14-17



高低差はあるものの
どうにかすれば跳び移れる間隔。


屋根の上を移動しながら暫く尾行を続けていると
姉ちゃんが立ち止まった。








…なんだ?


双眼鏡で覗き見たその顔は
瞑った目を手で覆いながら何かを思案しているようにも見える。


そんな事にはお構い無しに変わらず大通りを進むドフラミンゴとキャプテン。







…あんま無茶しないでね。


小さくなっていくその背中に、健闘を祈った。










時折眉を寄せてはやっぱり目を閉じているこの姉ちゃんは具合でも悪いんだろうか。


ドフラミンゴの一味だと思ったのは見当違いか?


動かない状況にそんな可能性が芽生え出す。
でも他に目ぼしいヤツいねぇし
怪しい事は確かだ。















動いた。


でもそれは、キャプテン達が向かった方角とは逆。
来た道を引き返すこの姉ちゃんの行動はやっぱり不可解。


…何がしたいの、この人は。


暫く進んだ後、入って行った建物に掛けられた看板には宿の文字。


何分か待っても出てこない事を確認してから
双眼鏡をベルトに納めた。









根城見っけ。




そう高くない建物の出窓を足場にして通りに降りる。
向かう先はあの宿の
大通りに面してない側。


どっか中覗けそうなとこあると良いんだけど。


結構な通行量の大通りを横切りながら
考えるのはこの先の予定と、あの不振な動き。


目を閉じて、何かを探ってるような
聞き取りづらい音を拾おうとしてたみてぇな、あの感じ。


1つ確実に言える事は







ミステリアスな美女は中々そそるって事。





「酔っ払っちゃったー。フラフラするー!」
「そんな飲んでないっしょ。大丈夫?」


待ち合わせてたルナと合流して、飲みに行った。
ほんのり赤く染まった頬と潤んだ目は確かにこの子が酔ってる事を物語ってる。


「お酒弱いんだもん!やだなー…強くなりたい」
「良いじゃんそのままで。酔ってるルナ可愛いけど」
「またすぐそうやって調子良いこと言う〜!!」


腕組んでるとかじゃなくて
すげぇもたれ掛かられてる。


随分積極的。


「じゃあルナ。俺取ってる宿そこだけど、休んでく?」
「え…うーん…」


お決まりの常套句。
指差した先にはあの宿。


あの後ばっちり例の姉ちゃんの部屋を割り出して
その隣に部屋を取った。


向かいの建物から覗いた部屋の中で
黒髪美女はやっぱりただ目を閉じて何かを考え込んでた。


あれは何をやってんだ?

具合悪ぃとかにも見えなくはねぇけど。
頭痛堪えてるみてぇなあの感じ。


「だってさ…今日会ったばっかりだし…」
「ルナが嫌なら何もしない。帰るなら送ってくけど、歩けんの?」


無理強いはしない。
でもほら、この先のお楽しみが逃げちゃいますよ。






「んー…じゃあちょっとだけお邪魔するー」


ハイ、ご馳走さま。


本当に何もしない?って上目遣いで覗き込んでくるルナは目の奥で
確実にその“ナニ”を期待してる。


「当たり前じゃん。俺そういうとこは一途で真面目だから」


くしゃりと頭を撫でてやれば、目を細めてすり寄ってくる動作に下半身が反応した。


嘘じゃない。
俺、結構一途で真面目。

そういうとこってのをルナがなんだと思ったのかは知んないけど。


宿の扉を開けて、フロントに掛かる時計に目をやればまだ9時前。
あの姉ちゃんはあのまま部屋に居るんだろうか。


「ねぇ…私、そんな軽い女じゃないからね!」
「それは見てたらわかる」


どんなに言葉を並べようと
本当に酒に弱かろうと

男と二人で飲んでて泥酔するってそういう事でしょ。
本当にガード固い女はその気がなければまず飲まない、誘いにすら乗ってこない。


「わぁ!」
「階段キツいっしょ。暴れると落としちゃうから良い子にしてて」


ふらふらのその体を抱え上げれば、大人しく首に手を回してくる。


危ねぇなって心配なのも事実。


でもゴメン。
早くヤりたい。






予想通り、すんなりヤれた。
たまには店以外の女を抱くのも悪くない。

プロ上手いんだけど
積極的な淫乱具合も堪らないんだけど


たまにはこう、照れて「いやっ!」とか言う反応も欲しくなるよね。


そんなつもりなかったらしいルナはしっかりエッロい下着を仕込んでて
第3ラウンド終了と共に意識を手放した。


ペース合わせて飲んでたから全然酔ってねぇし眠くない。


備え付けの冷蔵庫からビールを引っ張り出して
運動後の渇いた喉を潤した。










聞こえてくるのはベッドで眠るルナの静かな寝息だけ。
一応隣の部屋の物音や気配には気を付けてた。


恐らく不在。
あの姉ちゃんはどこかに行ってる。


…この子起きないだろうし
ちょっとその辺見てきた方がまだ有意義だろうか。


可愛い寝顔でシーツを体に巻き付けるルナに
布団を掛けてあげた。


流石に夜は冷える。
汗かいただろうし、風邪引いたら大変。






パタン、ガチャ


聞こえて来た物音に緊張が走る。
姉ちゃん側の部屋から聞こえてきたドアが閉まる音。


気配を殺して、そっとグラスを壁に押し当てた。








「もう戻ったの?こっちは特に動きはないわ。ほとんどのクルー達があの子の船に居る」


耳に当たる冷たいガラスの感触。
お手軽集音器は結構有能だ。


「…気付かれてはいないと思うけど警戒してるわ。仲間の何人かを船の外で見張らせてるみたいね」


これは…ビンゴか?









