13-29
「まぁ、アイツがやりそうな事のような気もしなくはねぇ。」
「そうなんだ」
そういえばローはドフラミンゴを倒すってずっと言ってるけど
昔一緒に過ごしてたんだもんね。
性格とか人間性とか、私より知ってて当然か。
「あともう一点。どっちみち他の条件に当てはまらねぇから重要ではねぇが…おまえと赤髪の繋がりは何だ」
…やべぇ
ローにその話してないの忘れてた。
「え…っと…」
睨まれてる訳じゃない。
目付き悪いけど。
どうなんだと
そこを知りたいという好奇心の籠った目だ、これは。
これを話すなら、そのままエースの話もしやすいか。
想定してた流れとは大分変わっちゃったけど、目的が果たせればそれで良い。
シャンクスさんとの話も、隠しておくような話じゃないし。
「エースの弟、ルフィくんの恩人なの、シャンクスさん。エースがどうしてもルフィくんのお礼を言いに行きたいって、それで一緒に会いに行った」
「…なるほど、な。それであん時も赤髪が出てきた訳か」
…あの時?
どの時だろうって少し気になったんだけど
話を脱線させたら本筋が進まないと思って、言葉を飲み込んだ。
「シャンクスさんの腕、昔ルフィくんを庇った時のものなんだって。嘘付きそうな人には見えないけど、そんな大事なルフィくんのお兄ちゃんにもその連れにも、嘘なんて付かないと思う」
「…そうだな」
よし。
これで質問には全部答えた。
エースの話の流れだ。
このまま…
「それでね、私が…あの、話しに来た方の、話なんだけど!…エ──「概要はわかった。…助かった、貴重な情報だ」
「え、あ…それは良かった」
くそ。
早かったか。
質疑応答の後には総括があったのか。
焦り過ぎてさっきからタイミングを掴み損ねてる。
「ドボン、おまえもやんだろ?教えてやるよ」
「え!ちょっ…待っ…」
私の返事を待たずに部屋の扉を開けて出ていってしまったローに唖然とした。
ちょっと…
肝心な私の話何も出来てないんだけど…
ローが居ないここに留まってても意味はない。
ため息を吐いて、開けたままにしてあった扉をくぐった。
また出直すか。
…上手くいかないもんだな。
「えっと?つまり?カード早く無くしたら上がりで、一番に上がったらプラス1、ビリがマイナス1?」
「そっすそっす!」
「そいでラスト1枚でリーチ発声。普通に上がる以外に手持ちカードの合計数のカードが出たらそれ出せて、それがドボン?」
「まぁ大体そんなとこ。流石。飲み込み早いね」
ベポやエイジからルールを教わってるウイは、あの的を得ない説明でもドボンの概要を理解したらしい。
わざわざ部屋に来たウイが切り出そうとした話。
…聞きたくなくて遮った。
あの言いにくそうな雰囲気、あの様子
まず間違いなくウイは火拳屋の話をしに来た。
アイツは頑固だ。
自分で決めたことは相当の事がない限り曲げねぇ。
「手持ちで出せない時は?」
「山から1枚引く。それでもなければパス」
それを今切り出されても、俺が打てる手がねぇ。
首に縄付けて傍に置いとくことも
無理矢理にでも自分のものにすることも、今の自分には出来ない。
ならば言いにくいらしいウイのその気持ちを利用させて貰おう。
「ジョーカーは?」
「何でも有り。でもラス1で持ってたらダメ。ドボンする時も使えない」
有用な情報を貰った。
火拳屋の件がなかったとしても、越えなきゃいけねぇもんが自分にはある。
ドフラミンゴをさっさと討つ。
コラさんを死なせて平気な顔で生きてるあの男を、表舞台から消す。
アイツが今も狙ってるだろうオペオペの実の能力。
こっちが動かなくてもいずれあっちも黙ってはいないだろう。
ウイに危害が及ぶリスクは叩き潰す。
話を聞くのはその後だ。
今聞いてもどうにも出来る気がしねぇ。
「大体わかった!でも一回後ろで見てたいなー」
「じゃあ一回やろうか。8とかドボン返しとか、まぁ色々あるから」
言えねぇ内は、アイツは何度だって俺に会いに来る。
いつもは手を妬く頑固で律儀すぎるその性格が幸いした。
アイツは俺にそれを言うまで、姿を眩ますことはねぇ。
得意気にトランプをきるウイの横顔を決意の籠った目で見据える。
言わせねぇ。
どんな手を使ってでも、あの世の人間から
ウイの気持ちを取り返す。
カイドウ
取引
5ヶ月後
スマイル
これまで地道に収集してきたもんとは桁違いに核心を突きそうな情報。
ウイの判断を信じてねぇ訳じゃねぇ。
ただ確実性に欠けるのが、取引相手がカイドウで合っているのか。
ドフラミンゴは金で解決出来そうな事には糸目も付けずにいくらだって積むだろう。
解決しなければならない事か、それによって得られるものが必要で重要であればあるほどに。
金が通用しない相手。
天竜人、もしくはブラーヴェとの繋がりを誇張して益のある相手。
金に上乗せしてモノを贈ってまで
自分をデカく、良く見せたい相手。
金なんていくらでも工面出来るだろうあの男がそこまでしようってんだ。
