14-13



「案外でっかい街ー。…ねぇちょっと疲れた。お茶しよ」
「え?うん!どこにしようかな…うーん」


頭の上で俺を連れて行きたいカフェでも思い描いてるんだろうけど
ごめんそれ全部却下。


「ここで良いじゃん、入ろ?」
「え?!…まぁここも美味しいんだけど。ちょっ!!待ってペンギン!」


こういう時は強行突破に限る。


ここじゃなきゃ意味がない。
他に行ったらあなたと仲良くお手手繋いで歩ってた意味がないのよ。


「ルナ何飲む?」
「キャラメルマキアート!ホットで!」


そこまで寒くないけど、それが懸命か。


「甘いのは?何食べたい?」
「ベリーのタルト!」


目をキラキラ輝かせて喜ぶこの子はルナ。
今日のデート相手。

さっきそこでナンパした。


「テラスあるからそこで食べよ。先座ってて」
「うん!!」


るんるんと身体中から音符でも撒き散らしてんじゃねえかって程
有頂天なルナが軽い足取りで外のテラス席へと向かっていく。


ナイス。
席取りセンス抜群。


怪しまれない為のツールとはいえ
ちょこんと腰かけてはにこにここっちを見てるルナは可愛い。


尾行のカモフラージュだとしても、折角デートするなら可愛い子が良い。
流れでそのまま美味しくいただけちゃうかもしんねぇし。


コーヒー特有の芳ばしい香りが漂う店内で、自分の分のコーヒーとチョコレートケーキも頼んでそれを待つ。


取り敢えず会合場所とフリーウィングの停泊位置は確認済み。


人通りも多い立地に佇む会合場所のレストラン。
ルナに街を案内して貰いながら、その入り口に注意を向けていた。


ドフラミンゴがやってきた方角と
店に入る前は一人だったことは確認済み。


ファミリーが出てこなかった場合、俺はドフラミンゴを追跡するキャプテンをつけることになる。


「お待たせ。はい、寒いっしょ」
「わー!ありがとう!ペンギンって本当に女の子の扱い上手よね!」


そりゃね。


嬉しそうにブランケットを受け取って膝に掛けるその様子を見て、思わず笑ってしまった。


「ん?なーに?」
「ごめんごめん。思い出し笑い」


突然にやけた俺を不思議そうに覗き込むこの子には、話しても伝わらない内容。


いや、ウイだったらばばくさく肩にかけるか頭から被るかしそうだなって
そう思っちゃっただけ。






「ペンギンは一人旅してるんでしょー?観光?」
「そんなとこ。ルナはなにしてる人?」


家業の食堂を手伝っているらしいルナ。
オススメはなんだとか、常連さんから可愛がられてるとか。

適当に相槌を打ちながらたまに喋りたそうな内容を質問してやれば勝手に喋っててくれる。


うん。
良い子良い子。


これで俺は本来すべき事に集中できる。


入ったカフェは会合場所が見渡せる位置。
バレて良いとは言え
知ってて見てるせいなのか、路地裏に身を潜めるキャプテン達は中々不自然。


でも通行人達はそれを気に留めない。
ふと目を向けることはあっても、その程度。

気にして見てなければ、あんな場所に人がただ佇んでようと
人は注意を向けないらしい。


俺が見てなきゃいけねぇのはキャプテン達じゃなく
その周り。


…見たところ分かりやすくキャプテンを尾行してる人影は現時点では見当たらない。


「それでね、私お皿洗うのすっごく早いんだよ!もう!一番早いと思う!」
「勿体ねぇじゃん。ルナなら裏で皿洗ってるより接客してた方客も喜ぶっしょ」
「そんな事ないよぉ〜!!」


