14-5



「よぉ!久しぶりだなウイ!」
「パウリー!元気だった!?」


急な訪問だったからアポ取ってまた後日かなって思ってたけど
お昼少し前だったせいか丁度事務所にパウリーは居て、触りだけ話したその内容に頷いた彼はお昼ご飯に誘ってくれた。


「初めまして!ブラーヴェのカレンです」
「アオイだ!よろしくな!」
「本当に揃いも揃って若ぇんだな。大したモンだ」


連れて来られたお店は、個室もあって落ち着いた雰囲気。
なんだかパウリーなら定食屋とかでガッツリ豪快に食べてそうなイメージだったから、落ち着いた感じのそのお店にちょっとびっくりした。


「で?船が欲しいってのは?商品の運搬船か?速度か?品質管理の為の設定が細けぇのか?」
「違う違う!結婚式を!船で挙げたいなって」

「…おまえ遂にあの男と結婚すんのか?」
「違うよ!!ブラーヴェで使うの!お仕事!!」


メニューを選びながらけたけた笑ってるカレンとアオイをじと目で睨む。


ガレーラカンパニーに船を依頼に来たって時点で、造りたい船が普通のじゃないことはパウリーも察してたみたい。


そりゃ私も確かに言葉が足りなかったと思うけど。
私の友達は揃いも揃って皆、ローと私をくっ付けたがる。

まぁ、これまでの自分の駄々漏れ具合がそうさせたんだろう。
自業自得か。


「へー、船で結婚式か。中々面白ぇこと考えるじゃねぇか。で?予算と構図は?」
「まだぼんやりとしか考えてなくて。予算は他の幹部達に相談してってなるからまだ未定。何がどこまで出来るのかとかも相談してからかなって」


なるほどなって、頷いたパウリーが
顔馴染みらしい店員さんに全員分の決まった料理を頼んでくれた。


注文を聞き終えた店員さんが出ていって個室の扉が閉まったタイミングで
パウリーが口を開く。


「俺らに作れねぇ船はねぇ。ただ今はちょっと、こっちの都合でゴタついててな。…急ぎか?」
「急いではない!まだ立ち上げたばっかりなプロジェクトだから他も全然進んでなくて。」


ポーラータング号を急ぎでお願いした時、それが出来たのが半年後。
あそこまで特殊な船にはならないと思うし、一年後くらいかな。


全然間に合う。
寧ろ他の準備がそれまで整うのかが微妙なくらい。






「取り敢えず造るモンの全貌がわかんねぇと時期も費用も何とも言えねぇ。何がしてぇんだ」


「晴れた日は外で式を挙げたいの!でも天候や気温にっては室内で!」
「50〜100人くらい客呼べるレベル!でも小規模で同時に二組とか挙げられんのも効率良いな」
「船の外観はね、レトロクラシックな感じ!そんなヤツが良い!!」


具体的な案が決まってない癖に、やりたいこととか要望だけは尽きない私達。
あれも、これも、と好き勝手言いたい放題に喋り捲る私達に比例するように
パウリーの顔が引き吊りだした。








「お待たせしました」


店員さんが食事を運んで来てくれたタイミングで、怒涛の私達のやりたいこと発表会はひとまずお開きになった。


運ばれて来たのは美味しそうなビーフシチューの定食。
見てわかる程とろとろなのが分かる塊の牛肉に、匂いだけで幸せ感が半端ないデミグラスソース。
アクセントに垂らされた生クリームもこの感じは凄い乳脂肪分を誇りそう。


絶対美味しい。
これ絶対美味しいやつ。


ビーフシチュー定食を頼んだ私とパウリー。
カレンとアオイは料理長オススメスペシャルランチを頼んでた。


あっちも美味しそう。
あ…


「厨房!厨房も結構本格的で大きいの要るよね!一回に大人数分出さなきゃだし!そうすると濾過装置も大きいの積みたい!」
「わかった!わかったから取り敢えず落ち着け!」


