13-31




「肉ー!!肉肉肉ー!!!」
「これやんないと焼けないから!生肉お腹壊すから!」


日が暮れ始めた頃、鍛練で汗だくになった俺達はポーラータングとフリーウィングにそれぞれ別れて汗を流した。

何人かは面倒臭ぇって海に飛び込んで着替えて終わったな。


若いって素晴らしい。


フリーウィングの甲板に出されたバーベキューセット。
昔は一つで事足りたのに、今や3セットでも危うい。


「ウイこれどうすんの?」
「氷沢山作っといたから!おっきいボウルに氷張ってその上に乗っけといて!」


今日の料理長は、代わりますって炭起こしを手伝おうとするクルー達に見向きもせずに爛々と目を輝かせながら炭を団扇で扇いでる。


「シャチ!待って!!たらいにしよう!!お酒もそこ突っ込んどいて!」
「はいはいりょーかい」


火遊び大好きなお姫様はバーベキューのセッティングより赤く色付く木炭にご執心だ。


まぁいいか。
楽しそうだし。


大型冷蔵庫の中には普段以上にシードルが大量に詰まってて
その脇に味付けした肉やら焼くだけになった野菜、ベポリクエストの漬物やらナムルやらが綺麗に収まっていた。


「お、ジャンバールいいとこに。運ぶの手伝って」
「あぁ。…これはレシピに載ってたか?」


ベポリクエストの長芋ときゅうりの漬物。
生姜やニンニク、唐辛子と一緒に醤油で漬けたこれは確かアレには載ってなかった筈だ。


「なかったかも。聞きゃあ良いじゃん、本人居んだし」
「そうだな…ゴマ油か?旨そうだ」


こいつは俺以上に料理が好きだ。
誰も出来るヤツがいねぇから仕方なく作ってる俺とは大違い。


「旨いぜ!俺もそれ好き。…見てねぇで運べって」
「あぁ、すまない。…ウイは大分張り切ったな」


綺麗に盛り付けられたクルー達大喜びが確定な肉の山は、牛に豚に鶏のフルコンボ。

野菜もただ切っただけのヤツからプチトマトやえのきを豚バラで巻いたヤツまで多種多様だ。


「好きだからさ、アイツ。こういう皆でわいわいやるの」
「…だろうな。」


デカいトレーになんとかそれを乗せながら
どちらからともなく鼻から息がふっと抜けた。


うちのお姫様は、俺らにこういう顔をさせるのが
本当に得意だ。





「「「「「乾ぱーい!!」」」」」


じゅうじゅうと肉の焼ける音を背景に、宴の時間は始まった。
グラスや瓶の重なる音があちこちで響く。


まだ酔ってなんてねぇくせに、陽気なクルー達は全員の手持ちのそれをかち合わせようと甲板の上で入り乱れた。


「っかー!!!久々に体動かした後の酒はうまいっすね!!」
「…おまえそれ褒められた事じゃねぇからな」


要は鍛練をサボってたから久しぶりな訳で
失言を咎められた割にげらげら笑いながら肩をバシバシ叩くクルーと
気を許した相手に関してはこういう馴れ合いも特に嫌そうじゃねぇキャプテン。