ハイハイ。
そう思うならそんな顔しないの。


見え見えの謙遜を口にしながら顔を綻ばせる。
そんな分かりやすい女の子は可愛い。

あざといくらい分かりやすいのが、見え見えなのが良い。
恥じらうのもはにかむのも、女の子の特権だ。


喜ばせたくて言ってるしね。
思い通りにいったっていうゲーム感覚は、例え出来レースでも楽しい。


再び話し出したルナの話に耳を傾けながら、人混みに目を戻した。







…ん?
あの姉ちゃんさっきも…









キャプテン達に視線をいっ時向ける通行人は珍しくない。
でもそれはすぐに逸らされる。


例えその容姿が整っていて女の目を惹こうと
ここは昼間の大通り。
そしてお世辞にもガラが良いとは言えないキャプテン。

今は更に、演技なのか本気なのか知らねぇけど
目に見えて殺気だってる。


ガン見して目をつけられでもしたらたまったもんじゃねぇだろ。






さっきも通りすがった、その黒髪の見目麗しい女がキャプテンとその周りに
どう見ても色目とは別の種類の視線を向けるその仕草がなぜか


気になった。





「ペンギンの好きな食べ物ってなにー?」
「たまご。ルナの得意料理は?」


可愛い。
可愛いけどなんてちょろいんだ。


得意らしいビーフシチューの拘りようを前のめりで話すこの子が可愛い過ぎる。
一生懸命で、無邪気で素直。


文句なく可愛い。
可愛いんだけどなー…












『得意料理?えー、なんだろ。…特にないよ』


眉間に皺を寄せては
女子力アピールの機会をあっさり手放す色素の薄い女が脳裏に浮かんだ。


料理上手だし、作ること自体も嫌いじゃなさそう。
そんな話すれば嬉しそうに自分のこと話すかなって期待して振ったのに
あの返し。


全然可愛気ない。
してあげられたって満足感も感じようがない。
寧ろあれは、何いきなり?ってこっちが不審者扱いだった。


全然絵にかいた“女の子”じゃないのに
…どこが良いんだろうな。
わかんね。


「なにー?」
「いや、可愛いなって思って」
「やだもう!ペンギン誰にだってそういうこと言うんでしょ!」


よくご存知で。


誰かさんのこと考えてたら、ふと溢れてしまった自嘲するような笑い。
当たり障りない誤魔化しのお世辞に、この子はころりと騙されてくれる。





良いの良いの。
女の子って普通こういうもん。

これが女の子。
これが良い。








それはそうと。
やっぱあの女怪しい。


あの後も何度か通りすがっては、その度に確実にキャプテン達に意識を向けてる。
怪しすぎる。


思い違いだったと仮定して
この短時間に何度も同じ通りを行き来する理由ってなんかある?


ないだろ、普通に。


目の向け方も、顔を他の方向に向けたまま目線だけをそっちにやる怪しいやつ。





…確実にドンキホーテファミリーが刺客を打ってくるとは決まった訳じゃねぇ。
でもあれは、そういう目で見れば見るほど怪しすぎる。


「ルナ休みの日はなにやってんの?」
「なんだろ!んー…友達とお茶したり、後は新メニューの開発とかかな!」


へー
聞いといて、自分でもびっくりする程どうでも良い。


「仕事熱心だねー。ルナみたいなお嫁さん貰える男は幸せだね」
「そんな事ないよー!」


嬉しそうな笑顔と返事。
思い描いた定型文過ぎて

その反応が欲しいんだけど張り合いがない。


…俺は誰を、何を基準に女を見てるんだろ。




怪しい女は、目鼻立ちの整ったとんでもない美女。
美人局とかの餌にはもってこいだろうけど、この局面でキャプテンにそれ仕掛けるか?


いや。
男相手に何かしら思惑を持った場合、綺麗な女は格好の武器か。


そう。
見慣れてるだけで
キャプテンのアレは異常。潔癖すぎる。

バレるリスクがなくはねぇとは言え
女を抱きたい欲望を自分で処理する道を選ぶとか大分気違い。

吐き出せる女が、いくらでも居るキャプテンなら尚更。




俺ならどうすんだろ。
表に出回ってるような情報しか知らない中で、キャプテンをどうにかしたい。
それなら…


相手は24の男。
女で釣るのも考えんのかな。

ここで仕掛けて来るなら前提としてあっちはキャプテンとウイの繋がりに気付いてる。
それなのにそこで別の女当てんの?


