14-3
「何個くらいなら式場建てて良いんだろ。今って会計状況どうなってるの?」
「「さぁ…?」」
…早速行き詰まった。
どこに式場を置くかによって、島の風土とかそういうので具体的な話は変わってくるだろうし…
「じゃあ!そこは他纏まってからディゼルに聞くとして!他詰めよう!建物建てるなら建築家とかにオファーしなきゃだし!誰か宛ない?」
「いや今聞こうぜ。聞いた方が続き練りやすい。……もしもーし!俺だけど今って資金繰りどんな感じ?」
『本当に能天気って才能なんだね。なにいきなり』
本当に才能だと思う。
あんな切り方されてよく気軽にでんでん虫掛けられると思う。
全く悪気がないからこそ出来る技。
アオイ凄い。
ディゼルもなんだかんだで会計状況調べて教えてくれて、ブラーヴェの好調具合を数字で聞いて少しおったまげた。
今も新しい店舗を置く島の下見は常にしてるみたいだし、最初はシードルメインだった売れ行きも
今や他の取り扱い商品もしっかり根付いて来てる。
そりゃそうか。
皆の作るものは凄いもん。
私がブラーヴェで自分が作るものを売りたいと思ったのは
皆の作るものが純粋に好きで、魅力的だって思ったから。
「りょうかーい。じゃあその中で色々考えるわ、ありがとさーん」
『多少オーバーしてもローに借りた資本金返すの遅くなるだけだから。そこ問題ないならプラス一億でよろしく、じゃ。』
答えてくれはしても素っ気ないディゼルとの通話が終わると
リビングでは低い唸り声が3つの発信元から上がった。
「普通に考えると店舗同士の中間なもんなの?距離近い方が申し込みやすいもんなー…」
「でも式がない日、建物も雇う人材も溢れちゃう訳でしょ?そうすると中々なお値段付けないと元取れないけど」
「そういう話はウイだろ!俺やりてぇ事はあってもコスト考えながらできねぇから。なんか良い案ない?」
…そんな事言われたって。
出た案をメモする羊皮紙にレースのデザイン画を書き始めるカレンと、さっき話してた時計企画の構造を既に練りだしてるらしいアオイがそこは担当外とばかりに思考を放棄する。
この二人は本当にやる時とやらない時が極端。
なんか良い案あるかな…
働く人が式の予定がない状況でも何かしらお仕事があるように…
沢山の人にブラーヴェの結婚式を挙げて貰えるように…
予算と距離の問題…
現時点で展開してる島の分布と、式場を置く島を訪れる為の定期船の運航状況…
んー…
最悪商品運搬してる船を臨時で招待客の送迎に使うのも有りか?
…ん?
「ねぇねぇ、船は?結婚式する船!移動できればどこででも結婚式挙げられる!予約ない時は商品の運搬に使って…」
「おお!!良いじゃんそれ!」
「何個も式場建てるより安そう!」
これって…我ながら名案なんじゃないか…?
式を挙げるスペースは規模にもよるけど大きい方が良い。
ならそれ以外の、船下部分をスタッフの居住空間にしちゃえば良さそうだし。
なんなら仕込みとか製作スペースも儲けてしまえば作りながら運搬が出来る。
式の予約がない時は世界中を航海しながら、商品の生産もして貰えれば予約に左右されずに人件費の管理も出来る。
製作所に立ち寄る度に他の島の話を聞きたがるあの子達は、色んな世界を見たいんじゃないのかな。
今はまだ孤児院を出たての若いスタッフも、いつか結婚とかして家庭を持つんだろうし。
そうなった時、住まい件職場なら家族と離ればなれにならずに済む。
…あれ?
一石二鳥。いや三鳥くらいじゃない?
「取り敢えず原案それで行こうぜ!どこに頼む?造船所っつったらウォーターセブンか?」
「それなら私腕利きの船職人知ってる!!頼んでみれそうかも!」
一応製作と運搬のスタッフ達に意向も聞かなきゃいけないからなんとも言えないけど
もしこれが実現出来るならそれって結構素敵かも。
真っ青な海と空の下での特別な結婚式。
でも雨降った時とかもちゃんと予約した日に結婚式挙げられるように…そこは船のプロのパウリーに相談だな。
専門はマストでも、あんなにお客さんに合わせた船を作ろうと奮闘してるパウリーは絶対相談に乗ってくれると思う。
あの『んまー』っていう変な口癖の人も。
「じゃ、まずはウォーターセブンに向けて出航だ!」
「「おー!!」」
どうしよう。
凄くわくわくする。
今の私に素敵な結婚式がプロデュース出来るのかなって心配だったけど
思い描いた素敵な事が実現しそうなこの感じは
胸が騒ぐ…!!
