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「ハッハッハッハッハ!!!…イカれた女だ。そんなもん、聞いてどうする」
「イカれてないです。自分が丹精込めて作ったものを飲んだ人がどう思うか…職人だったら普通気になりますよ?」
前回と同じく、運ばれて来たお料理は絶対お高いヤツ。
大きな白いお皿に、少量ずつ盛られた彩りも綺麗な前菜は文句なく美味しそう。
「そうか、それは悪かった。…うめぇとしか言わなそうな気がするが、聞いてみる事にする」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
じゃあこれはお返ししますねって、ひと束だけ頂いた残りのトランクを返した。
ブラーヴェなら、こんなお金貰わなくてもちゃんと正攻法で稼げる。
「おまえは何を贈られたら喜ぶ?」
「え?…そう、ですね。うーん、気持ちがこもったもの、でしょうか」
うん。
そうだ。
欲しいものとか、特に思い付かないしあれば買うか作っちゃう。
「気持ち、ねェ。適度に欲しがらねェとモテねェぞ?」
「え…そうなんですか?」
欲しがった方がモテるの?
え…マジか…いや、私もうモテなくて良いし。
エースが居るし。
それはそうと
もしかしなくても
この人は私を喜ばせる何かを贈ろうとでもしてくれてるんだろうか。
食事と雑談を交えながら、時折何かを考えてるみたいな視線を向けてくるこの人は
やっぱり極悪人には見えない。
前もそう思った。
頂上決戦の時のこの人の言動を見てても。
好意的、に思ってくれてる気がする。
取引とかそういうのを抜きにしても。
…でもそれも手口なのかな。
この人はローを誘き寄せる為に私を懐柔しようとしてて
私はそれにまんまと嵌まりかけてるだけなのかな。
「ドフラミンゴさんは?何を贈られたら嬉しいんですか?」
「言ったらくれんのか?」
にぃって、吊り上がる口元に
なんでか知らないけど背筋がぞっとしたの。
身をすくませた私に気付いたのか、くつくつ喉を鳴らすこの人はやっぱり
見えてるとこだけじゃない何かがある。
「差し上げられるかはわからないですが…どんなもの欲しがるんだろうって、興味です」
「永遠の命」
ごくり、と息を飲んでしまった。
あまりにも、ローに聞いたばかりの
ローの見立て通りの答えだったから。
「永遠の…?そんなの…私にどうこう出来るわけないじゃないですか」
「例え叶えられるなら、おまえはそれをくれんのか?ロレイシル・ウイ」
なんだろう、この緊張感。
いちいち発言が意味深。
そう取ろうとすれば取れなくもない。
そんな、駆け引きしてるみたいなやり取り。
「どうでしょう。突拍子がなさすぎて…。どうせなら本当に渡せて喜んで頂けるものについて考えたいです、けど」
「そうだな。まずおまえにこれ以上貸しを作るつもりはねぇよ」
…わからない。
臭わせておいてあっさり引いていく。
深読みしすぎなのかな。
でも油断させて隙を突いてゴスッと…
有り得る…。
前菜を食べ終えて、運ばれて来たお料理は小さなガラスの器に収まった
白いスープ。
ビシソワーズかな。
「ん!美味しい!」
「そうだな、悪くねェ」
オリーブオイルと黒胡椒が表面に浮かぶこれは、やっぱりじゃがいもの冷たいスープ。
お芋感が凄い。
そして生クリームですっごいクリーミーで滑らか。
これ皆にも作ってあげれるかな…
「高いとこが好きなのか?」
「ごほっ…!!」
それは…
あの時のアレを聞いてる…の?
「どうした」
「…いえ、すいま…せん…っ!」
どうする。
どう言えばこの人だけに伝わる。
いや、あの時の事を聞いてるとも限らないし
そもそもそこをはっきりさせる必要ってあるのか?
「胡椒が…気管に…!入った、だけです…!」
「そうか」
ニヤニヤ笑ってる口元は
すんなり引いてくれた言葉とは裏腹に、欲しかった答えを得たように満足気だった。
「大切な人を、守る為ならどこへだって行きます。…それが高い所でも」
「大切…ねェ」
嘘じゃないよ。
この人があそこに私が居たことを知っているのなら、エースが私の大切の人だと教える事は何のデメリットもない。
私とローが同じ船で旅をしてた事を知っていたとしても
ローや私の気持ちまでは見えてる筈ないんだ。
ならば知ってて貰おう。
「その話はやめましょう?ここで話す事でもなければ、…正直まだ、立ち直れてない…です」
私とローの間に、あなたが期待するような事は何もないよ。
「なら後ろの鬱陶しいのを消しちまうか?」
「ドフラミンゴさん…七武海なんですよ、ね?そんな物騒な冗談言っちゃダメです」
そうだ。
この人は自分で望んで七武海でいる。
七武海で居るだけのメリットが今のこの人にはある。
それを放棄するイレギュラーが起こりうる可能性。
その判断を下してもおかしくない分岐点は
私がローを誘き寄せる餌になるかどうか。
「いくら私がベガス聖に守られているからと言って…して良いことと許されない事があります」
それは言葉の表面上、私の勝手な都合で海軍を見殺しにする行為。
「商売…、私情だとしても、“それ”はしてはいけないこと。ここでそんな話されたら困っちゃいます」
もし、臭わせてるなら
あなたの言葉にも含みがあるなら。
私の言葉の奥に込めた想いに
気付いて。
サングラスの奥を覗き込んだ。
これはただの世間話じゃない。
そんな気持ちを込めて。
「やっぱ良い女だな、おまえ。地頭の良い人間、俺は嫌いじゃねぇ」
くつくつ喉を鳴らしながらスパークリングワインを煽るこの人は
どこか余裕。
高見の見物をしてるみたい。
場の状況の手綱を握って、それを掌握してる。
「一つだけ、気になった。…そういう関係か?」
それは…
エースと私の関係を聞いてるんだよね?
