13-35



なんでドフラミンゴと接触した私にあんなに怒ったのか。


気を付けてるからだよ。
ローは恩人の仇を討つ為にいつだって努力してて
その為に周りに危害が及ばないように細心の注意を払ってて

見せないけど我慢だってきっとしてる。


私がそれを無駄な事にしかねない行動を取ったから腹が立ったんだ。







言葉でちゃんと組み合わせなくてもね
ローのこれまでの言動の裏側を、本音を、文章にして説明しなくたって

そんなこと、あの時だって朧気にでもわかってた。


エースを助けに行くって決める前も
きっとちゃんとわかってたの。


私はそれを知ってた上で
大事に思ってくれてるローがあんなに…でんでん虫苦手なのに、禄に喋りもしない癖に毎日連絡くれたり
普段絶対言わないような弱音を見せてくれまでして止めてくれたのに

その気持ちを踏みにじったの。


そこまでしてでも選んだの、エースを。


エースが死んでしまったからって
やっぱりローって…


そんな調子の良いこと出来ない。
出来る訳がない。










今の自分を客観的にでも述べてみようか?


恋人が死んでしまって悲しくて
自分を好きな人を利用して、一時でも寂しさを紛らわせて

元好きな人に本当の事を告げて気持ちが離れて行くのが嫌で、怖くて
言わないの。

応えられないのに、好きでいて欲しいの。
あげないのに、与えられたいの。







「本当に…どこまで最低なんだろ」


自嘲。


どこまでも続く青い海を眺める私の顔に浮かんだのは
そんな自分へのそれだ。


いつだったか
前も思ったな







私が人に嫌われるのが怖いのは
自分が最低な人間だってわかってるからだ。


わかってるから、それがバレてしまうのが怖いんだ。











「流石のエースにもこれは…引かれるんだろうな…」


空は明るくて、太陽は寧ろ昇り途中。
月が私の恋人を連れて来てくれるまでにはまだまだ時間がいりそうだ。


謝らなきゃ。
それでちゃんと気持ちを整理して
次に会う時には絶対言うの。


だからごめんね、エース。
ダメで狡くて、意気地無しでしかない私だけど


腹も立つだろうし
調子良い事言ってんじゃねぇって思うんだろうけど



許してね。








「おまえら、始める前に少し話がある」


ウイを見送って、もう本人どころかフリーウィングが豆粒くらいにしか見えなくなった頃
さて鍛練の準備でもしますかと動き始めた俺たちにかけられたキャプテンの言葉。


「なに?」
「今後の事だ」


これはきっと真面目な話。
ハートの海賊団暦の長さに関わらず、全員がキャプテンのそんな雰囲気を察知してた。


「ウイがドフラミンゴと取引してんのはおまえらももう知ってるな」
「俺が吹聴したからね」


なるほど。
そっち関連か。


ウイが仕入れて来た情報の件かな。
そういえばなんだったんだろ。

それより気になる事がありすぎてすっかり忘れてた。


「約5ヶ月後、ウイは酒の引き渡しでドフラミンゴと接触する。場所がどこかは断定出来ねぇが…恐らく新世界」
「取引って言ったって本人がのこのこ受け取りに来るもんなの」
「ベポ、質問は最後に纏めて答える。まずは黙って聞け」


はいはいどうもすいませんでした。


咎められた事を面白くなく思いつつも
きっとこれは本当に真面目な話。

ちゃんと聞こうと背筋を伸ばし直した。


「一点目だ、5ヶ月間死ぬ気で覇気の修行に挑め。そのタイミングで新世界に入る」


新世界は俺の生まれ故郷がある海。
そこに5ヶ月後、入る。


「ドフラミンゴがウイと俺らの繋がりをどこまで察知してるかが不明だ。何かしら仕掛けてくる可能性がある」


俺はバイヤー達から締め上げた情報とキャプテンの話でしかドフラミンゴを知らない。
でも確かに結構な曲者っぽいし頭も回りそうなイメージ。

天竜人お抱えの職人って言う目立つステータスを背負ってはいるけど
キャプテンと繋がりのあるウイに取引を持ちかけるなんて偶然にしてはちょっと出来過ぎ感も否めない。


なるほどね。
エースも白ひげももう居ないこの状況で、一人で向かわせるのは確かに心配だ。


「後は酒を受け取ったドフラミンゴの追跡だ。恐らく酒を贈る相手、ドフラミンゴが機嫌を取りてぇのは…カイドウだ」


は?









俺だけじゃない。
頭に浮かんだこの声は、ハートの海賊団満場一致だろう。


え…
カイドウってあのカイドウ?


不死身とか化け物とか言われてるあの四皇の…カイドウ?






