14-7




ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


午後の鍛練の休憩中、能面面の便利な物真似電話は全く似てない酒職人を真似ながら着信を知らせた。


ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる





ん?





近くに居たから、それはキャプテンが取るものだと思ってたのに
着信にだって気付かない訳がないし、誰からかなんて一目瞭然な筈なのに。


取られない受話器を不思議に思いながら
出て良いなら俺も喋りたいし、それを取った。


「もしもーし」
『もしもしー?ベポ?私だよー』


久しぶりな声。
名乗らなくてもわかってくれる。
そんな些細な事がちょっと嬉しい。


「違うよ」
『嘘じゃん!ベポじゃん!なんでそんな意味ない嘘付くの!!』


なんとなくからかいたくなっただけだよ。


思ってた以上にピーピー騒ぐ音量が煩くて、受話器を耳から離してやり過ごしてた。


「じゃあベポで良いから。どしたの?」
『いやベポじゃん。絶対ベポじゃん。あ、そうそう。ローって今でんでん虫出れる?』


たまに用がなくてもかけてくる事はあったけど、今日は用事がある方らしい。
しかもキャプテンに。


…これはあれかな。


「うん。ちょっと待ってね」
『はーい!』


きっとこの電話はドフラミンゴとの取引の連絡。
新世界に入るって聞いてからそろそろ5ヶ月になろうとしてるし。


「キャプテン、ウイから」
「あぁ。…俺だ。どうした」






なんだろう。
なんか引っ掛かる。


「わかった。俺らもそっちに向かう」


ほら、要件はそれで合ってたっぽい。


うん。
でもなんだ?


何をおかしいって思ったんだろ。


「なら連れてけ。一応新世界も魚人島も初心者だ」


お。


これは新世界まで一緒に行けそうな流れだ。
カレンとアオイは居るんだろうけど、また暫くウイと一緒に居れる。


「わかった。一週間後にシャボンディで。よろしく頼む」


それだけ告げると、キャプテンは受話器をでんでん虫本体に置いた。


「出航だ。シャボンディ諸島を目指せ」
「アイアイ!って、…ねぇ。キャプテンウイと喧嘩でもした?」


やっぱりおかしい。
さっきもウイからってわかってた筈なのに受話器を取らなかったし
今だって。


あっさり切り過ぎじゃない?






「別にしてねぇけど」
「…なら良いんだけど」


他の皆にも海に潜る事を伝えに行くのか、キャプテンは早々にリビングを出て行った。









「なんか…変。」









うん。変だ。
変。


喧嘩では、ないよな。
うん。


ウイは普通だった。
少ししか話せなかったけど、何かあればどっかしらおかしいのに気付けると思うし。









変なのはキャプテンだ。


ウイからでんでん虫が掛かって来たら
今までだったら率先して出てた。


話してる最中も、あんなにあっさり電話を終わらせたりなんてしたのなんて
今まで一度だって見たことない。


大抵部屋にでんでん虫ごと持って行ってはなんやかんや話してた。


なに?
なんで?


早く合流したいから切ったの?
どうせシャボンディ諸島まで結構かかるよ?










…なんだ?


どうにもしっくり来ない。







「ねぇどっちに舵取れば良いの?出航すんでしょ?」
「今行くから。…ねぇペンギン」


リビングに顔を出したペンギンは、キャプテンから出航の話を聞いたんだろう。


「なに」
「キャプテン、何か変じゃなかった?」


実は目敏いペンギンなら、この違和感の理由に何か気付いたかもしれない。
知ってても黙ってる事が多いペンギンなら、俺の知らない何かを知ってるのかもしれない。


それを期待して、結構頼りになる副船長を見下ろした。


「普通の基準どこ?変って言えば変だし、いつも通りっちゃぁいつも通り?じゃねぇの?」


これは…
ペンギンには何も違和感は感じなかったってことなんだろうか。


確かにキャプテンは常に普通じゃない。
普通なのかもしれないけど、それが俺には理解出来ないことが多い。


「なんかあった?」
「…べつに」


気のせいかな。
でもなんか…引っ掛かる。


気になる事を綺麗に言葉に出来そうもなくて
それを告げずに部屋を出た。


結構素っ気なかったように感じたあの言葉を聞いて
受話器の向こうのウイはどんな顔してたんだろう。




「久しぶりー!!なんか増えてる!人増えてる!!」
「おぅ!ついに新世界デビューか!仕方ねぇから先輩が連れてってやるよ!」


待ち合わせ場所に指定されたシャボンディ諸島のシャッキー'sぼったくりBAR。
場所の確認するとき
どんな待ち合わせ場所だよって思わず聞き返しちゃったよ。


お店の扉を開ければすぐに、カウンターに座って店員さんと話してるカレンとアオイの背中が目に入った。


「久しぶり。元気そうだね、相変わらず」
「まぁね!でも私たち今超多忙だから!あ!!ペンギン!久しぶりー!!」


カレンが店に入って来たペンギンを見るなりタックルした。
抱き付いたとかじゃなく、タックル。
あれはもうタックル。

事も無げに軽々それを受け止めたペンギンとカレンは談笑してて、アオイもアオイでシャチと何か話してる。


カレンを初めて見たクルー達がちょっと色めき立ってて。
中身あんなんだけどカレンって黙ってれば美人だったの忘れてたよ。





そんなに狭くはない店だけど、結構大所帯な俺たちが全員店に入って扉を閉める頃には
人口密度が凄いことになってた。


あれ?
ウイは?


