14-12
そっか…
ベポにとっては、エースは私の“友達”だもんな。
友達を亡くして悲しんでる。
それすらも隠そうとするのは、確かに壁作られてるみたいに感じたかも。
頭を抱えながらどうしようか悩んでるのに
これも美味しいって生鮭ユッケを頬張るベポの気ままな感じが恨めしい。
上に乗せた温泉卵の黄身がとろって
どこまでも深い濃厚な黄色が山を覆うのを、どこか他人事みたいに見てた。
ベポになら、ローに伝える前に話しても良いのかな。
エースはただの友達じゃないよって
私の大切な、恋人だよって。
本当は皆に内緒でエースを助けに行ったのって
助けられたと思ったのに、頑張ったのに救えなかったって。
皆の前で平気な顔してたのは
私がローの事を好きだって思ってる皆に
エースを好きになってしまった事が後ろめたくて言えなかったからだって。
言ってしまっても良いのかな。
「あ、こっちクリームチーズ入ってる。うんま!」
生春巻を頬張りながら、それを美味しいって言ってくれるベポの顔を眺めながら
史上最強に悩んでる。
話したら楽になる。
聞いてくれたら、少しはこの気持ちも軽くなる。
でもベポは受け入れてくれるかな。
大好きなキャプテンを悲しませるような想いを抱いてる私でも
ベポは受け入れてくれるのかな。
「で?なんでそんなに取り繕うの。へこみたきゃへこめば良いじゃん」
「なんていうか…違うよ!ベポが頼れないとかそういうんじゃなくて…私の、問題?」
脳裏にちらりとローの横顔が浮かんだ。
その顔はどこまでも遠くを、あの意志の強い目で見据えてる。
だめだ、まだ言えない。
だってローが私の気持ちを聞いたら、皆にどういう風にありたいかがわからない。
嫌いになった訳じゃないから、ローに迷惑はかけたくない。
私の心変わりを知って、ローがどうしたいのか。
皆にもそれを言うのか
何も言わずになかった事にされるのか
ローは大切な人。
でもハートの海賊団の皆も、大切。
でも、でもね。
ローがしたいようにしたいって思うの。
私が邪魔なら消えよう。
例え好きな人じゃなくなったとしても、ローには幸せになって貰いたい。
その気持ちだけは今も変わってない。
ローが幸せになる事の邪魔だけは、したくない。
「なんか、もう良いや」
「切り出しといて勝手だな」
ソニア特製のシャンパングラスに口を付けるベポが
散々悩ませておいてもう良いとか言い出した。
意味わからん。
なんなんだ本当に。
「悩んでくれたから、もう良い」
「なんだそれ。…悩むでしょ、言って良いのかは悩むけど、でもベポに嫌な思いさせたくない」
ベポは私を悩ませたいの?
悩むよそりゃ。
ベポは大切な友達。
ベポが私をどう思ってくれてるかは分からないけど、親友だって思ってる。
そっとやそっとの事じゃ私を見捨てない。
私の面倒臭いとこも解った上で、こうやって近付こうとしてくれてる。
「自己満?…話して欲しいけど、話そうとしてくれてるんだろうけど、面倒臭い拘りに葛藤してるのが解ったからもう良い」
ほら、また私のこと面倒臭いって言う。
ベポにとって、私は特別な存在なんだと思う。
でもローもね、絶対特別な存在なんだ。
だから私が、その大切な存在を傷付ける想いを抱いてることに
もしかしたらベポはがっかりするかもしれない。
ドン引きして愛想尽かすかもしれない。
でも、そこも解った上で受け入れてくれるかもしれない。
でもそれは、私への想いなのかな。
ローが大切に想う人っていう、私の力じゃ成し得ないフィルターがかかったものじゃないのかな。
「まぁ、言いたくなったらいつでも聞くって言っとく」
ベポは優しいね。
いつもなんだかんだで私を甘やかす。
「言わないなら言わないで良いけど、その過程をちゃんと言ってくれないと…なんか寂しくなる」
「ごめん、でもいつか!ちゃんと整理できたらね、言うから!ベポがもしかしたら!私を見損なうかもしれない事でも。…ちゃんと言うから」
優しい親友の言葉に涙が滲みそうになった。
「見損なうくらいなら最初から気にしない」
格好良いな。
本当は泣き虫で、こんな毒舌なのに私と同じくらい気にしぃなのに
なんて事ないようにさらっと
こんな男前な事言っちゃうんだもんな。
言ってしまいたくなる。
この心の内の全てを。
ベポなら、この人なら私を受け入れてくれるんじゃないかって。
でもそんな存在だからこそ
イレギュラーに起こりうる、見損なったっていう烙印を押される事が
怖くて仕方ないんだ。
『何かあればすぐ連絡するんだえ!二度目だからって油断するんじゃないえ!』
「わかってるって!ごめんね、いつもありがとう」
ベガス聖が手配してくれた海軍に取り囲まれながら、金色のでんでん虫の受話器を置いた。
そうなんだろうなって思ってはいたけど
護衛の海兵に、ロイの姿もクザンさんの姿もなかった。
まずはこっちを片付けることが優先。
ロイの方はこっちが片付いたらベガス聖に聞いてみよう。
「レストランで会食なんだ。案外普通な取引場所だね」
「前もそうだったよ。それに…確かに気付かれてるのかなって思わなくもないけど、まだそうと決まった訳じゃないしね」
それにしても、本当にローの思惑通り。
誰もベポが海賊だって、ハートの海賊団の一員だって気づきもしないの。
面白がってサスペンダー付のパンツに蝶ネクタイとか