「二点目だ。今後の情報収集、ドフラミンゴの件に追加して“カイドウ”それと“スマイル”これに関するネタも拾ってこい」


走った衝撃も冷めやらぬまま、キャプテンの話は続く。


色んな突っ込みは置いておいて、“カイドウ”はともかく“スマイル”ってなに。

なんかどっかで聞いたことあるような…
ないような…


「そして最後だ。このヤマは恐らく…ドフラミンゴに加えて四皇まで絡んでくる」


頭の中から“スマイル”の情報を引っ張り出そうと思考を巡らせていれば
次にキャプテンが口にした言葉に、結構な人数が同時に息を飲んだ。


「これは俺の私情だ。怖じ気付いたヤツは次の島で船を降りろ」














「ですって」
「いやちょっと待ってそれどういうこと」


皆が皆、固まったまま身動きが取れなかった。
そんな静寂を打ち破るようないつも通りの適当なペンギンの発言。


はっと我に返ってキャプテンに詰め寄る。


今更なんなの。


「言葉通りの意味だ。既にヤバかった事には変わりねぇが…四皇だ。事情も変わってくる」


知ってるよ。
さっき聞いたよ。


聞きたいのはそこじゃない。


「相手がどんな化け物だろうと俺は引く気はねぇ。事と次第によっては命に関わる。よく考えろ」




「「「キャプテン…かぁっこいい!!」」」
「一生着いていきます!!」
「四皇だろうとなんだろうとさっさと伸してやりましょう!!」


バカなの?
いや、バカだよ。大馬鹿者だ。


「真面目に考えろと言ってる。ノリで済ませられる問題じゃねぇだろうが。…真正面から当たれば一瞬で死ぬぞ」
「だから何なんスか!やってやりましょうよ!!」
「死にたくなくて守って欲しくて海賊やってる訳じゃないっスよ!」
「そっすそっす!俺らはキャプテンの目指す物の先を見たいだけっス!!」


苛立つこの気持ちは何なんだろう。


最初のあれがもう返事扱いだったのかペンギンはあっち側。
シャチはキャプテンの耳元で何かを呟いて、それと同時に肩を叩いた。
ジャンバールはキャプテンに命を救われたようなもんだからどこまでだって着いていくだろうし。

それにこのその他大勢は揃いも揃ってこんな調子。


「ベポ、おまえはどうする」


だからなんなのキャプテンは。









本当ムカつく








「良いんだ?降りるなら降りたで」
「俺にそれをとやかく言う権利はねぇだろ」


わかってる。
わかってるよ。


死んでも可笑しくないくらい強大な敵だから
全部自分の都合だから
強制しないって。


俺を、俺たちを心配して
気遣って言ってくれたのだってちゃんと…


「わかってるよ!!!」
「…どうしたベポ」


急に大声を出した俺に、珍しくキャプテンの目が驚きに見開かれた。


「なんなの…あっちもこっちも揃いも揃って…!!」


虫の居所が悪い?
ただの八つ当たり?


どっちもだ。


キャプテンにとって俺たちって、俺ってその程度の存在なの?
居なくなったらそれはそれで構わないの?


「仲間なんじゃないの!!?なんで着いてこいって、そう言ってくんないの!!」
「じゃあ着いてこい」






え…







即答で返ってきた返事が予想外過ぎて度肝を抜かれる。


いや、そう言って欲しかったんだけど。
そうなんだけど。


「仲間だから無理強いしたくねぇだけだ。嫌じゃねぇなら着いてこい。」
「…あ、ハイ。」


凄く、呆気なく片がついた。


拍子抜け。








急に大声出しちゃって、ちょっと恥ずかしかったかもとか思わなくもないんだけど
皆も言いたい事は同じだったみたいだ。
鍛練の準備をしに移動する皆が、グッジョブ!とでも言いたげに目を合わせて頷いてくれる。








さっきまで凄い腹立ってたのに
不思議なくらいにそれが収まってる。


寧ろなんだか、…嬉しい。








まだ精神統一の段階な人
見聞色の修行で目隠しで組み手をする人
武装色の修行で防御せずに武装でダメージを無効化してる人




「おいベポ、おまえ今日はサボるなよ。連れてって即刻死なれたらそれこそ困る」
「煩いな、わかってるよ」


呆然と立ち尽くしてたら、眉を寄せたキャプテンに睨まれた。








あぁ、きっとそうだ。


そっか。
そういうことか。


「フフフ」
「今度はご機嫌だね熊さん」


なんだか一人で笑ってしまってたら、いつの間にか隣に居たペンギン。


「まぁね」
「組み手しよーぜ。先目隠しどうぞ」


目を隠すように、受け取った布を頭に括りつけた。







きっと俺
ウイが頼ってくれない事を、あれからずっと不満に思ってたんだ。

それでキャプテンにまで見放されたような事言われて、不安で仕方なくなったんだ。


俺の中ではウイもキャプテンもこんなに大きくて大事な存在なのに
二人にとったら俺なんていらないのかなって寂しくなって拗ねたんだ。


違うって言って貰えて、ほっとしたんだ。


「うぶっ!!…ちょっと!まだ集中してないんだからやめてよ!」
「いつまでニヤけてんの。じゃあいきまーす」


いけないいけない。
集中しないと。


視覚情報のない真っ暗な空間でペンギンの気配を探った。







ウイも、もう俺が必要ないとかじゃないのかな。
ちゃんと言えば、またあの頃みたいに話してくれて頼ってくれるかな。






猛スピードで襲い来る拳と蹴りからひらりと身をかわす。

次から次へと繰り出される攻撃の手は休む間も与えてくれなくて
足音を立てずに背面に回り込まれてたりもするから本当に厄介。







『分かんないね。何も言ってくれないし』


いつかウイに言った言葉。
初めて本音をぶつけてくれたウイに、俺がそう言ったんだ。


そうだよね。
言わなきゃわからないよね。


ウイ鋭いけど
変なとこ、アホだもんね。









俺とウイって、どこか似てるのかな。


勝手に溜め込んで勝手に爆発するとことか。
本当はさみしがり屋なとことか。


それでね、人一倍臆病なんだ。
普段は言いたいことズケズケ言えるんだけど
本当は凄く弱いよね。俺もウイも。


人見知りも直ってなければ
嫌われるのが怖いのも健在だ。
…だって俺は熊だし。人間じゃないし。


でもウイは別だよ。
特別にはなれないかもしれないけど、ウイならこの先何があっても


一生俺のこと嫌いにはならないんじゃないかなって
自惚れかもしれないけど、勝手にそう思ってるよ。



…次はいつ会えるのかな。
さっきまですぐそこに居たのに


もう会いたいや。



destruct at reality.