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「なにこれ。同じじゃないの?なんでこんなに値段違うの」
「指針の感度だな。揺らしてみろミンクの兄ちゃん。指す方角が落ち着くまでの時間に差があんだろ?これが新世界のログポースの格式だ」


唸りながらログポースをあちこち手に取っては、店員さんに説明して貰ってるベポが可愛い。


真剣にそれを選ぶ目に籠った想いは
皆を安全に目的の島に届けたいっていう使命感。


微笑ましく思いながらそんな姿を眺めてれば、特に目的もなさそうに店内を見て回るローが目に付いた。


「何か探し物?」
「いや、特にはねぇ」


航海に必要なものが並ぶ店内。


買いたいものが特にないなら、ローはなんで好きでもないウィンドウショッピングに着いてくるなんて言ったんだろ。


「ねぇウイのログポースいくらくらいだった?」
「えー…いくらだったかな。でも買ったのここじゃないし」


まだ唸ってるベポに、ログポースちょっと貸してって言われてそっちへ向かった。


貸してあげたログポースの台座とベルトは、皆が私に贈ってくれたもの。
離れて辛かった時に、何度も皆を思い出させてくれた
私の宝物。


「一番良いヤツ買えば良いだろ」
「いやピンキリ過ぎるんだってば!おかしいでしょ。高いのは10万ベリーもするのに安いの5000ベリーって!!」


なるほど。
それは迷うな。


そんなに幅があるのかログポース。


「私はこれで特に不便だった事はないよ?」
「んー…この感じだとこの辺りなのかな」


私のとお店の商品を振り比べてるベポに、ローがため息を吐いた。


「良いだろなんでも」
「目的の島に着かなかったらそれはそれで文句言う癖に!!」


心当たりが有りすぎるのか
ローが気まずそうに目を逸らす。


なんでローが買い物に着いてきたいって言ったのかはわからないけど
楽しいなって思ったの。


こんななんてことない会話が
しなくても良いくらいの些細な会話を一緒に楽しめる事が


なんだか凄く尊いものみたいに感じたの。






「よし!ログポースも買えたし!ソフトクリーム食べよう!ソフトクリーム!」
「ソフトクリームなんてどこのも変わんないじゃん」


会計を済ませたローと買ったばかりのログポースを腕に抱えたベポを連れて行くのはお隣の売店。


カレン達ともここに来た。
いつかエースがへこんでた私を元気付けようと買ってくれたソフトクリーム。


「おまえどれにすんだ」
「普通の!普通のが良いの!何もかかってない普通のやつ!」


果肉たっぷりのジャムがかかったやつとか
チョコでコーティングされてパキパキのやつとか
色々あるんだけどね


ここではエースが買ってくれたやつを食べたい。


「珍しいね。絶対ごてごてのトッピング食べたがると思ったのに」
「ここのは普通のがおすすめなの!」


当たり前みたいに三人分のソフトクリームを注文してくれるローに
ご馳走さまってお礼を言った。


「ね?美味しいでしょ?」
「んー…美味しいけど、特に普通?」
「…旨い」


美味しいけどそこまでか?って顔してるベポと
シュガーコーンの縁をガリガリ噛り出すロー。


すっごく美味しいと思うんだけど
ここのが特別美味しいっって思うのは、私の思い出料なのかな。


「あれこの辺りの地図?ちょっと見てくる」


ソフトクリームを食べなから、ペポが腰かけてたベンチから離れて行った。


私にはもう随分慣れたこのシャボンディ諸島も、ベポ達にとってはほぼ初めてだもんね。







ガリッ







豪快なコーンを噛る音にはっとする。


「食べるの早くない?」
「ちんたら食ってたら溶けんだろ」


いや、それにしたって早いよ。
私まだ半分くらい残ってるよ。


ソフトクリームを収めてたシュガーコーンは、もうローの口の中で粉々に粉砕されてた。


早く食べなきゃだけど
もっと味わって食べたら良いのに。


そう思いながらぺろりと舐めた冷たくて白いソフトクリームの甘さは
そんなにすぐ味わい尽くしてしまうにはやっぱり勿体ない。


…そういえば


「ねぇ、新世界行くって…ローはドフラミンゴに、会うつもりなの?」
「あっちの出方次第だろ」


渡したばかりの白に黒斑のキャスケット。
そこから覗くローの目には、見慣れた強い意志が宿ってた。






「出方次第…って?」
「こっちから接触するつもりはねぇ。ただあっちがおまえに何かするつもりなら、黙って見てるつもりもねぇ」


…一緒に来てくれるのか。


いやタイミング合わせて一緒に新世界に行くってくらいだから
もしかしたらそうなのかなって思ってたけど。


「でも私今回もベガス聖に護衛お願いしてるよ?大丈夫だよ?」
「欲しいものの方がデカければ、あいつはどんな重要なもんでも迷わず切り捨てる」


はい?






え、どういうこと?