すっかり日が暮れた夜空の元で
他愛もない話は盛り上がった。


「おまえ何やってんの」
「えー?ちょっとね…。まぁ、乙女は色々と忙しいのよ」


いつだってどこかしらの輪に混ざって楽しそうに飲み食いしてるウイが
珍しく一人真剣な顔でなにやら皿の上の物体と格闘してる。


「…あぁ、そういうこと」
「絶対言わないでよ!!内緒だよ!」


こっちに顔を向ける事なく作業に没頭するウイの左手には爪楊枝。
そして右手にはタバスコ。

視線の先にはこんがりと焼けた豚バラに包まれたプチトマト。


ペンギンにリベンジか。


「ねぇシャチもカモフラージュに付き合って!私一人で行ったら警戒されるかもしんない!」
「別に良いけど。…おまえ、意外と執念深いな」


焼けたトマトの皮に小さな穴をあけて、楊枝を伝わせて中にタバスコを注ぎ込むこんではニヤついてる。


昨日のアレは相当ご立腹だったらしい。


「よし!出来た!行くよシャチ!!」
「あー、俺何すれば良いの?」
「センスで!」


一見他のと変わらないその串を皿に乗せて、意気揚々と腕を引く妹みたいな存在。


センスとか、1番俺が苦手なやつ。

でも爛々と目を輝かせるウイがあまりにも楽しそうで
やれるだけ頑張ろうとか思わなくもない。







キャプテンと仲直りもしたみてぇだし。
…少しは元気出たのかもしんねぇな。







「おーウイちゃん。これウマい!牛さん?」
「豚だよ。スペアリブだよ」


ペンギンは今から仕返しされるとは露ほども思ってないのか
能天気に骨付き肉にかぶり付いていた。


「へー。ウマいねスペアリブ。…それなに?今まで作ってくれたことあった?」
「プチトマトの豚バラ巻きだよ!お初だよ!畑のトマトが食べ頃ですよ!」


2個連なって竹串に貫かれてるそれ。
ウイが上の一個を頬張ってはそれはそれは旨そうな表情を浮かべた。


本当にこいつは腹黒い。
策略家。


下のトマトにだけタバスコを仕込んだことも
上のを自分が食べて油断させることも

ウイが口つけた串だから、ペンギンがそれに釣られるんじゃねぇかとかまで考えてやってんじゃねぇかとすら思う。


「こっちも美味しいよ。ペンギンも食べる?」


きょとんとした表情で仕返しの品を勧めるウイが怖い。
女って怖い。

絶対腹の底ではさっきのあの人の悪い笑みを浮かべてるんだろうに。


「一個じゃ足りない。ひと串食べたい」
「え」


もぐもぐとスペアリブを頬張るペンギンは、野生の勘か何かで危険を察知でもしてるんだろうか。

勝ちを確信していたウイが串を片手にピシリと固まった。


「まだ焼けてないからこれ食べて良いよ」
「ウイ食いなよ。俺今これ食ってるし」
「え」


ウイ、顔酷い。
顔。

え、マジかよって顔してる。
それウマいもん勧めた人の顔じゃない。


「食べてよ!美味しいから!美味しく焼けたからこれ!」
「シャチに食わしたげなよ。何も食ってねぇじゃんシャチ」


なんだと。






のほほんと見下ろしてくるペンギンと
ギロっと音が聞こえて来そうな勢いで睨み付けてくるウイ。


ちょっと待て。
なぜ俺が睨まれる。
俺だってあんな大量のタバスコ詰められたトマトは食いたくない。


「いや、俺焼いたトマト嫌いだから」
「は?!美味しいじゃん!甘くて!」


いやおまえはそこに乗るな。
違ぇだろ。


これはどんなセンスを見せれば正解なんだ。
俺にどうしろと言うんだ。


とりあえず手持ちのシードルを傾けた。


相変わらず旨い。
でも素直に酒の旨さに浸れない。


お願いだから本当にやめて。







「折角ウイがあーんしてくれるなら貰っとけば?」
「口移しなら貰う」


骨に付いた肉を器用に剥がしながら、飄々とキャプテンの耳に入ればぶちギレ案件を吐くこの男は本当に運に守られてる。


流石にそこまではしねぇだろって思いながら、この仕返し作戦の首謀者の顔を伺い見た。


「折角美味しそうに焼けてるのあったから…色々お礼も兼ねてペンギンに食べて欲しいなって持って来たのに…」















