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「そういえばこの島、ログは7日でたまるって」
「結構かかるね。じゃあ私明後日からお仕事頑張る!」
「おう頑張れよ!マジで!」
このルンルンバースに造船所らしきものは見当たらず、口には出さぬが誰しもが
それにほっと胸を撫で下ろしていた。
ハートの海賊団は明後日以降、次の島や造船所のある島の情報収集に動く。
ウイが仕事に時間を割けるよう、今回も買い出しの集荷は彼らが請け負うことに決まった。
滞在中の日程相談も終え、店から出た一行は散策がてら来た道とは違う道を歩いていた。
そちら側の通りは高級店が多いようで、品の良い佇まいの店が立ち並んでいる。
「はぁ…!なんか都会って感じ!」
「──ねえ!!ウイあれ見て!!」
#Name1#がその街並みに感嘆の息を吐き惚けていると、鼻息の荒いベポがその腕を掴みどこかへ駆け出した。
「ど、どした?」
「良いから!!」
引かれるがままにベポに連れて来られたのは酒屋のショーウィンドウの前。
ガラスの先には、選び抜かれた選りすぐりの酒が飾られていた。
「素敵だねぇ…私も頑張らなきゃな!これいくらするんだろ…」
「ちょっとどこに目ぇつけてんの?!ほら!見てあれ!」
ついにベポにまで雑な扱いをされるようになった事に衝撃を受けたウイは、私の可愛いベポ…とうちひしがれた表情で肩を落とす。
そんな事はお構い無しに凄いじゃん!とウイの肩を叩きまくるベポに、彼女は何事かと顔を上げ
固まった。
「…嘘」
「ほら、行ってきなよ!!」
ベポはその背中を、今度は優しく押す。
ただ黙って頷いたウイが、店内へと足を踏み入れた。
「どしたの?」
急に走り出した二人をのんびり追って来たペンギンが、騒がしいその様子に何事かと首を捻る。
「ウイのお酒が売られてるんだよ!」
「おーマジか!キャプテーン!!」
この知らせを最も喜ぶであろうと呼んだ人物は、少しばかり一人で歩かせた隙に若い女に声を掛けられていた。
面倒臭い心境を隠しもしない態度のローには、流石のペンギンも相手の女を気の毒に思ったとか。
「是非うちに卸して頂きたい。量が入ってこないせいで知名度はまだあまりないが、既にコアなファンもいるからね」
「本当ですか?!今出せるのだとシードルとワイン、あと新作のレモンのスパークリングがあるんですけど」
店主に売買の交渉を持ちかけたウイは、まともに相手にして貰えるどころか
自分の酒が認知されており更には好感触な事に喜びその顔をほころばせた。
「あるだけ置いていって欲しいぐらいさ。価格はそうだね…このくらいでどうだい?」
「そ、…そんなに?」
ウイは北の海の2倍近い値をつけられた事に驚いた。
実際カウンター脇に並ぶウィングカンパニーのシードルの値札には要交渉の文字。
北の海からルンルンバースを選び入ってくる行商人が限られれば、自ずと希少性は増す。
輸送費も上乗せされるだろう事は予測出来ても、それはとんでもない値段で取引されているようだった。
「あの…凄く勝手なお願い、しても良いですか?」
「なんだい?」
ウイは、今後グランドラインでの認知度を上げる事を目的に
言い値の半分で卸す代わりに販売価格を下げて貰えないかと交渉した。
言い値で卸せば利益は上がるが、手に取る客層が限られる。
ハートの海賊団との一件以外でも、多くの人に自分の酒を飲んで貰いたいと願う気持ちがウイにはあった。
物腰の柔らかい店主は、そんなウイの心意気と真剣な眼差しに優しそうに目を細める。
「良い商人だ。今後もこの海でやっていくならそれが賢明だ。条件を飲もう」
「ありがとうございます!」
「それはそうと。嬢ちゃんギルドに属する気はあるかい?」
店主は1枚の紙をウイに手渡した。
それはこの島を行商ルートに入れたギルドの一覧。
ギルドとは商人達の寄合。
個人で動くよりも輸送費も浮けば配送の機会も増える。
知名度を上げたいのであればお薦めだと、それは店主からの提案であった。
「まずは覗いてごらん。配送先が違う所にいくつか籍を置くのも手だ」
「ご親切にありがとう!」
ウイはこれまでにない本格的な商いの香りに胸をときめかせ、店主と後日酒を売りに来る約束をして店を出た。
「幸先良いじゃねえか」
「あれ、皆は?」
店の入り口脇に背を預け、そこにローは立っていた。
「それでね、明後日お酒卸した後でいくつか覗いてみようと思って!」
他のクルー達は武器屋を物色していたようで、店の前のベンチでウイはローに先程の一件を伝えた。
「俺も行く」
「へ?」
商人の集まりになど微塵も興味がないであろうローが言い出したのは、ウイにとって意外なもの。
「物売ってる訳じゃないと思うし、ロー来てもつまんないと思うよ?」
「構わねぇ。売る酒運ぶなら人手もいるだろ」
酒瓶は他の商品に比べて重量がある。
これはギルドに興味があると言うよりは、重い酒を運ぶのを手伝ってくれると言うことなのだろうとウイは悟った。
「ローって本当、実は優しいよね」
「…さっさと名を上げて貰わねぇとこっちが困るだけだ」
勘違いするなとでも言いたげなその口振り。
元よりローの威圧に動じない彼女には、そんな態度もまた何の誤魔化しにもならない。
「ありがと!宜しくね!」
「あぁ」
酒を運ぶ事以外でも、ローには着いていくと言った目的があった。