「結婚式っぽいかなって思うデザインはこの辺」
「色は…白かなやっぱり。何かないの?このレースはこういう風に使って欲しいとか」
船を出してからは各々が分担の作業に取り組むことになった。
パウリーに相談してみて受けて貰えるか、見積りどのくらいになるのかが分かってからディゼルやソニアには相談する事にして。
「えー…これ使いたいとかはあるけどどこに使うかまではイメージ沸かない。任す」
「もー…適当だなー」
アオイは地下の作業スペースで早速時計の構造を練り直してるし
私達はウェディングドレスのデザインを相談してた。
「んー…こんな感じかな。こう、ふわっとした感じ。プリンセスラインって言うの?こんなやつ」
「あー…でもこうふわふわした感じだとレースの柄生きないからこれは嫌」
「あるじゃん拘り…」
スケッチブックに描いたラフ画に早速ケチを付け出すカレンさん。
でも確かにレースってふわっとしたボリューム感あるイメージだったけど
カレンがデザインする精巧なレース模様を考えればしつこい気もする。
「無地のボリューム重視のレースで、光沢出る感じにしてアクセントでデザインレース入れる感じならこれも良いかも」
「…なるほど。でもデザインレース生きる感じのやつも捨てがたいな…。花嫁さんの希望に合わせて選んで貰いたいし!いくつか考えよう!」
このラフ画にポイントで柄レース入れるのも確かに凄く可愛いけど
せっかくならカレンのレースの魅力を全面的に出したドレスも作りたい。
そうなるとAラインとかの、形はシンプルな方が良いかな。
胸元とかのレースの模様映えるようにして。
それも可愛い!
「でもお色直しとかではカラードレスとかの需要もありそうじゃん?色付きなら下地色変えて柄際立たせる感じのやつとかも作りたい!」
「何パターン作ろう…試作でどのくらいお金使って良いんだろうね…」
どうしよう。
楽しい。
拘りないとか言いながらもこうしたい!ってイメージを伝えてくれるカレンに、創作意欲が刺激される。
…こんなドレス着て
大好き人との結婚式を
祝って貰いたい人達と共に挙げられる。
うん。
これ素敵な企画だ。
カレンとのドレスの打ち合わせはその日の内に大分纏まったの。
蔦っぽいモチーフレースに合わせた淡いグリーンのドレスとか。
深紅やネイビーのシルクのドレスに、他の色でレースを重ねて模様を引き立たせるやつとか。
あとはベールのデザインとかも考えたんだ。
最近裁縫関係はハートの海賊団のつなぎしか作ってなかったから
女の子っぽいデザインを考えられるその時間は思った以上に楽しいものだった。
「それで?最近どうなの」
「どうって…何が」
時計の方は四苦八苦してるみたいで
夜ご飯食べてすぐにまたアオイは地下に引っ込んでしまった。
流石職人気質。
私とカレンは順調だったから、明日またやろうって早々にお風呂に入ってベッドに潜りこんだ。
久しぶりに会って
こんな状況で
相手はカレンで。
そんな中夜の女子会で昇る話題って言ったら、やっぱりアレだ。
「弱ってる惚れた女が目の前に居たらさ!しかもその原因が別の男…!あのコミュ障なんて言って来たの」
「カレン不謹慎…本当にそんなんじゃないってば」
枕を抱えて楽しげにそんな話をしてくるカレンに、ちょっと心が傷んだ。
カレンは確かにそんなにエースとの関わりはなかったけど
エースをローと私の成り行きの為のスパイスみたいに言うカレンに、遣りきれない気持ちが胸を覆う。
「エースのことはさ、確かに悔やまれる事だし。私もあんな良いヤツ中々居ないって思うから…正直ショックだったよ」
「私の方がずっと一緒に居たもん。ショックだよ」
ショックなんてもんじゃない。
絶望だ。
折角通じ合った気持ち。
気兼ねなく寄りかかれて
好きな人の好きを心から受け入れられる。
そんな日々が待っている筈だったの。
あんな状況でも、私たちの“これから”を
一瞬でも
いっ時でも
私はあの時、想像してしまったの。
「して貰ってばっかりだったからな。エースには」
「え?」
サブの枕を抱えたカレンが天井を見上げる。
暗闇に慣れて来た目に朧気に映るその横顔は、天井を通り越したもっと遠くを見てるみたいだった。
「何て言うの?んー…ヤり逃げ?…違うな」
「でしょうね」
何言い出すんだ突然。
ヤり逃げって…まぁカレンらしい発言ではあるけど。
「なんかズルいよね、良いイメージだけで終わるの。エースにも嫌なとことか、悪いとことか…弱い部分もあったんだと思うのにさ」
「それは、エースもただへらへら笑ってるだけの人じゃないからね」
エースにも弱いところはあった。
悩んだり、葛藤したり、後悔したり
私の知らない色んなエースもきっと、沢山あった。
あの処刑台の上で見た色んなエースも
一緒に旅をしてた時のエースも
きっとあれだけが全てじゃない。
もっと、私の想像なんて余裕で越えてくるくらい
素敵で
強くて
優しくて
一生懸命な人だった。
「エース、…ウイのこと好きだったよね」
「…知ってる」
「あら」
エースはそんなに駄々漏れだったのか。
私とそっくり。
好きが隠せない。
私に向けてくれた笑顔も
拗ねたような顔も
贈ってくれた言葉も
貰ったものだけでも心が暖まるのに
知らないところでもエースは私への好きを溢れさせてくれてたのか。
なんか嬉しいな。
「それ知ってたなら…尚更ウイはツラいよね。応えられなくても、自分の事好きになってくれた人って特別じゃない?」
そう言われて真っ先に思い浮かんだのはペンギンの顔。
もうエースは私の好きな人だし
ローは…“元”好きな人だから何か違う。
私は無意識にペンギンにそんなフィルターでも掛けてるのかな。
元から“特別”のフィルターなんて要らないくらい、凄い人なような気がするんだけど。
あの人は。
ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
「あ!ペンギンじゃん!!」
噂をすればなんとやら。
サイドテーブルで着信を知らせるでんでん虫は誰かさんを真似ていた。