「ウイはどこだ」
「ウイちゃん?呼んでくるわ。どうぞかけて待ってて?」


黒髪の店員が奥に引っ込もうとしたところで、ちょうどそこから出てきた2つの人影。
ウイと…シルバーズ・レイリー!?


「おお、久しぶりだな!また会えて嬉しいよ」
「着いてたんだ!皆久しぶり!」


俺らに気付くなり快活そうな笑顔を浮かべる元海賊王の右腕。

なんでこんなところにレイリーが居るの?
しかもウイはレイリーと知り合いだったの?


「いや驚いたよ。まさかきみ達とウイさんが知り合いだったとは」
「こっちのが驚いてる。…おまえの人脈は一体どうなってんだ全く」
「いや、知らなかったんだってば。今聞いたの。レイさんがゴールド・ロジャーの船に昔乗ってて、それも副船長だったなんて…」


さっきから先読みするようにキャプテンが俺の思うところを口にする。


眉をひそめるキャプテンに、苦笑いを浮かべたウイはぽりぽりと困ったように頭を掻いてた。







「魚人島に行くにはコーティングが必要なんだろ。いくら潜水艦でも潜れる深さには限度がある」
「だからここ待ち合わせにしたの!レイさんは凄腕のコーティング職人だよ!」


やるな海賊王の右腕。
なるほど。
だから知り合いか。納得ー。


キャプテンはその事実が意外だったのか、いつもより目を見開いてる。


「コーティング船の操縦ってどうすれば良いの?普通で良いの?」
「あれ…潜水艦の場合ってどうなるの?レイさん」
「特に変わらんよ。心配要らない」


なんだ良かったーって笑うウイがレイリーに向ける顔は
なんだかただの顔馴染みのコーティング屋とお客さんっていう割には親しく見えて。


なんていうんだろ。
凄く懐いてる感じに見える。


四六時中一緒に居る訳じゃない。
だから俺の知らないウイの付き合いや世界があるのは当然なのに
当たり前の事なのに。


なんでこんなに面白くないって思うんだろ。


「ねぇベポ!それよりログポース!ここでも新世界用の売ってるみたいだから後で見に行こ!隣のお店のソフトクリームもすっごく美味しいよ!」


沈んだ気持ちを汲み上げたのは腕を掴む小さな手。


楽しみ!って顔に書いてあるくらいにウキウキしてるのが丸わかりなそれをこっちに向けて見上げてくるウイに
なんか悔しいようなもどかしいような、変な気持ちになる。


「ハイハイ。じゃあ後で連れてって」
「うん!」


なんで俺、さっきからウイのちょっとした仕草にこんなに一喜一憂してるんだろ。


キャプテンだって居るのに
ペンギンだってシャチだって居るのに


俺を、俺だけを誘ってくれたウイが凄く嬉しかったんだ。


コーティングが済むまでに1週間はかかるってキャプテン達に向かって説明してるレイリー。


各々がそれまで何をして過ごすかを話し出す中で、ウイは俺の手に腕を絡ませたままその様子をにこにこしながら見てた。


右腕のあったかさがここにあることに、優越感みたいなものを感じたんだ。




「あら?久しぶりね、いらっしゃい」
「こんにちはシャッキーさん!レイさん帰って来ました?」


コーティングを頼むならレイさんだろうって、ロー達と新世界へ渡る事が決まったその日にシャッキー'sぼったくりBARに連絡を入れた。


長期不在中、ってだけ聞いてたけど
そろそろ帰って来る頃だと思うわっていうシャッキーさんの言葉に期待して来てみたけど


「まだ…みたいですね」
「ごめんなさいね、なんとなくそろそろ戻って来る気がしてたんだけど」


店内にはレイさんどころか他のお客さんの姿もなくて、ちょっとがっかりしちゃったけど仕方ない。


新世界からこっちに戻って来てる時は他の職人さんにコーティングをお願いしたりもしてるんだし
絶対にレイさんにお願いしなきゃいけないとかじゃない。

ないんだけど、なんとなくレイさんに会いたかった。


確信なんて何もない。
でもレイさんにとってエースは特別な人。
そんな気が今もしてるから、エースを知ってる人に会いたかった。


きっと私はコーティングをお願いするのをダシに使っただけだ。


「他の人にお願いしてみま──「あぁ、疲れた疲れた。年取る波には勝てんな」


諦めてお店を出ようとした時、背後から聞こえてきた声と扉を開ける音に胸の中で期待の花が咲く。


「レイさん!」
「おお、ウイさん奇遇だな。短い髪もよく似合う」


久しぶりに見たレイさんはあの日見た時と変わらない人の良い笑みを浮かべて歓迎してくれた。


長旅から帰ってきたばかりみたいなのに
二隻のコーティングを快く引き受けて貰っちゃって、なんだか申し訳ない。


「あの、…えっと…」
「ルフィくんのところに行ってきた。」


依頼の件の話が済んで、私が本当に話したかった事を切り出したくても切り出せずに居た時
レイさんが口にした言葉は、私がしたかった話に繋がりそうなそれだった。


ルフィくんのところ?
ルフィくんの治療はロー達がしてたって聞いたけど、そこにレイさんも居たの?


疑問符でいっぱいの私の頭の中なんてわかっていると言いたげなレイさんの優しい目に、そわそわと心が落ち着かなかった。





destruct at reality.