私たちの要望を頭の中で整理してるらしいパウリーが、まだそれを追加しようとする私を宥めるように止めた。


ソースに浸したパンを口に放り込みながらも、斜め上に向いた視線は色々考えてくれてるんだと思う。


「ねぇねぇ、それ美味しそう!これ一口上げるからそっちひと切れ頂戴」
「ちょっと待て。交換この量可笑しすぎるでしょ」


一口大に切った白身魚のグリルと、特大のシチューのお肉の交換を持ちかけるカレン。
バレたか!ケチ!と頬を膨らます油断も隙もないこの人は、諦めたのかお肉を一口分だけ掠め取って行った。


「うんまー!!何これ!とろける!美味しい!!」


新郎新婦にも招待客にも、全部が全部最高で素敵なひと時を届けたい。


お料理の方もシェフを探さなきゃ。
頬っぺた落ちそうなくらい幸せそうな、こんなカレンみたいな顔を皆がしちゃうくらい
素敵なお料理を作ってくれるシェフを。






「取り敢えず要望はわかった。うちの設計士に頼んでみる」
「え、そこまでお願いしちゃって良いの?ゴタゴタしてるって言ってたのに」


そこ遠慮するならロー達みたいに具体的な構図を纏めて持ってくるべきだよね、私たちも。


うん。
申し訳ない。


「いや、構わねぇ。おまえの要望に応えてやりてぇ気持ちもあるにはあるが、こっちもこっちで旨味がある」
「うまみ?」


食後のデザートまで付いてるとか最高か。
彩りの良い果物が乗ったクレームブリュレに
オペラとチーズケーキの盛り合わせ。


コーヒーを飲みながらスイーツを堪能しつつ、話し合いは続いた。


「ゴタついてんのの原因でもあんだが、これまで働いてた職人が何人か抜けてな。そいつらが請け負ってた分野において若干は質が落ちる」
「それ大変じゃん。尚更頼みにくいやつじゃん」


なんか、本当に良いんだろうか。
そんな大変なパウリー達に頼んじゃって。


「職人を増やすのも育てるのも必要だが、それで下がる世間からの評判を持ち直す手立ても同時に考えねぇといけねぇ」


下がるか?
評判。

そんなに凄い人達が抜けちゃったの?
ガレーラカンパニーって他の追随を許さない程のナンバーワン造船所ってイメージだけど。


「ブラーヴェは今や新世界までもが認知してるブランドだ。そこの新しいプロジェクトの目玉、船をうちが手掛ければ良い宣伝にもなる」


大変な状況らしいパウリーがこんなに手の掛かる事を引き受けてくれるくらいだ。
本当にただの迷惑ではないんだろう。


「とびっきりの最高な結婚式場を作ってやる!だからおまえらもそれに見合った式をしっかりプロデュースしてくれよな!」


にかっと笑ったパウリーに
背中を押された気がしたんだ。


「あったり前でしょ!」
「任せろ!世界一の宣伝看板になってやるぜ!」











なんか良いな。
こういうの。


「一緒に頑張ろう!よろしくね、パウリー!」


固く握られた手は、お互いのもの作りへの信念の絆。


ブラーヴェは良いものを作る為に妥協はしない。
絶対に素敵な式を作る。





「船はガレーラカンパニーで決まりだな!」
「でもソニアとディゼル良いって言うかな。予算とか、そもそも船で結婚式ってプランとか」








忘れてた。







「予算は、不足分は私が出す!」
「おぉ!ウイ男らしい!!」
「アイツらも船旅とか喜ぶ気ぃすっけどなー。でもどうせ新しくまた人雇う訳だろ?それで問題ねぇやつ選べば良いじゃん」


