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「他のギルドに比べれば、配送ルートも認知度もまだまだなのは事実です。…ウイさんは今後どこかに拠点を置かれる事は検討されてるんですか?」
「今までも航海を続けながら島で商品を卸していたので。今後もそのつもりです」
ローの不躾な発言に嫌な顔一つせずソニアは話を進めた。
アオイはそれにムッとしたものの、何か考え事をしているのか米神を中指でトントンと叩きながら視線を宙に浮かべている。
「私たちはギルドの拡大も勿論目指してはおりますが、誰でも迎え入れている訳ではありません」
穏やかな口調で、ソニアは語り出した。
いつかは配送だけではなく、ブラーヴェの直営店をグランドライン中に展開したいと。
直営店を目指すからこそ、商品を手掛ける作り手には拘る。
その一員としてウイを迎えたいものの、まだ配送先も知名度も少ない彼らと先へ進むウイとでは共に活動するのは難しそうだ、と。
「とても魅力的なお話で、素敵だなって…思いました。今までは物を作ってそれを売ったお金で生活してって、それだけだったので」
なんだか別世界の話みたい、とそう口にするウイの顔も少し残念そうであった。
だが双方の意向と状況は相違しており、ウイのブラーヴェへの加入は難しい流れで話が終わりそうな雰囲気の中
ずっと黙っていたアオイが口を開いた。
「活動方針自体は?自慢じゃねぇけどマスターも俺も、ここにいねぇ職人も腕は一級品だ。自分たちが本当に惚れ込んだ物だけを売る店!超楽しそうだろ?」
そう話すアオイの目は自信に満ちていた。
それを見たことがないウイにも、魅力が伝わる程に作り手の彼らは輝いている。
「今聞いた限りでは素敵だなって思うよ。でも私は…ここに拠点を置いて活動するつもりはないから」
ごめんね、誘ってくれてありがとう、と
名残惜しそうにウイは謝った。
「別におまえここに居なくても問題ねぇじゃん!ウイ船持ってんだろ?広報兼配送兼職人だ!」
ウイはこれまで通り航海を続けながら、訪れる島々でブラーヴェの商品を卸して回る。
ブラーヴェの名も広がり、この企画にウイも参加できる。
「な?一緒にやろうぜ!」
名案だろ?とアオイは得意気に笑った。
「それでブラーヴェが良くて、実際実現できるなら凄い名案だけど…移動してる私に商品届けるなんて無理じゃない?」
「ビブルカードってのがあんだよ!そいつは持ち主に引き寄せられる性質がある。それがあればどこにいようと俺らはウイを見つけられる!」
新世界の技術なんだけどな、とアオイは得意気に話した。
彼らの仲間にはその技術を持つ者がいるらしい。
確かにそれならお互いにメリットがある。
本物の名案だ。
意外な程あっさり解決した問題にまだ実感の沸かぬウイが、了承しようと口を開きかけた時
ソニアがそれを遮った。
「もしそうなるなら、1つ確認しなければならない事があるわ。ウイさんと…こちらのお連れ様の関係を伺っても良いかしら」
「関係?…友達、です」
#Name1#は一瞬戸惑った。
彼女はこれまで、彼らとの関係の名称など考えたことがなかったから。
"友達"であっているのだろう。
いざと言うときの設定はさておき。
「ウイさんは彼らと一緒に航海をしているの?」
「そうですけど」
その返事にため息を付いたソニアがローへと視線を移し口を開く。
「トラファルガー・ロー、あなたは海賊よね?」
突然フルネームを呼ばれ身分を確認されたローは、特に動じた様子も見せず視線をソニアへ向けた。
「ギルドに入ろうとするくらいだから、ウイさん本人は海賊という訳じゃないんでしょうけど…事情によってはあなたをギルドに迎え入れることは難しいわ」
「ローって結構有名人だったんだー」
ギルド加入への雲行きが怪しくなって来たと言うのにウイは至って能天気。
ソニアは他の海の賞金首をも把握している程、時事問題に精通しているようだ。
「事情って…船が大破しちゃったロー達を造船所まで私が乗せていく途中なんですけど、それもまずいですかね」
「…お前俺らに船乗っ取られて脅されてる設定はどうした」
まぁ良いじゃんと笑う彼女より、ローの方が今後の事に頭を悩ませていた。
彼女はそれを理由に仲間になる事を断ったようなもの。
ウイの酒だけではなくローの顔も、グランドラインでは無名と言う訳ではなさそうだ。
「立派な肩入れよね。悪いことは言わないわ。…関わるのはやめなさい。彼らを船から降ろした後でも、その事実は商人にとってリスクにしかならない」
「あ、それはできないです」
なら仕方ないかと即答するウイに
ソニアとアオイは目を見開き、ローも怪訝な顔を彼女に向けた。
「約束したんです。造船所に連れてくって」
「本当に分かっているの?折角あんなに素敵なお酒を作れるのに、職人としての人生を棒に振ってしまうかもしれないのよ?」
ソニアの言うことは正論だ。
それがウイが仲間になることを断る理由で、そうさせない為の準備をしている。
ソニアの言う現実は、彼らの中の認識よりも厳しいものであった。
「んー…ならないようにしてるつもりではあるんですけど。まあそうなっちゃったらその時はまた考えます」
「若気の至りは年を取っても消えないの。一度の過ちは生涯背負っていかなければならないものなの。…私にはそれが正しい判断とは思えないわ」
例えどれだけウイの酒を気に入っていようとも、出会って間もない相手のその先の人生を考え説教するソニアは
