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「綺麗…!私こんなの初めて見た!!」
「だろ?マスターの硝子細工はグランドライン一!!いや世界一だぜ!!」


グラスや器、シャンデリアなど
ソニアの手掛けた作品にウイは目を輝かせる。

硝子に精巧な彫刻が施されたグラスグリプティ、繊細な細工…
その素晴らしい品々は職人としてのソニアの腕を証明していた。


「そういえばアオイは何作ってるの?」
「俺か?見せてやっても良いけど本当に惚れるぞおまえ」


ニヤリと笑うアオイは事務所の奥から1つのトランクを持ち出して来る。
軟派な言動の目立つアオイに若干の戸惑いを感じるウイは、それを笑って誤魔化した。

基本他人と深い関わりを持たず、ハートの海賊団には雑な扱いをされる彼女は
そういった扱いに免疫がなかったりする。


「じゃーん!!すげーだろ!」


トランクの中に収まっていたのは腕時計。
一つ一つ文字盤やベルトのデザインの異なるそれは、どれも凝った細工が施されていた。

文字盤から中のゼンマイが見えるタイプのものからは、複雑に噛み合った内部が覗ける。
他のものにも、この仕組みが組み込まれているのだろう。


「アオイって…実は凄いんだね」
「実はって何だよ。最初からそう言ってんじゃねぇか!」


基盤部分は元より装飾にも、緻密な作業や専門的な技術を必要としそうな彼の作品。
自ら自身を凄腕と称するだけのことはある。
それは寧ろ、ウイの想像を越えていた。


「私、こんな凄い物と一緒に商品並べちゃって…大丈夫なのかな」


ウイも拘りを持って物作りをしているという自負はある。
しかし気後れしてしまう程に、彼らの作品は素晴らしい物だった。


「何言ってんだよ。俺らがウイとやりたいって言ってんだ自信持て!!」


アオイの言葉にソニアは当然のように頷く。

目をかけてくれた彼らに恥をかかせぬ物を作らなければと
ウイは決意を新たに、意気込んだ。





ブラーヴェに在籍する職人は彼らの他に二人。
レース職人のカレンと、ウイと同じく酒職人のディゼルだ。
二人は丁度出払っており、後日改めて顔を出す約束をしたウイは事務所を後にした。


「ごめんね付き合わせちゃって。退屈だったよね」
「いや」


それを否定するローの機嫌は、明らかに普段より悪い。
あから様な威圧は気にせぬ割に、こういう所は気になるらしいウイは内心ため息をついた。
それは彼を不機嫌にさせる理由に思い当たる節があるからかもしれない。

先程のソニアの話は彼にとって決して面白いものではないだろう。
ウイが"仲間"かどうかに線を引き、それを覆す為にあれこれ画策していたローの目論見は
世間の目を相手に無意味なものである事を突きつけられたのだから。

例えどう転ぼうと、後悔のない選択をウイはした。
彼らを責めるつもりも、責任を押し付けるつもりも彼女には微塵もない。


「ウイー!!」


不機嫌になられる方がかえって困るウイが居心地悪く感じる沈黙を、アオイの声が破った。


「どしたの?私なんか忘れてった?」
「これやる!!」


アオイはそう言うなり、ウイの腕にシルバーの腕時計をつける。
時計というよりもブレスレットに近いデザインのそれは、ウイが彼の作品の中で一番気に入ったものだった。


「やっぱこれが一番似合うな!」


身に付けられた腕時計を見て、アオイは満足げに笑う。


「あ、ありがとう。お金、払うよ!」
「お礼くれんの?」


カバンの中から財布を探すウイの腕は突然引かれ、それにバランスを崩しそうになる彼女の頬に何かが触れた。
それと同時に響くリップ音。


「ご馳走さん!また顔出せよ!」


アオイはその中性的な顔にニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべると、そのまま去っていった。
ウイは突然の事に何が起きたのか頭が追い付かず、頬に手を当て呆然と立ち尽くす。


「あの野郎…」
「いひゃ、い!痛いってば!」


同じく呆気に取られ動けずにいたローは舌打ちと共にTシャツの裾でウイの頬をごしごしと拭った。
抗議するウイの目が潤んでいたのは
追い付いた頭が先程の出来事に照れたのか、擦られた頬の痛みのせいか。





「お前、あんなのが好みか」


船へと戻る道中、先ほどのアオイの一件で不機嫌さを増したローは苛々とした口調でそう口にする。


「あ、これ?実は一番気に入ってたやつなの!だから嬉しい!!」


ローの言う"あんなの"を時計の事と認識したウイが腕の時計を眺めながらえへへと嬉しそうに笑った。
そんな笑顔すらも、ローは気にくわない。


「違ぇよアホ。あの軟派野郎の方だ」
「軟派野郎?アオイのこと??」


アホと称されれば普段は噛みつくだろうウイは今、素敵なプレゼントを貰えたお陰で大層機嫌が良かった。
返事はするものの彼女の意識は時計に向きっきりだ。

他に誰がいるのかと、スムーズには返ってはこない問いかけにローの機嫌は更に降下を続ける。
ローの中で、ウイが目を潤ませ赤面していた記憶などない。
彼女をそうさせた理由を、ローは知りたかった。