情に訴える作戦か。


しょんぼりしながらトマトを見つめるウイを見て改めて女の恐ろしさを感じた。


復讐の為なら腹の底では恐ろしい事考えながらも
こんな悲しげな顔が出来るのか。

怖い。
やっぱり女は怖い。


「なにどしたの。しおらしいウイとか気持ち悪い」











…こっちもこっちで凄ぇ。
俺ならこんな悲しげな顔されたら食っちまうと思う。


感心しながらペンギンを眺めていれば
串を片手にわなわな震えてるウイの姿が横目に入った。







「ウイさん!あっちでパニパニゲームやってるから一緒やりましょう!…ん?何それ超旨そう!」


あ…


ウイの肩に凭れ掛かるように絡んで来たエイジが
デンジャラスなトマトが刺さった串にかぶり付いた。


「げっ…!」
「げってなんスか!行きましょ……んぁッ!?ンだこれ!!辛ッ!!酸っぱ辛ッ!!え!!?何すかこれ!!」


エイジの顔が、酒以外が原因で真っ赤に染まる。








「…へー。そういうこと」
「アタリだね!エイジくん!当たり!!それ辛いトマトだったんだよ。うん」


トマトはしし唐的に
たまに辛いみたいな事ありません。


「え、そうなんスか!?これくっそ辛いッすよ!…えーマジで知らなかった。今度から気を付けよー」


…おまえもおまえで信じんのかよ…エイジ…。






事の全貌を悟ったペンギンがウイをじと目で睨み付ける中
犯人はエイジを引き連れ飲ませ合いゲームの輪にそそくさと逃げて行った。


「なに。シャチも共犯?」
「いや、巻き込まれただけ」


結局置き去り
俺本当に災難


へぇ、って疑わしそうに目を細めるペンギンの視線には
気付かないふりをした。







陽気な声が絶えない賑やかな船上。


酒を片手に火を囲み
肉を奪い合い
笑い、時には語らう


そんな時間。


きっと俺はこの時間が嫌いじゃない。
率先して騒ぐ方でもなければ
気の置けない人間の居る酒の席は寧ろ好かない。


気のおける連中しか居ない中での
旨い酒と飯。


居心地が悪い訳がない。








「やべぇドツボ!これもう無限ループっしょ!!」
「勝てば良いじゃん勝てば!!」


何かしらゲームを興じて
負けたヤツが一気。

飲みたがり飲ませたがりなうちのクルー達は
この手のゲームが好きだ。


「じゃあそんな私から始まるー!!」
「「「「「イェーイ!」」」」」
「いやちょっと待って!!俺負けたのに俺からじゃないんスかッ!!?」


そしてウイも、こんなノリが好きだ。


「高速パニパニ〜!!パニパニパニパニ!!」
「「パニパニパニパニ!!」」
「無視っすか…」


このゲームを知らない人から見れば
こいつらは不可解な言葉を連呼しまくる呑んだくれ。

知ってるヤツが見ても呑んだくれであることは間違いないが。


「キャプテン混ざって来ねぇの?」
「自分から行かなくてもどうせその内巻き込まれんだろ」


隣に並ぶように船縁に背を預けたこいつはどうしたと言うんだろう。


普段はあっちの輪に混ざっている事が多いペンギンがこっち側に居るのは珍しい。


「でしょうね」


そう言えば。


手は出さなかったらしいものの、昨晩ウイと一緒に寝てたこいつ。
どんな経緯でああなったんだ…?


「なに?」
「…何でもねぇ」


訝しむように向けた視線に気付いたペンギン。
心に浮かんだ疑問は飲み込んだ。


「そ?なら良いけど。…ウイちゃんと何かあった?」
「…ねぇよ、別に」


それを聞きたいのはこっちの方だ。

だが聞いたところでどうしようもない。
俺がすべき事は変わらない。


他の連中はウイとの揉め事が解決した事を良かったと口々に並べるのに
やはりこいつはそれ以外の何かに気付いている。


「ふーん」


同じタイミングで傾いた酒瓶。


ウイの気持ちの変化にこいつは気付いているんだろうか。


もし気付いているのなら


それをどう思ったんだろうか。





destruct at reality.