14-10



「俺はまだやることがある。死んでやるつもりはねぇって言ってんだろ。…ンな顔すんな」
「だって…」


大丈夫かな。
本当に大丈夫なのかな。


だって何がどう大丈夫なの?


「俺がしたいことは…おまえが一番わかってンだろ」
「むぅ…」


頬っぺたを掴み上げるローが勝ち気に笑った。


自分の勝ちを見せつけるような顔。
でも見つめ返してくる瞳は、どこまでも優しかった。


おまえに心配される程じゃないって
そう言いたそうな瞳の奥に感じる、私に心配をかけまいとする優しさ。


ローの気持ちは知ってる。
凄い自意識過剰みたいで恥ずかしいけど、でもその事だって私はちゃんとローに話さないといけない。


私が今はエースの事を好きだって知れば、ローの気持ちだって今とは変わる筈。
私がドフラミンゴに捕まろうがどんな目に合おうが、ローは私の事なんて気にかける必要のない存在になる筈なの。


「ロー、あの…やっぱり聞いて欲しい!私ローに話さなきゃ──「心配ねぇって言ってンだろ。おまえは今動揺してる。…現状を冷静に見ろ。おまえが上手くやれば万事解決だ」


ずるいよ
なんでいつも言わせてくれないの


「でも…!!」
「俺一人じゃねぇ。アイツらも居る」


どうしても言っておきたくて
聞いて欲しくて

思わずローのコートに掴み掛かってた。


「チェスでも麻雀でも、おまえが俺に勝ち越せたか?そこに加えてペンギンもベポも、シャチもいる。ジャンバールもエイジも、他のヤツらだって居る」
「勝てないけど!負けてない…!ペンギンにもベポにも、シャチにも勝てる!私だって一人でもちゃんと出来る!」


駄目だ。
ローの口車に乗っちゃだめ。

論破されちゃだめ。


「私!好──「おまえが何を言おうが俺はやる。…ドフラミンゴは遅かれ早かれ、あのままにはしておけねぇ」











…なんであと一押しが出来ないのかな。


なんでいつも
思い通りにばっかりさせて悔しいって思ってるのに
それを打ち崩す事が出来ないのかな。


ローはずるいよ。
ずるい。


誰よりも頭が良くても
色んな事を見通せても


私が話そうとしてることは、私が話さなきゃ知れないんだよ?


悔しくて
もどかしくて


でもそこを押しきれない自分が嫌で
そんな思いをぶつけるように内側が少しふやけたコーンを噛った。





「折角おまえが仕入れてくれた情報だ」


もうこれは無理なんだろうなって。
ローは私の言うことなんて聞いてくれる気がなくて、どんなに頑張って話そうとしても無駄なんだろうなって
すっかり諦めモードだ。


「おまえとドフラミンゴに接点は持たせたくなかった。でも繋がっちまったもンはしょうがねぇ」


ええ。
どうせ勝手に接触した私が悪いんですよ。

そうですよ。
ええ。


「ならそれを無駄にしないまでだ。褒められたモンじゃねぇけど、確かにおまえが持ってきた情報は有用だ」
「それはどうも」


褒められたもんじゃねぇって言ってんだろって、おでこを小突かれる。


もう…


チェスなら互角に戦える。
共通のルールの元で、駒の動きも盤上もいつでも一定で。

そこでの知恵比べならローとだって戦える。


でも現実世界はさっぱりダメだ。


ローは手順関係なく駒をあっという間に移動させちゃうし
私の順番も平気で飛ばしてしまう。


全てがローの思い通り。


「あの、じゃあ絶対に見つかったりしないで。話したいことあるって、ずっと言ってるでしょ?それちゃんと聞いてくれるって、約束して!」
「…状況による」


なんで本当にこの人は…!


