14-6
「おはよ。はい、でんでん虫」
「昨日ペンギン当番だったんだ。ウイ元気だった?」
起き出して来たペンギンが、リビングにでんでん虫を持って現れた。
怠そうな顔をしてるのはいつものこと。
でもこのタイミングでそれを見ると、夜中までウイと話していたからそうなったと頭が勝手に認識してしまう。
「らしいよ。またカレンがウイの部屋に転がり込んでるみたいで。カレンと話してる間に寝ちゃってた」
「へぇ。じゃあもう合流したんだね」
人の不幸を喜ぶ訳じゃねぇが
ウイと話そうとでんでん虫をかけただろうペンギンの思惑は、昨日は不発に終わったらしい。
さっきよりも心が軽くなった気がするのはきっと気のせいじゃない。
「なんか結婚式?プロデュースするらしいよ、ブラーヴェ」
「それはまた新しい分野に手を出したね。…でもそっか。良いんじゃない?ブラーヴェで結婚式挙げたい人なら世界中にいっぱい居そう!」
それ企業秘密じゃなかったのかよ。
初耳の情報の出所はきっと、俺に内緒だと話さなかったウイではなくカレンだろう。
本人は寝ていたらしいし。
俺の知らないウイの話。
仕入れたてのそれをベポになんてことないように話してやるペンギンに
また膨れ上がるどす黒い感情。
話したのはウイじゃねぇ。
カレンだ。
俺に言わない話を、ペンギンには話したって訳でもねぇ。
カレンの口が軽いだけだ。
口だけじゃなく頭も尻も軽いあの女が企業秘密をペンギンに話すなんて特に驚く事でも何でもない。
想定出来る範囲の話だ。
頭ではわかって…
「へぇ!ウェディングドレスウイが作るんだ。似合いそうだね」
「そだねー」
花嫁姿のウイを
瞬時に頭に思い浮かべた自分は結構重症だと思う。
苛立っていた思考の靄は一瞬で晴れた。
いつかその姿を実際のものとして
誰よりも近くで眺める為にも
越えなきゃなんねぇ壁が2つ。
ドフラミンゴ。
そして火拳屋。
今はまだどっちも、越える手立てが思いつかねぇ。
果てが見えない程高いその壁に手をかけるのは5ヶ月後。
そしてそれを越えた暁には
次の壁をぶち壊す。
「という感じで原案を練ったわけよ。どお?」
『…なんていうか、中々斬新で独創的なこと考えたわね』
パウリーに頼んでた船の原案が出来上がった。
そしてその見積もりも。
パウリーは私たちの好き勝手な要望を本当に全部詰め込んだ、夢の船を具現化してくれた。
まぁ、その分お値段も弾むんだけど。それは仕方ない。
正直ポーラータングより特殊で手のかかりそうな船だ、これは。
「でも実用面でも話題性としも抜群に良い案だと思うの!課題なのがコストと皆が船での生活をどう思うかってとこなだけで」
「島に一個式場建てんのと比べりゃバカ高ぇけど、集客力と機能性考えれば最終的にはコスパ良すぎなぐらいだぜ?」
プロが作った設計図は凄い。
これを見せて貰った時、その凄さに悶絶した後興奮が抑えられなくて
カレンとアオイとガレーラカンパニーの事務所で大騒ぎしてた。
『耐用年数は?その船は納品後どのくらい使える代物なの?』
「航路にもよるってそれは言われた。相当険しい航路だけを進むとかじゃないなら、最低20年は保証するって」
私はいつもフリーウィングが守ってくれてるから、グランドラインの船旅が険しいものだって認識をすっかり忘れてた。
定期船の航路を使えば比較的マシだって言われたけど、それでも荒波に揉まれたりもするらしい。
竜巻や大渦なんかに巻き込まれたらどんなに丈夫な船でも大打撃だ。
『20年で4億、ね。修繕管理費の目安は?使いっぱなしな訳にもいかないんでしょう?』
「修繕費はパーツ代金実額と、緊急時なら職人さんの出張費用。メンテナンス料金は運航してる期間内は無料で見てくれるって!」
手掛けた船が早々に廃船になったり劣化したりなんてさせる訳にいかないからって
耐久性のある丈夫な素材を選んで見積もりを作ってくれたのにあわせての、メンテナンス料金込み。
良いモノを売る。
売って終わりじゃない。
その後の事まで考えてるパウリー達に
強い職人魂と、船への愛を感じたんだ。
『良いんじゃない?ちょっと斬新過ぎて驚いたけど…島に式場を構えるより長く集客見込めるのは事実でしょ。いつでも挙げれる訳じゃない限定感も悪くない』
『そうねぇ…ただ式場だけにコストがかかる訳でもないでしょう?船だけで4億って…』
よし!
ディゼルは否定派でもなさそうだし、ソニアもコスト面以外は特に問題なさそう。
今だ!
「私が出す!!船の代金!そうすれば予算は他に回せるでしょう?」
『…言うと思ったのよ。船の値段聞いた時から』
呆れたようなソニアの声。
バレてたのか。
でももう頭の中は船上結婚式のことで頭がいっぱいだ。
他のプランなんて考えられそうもないし、これより良い案なんて絶対ない。
「私ベガス聖に貰ったお金にまだ手を着けてないし、ブラーヴェのお給料で寧ろ増えてる!全然負担にならないしどうしてもやりたいの!」
『…良い案だとは思うのよ?この企画には結婚式の主役である花嫁が心惹かれそうな要素が詰まってる』
そうなのよソニア!