ローの言ってる意味がわからなくて、ちゃんと説明してって気持ちを込めてその目を見つめ返した。


「おまえは俺との繋がりを気取らせなければそれで良い。あっちが勘づいてるようなら上手くかわせ」
「いや、そうするつもりだけどさ。なんでかとか教えて貰えると立ち回りやすいんだけど…」


ローの瞳が訝しげに細められる。


そんな顔しないでよ。
足引っ張りたくないんだからちゃんと教えてよ。


「アイツはオペオペの実を使いこなせる能力者を欲してる」
「あぁ、なんかそう、言ってたね」


だからローを探してるんでしょ?
そこはわかるけど。


「アイツがおまえと接触したのが、シードル目当てじゃなく、俺の特別な女だと知っての事であればどうなる」


ローの口から飛び出た“特別な女”っていう言葉。
不覚にも心臓がドキリと反応した。


「俺を誘き寄せるのにおまえを餌にするつもりだとしたら、これは格好のチャンスじゃねぇか?」
「なんか…うん…そうだね」


なるほど。


自意識過剰みたいだけど
私を人質にローを誘き寄せる。


私の安全と引き換えにローのオペオペの実の能力を利用する。


確かにナイスな案だ。
ローはドフラミンゴじゃなくても、そうそう人の言うことなんて聞かない。


凄い思い上がった人みたいで
なんか恥ずかしいけど。


「前にも言っただろ、おまえは自分の身の安全だけ考えてろ」
「…うん」


不敵に笑うこの人は
私の揺れちゃいけない心をこれでもかってくらい揺さぶってくる。


その場に流されがちな心を叱咤するように
溶けかけたソフトクリームを舐めた。


エースとの、思い出の味。
私の好きな人はエース。





「でもさ、なんでドフラミンゴはそこまでオペオペの実に拘るの?誰か助けたい重病人でも居るの?」


ドフラミンゴがオペオペの実を凄く欲してると仮定すれば、さっきの話は納得できる。

悪魔の実は世界で1つだけ。
同じ能力の実がこの世に2つ現れることはないって聞いたことあるし。

そんな見つかるかもわからない稀少なものを
これ以上ないくらい使いこなせるローが食べた。


どうあっても逃したくないよね。


「不老手術」
「ふろう、しゅじゅつ?」


なんじゃそりゃ。


思った事がそのまま顔に出てたのか、ローがふんって鼻から息を吐いて言葉を続けた。


「老いることも朽ちることもない、不老不死の体を手に入れる手術だ。ドフラミンゴはそれを自分に施して不死を得ようとしてる」
「そりゃまた…でもそっか。不老不死になっちゃえば七武海の称号なんかより大分役に立つもんね」


なるほど。
不老不死になれるなら海軍の前だろうと何だろうと
それを得る為に必要な餌をなりふり構わず取りに来るか。


…有り得なくもない。
なんだ私、もしバレてたら本当にヤバかったな…。


ん?


「でもさ、ローがしないって言ったらあっちも困っちゃう訳でしょ?ローのが有利じゃない?」
「その時はおまえと俺を殺して終了だ」


は?


「能力者が死ねば世界のどこかで新しいオペオペの実が生まれる。思い通りにならねぇ術者を生かしておくより手っ取り早い」


なんてことだ。


それは確かに洒落にならない感じでやらかしそう。
ドンキホーテファミリーに居た頃のローがどんな子供だったかは知らないけど、きっと今の面影の十分ある頑固な子だったと思う。


ローが信念を曲げない事を知っていて
不老手術を絶対にしないってわかったら…


そうなるね。うん。


「でもさ、してあげたら良いんじゃないの?不老手術。それで…いや、駄目か。そんな危ない人が無敵とか恐ろしいことになりそう」
「世の中の為にもなんねぇが…不老手術を施した能力者は引き換えに命を落とす」















一瞬ローが何を言ってるのか意味が分からなかったの。
なんてことないように、普通にそんなこと言うから。




「や…だよやめて。絶対にしないで」
「しねぇって言ってんだろ」


あ、そっか。
そんな気あったらとっくにそうしてるよね。


それにドフラミンゴはコラさんの仇だ。
そんな人の為になることを、ローがする訳ない。
それと引き換えに失うものが、コラさんが与えてくれた命だったら尚更だ。


なんか
息をするのも忘れてたくらいの衝撃が短時間に走った。


肺の中の空気を吐き出して
取り敢えず落ち着いてみる。


大丈夫。
ローは不老手術はしない。


死なない。


「ねぇちょっと待って。ローは、皆は本当に大丈夫なの?もし着いてきてくれるのが見つかって捕まっちゃったりなんかしたら…危ないよ!」
「言っただろ。おまえはおまえの心配だけしてろ」


いや…
言われたけど。


言われたけどそんな簡単にはいそうですねってなる訳ないじゃん!


「他の心配がおっきすぎておちおち自分の心配なんてしてらんないわ!!やめて!来ないで!!帰れ!」
「策は練ってる」


はい?


私が発狂しそうなくらい興奮してるのに
ローはまるで相手にしてないみたいに冷静だった。


「あっちがどこまで知ってるのか…おまえをどこまで使うつもりなのか。それを取引当日、見極める」
















…心配だよ。
来ないで欲しいよ。

私が蒔いた種だ。
そのせいでローに迷惑とかかけたくない。
それでローの身が危なくなるなんて尚更嫌だ。


「大丈夫だ心配すんな。溶けてんだろ、さっさと食え」


頭に感じる大きな手の温もりは
安心させる為のそれじゃなく、これ以上何も言うなとでも言いたげだった。


言って聞いてくれるなら何度だって言いたい。


溶けかけのソフトクリームを急いで食べながら、すがり付くようにローの灰色の目を見つめた。













ローまでいなくならないで












死なないで
行かないで




ローまでいなくなってしまったら
私はもう本当に、生きてなんていけない。





destruct at reality.