…でもキャプテンのウイへの執着具合は結構異常だ。
長年の付き合いの俺ですらビビったぐらい。


一般的な思考で考えれば
あんな絶世の美女に迫られるのは堪らない。
そう普通は、思う?のか?


思考をロックしないように、黒髪美女だけじゃなく他の通行人にも気を付けてた。


でも残念ながら他に目ぼしいヤツがいない。















どうすっかな。






「んー!美味しかった!復活!!」
「そだねー。…ルナって実家なの?」


目に見えて色めきだつこの子は、俺が何の為にそれを聞いたのかちゃんとわかってる。


「そうだよ。なんで?」
「んー?なんでだろうね」


顔も可愛くてスタイルも良い。
女の子らしくて清潔感もある。

外見含めの第一印象も大事。


「俺これからちょっと用事あんだけどね、夜とかまた会えないかなって」
「夜?大丈夫だよ!」


待ち合わせ場所と時間を決めて、一旦バイバイ。




“モテる”と
“好き”は違うのを、ルナも知っておいた方が良いと思う。


決して届かない高嶺の花に
男は無駄なモーションなんてかけない。


こいつイケるかも。
遊べたら良いな、ぐらいの子がそう思わせてくれる。
そこに男は食らいつく。

つまりルナは“モテる”。








さて、高嶺の花認定してやるにはなんだか癪な誰かさんの大事なキャプテン。
その指令をちゃんと果たしに行きますか。


…目星がついた今、カモフラージュは邪魔なだけだ。




「気が利くじゃねェか。…合格だ、これならヤツも喜ぶ」
「あ、ありがとうございます!特別な贈り物って聞いてたので、桐箱に入れてみました!」


味見用にね、納品分とは別にラムを持ってきてた。
それを口に含んだドフラミンゴが満足気に口の端を吊り上げる。


相手が誰であろうと
依頼主の望むものを納められた時の気持ちは変わらない。

嬉しくなっちゃって、ベポに引いて来て貰った台車に乗せた梱包済みのお酒をドフラミンゴに見せた。


桐箱の蓋をずらせば、ぴったりサイズの一升瓶と
そのラベルに印字された“smile”の文字。


「想像以上だ。…金はこれで足りるか?」
「いつもいつも貰い過ぎなくらいです。その束一つでも多いです」


遠慮すんなって
トランクにびっしり詰められたそれをつき出すこの人。


これは特注品。
時間も手間も確かにかかった。
梱包も拘ったから材料費も結構する。

でも納品した量は30本。


この億はありそうな札束を易々受けとる訳にはいかない。


「あの、本当に。これは受け取れないです。受け取りたくない」
「残念だが今回は譲れねェな。コレは俺がそれだけの価値があると見込んで頼んだものだ。受け取らねぇとすると、施しを受けたようで気分が悪ぃ」


施しって…


まぁ良いじゃねぇかって、ウェイターに目配せしては料理を運ばせるドフラミンゴに眉根が寄る。


私だって、拘りがある。
ブラーヴェは確かに今、新しいプロジェクトで資金も必要。


でもこれは私の物作りの信念に背くものだ。


お金が欲しいんじゃない。
作ったものは求めてくれる人に平等に届けたい。


「なら、私が欲しいものでいただいても良いですか?」
「なんだ、言ってみろ」


手摺付きの椅子。
それに斜めになって腰かけて、頬杖を付いてはその長い脚を組んでる。


サングラスで見えない目が興味深そうに笑ってることを
綺麗に弧を描く口元が物語ってた。


「“smile”を贈る方からの飲んでみた感想、を…聞きたいです」


横に控えてるベポにジロリと睨まれた気がする。


目はドフラミンゴに向けてたから、本当の所どうだったのかはわからない。


情報収集の為じゃないよ。
この人がドフラミンゴだからでもない。


多すぎるお金よりも
作った物への感想。


私は職人としてそれが欲しい。



destruct at reality.