13-30



「面白いね!ドボン!!中々上がれないけどそこがまた新鮮!!」
「人数少なくすれば結構上がれるよー」


すっかりドボンが気に入ったらしいウイ。
今のとこ戦績は上の下くらいだけど
この人数のドボンでこれはまずまずの結果というより
流石としか言いようがない。


「四人くらいでやるとまた違った面白さがある」
「四人か…確かにそれも面白そう!」


お昼ご飯を食べながら四人でするドボンを脳内シミュレートしてるウイが悪戯でも思い付いたような顔をした。


「次は四人組でやりますか!!」
「おまえら…ドボンも良いけどしっかり鍛練もやれ、見たところウイ来てからずっとサボってんだろ」
「「「「へーい…」」」」


そろそろ言われるんだろうなっては思ってたけど
キャプテンにサボりを怒られたクルー達がバレてたかと言わんばかりに肩を落とした。


「じゃあ今日の夜はあっちでバーベキューしよっか!私準備するよ!」
「肉あんの!?やった!!俺頑張るっす!!」


鍛練の邪魔をしてはいけないと思ったのかウイが夕飯の準備を買って出てくれて
ひとまずドボン大会はお開きになりそうな流れ。


「安心してベポ!鮭もあるよ!!」
「だから俺が好きなの生の鮭だって言ってるじゃん」


別に肉も好きだし。
焼いた鮭も好きだけど。


「焼き魚好きなのキャプテンでしょ。人をダシに使わないでよ」
「…そういうんじゃないもん」


バツが悪そうに頬を膨らましてこっちを睨んでくるウイは、相変わらずだなって思う。
でもウイが夜ご飯の準備で一人になるなら、それはちょっと好都合。


鍛練もするけど
ちょっと確かめたい事がある。


「他になんか食べたいのある?」
「あれ食べたい、きゅうりと長芋のしょっぱ辛いやつ」


しょっぱ辛い…?って、腕を組んでは視線を上に向ける我が親友。


ねぇウイ。
俺ってウイの親友なんだよね?


「あぁ!アレか!夜までに漬かるかな…良いよ!材料あるし!」


俺のリクエストが何なのか思い当たったらしいウイが得意気に親指を突き立てる。
そんな顔をどこか不安の過る胸の内で眺めてた。


他の人には言えないことも
俺だったら、他に誰も居なかったら…



ちゃんと話してくれるよね?







「あれ?サボり?」
「違うし」


鍛練が始まって少ししたくらい。
覇気の修行だったらまだまだ至らない自覚はあるけど
組み手だとかは他のクルー達には負けない。

悪魔の実の能力不使用のキャプテンに大人数でかかっていく系ならやりがいはあるけど
シャチとペンギン二人を相手にするとかも良い勝負になりそうだけど
3人が他のクルー達の指導に当たってるこの状況じゃ俺自体の鍛練になんてなりもしない。


俺が誰かに指導したところでそもそも体の作りも戦闘スタイルも違過ぎるし。


「じゃあ休憩?」
「…そんなとこ」


キッチンで手を動かしながら、顔だけこっちに向けて話してるウイが
怪しいなーってじと目でニヤついてるのがカウンター越しに見えた。


「後で皆にも持ってこうと思ってたけど、はい!お疲れ様!」
「…ありがと」


夕飯の仕度の手を休めて、持ってきてくれたコップに入った少し白く濁った液体。
それは凄く冷たくて、柑橘の爽やかな香りが漂っていた。


「懐かしいね、これ。」
「だよねー。私も作るの久々だなって思ってた!」


一緒に航海してた時、鍛練の休憩には必ず作ってくれてたこれ。
蜂蜜レモン味の、体を動かした後には堪らないやつ。


「前さ、蜂蜜なかったからって代わりにメープル?入れたくそ不味いの作ってくれた事あったよね」
「あっはっは!!あったね!!懐かしい!…でも文句たらたらでも全部飲んでくれたよね!皆。…なんであんな事したんだろ、私」


こっちが聞きたいって言ったら、本当それーってウイはけらけら笑ってた。


「後でジャンバールに手伝わせれば良いじゃん…ウイもしようよ休憩」
「あのさ、この前から思ってたんだけどなんでベポはジャンバールにはそんなに強気なの」


キッチンに戻ろうとするその背中を引き留めれば、呆れたようにこっちを振り返る顔。
ウイがよくする顔。
いつもとおんなじ顔。


髪が短くなっても、ウイはウイで何も変わってない筈なんだ。


「ま、いっか!漬けておきたいのはもう終わったし」


何飲もうかなってお湯を沸かし始める様子に、もし話してくれなかったらどうしようって不安が疼き出す。


誰にも言えなくても、俺には話してくれるよね。
本当はウイも聞いて欲しくて…仕方ないよね?




「これね、ベガス聖に貰った紅茶なんだ!マルコ・ポーロっていうんだってー」
「あっま…匂いが甘い。甘過ぎる。何これ味は甘くないの?」


一口飲む?って渡されたマグカップ。
湯気に乗って香ってくるそれはむせ返る程に甘い。


「心なしか甘いけど…匂い程甘くはないんだ」
「ベポこれ嫌い?私結構好きなんだけど!こんな香りの紅茶初めて見た!」


流石ベガス聖だよねって
途切れる事のない他愛のない話がウイの口から次々に飛び出てくる。


ウイと話してるのは好き。
この子と居て会話に困ったことなんて今まで一度もない。


面白い事が大好きなウイはいつだって最近あった面白い事を話してくれるし
どうでもいい話を面白可笑しく脱線させるのだって得意だ。


でも今聞きたいのは、その話じゃない。


「で?なんでベポはジャンバールには強気で上からなの?人見知りかっこ笑いのベポにしては良いことなのかもだけど」


ジャンバール来てからそんなに経ってないんでしょ?と面白そうに覗き込んでくる大きな瞳に
それでもないよって心の中でため息を付いた。


「なに、かっこ笑いって。」
「だってベポ一見人見知りには見えないだもん!」


だってそうでしょ!って会ったばかりの頃とか
他のクルー達が仲間になったばかりの頃の事とかを話し出してしまうウイに
この話も一段落するまで結構かかりそうだなって自然と眉が寄る。