私の言いたいことに、気付いてくれたんだよね?
なら話そう。
私だって、いつだってこの気持ちを誰かに話したかった。
誰にも言えずに夜空に話し掛ける以外に
誰かに聞いて欲しかった。
それが大切な友達の為にもなるなら
聞いてよ、私の話。
「似てるから、わかりあえる。…覚えてらっしゃいますよね?昔貴方に商売を持ち掛けた…愚かな男の話を」
私とエースは似た者同士。
同じ傷を抱える同志。
「これからは一緒に、支え合っていける筈だった。…これでわかって、いただけませんか?」
流石に私があそこに居たことを知らないとしても
ベポや海軍の居る前で話せる内容って限られる。
私を本当の意味でわかってくれて
受け入れて支えてくれる人ってね、エースだけ。
エースだけなの。
「お答えしたのは私の勝手ですが、他言しないで下さると助かります。…世間からは、あまり良く思われる事ではないので」
「懸命だな。なに、ハナからバラすつもりなんてねぇよ」
ほっとした。
本当は、臭わせてでも言ってはいけない事だから。
あれがバレたらベガス聖にもロイにも迷惑が掛かる。
ベポに気付かれてもこの前の比じゃないくらいローが怒り狂う。
ブラーヴェにも迷惑かけちゃうな、きっと。
海賊王の血筋と関わりのある女は、殺されて文句が言えないような大罪人らしいから。
でもね、言いたかった。
こんなに好きなんだよって
私とエースの絆は、こんなに特別なものなんだよって
言葉にして誰かに言いたかった。
「おまえも中々な生き方してるじゃねぇか。…腹は立たねぇか?」
「腹…?」
それは、何に?
香ばしい香りと共に運ばれてきたのは
白身魚のグリル。
金目鯛かな?
グリルされた赤い鱗がカリッと逆立ってて
そこに掛かった白いソースに、鮮やかな緑色がマーブル模様を描いてた。
「おまえは甘んじて受け入れンのか?おまえの中の“正義”を理不尽に踏み散らかすクズ共の主張を」
心臓を鷲掴みにされたのかと思った。
そうこうしてる間に、お魚の焼ける匂いとは違う芳ばしさが鼻先を擽る。
「おまえの大事なものを奪っていくヤツらは正しいか?それが許される程…それ程出来た人間か?」
ウェイターさんが小皿に焼きたてのパンを置いてくれてね
蓋をされてた四角い容器を開けては、そこから顔を出した発酵バターについてあれこれ説明してくれてるの。
でも、半分も頭に入って来なかった。
「良く知らねェが、おまえは大分…聞き分けが良すぎるみてェだなァ?」
白身魚に合わせてソムリエが選んでくれたんだろう、白ワイン。
きっとお料理もお酒も引き立たせる、最高の相性だ。
料理に手を付ける前にそれを飲み干して、頬杖を付きながら顔色を覗き込んでくるこの人が
怖いって思ったの。
気付いてはいけない
思ってはいけない気持ちを擽られるような、煽られるような。
ドフラミンゴの言葉は、耳とは違うどこかに直接語りかけてくるようだった。
「えっと…、」
なんて言えば良いのか
なんて言って良いのか
わからなくなった。
私は海軍も世界も
父様も許せない。
ローみたいに復讐しようとしないのは
私に力がないから。
「“勝ったヤツが正義”俺はあの時そう言ったよなァ!?いくら正しかろうが、唱えるヤツに力がなければそれはただの戯言だ…!」
「そ…ですね」
この人はなんなの
私の心の中が透けて見えてるの?
私だって
母様を殺した父様を
エースを殺した海軍や世界も
許した訳じゃない。
立ち向かう力も
間違いを主張できるだけの勇気も
私にはなかっただけだ。
「例え世の中が全うになったとする。それを誇示し続けるには力ある後ろ楯が必要だろう?…永遠に続く最強の後ろ楯が!」
これは、なんだろう。
私はこの気持ちを味わった事がある。
言いたい事を言わなくても理解してくれて
間違ってないって
おまえは悪くないって認めて貰えたみたいなこの感じ。
心の中のヘドロみたいに汚い物が
浄化されてくみたいな感じ。
「そこに行き着くまで、俺はおまえも納得できねぇ事を散々やらかすだろうな。…でもわかる」
この人はローの仇。
あの冷静な人が
自分に厳しくて、わかりにくいけど誰よりも優しいあの人が
許せないでいるような人。
「俺とおまえが描く理想は同じだ」
なんでだろう。
これも手口なの?
私を手懐けようとしてるだけなの?
“この人は悪い人じゃない”
“この人の創る世界は、理不尽が起こり得ない世界”
「どうでしょう…、私バカだから。ドフラミンゴさんみたいにそんなに考えられてないです」
「いつでも来い。俺はお前を歓迎しよう。…久しぶりに見込みのある女を見た」
…それは
どういう意味?
だめだ。
変な考えが抜けない。
この人が納める世界なら
母様もエースも死ぬことはなかったんじゃないかって
いつまでも手を付けない訳にもいかなくて
ナイフとフォークで目の前の白身魚を一口大にカットした。
ナイフで付けたソースがね
綺麗なマーブル模様を乱したの。
私の心の中みたい。
色んな事が渦を巻いて主張してるのに
それは決して綺麗には混ざらない。
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