現実主義に見えて意外と情が深いのかもしれない。
「私は正しいかどうかで、生き方を決めてないかもしれないです。…自分のしたいことに、理由をつけて生きてます」
若者故の無謀。
それ故に聞く耳を持たないと、ソニアはそう思っていた。
しかし強い意志を感じるウイの姿は、どこかそれとは異なるように見える。
「私、この人達とまだ一緒に居たいです。…聞き分けのない子供でごめんなさい」
眉を下げ申し訳なさそうに謝るウイに、もうソニアは何も言えなかった。
そうさせない何かが、彼女の言葉にはあった。
そのやり取りを口を挟まず傍観していたローは、自分達の存在が既に彼女に迷惑をかけている事を思うと同時に
何か違和感を感じていた。
最近感じていた不調とはどこか違うようにも思えるそれ。
勘の良い彼の違和感は正解。
そこをこの時突き詰めていれば、彼女の事をもっと早くに知れていたかもしれない。
だが人間はどんな事にも慣れ順応する生き物。
ローはそれを"最近の得体の知れぬ何か"で
ひと括りにしてしまった。
「…そこまで言うならもう、止めないわ」
ソニアは呆れたように盛大なため息をついた。
「ただ、彼らと一緒にいるうちは物を卸さない方が懸命ね。あなたのお酒はここではまだ希少だもの」
名が売れれば自然とその作り手にも世間の関心は向く。
飲んでしまえばそれは、図らずとも人の心を掴んでしまう。
約束を果たし海賊と手が切れるまでリスクを増やさぬ事を勧めるソニアの言葉に、ウイの目が泳ぎだす。
その姿は誰がどうみても挙動不審だった。
「…さっき、そこの酒屋に…大量に卸して来ちゃいました」
あはは、と笑えない事を笑うウイには、ソニアだけでなくアオイまでもが頭を抱えた。
「でもまぁ…今後のことはこれから考えます。色々とご親切にありがとうございました!」
ギルドに加入出来ないにも関わらず、親身にアドバイスをしてくれる彼らはお人好しとしか言えないだろう。
その好意を受け取れぬ事は残念ではあるが、気持ちだけでもウイは嬉しく感じていた。
「これ、持っていきなさい」
ソニアは銀のプレートをウイの目の前に置く。
それには彼らのギルド名、"ブラーヴェ"の文字が刻印されていた。
「ソニアさん、あの…これは?」
「ギルドに所属する者は皆このプレートを身に付けているわ。身分証みたいなものね」
改めて見ると、彼らの首には同じプレートが下げられていた。
しかしブラーヴェからの誘いを断ったウイにそれを所持する資格はない。
「約束が果たされてそれまでの事が世間に知られていないようならば、その時はそれを下げて商売をなさい」
「え、でもこれ…万が一の時私が持ってたらソニアさんたちに迷惑がかかるんじゃ…」
「まだあなたの名前は刻印してないわ。最悪どうとでも言い逃れができる。それに──私たちは諦めが悪いのよ。せっかく目をつけた職人を、手放しで見逃す訳ないでしょう?」
くすりと微笑むソニアは見惚れてしまう程美しく、どこか妖艶な雰囲気すらも纏っていた。
彼らのビジネスの未来像は、一度はウイの胸を高鳴らせた。
見ず知らずの人間を想い叱ってくれる温かさにも心が惹かれた。
選んだとはいえ、選ばなかった方への未練はないとは言えぬ中与えられたそれに
ウイは感謝の意を込め、改めて二人に頭を下げた。
ブラーヴェの他の職人や商品を見せたいと、アオイはその後半ば強引に近くの事務所へとウイを誘った。
そういうことならばと、ソニアも受付を閉め着いていくようだ。
ウイとアオイ、そしてその少し後ろをローとソニアが歩く。
当然のようにウイの手を握って歩くアオイに眉をひそめたローは、自分の見通しが甘く既に迷惑をかけた彼女を
現実的かつ豪胆な発案で救ってくれた彼らを咎められずにいた。
「もしよければ、今夜にでも一杯どうかしら」
不機嫌さまでは抑えられずにいるローに、ソニアがそう声を掛ける。
「海賊とは関わらねぇ方が身の為なんじゃねえのか。おまえら商人は」
「あら。さっきの話、根に持ってたりする?」
威圧の含んだローの態度に、全く動じないどころかクスクス笑ってすらいるソニアにもまた
彼のこれは通用しないのだろう。
「あなたにとっても、#Name1#はどうでも良い相手ではないんでしょう?海賊に関わった人間のその後を…話しておいた方が良いかと思ったんだけど」
ウイを叱った時のソニアは、真剣だった。
自分の属するギルドの為に欲しい人材の足枷となる物を排除しようという意図以上に
彼女本人がその類いの後悔をして欲しくはないと願っているような切実さが、先程のソニアからは滲み出ていた。
やりにくいとは思えど、これまでの彼女を見た上で
ローはソニアという人間を買っている。
そんな彼女が良かれと持ちかけた提案に乗るか否か。
それを悩むローの目の前で、事務所らしき建物に入っていくウイの姿が目に留まった。
すっかり気を許したらしい#name1#は繋がれた手を離そうともしなければ
アオイに笑顔を向け楽しそうに笑っていた。
馴れ馴れしいアオイの態度は元より、すぐ打ち解けてしまうウイにも
ローは苛立ちを感じていた。
苛立つ理由を本人は理解していなくとも、慣れでそこへの原因究明を放棄したローは
その苛立ちの沼にどっぷりはまっていく。
そんな彼の様子を眺めるソニアはくすりと笑みを溢し口を開いた。
「じゃあ今夜の9時にそこのバーで。待ってるわね」
その誘いへの返事をした覚えがローはない。
しかしソニアは彼が来ることを確信しているようだった。
微笑む彼女に連れられて、ローは事務所の中へと足を踏み入れた。