楽しそうに話してくれるのは良いんだけど
よく覚えてるなってくらいのエピソードを話されるのも寧ろ嬉しいんだけど


俺が話して欲しいのはそれじゃなくて
エースの話。


どうせ弱ってる所なんて見せたがらないんだから、本人が言い出すまで触れずにいようって皆で決めた。


約束だから、それを違える訳にはいかない。
でもウイから話してくれたら、それは約束を破ったことにはならない。


ねぇ、話すなら俺でしょ?
今皆鍛練してるからこっち来ないよ?

話すなら今だよ?







「ジャンバールだからって訳じゃなくさ、ベポ人見知り治ったんじゃない?こんだけ熊差別しない仲間が沢山出来れば治るよ!それは!」
「つい最近初対面の高飛車女にケモノ呼ばわりされたけど」


海賊女帝から罵倒されたあの事件。
それを話せば、ウイは目を丸くした後堰を切ったようにけたけた笑い出した。


笑い事じゃない。
本当にアレはない。


思い出したくもない事なのに
それをウイに話したのはなんでだろう。


きっとウイならこうやって笑うってわかってたからかな。


「それってさ、七武海のボア・ハンコックだったっけ、あの人?」
「そう、あの牛女。胸大っきい女はそれに比例して失礼だよね、ウイは良かったね。失礼の資質なくて」


んだと!と途端に不機嫌になるのもお見通し。
コロコロ変わる表情は本当に見てて飽きない。


「でも綺麗な人だよねー。ナイスバディーさんだったし。ステラさんとも違う綺麗さ?ステラさんは可愛い系か!」
「あぁ、初代牛女。…あれ?ウイハンコックに会った事あるの?」


久しぶりに聞いた金髪ぐりぐりの年中発情期女の名前。
それよりもウイがハンコックを知ってる事の方が驚いた。


「え…ま、まぁ。手配書とか…、遠くからしか見たことないけど」
「遠く…?この前の中継映像でんでん虫?」


口どもったウイに思い至った可能性。
チャンスとばかりに聞きたい話に繋がりそうなネタをぶち込んだ。


「え、…うん。…本当にちょっとしか、見えなかったけど」
「ふーん」


ほら話してよ。
タイミングなくて話せなかったなら今がそれでしょ。


ずっと泣いてたんでしょ?
今だってエースが死んじゃって、悲しくて辛いんでしょ?

自分のせいだって、どうせそんなしょうもない事考えてるんでしょ?


いくらだって聞くから。
今が嫌なら言ってよ、いつもみたいに。


『ねぇベポ、今日一緒に寝よう?』って。


眠くなるまでお酒飲みながら話してたって良い。
ウイがお気に入りのお腹枕だっていくらでも貸してあげる。






窓の外から聞こえてきた波の音。
部屋の中でも聞こえたんだってふと思った。

さっきまでは会話が途切れる事なんて、なかったから。







沈黙の中でも
俺からそれを聞くのはルール違反。


話して欲しいけど
聞いたら流石にウイも答えてくれるんだろうけど

でも俺が欲しいのってそれじゃない。


キャプテンへの恋心相談を、聞いて聞いてって俺にだけ話したがることとか
落とし所なんてない、ただ話したいだけの相談とか
面倒臭そうに聞いてるけど、俺はそれがいつも嬉しかったんだ。


俺は熊だから、ウイの恋愛対象にはなれないし
俺だってウイは熊じゃないから、そういう対象には見れない。


でも俺にとってウイは特別で、ウイにとっても俺は特別。
他の誰にも俺の代わりは出来なくて、ウイには俺が居なきゃダメなんだなって
ずっとそう思ってたのに。


「でもさー。そのせいでなんか私残念、みたいに言われたんでしょ?アレと比べられたらそりゃ残念にもなるけど。酷くない?」


ウイの口から出てきた話は
合流した時に皆にドンマイな目で見られた時の話。

誰にも言えなくて、一人で抱え込んでる筈のあの話じゃなかった。


「でも何食べたらあんなに胸大っきくなるんだろ…私だってね!ない訳じゃない!!あるよ!胸!!」
「…なくはないけど、お世辞にも大っきいとは言えないよね」


これは、ダメなやつ。
ウイはきっと、話す気がない。


「まだこれから育つかもしれないじゃん!」
「もう無理でしょ。20キロくらい太って胸だけ残して痩せたら多少マシになるかもね」


冗談で言ったのに、なるほど…と何やら考え込み出すこの子は
どこまでが冗談でどこからが素なんだろう。


もしかしたら
エースの死は本当にもう乗り越えてしまってて
悩んですらいなかったりするの?


違うでしょ。
ウイは自分の中で消化できてる事なら、上手に話してくれるでしょ。


言わないってことは
今もまだ悩んでて、乗り越えられてないんでしょ。


「あ…そろそろ本当の休憩かな。ベポ蜂蜜レモン運ぶの手伝って!」
「…はいはい」


空になったマグカップを流しに置きに行く背中が
あの雨の日の、雨粒で涙を誤魔化した下手くそな笑顔と重なって見えた。


…仕方ない。
ウイは頑固だから。


いつだってそうだ。
自分の引いた線の内側に、ウイは誰も入れてくれない。





destruct at reality.