「見つかった方が良さそうな状況ならそれも視野に入れて動く。おまえとの約束に縛られて可能性を潰すつもりはねぇ」
「じゃあ話の方──「ベポ、おまえもいつまで見てンだ。そろそろ行くぞ」
「アイアイキャプテン!ねぇ、この先のお店行ってみよう!夜麻雀するならお酒とお菓子買い込まなきゃ」


商店街のマップを眺めてたベポをローが呼び寄せる。


これはアレだ。
この話はもう終わりだっていう、合図。


「あっちも何か買ってるかな。どうしよ」
「どうせ1週間あんだろ。好きに買ってこい」


私を挟んで歩くローとベポ。
二人とも大きすぎるから、私はまるで端から見たら両親に手を引かれて歩く子供みたいに見えるんだと思う。


まだ話は終わってないよって、不満げに見上げた視線に
ローが応えてくれることはなかった。


本当にこれで良いんだろうか。
止めなくて良いの?
止められるの?

着いてきて貰ったとして、私はただ目の前のことだけしてれば良いの?
他に何か出来ることは、本当にないの?





「え、キャプテンこっち乗んの?じゃあ俺あっち行って良い?」
「良い訳ねぇだろ」



「じゃあ俺あっち行くー」
「誰が操縦すんだ」



「え?じゃああっち行って良いのもしかして俺っすか?」
「ふざけてねぇで出航準備しろ」


隙あらばウイの傍に居ようとするクルー達の、不貞腐れながらも潜水艦に荷物を運び込む姿を呆れたように眺めてた。


あれから1週間。
あっという間にその時間は過ぎた。


初日こそ俺らと落ち合う為に予定を空けておいたらしいウイ達も、翌日以降は例の新しいプロジェクトに追われてた。


鳴り止まないでんでん虫。
報告事項を書類に纏めては郵送の手配をして、何かを出して来たかと思えばまた電話を掛ける。


超多忙とカレンが言っていたのも強ち嘘ではねぇらしい。


時間を見つけては一緒に飯を食ったり、飲んだりもした。
でもウイと二人きりにだけはならないよう気を付けた。


ドフラミンゴの件が終わるまで、落ち着くまでは口を封じたつもりだったのに
アイツは隙あらばそれを切り出そうとしてくる。


自分で言うのもなんだが、器用な方だと自負してる。
だが今回ばかりは流石に集中しねぇと

ヤバいのは俺の方だ。

どっちも少しもミスれねぇ。
気を抜けば負ける。


二人にならなければ良いだろうと、主にウイと一緒に居るベポをダシに使えば
表向きは普通にしてる癖に、時折あからさまに嫌そうな顔をする。

ベポのウイへの独占欲も、中々異常だ。


魚人島への航路も、ペンギンならまだしもベポまでフリーウィングに乗ろうとし出す始末。
仕事をしろ、航海士。


「何人かはあっち乗せても良かったんじゃねぇの?」
「あっち行けばおまえらサボんだろ」


レイリーに見送られて海に潜った潜水艦。
いつもと違うのは、海中でも甲板に出られること。


「でも折角一緒に航海出来んのに…これじゃ行き来出来ねぇじゃねぇっすかー」
「こっちもこっちで話しておくことがある。昼飯の時で良い。…当日の作戦を詰める」


海と空気を隔てるのが、船かシャボンかという違いなだけ。
すぐ隣で帆船が海底へと降りていくのは、中々トリッキーな光景だ。


近くには居ても、行き来は出来ない。
今の俺にはこのぐらいの距離が丁度良い。




「で?作戦てなに?」
「多重尾行だ」


昼食を頬張りながら、話題は事前に提示していた通り
ウイとドフラミンゴの取引当日の流れ。


「ベガス聖が護衛を寄越す。表向きの守りはあっちに任せる予定だ」
「じゃあ俺らどうすんの」


今回キーマンとなるのはこのすっとぼけた顔をしてるペンギン。
俺が囮をやらなきゃいけねぇ以上、こいつにしか任せられねぇ。


「ベポ、おまえは指定された島に着く前にフリーウィングに移れ。目に付く所でウイの傍を離れるな」
「え?別に良いけど、俺海軍に捕まらない?」