パウリーと別れてから、私達はこの企画が実現出来るかの関門、ソニアとディゼルからのダメ出しを想定しては回答を準備してた。


設計と、予算。
それが出来たら内装とか、オプションとか。


シェフだけじゃなくスタッフも新しく募集しなきゃいけないし、その人達に式のオペレーションだけじゃなく製造の方もレクチャーしなきゃいけない。


あとは宣伝と…
各々の担当も仕上げて…
値段も設定しなきゃだし…


「忙しくなりそう!なんか懐かしいね!ブラーヴェが本格始動した時もこの島だった!」


そうだった。
あの時も、私はこの島で寂しさを抱えて仕事に打ち込もうとしてた。

無理、してたけど
楽しかった。
毎日色んな事があって
少しずつ、思い描いてたものが形になっていくの。


「そういやそうだな!…2年かー、早ぇな」
「そだねー」


2年前も、あれはあれでこの世の終わりくらい悲しかった気がする。
つらかった気がする。


でも今思えば、あの時ハートの海賊団と別れて良かった。
あのままロー達と一緒に居たら、仕事を通して学んだ沢山のものも得られなかった。


エースにもパパ達にも、出会えなかった。
あれは私の人生において必要な事だった。


今回も、いつか
これをこれで良かったんだって思える日が来るのかな。


エースやパパを亡くしてまで
“これで良かった”って思える日なんて、訪れるんだろうか。


「やってやろうぜ!今回も!!」
「「おー!!」」


まだ日も高い時刻。
これから始まるプロジェクトに心が惹かれてるのは嘘じゃない。


大丈夫。
未来の私が思うことを、今の私が悩んだって仕方ない。


何年か、何十年か先の私が少しでも今を振り返った時に
それが少しでも良いものであるように


頑張ろう。
ただがむしゃらに。





「赤犬…か」
「何それ新聞ー?」


今朝のカモメ新聞の一面を飾った新元帥誕生の報せ。


赤犬が元帥の地位に就くということは、それまでその位置にいたセンゴクは位を降りる。


「へー、10日もドンパチやってたんだ。凄いね…壊滅状態って…どんな戦い方したら島がそんなことになっちゃうの…」


広げていた新聞をずいと身を乗り出して覗き込んでくる白熊が邪魔で記事が読めない。







興味を示したベポはそこをどく気配がねぇから
続きを読むのは一旦諦めた。











“センゴク”…









最期にコラさんは“俺に”言った。
俺を匿った宝箱に向けて。


自分は海兵だ、と。
故郷を、家族を殲滅した海軍を毛嫌いしていた俺に
嫌われたくなくてそれを今まで言えなかった、と。


コラさんが海兵だったことを知っても
俺の気持ちには何の変化もなかった。


命の恩人で
生きる希望と自由を与えてくれた。


海兵だってことぐらいで簡単に嫌いになれる程
俺にとってコラさんはそんなに小せぇ存在な訳がなかった。


コラさんの仇を討つ為に、これまで情報収集は抜かりなくしてきた。


ドンキホーテファミリーのこと。
グランドラインのこと。


そしてもう1つ。
海兵としてのコラさんのこと。


ドンキホーテ・ロシナンテ中佐。
それがコラさんの海軍での呼び名。


そしてコラさんの直属の上司が、…センゴクだった。


五万と居る海兵の中の一人。
そんないち個人の情報なんてそうそう見つかるものじゃなかった。
ドンキホーテファミリーに潜入調査をしてた分、それはより表に出にくい類のものだ。


結局それ以上の、俺の知らないコラさんの情報は得られなかった。









「民間人立ち入り禁止ってことはただ島がめちゃめちゃになっただけじゃないってこと?復興しないのかな。元から無人島だったの?パンクハザード」
「どうだかな」


叶うのならば、会ってみたい。
ドンキホーテファミリーとしてではない“コラさん”を知る人物。


ただ、俺は海賊であっちは海軍。
それも結構な立場の人間。


大勢の部下を抱えているだろうし、もう十何年も前に死んだ男の事を
果たしてセンゴクは覚えているんだろうか。




destruct at reality.