14-23



「キャプテンでんでん虫貸して?急ぐんでしょ?」
「まだ追わなくて良い。取り敢えず潜って待機だ」


は?


「いや、急ぐなら潜水しながらそっち移動するから。貸してよ」
「まだ追うな。ペンギンと状況詰めてからだ。不用意に近付いてあっちの網に入りたくねぇ」


はぁ!?


「だったらウイの話聞いたげたら良かったじゃん!なんか傷付いた顔してたよ!?何やってんの!」
「…煩ぇ。おまえも来い」


なんなんだろう。
本当に。

あんなに熱い抱擁を交わしておいて
ウイが改まって話があるって言ってきたのは聞かない。


急いでるって言って別れた癖に
実は急いでないらしい。










なに。
なんなの。

意味わかんない。


「ちょっとキャプテン!!」


廊下を進んでいくキャプテンの背中は、俺の声が届いてた筈。


それなのに振り返りも返事もしないで部屋に入っていく辺り
聞く気もなければその矛盾に答えてくれる気もないんだろう。


「このまま高度下げて。海底から100メートル辺りでそのまま待機!」
「了解っす!」


操縦だけならうちのクルーは誰だって出来る。


その辺を通りすがったクルーに操縦桿を預けて
キャプテンの後を追った。









「──取り敢えず港であの女の船見えなくなるまで見送って、フリーウィング停まってるの反対側の港だったし、それで戻って連絡入れた感じ」
「思い出せる範囲で、あの女が報告してた全てを話せ」


リビングに入れば、そこに居たのはキャプテンとペンギン、シャチにジャンバール。


「ドフィは“見つけもの”をしたみたいよ。あの女それについて『そういう風には見えないけど気をつけて見ておく』って言ってた」
「見つけもの…それで?」


シャチもジャンバールも口を挟まない。
だから俺もただ黙って聞いてた。


相変わらずの難しい顔。
その複雑怪奇な頭で情報を整理してるんだろうけどね

何事もなかったかのようにしてるキャプテンに、不満を感じた。


キャプテンが変なのはいつもの事だけど
なんだか最近は違った感じで変だ。




「あとねー…彼女は部屋で白熊と寝てるとか、船の外に見張り付けてるとか。ほとんどがフリーウィングに居るとか、前半戦はそんなもん」
「そこで俺のとこ来た訳か…それで?」


確かに見られていた。
実際に見張りも付けていて、あの場所にペンギンも居なかった。
それでいてペンギンの口から語られるのは昨日確かにフリーウィングで起きた出来事。

あの女が遠隔地を“覗ける”のは事実だ。


「戻って来てからもまた報告してた。見向きもされなかったって。あとはレストランの周りに見張りを付けてるってのと…」
「ちょっと待て。それはあの女が飲み屋から帰って来てから、だよな」


そうだけど、と頷くペンギンに感じる疑念。
昼間でんでん虫を受け取ってから、店の見張りは撤退させてる。


おかしい。
その時間帯は見張りなんて付けてねぇぞ。


「悪い、続けろ」
「酒を追うつもりなんじゃねぇかって。キャプテンは無理だけど他ならなんとかなるから夜の内に始末して酒運ぶかって聞いてたな」


益々おかしい。
それじゃあの女は過去の報告ではなく昼間の状況を遡って
それもさも当時も見張りが居たかのように報告している事になる。


覗き見るには何か制約があるのか。
それとも他の何かか…


「それの返事に、期待させて苦虫噛ませるなんて酷いー的な。弟みたいに思ってたんじゃなかったのーって返事してた」


期待
苦虫
弟みたい


…推論はまぁ良い。


目線で続きを促した。


「ドフィが何か言ったのに対して、歪んだ愛情ねって。…そっからウイの話してた。酒職人のお嬢さんは覗かなくて良いのかって」


ウイを…?


「キャプテンに掛かりっきりで覗けなかったって。後は明日、つまり今日か。島を発つって。実際今日出てったな」
「他には?」


それ以外はなんも、と手のひらを上に向けておどけるペンギンからの情報はここまで。


あの女が時折目を閉じて何かを探るような素振りをしていた事や
俺らが店を張ってた時の状況を聞いて


全ての状況を元に現状を整理する。








なんであの女は嘘の報告をした。
なぜこのでんでん虫をドフラミンゴに報告しなかった。




「苦労かけたな、助かった」
「いや別に?ちゃんとこっちはこっちで楽しんでたから」


気にするな、と言いたげなペンギン。
聞けば女を引っ掻けてヤる事はヤってきたらしい。





変なところがウイと重なる。
ペンギンとウイの似ているところ。


何でもねぇとこには存分に不満をぶつけてくる割に
本当に大変だった事はなんでもなかった事にしたがる。

気を遣われる事を極端に嫌う。


「いや中々可愛かったの。マジで」
「おまえ重大任務中に何やってんだよ」


恐らく、考えてそうしたんだろう。
見つからねぇ為に。

シャチに説教をくらいながらも
おどけてるこいつにそれを言うのも無粋か。


「今回はそれに救われた。女連れだからこそ怪しまれなかった可能性もあんだろ。ファインプレイだ」
「そうそう。くそ真面目に張ってたら怪しまれるでしょ。俺策略家ー」
「絶対嘘だろ、おまえ…」