気を遣う相手なのは間違いねぇ。
そして金だけでは動かねぇってことは
相手も結構な大物。
それに加えて“スマイル”。
裏のバイヤーども、それも結構な上客を抱える連中にのみドフラミンゴが下ろしているその情報。
商品名以外は不明のそれは、政府筋の連中の口からは一切出てこなかった。
となると、取引相手は海軍以外。
この点を考慮しても益々それがカイドウである可能性が高まる。
ドフラミンゴだけでも厄介だってのに
その上四皇まで後ろに付いてるとなれば
これはいよいよ上手くない。
そもそも
“スマイル”ってなんだ
四皇がわざわざ略奪でもなく取引をして入手しようとしてる物。
海軍には渡せない代物。
「キャプテンもやるでしょ?もう配っちゃったから早く!」
「…あぁ」
滅入ってる暇はねぇな。
忙しくなりそうだ。
「なるほどねー。ふむふむ」
「ウイならこれどっち出す?」
ゲームの進行に応じてクルー達の手札を眺めながらぐるぐると歩き回ってるウイの足を止めさせたのはペンギンだった。
「…こっち?」
「そうそう。流石ウイちゃん既にわかってる」
指差されたカードを摘まみ上げて場に放ったペンギンは、然り気無く自分の後ろにウイを留めておくことに成功したようだ。
場に出たのはスペードのキング。
前のカードがスペードの10。
同じ絵柄か、同じ数字を出して手札を減らしていく単純なこのゲームは
終盤にデカい数字を持っておくと上手くない。
「だってこういうの残しといた方が後々やりやすいんでしょ?」
「そうそう。ただこういうのは役持ちね」
手札を覗き込むウイとペンギンの距離が近い事に腹が立つ。
いつだって然り気無くウイに構うペンギンが気にくわねぇ。
燻る気持ちを腹に抱えながらも、ドボンは進行していった。
Jバック、ナイトを出せば進行が逆周りに
8は次のカードを好きに指定できる。
5はスキップ、次のヤツは手札を出せずに飛ばされる。
人数が多い場合、役札は自分の手札を減らすことよりも他の上がり阻止の意味合いの方が強い。
手札が残り少なくなった奴らが何人か出てきた頃になってもペンギンの後ろに居座り続けるウイは
既に大体のルールを理解したようだった。
「見とけウイ!これがドボンだ!」
場に出たカードは7。
手札二枚のシャチが得意気にそれを場に投げ捨てた。
出したカードは4と3。
「ドボン!」
「これが!!噂の!!」
「マジっすかー?やられたー…」
ドボン成立。
普通に上がりに行くよりこっちの方が確率は高い。
但し
出来ればラッキーなドボンも、場合によってはハイリスク。
ドヤ顔でふんぞり返るシャチを鼻で笑いながら、手札を全て場に投げ捨てた。
「ドボン返し。残念だったな」
「はぁ!!!?」
「なに!?なにそれ!!なにドボン返しって…あぁ!そういうこと!!」
シャチの叫びとウイの興奮した声がリビングに木霊した。
「いやー、ラッキーラッキー。シャチさんドンマイっすね!」
「意味わかんねぇよ。この人数でやってエース三枚持ってるってどういうこと」
“エース”。
トランプの1を意味するこのワードに、思わず目がウイに向く。
ドボン返しを場の流れで理解したらしいウイは、ついさっきまで興奮したように騒いでいたのに
それを聞いた途端にその表情は凍りついたように固まった。
それはほんの一瞬、数秒にも満たない時間だった。
「こういう時は…、誰にマイナス付くの?」
「俺ー」
すぐに普段の調子に戻ったウイは面白くなさそうにカードをきるシャチをからかってはそれを誤魔化しているようだった。
「これ確率的に中々レアだよね?流石シャチ!持ってる!」
「この人数で俺以外手札3枚以上だぜ!?そこで3でドボン返しなんて普通あり得ねぇだろうが!」
けらけら笑ってるその顔の裏で
こいつは今何を思ってるんだろうか。
「で?シャチさんレートどうすんの?」
「4倍だ!ここは4倍だろ!」
次のゲームからもうウイは参戦するらしい。
シャチの隣に腰を降ろしたウイはさっきの怯えたような表情はもう見る影もなく消えていて
すっかり勝負師の顔をしていた。
「レートって毎回変えられるの?」
「ドボンされたらマイナ2、ドボン返しならマイナ4、負け取り返しチャンスでされたヤツがレート選べんの」
オッケー、と笑うウイは、俺が好きな顔をしていた。
こいつはこの手のゲームが好きで得意だ。
頭の中が戦術で埋め付くされてるだろう今のウイは素の状態。
取り繕った面の皮を張り付けてない、ありのままのウイ。
「ウイ然り気無くそこ座ってるけどさ。右隣にヤなヤツとかシャチ本当に気の毒だからね、それ」
ベポの呆れたような言葉に、確かにー!とクルー達がゲラゲラ笑う中
配られた手札に目を落としたウイの口元がニヤリと弧を描く。
「大丈夫!私まだビギナー!!」
素でいてくれるこの状態ならば、自分の右隣に来て欲しかった。
ゲームの進行を見せる時も、腕の中に収めて俺があれこれ教えてやりたかった。