結婚式の主役って、新郎新婦であって実は新婦さん!
特別感
限定感
島に式場を建てるよりも船の方がそれは増す。
それでいて船が島まで来てくれるの。
それもガレーラカンパニーが手掛けた船!
ブラーヴェの顧客は少しホワイトカラー色が強い。
シードルなんて私が作るもの以外でも売ってる。
それでもそれより高いシードルを継続して購入してくれてる。
ディゼルのお酒だってそう。
アオイの時計だって
カレンのレースだって
ソニアのガラス細工だってそう。
品質の良さと
それに裏付けされたブランド力に魅力を感じてくれてる。
ガレーラカンパニーがブラーヴェの宣伝力をメリットと感じるように
ブラーヴェ側にも使う船がガレーラカンパニー製っていうのには大きな意味がある。
私がやってみたいだけじゃない。
ブラーヴェの顧客に
この企画は絶対にウケが良い。
『もしかすると、採算が取れなくて貸し倒れになる可能性だってあるのよ?』
「わかってる!それでも良い!」
私がもし
結婚式を上げるとしたら。
こんな式を挙げたい。
大好きな海の上で
周りには自分と、自分が選んだ人の大切な人だけな空間。
素敵なドレスを着て
大切な人達が、私たちのこれからを刻む時を作ってくれるの。
門出を見届けて欲しい人達に、そこでしか味わえない特別なおもてなしが出来て
一生残る綺麗な思い出の品までついてくる。
私ならそんな結婚式を挙げたい。
『わかったわ。そこまで言うならお願いする』
「「やったーー!!」」
『でも』
カレンと抱き合ってぴょんぴょん飛び跳ねてた最中
聞こえて来た打ち消しの接続詞に私たちは固まった。
『これは役員借入金よ。返済の優先順位は落ちるけど、式の金額設定には返済前提の金額を設けること。贈与や寄贈ではないことは認識しておいてね』
堅っ苦しいなぁ。
「わかってるよ。それじゃあ正式にオファーする前にちゃんとこれ見て欲しいから。カモメ便で送るね」
『ええお願い。もしかしたらケチ付けてもっと高くなるかもしれないわ』
もう
いいよいくらでも。
それでより良くなるならなんでも良い。
私が出せる範囲の金額なら全然良い。
『でもそうなるなら装飾とかも…』
私と、カレンとアオイだけじゃ思い付かなかった案が肉付けされていく。
どんどん素敵な企画が練り上がっていく。
実現出来るんだ。
船上結婚式。
そこで永遠の愛を誓う人達を
この手で応援出来るんだ。
「なぁ、思ったんだけど。招待客限定のショップ船に設けても良いんじゃね?」
こっち側の発案もまだまだ沸いて溢れでてくる。
この企画は今でも十分素敵だけど、もっともっと良くなる。
『そうね。折角だから商品のラインナップもふやしましょうか』
ねぇエース。
もしエースが生きてここに居てくれたら、きっと私はこんな結婚式がしたかったよ。
エースでも似合いそうなタキシードを作って
エースに見て欲しいドレスを作るの。
きっと、それを着た私を見て
エースはごくって息を飲むんだろうな。
照れたように目を逸らして、可愛いって
そう言ってくれるんだろうな。
それから数ヶ月間、私たちは怒涛のハードスケジュールをこなして過ごした。
毎日が忙しくて、本当にあっという間だったの。
いつでも仕事が出来てしまうというのは少し困りものだ。
寝る間も惜しんでネジとにらめっこしてたアオイは風邪を引くし
それを聞いたディゼルはなんとかは風邪引かないんじゃなかったの?って。
体調悪過ぎて冗談が通じなかったのか、アオイが怒っちゃってでんでん虫越しに大喧嘩。
んー…
ディゼルはあの通りだから怒ってたのはアオイだけだったし
あれは喧嘩って言わないのかな?
アオイもアオイで寝て起きれば怒ってた事なんてすっかり忘れちゃってるしね。
そんなこんなで月日は流れ
結婚式のプロジェクトが動き出して4ヶ月と少しが過ぎた頃。
全く音沙汰のなかったドフラミンゴから連絡が入った。
それはお酒の受け渡しの日時を決める電話。
指定されたのは新世界のとある島。
引き渡しは1ヶ月後。
もう商品は出来てて、梱包まで済んでたからこっちは問題ない。
一足先にベガス聖に届けたそれは美味しいって合格点を貰えた。
問題なのはロー達。
あれから結局忙しくて一度も会えてない。
早く会わなければ、言わなければいけなかったのに。
おっと思考が脱線した。
違う違う。
取引の日程が決まれば必ず連絡しろってローは言ってたけど
…まさか来るつもり?
長年恩人の仇だと思い続けている人と接触して、ローは大丈夫なんだろうか。
冷静な人だけど
ローがコラさんに向ける思いも、恨み続けて来た年月も
並大抵のものじゃない。
いつかは、倒すんだろうけど
きっとそれって今じゃないんじゃないかな。
それなのに接触しても良いものなの?
そもそも取引場所新世界だからロー達来れないじゃん。
取り敢えず約束は約束だ。
日程が決まったことをロー達に伝えなくては…
ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
別に怒られるようなことなんて何もしてないのに
妙に緊張した。
そわそわ落ち着かなくて
呼び出し音を聞きながら、リビングを右往左往してたんだ。