俺もキャプテン達が今どんな動きを取ってるのか詳細は知らない。
でも隣の部屋から聞こえてくる声は
あの姉ちゃんの物らしい声は
ウイやキャプテン達の行動の詳細をでんでん虫の先にいる相手に報告していた。


「そういえば見つけものって?」


つけてたのか?
キャプテン達は気付いてるんだろうか。


「あまりそういう風には見えないけど。…あなたがそう言うなら気を付けて見ておくわ、ドフィ。…ちょっと待って」


急に緊張感を孕んだ声色で会話を区切る姉ちゃん。
その後の沈黙に少し肝を冷やした。


…バレたか?


「トラファルガー・ローが移動してる。一人よ。彼女の方は部屋で白熊と寝てるわね」













ちょっと待て。
…なん、だと?





決定打。


キャプテンの名前に、“彼女”“白熊”“部屋”。
恐らくキャプテンがウイの護衛も兼ねてベポと一緒に寝せる流れに持っていったんだろう。


この女はキャプテン達の動向を掴んでる上に、それを電話の相手に報告してる。

そして恐らくその相手は…ドフラミンゴ。
“ドフィ”は愛称か何かか…?

いや、それどころじゃない。












この姉ちゃんの口振り
リアルタイムでキャプテンの動きが見えてねぇか?


盗聴を疑った。
でもそれにしては、船を出たらしいキャプテンが一人だと断定する根拠がわからねぇ。


「向かう先は…繁華街かしら。どうする?」


この美女は美人局的な見た目有効活用要員なのかと思っていれば
とんでもなく優秀な諜報員だったらしい。

能力者か?
それとも何かで監視…


グラスの底に耳を押し当てたまま、辺りに目を配った。


カメラ、人、動物、


何かを映しそうなものは周りに見当たらない。
それに姉ちゃんは俺の行動まではドフラミンゴに報告してねぇ。


「一度はあなたが見込んだ程の男でしょう?そう上手くいく気はしないけど…行ってくるわ」


恐らくでんでん虫の受話器を置く音。


暫くの沈黙の後、扉を明け閉めする音と鍵をかける音が聞こえて
部屋の中にあった気配は遠ざかっていった。








よし。
俺も行くか。
シャワー浴びたかったけどそんな時間はない。


急いで服を来て宿の廊下側の窓から大通りを見下ろした。
揺れる長い黒髪は迷いのない足取りで夜道を進んでいく。


足を止めたその先。
双眼鏡で姉ちゃんの目線の先を確認すれば
そこはキャプテンがいかにも好みそうな飲み屋。








店に入っていくのを確認して宿を出た。


…万が一
本当にあの店にキャプテンが居れば


これは結構まずい。
100%の確証はないけど、あの姉ちゃんのでんでん虫の相手はドフラミンゴ。


そしてどこで何をしてるかが筒抜けなこの状況。


どうやって監視してんのかが分からない以上、それを防ぐ手立てがない。
でも知らせねぇと…


これは流石に想定出来るもんじゃない。


でもこれ、俺が知らせればそれもあっちから見えてんでしょ?


何この無理ゲー。
キチぃにも程がある。




「ウィスキーハーフロック、炭酸で割ってくれ」
「銘柄はいかがなさいますか?新世界各地の酒造のものを多数取り揃えておりますが」


大通りに面した、特に混雑している訳でもない酒場。
でもそれなりに客が入っていて、照明は暗め。


一人で飲むのに騒がしいのは御免だ。


「こっちの酒に詳しくねぇんだ。シングルモルトで良さそうなの見繕ってくれ」
「畏まりました。…旅の方ですか?」


今後の方向性を考える時間が欲しかったのと

後気になるのはペンギン。
ドフラミンゴが島を出て十分過ぎる時間が経っている。


それでアイツが連絡もなく戻って来ないということは
十中八九島にはファミリーの誰かが潜んでいる。


「まぁそんなところだ。──随分賑やかな島だな」
「ええ。交易の発達した島ですから。中心街はもう見られました?新世界のありとあらゆる名産が集う市場。観光にはお薦めですよ」


それはアイツが好きそうだ。


明日にでも連れて行ってやるかと思いつつ、酒に手をつけた。


癖が強ぇが嫌いじゃない。
たまには一人のこんな時間も悪くない。



カランカラン



「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」
「ええ。バラライカを1つ」


鼻に抜けるアルコールの刺激を楽しみながら
入ってきた客に注意を向ける。


女、それも一人。
そう若くはない。

色香の漂う女盛り。


羽織っていたコートを脱いで露になる白い肩と
カウンターの奥に並べられた酒を眺める横顔。


頼む酒にしろパッと見た印象にしろ
騒がしい女の類ではなさそうだ。


カウンターの端に腰かけた来訪者の観察を中断して
考えるのは今後の流れ。


また助けられた。
桐箱に潜ませたらしいツガイのでんでん虫がドフラミンゴにバレていた様子はない。

アレを使えば確実に
ないより距離を保った状態で酒を追跡できる。

取り敢えずペンギンからの連絡があるまではこの島を出れねぇ。
念のためウイを出発させるのもその後。


グラスを回せば、カラカラと氷片の立てる涼しい音と共に鼻先を擽るウィスキーの香り。







これで取引相手は特定出来る。
出来たとして、ウイの見立て通り相手がカイドウだったと仮定して


どう戦う。
相手の力は強大。


何か良い手はあるだろうか。




destruct at reality.