メルヘン過ぎる格好させたからだろうか。
いや、なんか似合うし可愛いからこれもこれで有りだと思う。
心配なのは
私ですらその存在を認識出来てしまうロー達の尾行具合。
海軍の方は気付いてないっぽいけど
ドフラミンゴにこれは、どこまで通用するんだろう。
心配な気持ちで埋め尽くされた胸が、吐こうとするため息を飲み込んだ。
重い扉を開けて、会合場所であるレストランに足を踏み入れる。
「ロレイシル・ウイ様ですね、お連れ様がお待ちです。こちらへ」
ウェイターさんに連れられて歩く、高価な事が丸分かりな毛先の長い絨毯の上。
「失礼致します。お連れ様がお着きになりました」
「あぁ。…久しぶりだな。まぁあの時はお互い、忙しなかったからなァ!?」
私の後ろを付いてくる
ベポにも海軍にも伝わらないその言葉。
ちらりと目線を合わせたその愉快そうな顔は、どの時を指してあの時と言ってるんだろ。
やっぱりこの人は油断ならない。
ドフラミンゴはきっと、私が頂上決戦であの場に居た事に気づいてる。
「ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました」
「まァ座れ。頼んでたモンの出来はどうだ?」
弓なりに吊り上がる口端。
何を考えてるかが本当に読めない。
私はなんとなく、あなたがただの殺戮者には見えないの。
でも、ローに牙を向くなら話は別だ。
ローに何かするつもりなら、私はあなたを絶対に許さない。
島に上陸した瞬間に
ウイから聞いていた会合場所を中心にルームを張っていた。
疲労も労力も並大抵のもんじゃねぇ。
でもこれには、その対価を払うだけの価値がある。
ウイが店の扉を開けて、ベポと海兵を引き連れてその中に消えていく。
認識の仕方が視覚から感覚に移り変わると同時に、大事な存在が近付いていくのは
諸悪の根元。
何年も前から恨み続けていた存在。
ルームの中では俺が優位。
それは揺るがない事実の筈なのに、それが発する禍々しさは体の芯をぞっとさせた。
…これは
想像以上に手強い。
あっちが俺に気付いた様子はない。
臨戦態勢にもなっていない。
それなのにまざまざと感じるこの威圧。
最後に顔を合わせたのはいつだろう。
あれはコラさんに連れ出される前、…20年近くになんのか。
あの時点でも大分強かった。
俺も強くなるがあいつもそれは同じ。
しかし差は縮まったのか?
どんなに剣の腕を磨いても
己自身を鍛え上げても
オペオペの実を使いこなせても
懸賞金が上がっても
追い付けて、追い越せなければ意味がない。
血の滲むような努力をしようと
そこを称えて負けてくれる事なんざ百でねぇ。
結果が全てだ。
今殺りに来たンじゃねぇ。
落ち着け…
「今のところ目立った動きはねぇな。だかしかし油断するな」
『『『『アイアーイ!』』』』
会合場所を取り囲むクルー達。
現状、ファミリーの“誰か”が動いてる気配はねぇ。
そしてペンギンも。
どこで何してんのかも知らねぇ。
あいつは基本、常に女のケツを追いかけまわしてるような男だ。
でも確信がある。
ペンギンはヤるときはヤる。
ペンギンには
つなぎを脱がせてトレードマークのキャップも置いていかせた。
一般人に扮したあいつが既にバレて捕まってるなんてことは考えづらい。
何の連絡もないのは無事に任務を遂行している証拠。
あいつは簡単にはくたばらねぇし
状況に応じて俺が必要とする行動をしっかりとれるヤツだ。
もし気づいてねぇだけで
既に俺がファミリーの連中につけられていようとも
俺はドフラミンゴの動向を追う。
ペンギンは俺の把握しきれねぇ現状を理解した上で
俺の望む結果を弾き出す。
仲間を信じろ。
ルームの中で世間話を興じるこの、積年の恨みの対象。
友好的にも見えるその会合の場に
意識を集中してねぇといけねぇのに、見ていたくない。
叶うことなら、今すぐにでも飛んでいって
息の根を止めてやりたい。
どんなつもりで実の弟を、誰よりも優しいコラさんを殺したのか。
聞いてみたい。
そして言ってやりたい。
コラさんの方が生きているべき人間だったと。
おまえなんかが、今ここでのさばっていて許される訳がねぇと。
言ってやりたい。
そして、腸が煮えくり返る程の怒りと同等に胸を占めるのは
恐怖。
いつ噛み付いてくるかもわからねぇ相手。
過去に自分の大切な人間の命を奪った。ドフラミンゴは謂わば前科持ちだ。
またあの時と同じように
ウイの命をも、こいつは奪うんじゃないだろうか。
そんな恐怖が、消えない。
今のところ穏和に進んでいるらしい会合。
取り越し苦労だったとしても
ウイと話しているドフラミンゴの上機嫌さが癪に障る。
おまえがウイに近づくな。
反吐が出る。
だがそんな状況に、愛した女を送り出さなければいけなかった自分の無力さが一番腹立たしい。
必ず掴む。
確証を。
あの馬鹿が身の危険も省みずに掴んだ糸掛かり。
建物の影に身を潜めながら
進んでいく茶番劇をスキャンで見ていた。
おまえがそれを、渡そうとしているのは
カイドウであってんのか?
ギブアンドテイク。
相手方にも益のある筈のその取引に、ドフラミンゴは更に恩を上乗せしようとしている。
四皇は確かに手強い。
でもそれと手を組むことは
おまえにとって諸刃の剣だ。