今後も継続的に付き合っていく事になるであろう商売仲間の選定。
おまえは保護者かと突っ込みたくなるほどに、ローはウイを変なギルドに入らせてなるものかと勝手に気を揉んでいた。
21才という設定であったとしても、見た目はそれに及ばない。
商品が重宝されているのであれば、まだ年若い事を見くびられ良いように使われやしないかと
ローはそれが心配だった。
店主から受け取った一覧を眺めながら、あれこれはしゃぐウイに向けられる通りすがる男達の視線。
それにまるで気付いていない本人は、酒以外でも売れそうなものを目を輝かせ口にしていた。
「ねぇちょっと。人の話聞いてますか」
そんな通行人を威嚇する事に気を払ったせいで、ローはウイの求めるタイミングでの相槌を怠ったらしい。
「大体は」
「もしかして武器屋見たかった?行く?」
通りに目を向けていたローは、武器屋の店内を覗いているように見えたようだ。
必要ねえと聞こえた返事にあっさり納得したウイは再び喋りだす。
喧しい事を嫌う彼が、それに該当する筈のウイのこれを黙って聞いているこの状況は
特殊なことだと、本人は気付いているのだろうか。
「わぁ凄い人!あれ何!?ねえ!早く早くー!!」
開園時刻と同時に、入場口からは塞き止めていた水が溢れだすかのように人が園内へと散っていく。
初めての遊園地に興奮が冷めやらぬウイのテンションは絶頂を迎えていた。
多種多様なアトラクションにカラフルなモニュメント、テンポの良いBGMに、露店から漂う食べ物の匂い。
遊園地は彼女の心を踊らせる物で溢れていた。
「はい、落ち着けー。お前被り物欲しいんだろ?早いとこ買いに行こうぜ」
せっかくの遊園地。
賞金首であるローの存在が知れて水を差すような事は避けるに越したことはない。
ウイはパンフレットから売店を探し、一行は一先ず面隠しを調達することにした。
「私が皆の選んだげるね!」
ウイは意気揚々と店内に並ぶカチューシャや帽子を漁っては彼らに試着させ、その仕上がりを確認しては他の物を被らせた。
真っ先に捕まったシャチは彼女にされるがままだ。
「ねぇ俺らでウイのやつ選ぼうぜ。アイツどういうの似合うのかね」
こういう所ではしゃぎそうなヤツナンバー2。
ペンギンはローの腕をガシリとホールドしファンシーな雰囲気のコーナーへと彼を引きずっていった。
どうやらこの遊園地には動物をモチーフにしたキャラクターがいるようで
どの被り物も何かしらの動物の耳が付いている。
「猫?ウイ猫っぽいよね」
ペンギンは猫耳のついたカチューシャやら被り物を片っ端から集めた。
飄々としていて、マイペースで、興味を引かれる物にまっしぐら。
彼らの中のウイのイメージは確かに猫そのものであった。
「どれが良いのかね。これ」
選りすぐったそれはどれも似たり寄ったり。
ここはローに選ばせようと並べられたそれらを、選定者は仏頂面で眺めた。
「次ペンギンー!」
シャチとベポの物を選び終えたらしいウイが次のターゲットの名を呼んでいる。
それに返事をしたペンギンが彼女の方へとかけて行った。
どれも同じに見えるそれらの中で、猫耳と三つ編みがサイドについた白のニット帽がローの目が止まった。
「お、それウイの?良いじゃん似合いそう」
「そうだね!ウイは猫だし白だね!」
ローが手に取り眺めていた物を、頭に愉快な帽子を乗せたシャチとベポが覗き込んだ。
シャチはその名の通り、シャチの形を模した帽子を被っており
ベポに至っては、熊だ。
熊が熊を被っている。
彼女らしいと言えば彼女らしいそのチョイスに、ローは思わず吹き出した。
「いやキャプテン他人事じゃねえから。次キャプテンもああなっから」
シャチが指差す方向には、頭にペンギンを乗せた同じ名の男の姿があった。
シャチとベポの帽子はまだ、顔がプリントされていたり耳が付いていたりと、キャラクターや帽子の要素が強い。
しかしペンギンの頭にはペンギンそのものが乗っていた。
横になっているペンギンの腹に被る部分があるそれはもう、帽子と呼んでいいのかが怪しいレベル。
だがペンギン本人はそれを気に入ったらしい。
鏡の前で頭上に乗ったペンギンの脱力するそれと手を繋ぎウイと一緒にはしゃぐ彼の姿は
それはそれは楽しそうなものであった。
それに決めたらしいペンギンの元から次のターゲットへとウイが駆けてくる。
「次ローね!こっちこっち!!」
彼女がローの腕を引き連れて来たのはトラをモチーフにした帽子が並ぶコーナー。
楽しそうにそれを物色するウイの頭に、ローは先ほどの帽子を被せてみた。
「ん?帽子??これローが選んでくれたの?」
手を止め鏡の前へ移動してはその角度を調整し気に入ったように喜ぶ彼女を、ローは満足気に見下ろした。
「どう?似合う?」
満面の笑みで見上げてくるウイは、帽子が醸し出す雰囲気も相まって
どこから見ても可愛らしい女の子。
「悪くねぇな」
きっとローもそう思ったのだろうが、彼の口から出る言葉は心とは裏腹にあまりにも素っ気なかった。
しかし口調ではそれを隠せても、体は正直。
熱の集まってくる気のする顔を悟られたくはないローが、猫耳帽子を被る頭を軽く叩くついでに
それをズラしウイの視界を遮った。
「ちょっと何すんの!折角いい感じだったのに!!」
そんな文句と共に鏡の前で猫耳の角度を調整したウイは
先程よりも上機嫌でローの帽子選びを再開した。