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先に地上へと戻ったクルー達は、観覧車から出てきた二人が特に普段通りな様子を見て

ペンギンはキスの一つでもしとけよと地団駄を踏み
ベポは観覧車から降りる際に手を貸しそれを取る二人にほっこりし
どんなに良い雰囲気でも相変わらず自覚のなさそうなローに、シャチはやれやれと肩をすくめた。


「観覧車綺麗だったね!」
「綺麗なのは観覧車じゃなく夜景な」


船への帰り道、ウイが先頭を歩いていたシャチの隣へと駆けて来てはその顔を覗き込む。
指摘された事に本当だと笑いながら納得するウイは、ニット帽の三つ編み部分を人差し指でくるくる玩んでいた。


「楽しかったね!私やっぱり遊園地大好きだった!」


くるりとシャチの前に回りこみとびきりの笑顔を見せるウイはそれだけ言うと
そのまま何事もなかったかのように進行方向へ向き直り星を見上げながら先を歩く。


それを見たシャチの心臓はドクリと跳ねた。

彼女の無邪気さだけを取って言えば、それは存分に男心を擽るものだろう。
普段は大酒飲みであまり女子らしい振る舞いが見当たらなくとも。

まだ煩い気のする鼓動を後ろを歩く番犬に悟られまいと、それを必死で沈めようとするシャチの後ろから彼の幼馴染みが声をあげる。


「おいウイ、また行こうぜ遊園地。この5人で」
「…次は水族館にも行ってみたいな」


どこの島にもある物ではないそれをまた訪れる誘いに込められた意味と
イエスでもノーでもないその返事に隠された本音。

私水族館も行ったことないんだと
鼻唄混じりで先頭を歩くウイが今どんな顔でそれを話しているのかは、彼らからは伺えない。


「…ですって。うちのお嬢は随分我儘だな、キャプテン」
「知るか」


彼らの内何人がどこまで、言葉の裏の意図に気付いていたのだろう。

その約束が叶う日は来るのか。
次に遊園地のある島を訪れた時、彼らの隣に彼女は居るのだろうか。


先頭を歩くウイは
行きたいと話した水族館に思いを馳せるでも、楽しかった1日の余韻に浸るでもない顔を浮かべていた。
それを悟られぬように、彼女は意図して鼻唄を紡ぐ。

どこか悲しくも聞こえる気のするその音色は、夜の闇に溶けて消えた。





「シャンブルズって本当超便利ー。ありがとね!ロー!」


遊園地の翌日、酒屋へ運ぶ荷物とウイをローは瞬間移動させた。
二人は無事に品を卸した後、商店街を並んで歩く。

比較的栄えた島には大体、そこを配送で訪れるギルドの窓口が一ヶ所に集う施設がある。
目的地であるその場所では、ギルドへの加入や商店との取引が行われているようだ。


「うっわー…すっごい人ー」


建物の中は、沢山の人々の活気で賑わいを見せていた。
商品を売る側も店に並べる物を品定めする側も、その顔付きは真剣そのもの。

これから飛び込む新しい世界の入り口に、ウイは興奮しその身を震わせた。




「あのすいません、ギルドに加入したいんですけど…どうしたら良いですか?」
「初めての方ですか?ではこの用紙に記入をお願いします」


総合窓口と書かれた看板の下で愛想の良い女性からそれを受けとったウイは筆記台で筆を走らせる。
どうやら属するギルドを探す商人が情報を公開し、ギルド側からのスカウトを受けることも可能なシステムのようだ。


「私でんでんむし持ってないや。買わなきゃなー」
「買ってくるから待ってろ」
「良いの?」
「ああ。ここから動くなよ」


丁度総合窓口の隣に、でんでん虫を売る店はあった。
ウイが頷き必要箇所の記入を再開すると、ローはそれを買いにその場を離れる。

代表者、連絡先、取り扱う商品に経験年数、意外と記入する項目の多いそれを埋めるウイの後ろから
聞き覚えのない声がかけられた。


「ウィングカンパニーって、あのシードルの?」


ウイへと向けられた事が明らかなそれ。
何事かと振り向けばそこには、驚くほど近い距離に金髪碧眼の美少年の顔があった。


「そう…ですけど」
「マジ!?すげー!!お前ウイっつーのか!俺アオイ!!よろしくな!!」


アオイというらしい彼はウイの手を半ば強引にとりブンブン振り回しながらニカッと笑う。
どこぞの王子と言われても納得しそうな見た目とは裏腹に、彼は快活で庶民的…いや親しみやすい性格のようだった。