おまえの知名度なら問題ないと告げれば、面白くなさそうに舌を鳴らすこの白熊。

ベポは戦闘能力だけで見れば、ジャンバールと俺の次に強い。
ジャンバールはまだ仲間になって日が浅い。

あっちがこっちの事情をある程度知っていても、俺の仲間だと気付かねぇ可能性がある。


「俺はそれとは別にドフラミンゴをつける。ベポとペンギン以外は俺の指示に従え」
「「「アイアーイ!」」」


ベポの口癖の真似。
意気揚々と返事をするこいつらは大丈夫なんだろうか。


もしあっちの目的が酒の受け渡し以外にあるとすれば、ドフラミンゴとは別にファミリーの“誰か”が出てくる。
ベポを見つけた時点で、俺も島に居る事をあいつは悟る。


「え、俺は?」
「おまえは離れて俺とウイの周りを張っとけ。本人以外が出てくればファミリーの同行を探る方にシフトだ」


ベポとは別に身を潜めて動向を探る俺に、向こうは少なからず油断する筈だ。
尾行している俺の裏をかいた、と。


「俺は見つかっても気づいてねぇ体裁で尾行を続ける。おまえは状況を読んで的確に動け」
「わー、なにその責任重大ポジション。的確って難しくね?」


更にその状況を追うペンギンの存在に、ファミリー総出では出てこないだろうヤツらが気付く可能性は薄い。


「俺が確かめてぇのはドフラミンゴの取引相手がカイドウで合ってンのか、あっちがウイと俺らの繋がりを知ってるのか、それを利用するつもりがあんのか、だ。」
「随分と欲張りね。…まぁ、りょーかい。やるだけやる」


自分達の優位を確信した人間はボロが出やすい。

相手を踊らせて情報を引き抜く。
こいつはその手の事に関して、恐ろしく適任だ。




「あ、一個…二個!しつもーん」
「なんだ」


取り敢えず俺は絶対見つかっちゃいけない筈。
本当の隠しダネ。


「あっちが海軍に形振り構わずウイに何かしようとすればキャプテン達は動くんでしょ?俺は?」
「状況がどうであれ表には出てくるな。あっちが追ってこない確証、もしくはウイが連れ去られた場所を把握してから戻って来い」


必要とあらば多少の犠牲も見捨てろと。
なるほどね。


「…じゃあもう一個。ドフラミンゴ以外のファミリーが二人以上キャプテンをつけてたとすんじゃん?そっちがふた手に別れた場合はどっちを追えば良いの」
「おまえの身の安全と状況、得られる情報量、そこを考慮した上で任せる」


キャプテンのじゃなく俺の、か。


まぁキャプテンが万が一やられるようなら、俺ら束になってかかっても全滅コースだろうしね。
うん懸命。


どうあっても有益な情報を持ってこい、と。


…なんか急にマジな展開になってきたなコレ。


「ウイはどこまで知ってんの?」
「なにも。自分の身を最優先で考えろとしか言ってねぇよ」


あらあら。


「…言わないの?」
「言ったら余計な真似すんだろ。最悪のパターンはあいつが捕まることだ」


まぁ、そうね。
それにしても…


「…似た者同士」
「あ?」


物凄い形相で睨まれた。


いや、従うけど。
俺はキャプテンの部下だし。
ウイに危ねぇことさせたくないのも一緒。

異論はない。


それにしたって
形こそ違えどつい最近散々ウイにぶちギレたのと同じ事をしようとしてる自覚が
この男にちゃんとあるんだろうか。


「別に、なんでもない」
「なら良い。連絡手段についてだ──」


もうキャプテンの頭の中で当日の段取りは纏まってる。
簡潔に順序良くそれを伝達するこの様子じゃ、今さっき思い付いたとかじゃねぇんだろ。


この作戦で、どう転ぼうと一番危険な位置にいるのはキャプテンだ。
…あちらさんがなんもして来ねぇと良いんだけど。


この二人は本当にどうして
お互いを守る為に相手が一番嫌がる事を平気でやらかすんだろ。





destruct at reality.