胡散臭げな顔を浮かべるシャチがそう取るならそれで良い。
こいつは基本、頭が回る事を周りに悟られたくねぇ部類の人間。

能ある鷹はなんとやら、まさにそれだ。


「ベポ。それ聞いておまえ何か引っ掛かるとこあるか」
「え…。──見つけものって、ウイのことなのかなって、なんとなく?…思ったような、思わないような」


ベポもそうなら、恐らく俺のこの予感もあながち検討違いじゃねぇ。


「突拍子もなくウイの話出てきたり…ウイを見張ってろって言ってるように聞こえるけど。その感じじゃ」


なんだ。
“見つけもの”って。


前から顔見知りのウイをわざわざそう称する理由が見当たらない。
だがそこが引っ掛かるだけで
ドフラミンゴの言う“見つけもの”はウイを指している気がしてならない。


「てかさ、それ。酒の方向く発信器的なヤツなんでしょ?それのことあの女一言も言ってなかったけど」
「夜中に店を張ってると報告してた件も…事実とは食い違う」


偶然見ていなかったのか
制約があって見れなかったのか


あの女の能力は間違いなく脅威。
だがどうにも、矛盾が有りすぎる。




「てかさ。俺この辺りなら良いだろって連絡しちゃったけど。あの女どこまで見えてるんだろうね」
「そこだな」


黙って話を聞いていたジャンバールが相槌を打ってくる。


…確かに問題はそこだ。


「あの女が遠隔地を見通せる何らかの能力を持ってるのは事実だ。だがそれならなぜ俺に接触してきた?…それだけじゃねぇ筈だ」
「プラスで何か能力があるか、もしくはその逆か。わかんないけど俺の動きは見えてなかったっぽいしね」


そこだ。
ドフラミンゴは無駄は命令など下さない。


俺に直接接触を謀って、何かをしようとした筈なんだ。
失敗に終わったらしいならそれは良しとしても。


「なんかさ、本当に一意見だぜ?…その女俺らを庇って言わないでくれた線はねぇの?でんでん虫にせよ見張りにせよ。都合良すぎねぇ?」
「あー、確かに」
「早合点するな。…俺らが酒を追うように仕向ける罠の可能性もある。ペンギンの動きすら読まれていて、こっちにそこまで知られる前提の…な」


シャチの言い分も、0じゃねぇ可能性だ。
確かにこっちとすれば都合が良すぎる。


でもそこで決め打ちしてかかるのは危険だ。


「あの女の能力にも限界はある筈だ。距離や覗く対象への制約がねぇなら、ドレスローザに居ながら見張っても良い筈だからな」
「あ、ほんとだ。…で?つまり結局今後どうすんの」


不確定要素ばかりで対策を練りづらい。
でも今は決めなければならない時だ。


「取り敢えず酒を追う。補給途中の島で可能ならドレスローザのエターナルログポースを入手したい。…あとは“SMILE”だ。これが何なのか分からねぇとラチがあかねぇ」


頷く面々に、例えこれが罠だったとしても
それに乗ってやる覚悟は決まった。


折角のチャンスを棒に振る訳にはいかねぇんだ…


「ねぇキャプテン。全然話変わるけど…キャプテンは今も、ウイのこと好きだよね?」


ほぼ会話に参加して来なかった白熊の言葉に
今議題に上がっていた事とは全く別の物への問いに

無言で声の主を振り返った。




「なんだいきなり。それは今別に関係ねぇだろ」
「最近…ちょっと前からキャプテンなんか変だよ。さっきだってウイ…何か言いたそうにしてたのに」


最近がいつからを言ってるのかは知らねぇ。
でもベポが、俺の気持ちの変化に勘づいてる事に少し驚いた。


「え?なんかあったの?もしかして俺今頑張り時?」
「変わらねぇ」


身を乗り出して来るペンギンに若干の焦りを覚える。


今こいつは、俺と同等の位置にいる。
そうじゃねぇ時ですら、油断ならねぇとは思っていた。

イーブンの立ち位置でこいつがなりふり構わず動けばどうなる。


今まではウイは俺を好きだという確信があった。
だからこそある程度は余裕でいられた。

でも今は違ぇ。
俺に出来ねぇ事が、この男には出来る。


「俺は何も変わってねぇ。…変わったのは状況だ。ドフラミンゴをどうにかしねぇと、それどころじゃねぇと言っておいた筈だ」
「なんだ…俺チャンスかと思って喜んだのに」


気兼ねするなと言った。
状況が変わろうと自分が口にした言葉だ。

言った責任が俺にはある。
でももし今同じ状況でも、俺はそれをこいつに言える気がしねぇ。


ペンギンはこう見えて人の心の動きに聡い。
そして気分屋で絶好のチャンスを逃さねぇ。

俺の手前遠慮してるのを知ってる。
どんなに肝冷やす事があろうと、こいつは俺の好きな女相手に本気で落としにかかるようなことはしねぇ。

















狡ぃと思う。
滑稽だ。

そして卑怯だ。


「だったらあんまりウイ悲しませるような事しないでよ」
「俺も今…余裕がねぇ」


納得したらしいベポに、感じるのは罪悪感。
ペンギンがもし、ウイの今の気持ちを知ったらどうなるんだろうか。


「ウイちゃんもこう、『ゃッ…!』って感じなのかね」
「いや、アイツ案外…って!やめろ…流石に俺はウイでそういう想像したくねぇ…」


「そんなもん?可愛いじゃんウイ。乳も尻もねぇけど」
「もう俺にとっては女じゃねぇよ…いや、妹?うん。妹だ」






渡したくない。
ウイの気持ちがそこから離れる可能性があるのなら

その先は俺であって欲しい。
ペンギンに渡すつもりは、微塵もない。




destruct at reality.