「こちらこそ!…ウィングを知ってるの?」
「ったりめぇだろ!うちの連中は皆知ってるぜ!…なぁお前うちのギルド入れよ!探してんだろ?」


彼は親しみ易いというよりは、あまり深く考えない行動派なのかもしれない。
アオイはウイの手を握ったまま、自分のギルドへ連れていこうと歩きだした。


「ちょ、ちょっと待ってアオイ!私ここで人待ってるの!後から行くから!ギルドの名前教えてよ」
「今で良いじゃん!行こうぜ!」


興奮しきった顔でそれを実行しようとする彼に悪気はないのだろうが、この場を動くなと言われているウイもそれに従う訳にはいかない。

男女の力の差は歴然。
どちらも本気なのであれば、当たり前にウイはズルズルと引きずられ連れ去られようとしていた。


「ねえアオイ!待ってってば!ちょっ──」
「うちの連れに何の用だ」


聞き慣れた声と見慣れた後ろ姿に、ウイはほっと胸を撫で下ろす。


「俺?今期待の超新星をスカウト中だけど」


二人の間に割って入ったローは、アオイの腕を掴みそれを阻む。
先程の声色からして、ローは今あまり友好的な表情はしていないのだろう。

ウイからは二人の表情は見えないものの、手を握る力が怯まぬ事と返答の口振りで
アオイがローに臆した様子のない事は何となく理解出来ていた。


「手を離せ。話はそれからだ」
「んな睨まなくても良くね?おーおー…怖ぇなおい」


言われた通り離された手とは裏腹に、彼が本気でローに怯えているようには見えない。
本気で敵意を向けるローに対して、アオイの方はイタズラ見つかっちゃったぜ程度の調子であった。


「おい動くなっつったよな」
「え?うん!良かった!はぐれちゃったらどうしようかと思ってた!」


ウイに飛び火したローの怒りは、こちらの彼女にも通用しない。
その後も一方的に怒るローと、それを気にも止めていないウイのやりとりを見ていたアオイが
少し考える素振りを見せた後口を開いた。


「なあ、そっちの兄ちゃんウイの彼氏?」




「ロー?違うけど」


きょとんと答えるウイとは対照的に、ローはそれを口にした相手をこれでもかと睨み付けた。


「マジで?良かった!じゃあウイ俺の彼女になれよ!」
「は?」


それまででも十分だった威嚇する視線は、それで人を殺せる程に膨れ上がる。


「一目惚れ!!本体見て更に気に入った!」
「いや、あのちょっと!」


空気が読めないと言うのはある意味無敵だ。
流石のペンギンでもこれにはたじろぐだろうローの殺気がアオイを襲う。

そんな事はお構い無しにウイの肩を掴み同意を求めるアオイに、ウイは口をパクパクさせ固まった。
普段乙女感皆無な彼女も、ここまで直球に迫られれば恥じらうらしい。


「気安く触るな」


どすのきいた声と共に、ウイを口説き落とそうとする男の手をローは払う。
客観的な目で言わせて貰えば、そちらこそとしか言えない行動をローは無意識にしていた。
守るようにウイを抱え殺気を放つ彼は、今にもアオイに飛びかかりその息の根を止めてしまいそうだ。

そんな中で、染まった頬の熱を冷まそうと手で顔を扇ぐ#Name1#もまた空気が読めぬ無敵スキルを持つ一人。
殺伐とした空気を生むローの心中は、彼女には届いていない事だろう。


「過保護かよ。…まあいいや。着いてこいよ、俺のギルドに案内する」


半分冗談で、半分本気。
"一目惚れ"する程に逆上せ上がったのは彼女の作る酒に対してで、それは作り手が彼のストライクゾーンに十分入っていたからこその所業。

冗談でもこの番犬を焚き付ける言葉を選んだのは、面白半分。
このアオイという男はそういう生き物だ。

彼は少し後ろを歩く二人の様子をちらりと横目で覗き見た。

はっきり断れだの危機感が足りねぇだの、一方的に説教を食らっている彼女は両耳を手で叩きながら聞こえないーとそっぽを向いており
まるで反省の色が見えない。

恋人同士ではないにせよそれなりの信頼関係が見て取れる。
それは空気を読む事を得意としない彼にも十分伝わる光景だった。




「マスター!ビックニュース!!」


二人の少し前を歩いていたアオイは突然声を上げ一人の女性に駆けよって行った。
彼の声に顔を上げたのはすぐ傍の受付カウンターに腰を降ろす端正な顔立ちの女性。

"マスター"と呼ばれた彼女こそ、既に問題児要素満点のアオイを擁するギルドの責任者。
彼の連れてきた人物に、用件は聞かずとも何かを察したソニアは微笑み会釈した。


「わー!美人!!」
「だろ?マスターの作るグラスもすげーよマジで!!今度見せてやるよ!!」


彼女は硝子細工職人らしい。
その作品の良さをまるで自分の事のように熱く語るアオイはとても生き生きとしていた。
余程彼女の作品に惚れ込んでいるのだろう。

アオイから簡単に説明を受けたソニアはカウンターの中へと二人を通した。


「初めまして。ブラーヴェのギルドマスターを務めておりますソニアと申します」
「ウィングカンパニーの、ウイですはじめまして」


アオイの印象のせいで他のメンバーも同じ系統を予想していたウイは丁寧な物腰のソニアに緊張で身を固くした。
それを感じ取ったソニアは緊張をほぐさせようと優しく微笑む。


「そんなに緊張なさらないで下さい。私たちはあなたのシードルのファンですから」
「あ、ありがとうございます!」


自分が丹精込めて作ったものを好きだと言って貰えることは、作り手にとって何にも替えがたい喜びだ。
照れたようにはにかむウイを、ソニアは目を細め眺めていた。

ブラーヴェは創設1年余りの新しいギルドだ。
所属する職人はソニアとアオイを含めて4人。
配送や事務業務として他に何人かメンバーはいるものの、小さなギルドであることは変わりない。
ルンルンバースを拠点として活動しているが、いくつかの島に配送も行っているらしい。


「知名度上げんならここの条件は適さねぇな」


ローの言うことは一理ある。
だが本人達を前にそれを直球で言葉にするローに、ウイは苦笑いを溢した。



destruct at reality.