「軟派か。確かにあんな感じが軟派な人って言うんだろうね。うん…そっか!でもそうなんだろうけど悪い人じゃないと思うよ?あと、凄いなーって思った」
「それだけか」


ローが聞きたいのはそういうことではない。
異性として、好みのタイプかということ。

アオイの顔は実際中性的で整っている。
それを好む女は多いだろう。


「ぷっ…!」


突然ウイは吹き出した。
肩を震わせ笑いを堪えるその様子は、彼女がツボに入った事を物語っている。


「なに?ローもしかしてヤキモチ妬いてくれてるの?」


可笑しいと笑う#NAME1に、今度はローが呆気に取られた。


「アオイのことも好きだけど、ローの方がもっともっと大好きだよ!」


その言葉は不思議と、ローの中の苛立ちの靄を晴らした。


「だからアレ買って!」


私お腹すいちゃった、と彼女が指差す先には串焼きの肉を売る屋台。
もう肉の事しか考えていない事が明らかな彼女はタレか塩かをブツブツ悩み出す。

すっかり昼食を食べ逃したローも確かに空腹ではある。
屋台から漂ってくる食欲を擽る匂いは、乗せられた気もしないではないローをそちらへ傾かせた。


「ったくしょうがねえな」
「二本食べたい!タレと塩一本ずつ!!」


結局味違いのそれを二本ずつ持った二人は、船へと戻った。
ローに纏わり付いたあの不機嫌は、いつの間にか消えてなくなっていた。





「少し出てくる」


夕食も終えたその時間、リビングではウイとクルー達が麻雀卓を囲んでいた。

出かける為にはリビングを通らねばならない。
特に外出先を申告しなければならないルールなどないのだが、愛刀を持ちそこを通過しようとするローに一同の視線は集まった。

男、夜、外出、行き先不明。
そこから連想される物に、クルー達はウイの手前彼を無難に送り出そうとする。
ウイも一応性別は女。
ましてや本人に自覚がないにせよ、彼女はローの想い人。
あまりこの手の話題には触れない方が懸命だろう。

シャチとベポは次親誰だっけ?とそのまま麻雀を進行させにかかった。
しかし、それを放っておかない男が一名。


「なにキャプテン、久しぶりに女でも買いに行くの」


ペンギンがローの顔をニヤリと見上げる。
ギロリと睨む視線がペンギンを襲った。

予測出来なくもなかったその事態に、シャチとベポは我関せずと手配を並び替える。
ペンギンとしては、多少のリスクを追ってでも負けの確定しそうなこの状況をひっくり返す事に益がある。

外出の目的等ペンギンにとってはどうでも良い。
ウイの前でそれを言われローが何を考えるのか、彼の狙いはそこだった。


「病気と悪女に気をつけてねー」


そんな彼らを他所に、特にそれに気を止めた様子のないウイはへらへら笑いながら手牌を並び替える。
あまりそっち方面に知識のなさそうな彼女の爆弾発言に、シャチはうっかり口を挟んでしまった。


「お前意味分かって言ってんのか?」
「分かってるよ馬鹿にしすぎ!セッ──「ソニアと飲んでくる」


ウイの投げ掛けた直球ストレートを、ローがぎりぎりの所で防いだ。
それは無事成功し
ウイはソニアと?と、ローの口から出た意外な人物の名に疑問の声をあげる。
それに頷くローに、朧気に事情を察した#NAME1は苦笑いを浮かべ手牌へと目を戻した。

ローの口から聞き覚えのない女の名前が出たことにも驚きを覚えたクルー達ではあったが、それよりも彼らの度肝を抜いたのは先ほどの彼女の発言だった。




普段の彼女の言動は、その辺りの知識があるのかすら怪しいもの。
しかし彼女は確実に、その行為の名称をけろっと口にしようとした。

意外とやることはやっているタイプなのだろうかと、麻雀牌をくるくる玩ぶウイに三方向から視線が集まる。

その後ローを見送った四人は麻雀を再開したのだが
ただでさえ強いウイに雑念の混ざる彼らは大敗し、彼女はこの日勝敗表の数字を大幅に増やした。





「待たせた」
「あら、時間ぴったりよ」


薄暗いバーの最奥、カウンター席の脚の長いスツールに腰かけるソニアの姿がそこにはあった。
ロックグラスを傾けるだけで絵になる程に、バーの雰囲気に彼女はよく馴染む。

隣に腰掛け酒を注文したローに、早速ソニアは口を開いた。


「あなたはどういうつもりなの?」


前置きも何もない核心を、ソニアは突いた。
サーブされた酒が不味くはない事にローは安堵する。
この先も続くだろうその手の問答のお供が不味くては、心も折れるというものだ。


「あなたがあの子を只の足として利用している訳じゃないことはなんとなく見ていて分かるわ。…でもならばなぜ?」


目的地までの足となる船だけではなく、ウイ本人もどうでも良い存在ではないのなら
商人の彼女に海賊が関わる意図は一般的な理解の範疇を越えてくる。


「…仲間にしてぇ」
「…は?」


予想していなかった答えに、ソニアは一瞬言葉を失った。


「ちょっと…理解が追い付かないわ。どういうこと?商人としてやっていくウイを応援している訳じゃなかったの?」
「アイツが断った理由が、お前も言うそれだった」
「でしょうね。それが妥当だと思うわ」
「アイツの酒の価値を世間が認めれば、海賊になろうとそれを求めるヤツはいるだろ」


ローの思惑を理解したソニアは、呆れたとわざとらしくため息をつく。

ウイの酒には人を魅了する力がある。
ソニアとてそれを思うからこそ彼女が欲しい。


「資金源?交渉要因?…あなたならウイに拘らなくともそんなものなんとでもなるでしょう?」


ローが海賊である事と同等に、オペオペの実の能力者である事は世間にも知れている。
それをもってすれば、治療で資金を調達することもそれを盾に交渉を優位に運ぶのも人並以上に容易である事は明らかだった。





destruct at reality.