫かれた…!


じっと見下ろしてくるローに向き直って、まずはそっちの話を切り出した。


「あのね、ドフラミンゴと繋がってる四皇、カイドウだよ!」
「…その根拠は」


うわぁ…


扉に背を預けて腕組みしては淡々と答えるこの人は
そういえばこういう人だった。


そうだよね
いくら私が情報仕入れて来たよ!って言っても
言われた言葉をそのまま鵜呑みにする人じゃない。


…もうちょっと驚いたり喜んだりしてくれるのかなって想像してたから。


自分の詰めの甘さにひくりと頬がひきつった。






「ドフラミンゴがね、多分取引だと思うんだけど、その記念に特別なお酒を贈りたいって。一国の王で七武海のドフラミンゴがそこまで気を遣う相手って、四皇かなって」
「それで?」


ローも私の情報から色々頭の中で検討してるのか
いつの間にか難しいこと考えてる時の顔になってた。


「パパ…白ひげとシャンクスさんはドフラミンゴと取引はないって。本人が言ってた」
「赤髪…?まぁ良い。続けろ」


……。


これは最後に凄い質疑応答が待ってそうな予感。
取り敢えず聞くだけ聞いて纏めて詰められる。


なんて効率が良いんだローさん。


「贈るお酒の要望聞いた時、巨体で男の人って言ってた。それで四皇の中でこの条件に当てはまるのはカイドウだけかなって」
「…なるほどな。」


細められた目と、鼻から漏れる息の音。
ローもここまでなら同じ結論を弾き出したんだと思う。


読めないポーカーフェイスが、さっきまでとは少しだけ変わった。


「取引は半年…いやあと5ヶ月後くらい。きっとこれはその取引に関わるワードだと思うんだけど、“スマイル”。私が入手できた情報はそこまでだよ」
「スマイル…何企んでやがんだアイツは」


“スマイル”
それを聞いた途端ローの顔が見るからに歪んだ。


ローはそれが何だか知ってるのかな。
ローはどう推測したんだろう。


同じ議題について見解を述べ合うのは、チェスの後の考察を話してる時の気分となんだか似てた。


「二点、確認だ」
「はいどうぞ」


ほら来た。
やっぱりローはそのまま納得なんてしないよね。


「ドフラミンゴが取引相手に気を遣ってるとおまえが思った根拠はなんだ」
「んー…特別な贈り物にその人の為だけに作ったりもできますよって話をして…それで注文してきた、から…?」


なんだか言葉にして説明すると
自分はそうだと思い込んでるからそれが確定した事実みたいに思ってるだけで
どこでそう判断したかとか、なんか曖昧な気がしてきた。


「シードルの取引の時も態々直接出向いて来たの。あの人は少なからず“天竜人お抱えの酒職人”のお酒に価値を感じてるんじゃないのかな。シードルの卸値も最初凄い金額準備してたし」
「金じゃ買えねぇ付加価値。それを贈ろうって相手。…なるほどな」


ローの簡潔に纏まった言葉に勢い良く首を縦に振りまくった。




destruct at reality.