15-8



ペンギンさんと話してみて
私の恋心は叶わないらしくて。


それを踏まえた上で考えた。
私がこれからどうすべきか。


次の島で大人しく船を降りるべきか
それとも、このままここに居れるように頑張ってみるべきなのか。













もし、船を降りたとして
あの人とは二度と関わりのない世界で、新しい人生を歩んでみて

何も知らない人と人並みで幸せな生活が、恋愛が出来たとして


…それで私は幸せかな。


私はこれまで
誰かに着いていく生き方しかしたことがない。


あんな人でも、先生の為に生きた。
地獄でしかなかったけど、先生に従うしかない時間を生きてきた。


誰かに導いて貰わずに生きる“生き方”が
私には想像すら出来ない。





導いて貰えるなら
あの人が良い。


私の世界はきっと、凄く狭い。

でもこの先沢山の人に出会ったとしても
あの人以上に着いて行きたいと思う人に出会える気がしない。




















コンコン


「なんだ」
「私…です。アンです」


扉を開けてくれたその人は
想像通りというか、無表情。


愛想を振り撒いてくれるでも、私が部屋を訪れたのを喜んでくれてる訳でもない
何も読み取れない顔。


寧ろ不機嫌そう。


「あの、お話が…あります」
「…なんだ」


部屋に招き入れてくれるでもなくて
聞いてくれないでもない。


そんな、受け入れ体制万全でも無関心でもないこの人の対応が
私の決心を更に強いものに変えた。









「私をハートの海賊団に入れて下さい。…新しい人生を選ぶなら、私はここが良い。あなたの元で、私は生きたい……です」








言っておいて恥ずかしくなった。


私にとっては一世一代の決心だけど
この人の目にはどう映るんだろう。

傲りかもしれない。
勘違いかもしれない。


でもこの人は、助けなくても良い私を助けてくれた。


それが特別だって
信じたい。











「…俺の都合で死んでも、おまえはそれで悔いはねぇのか」













そう口にするこの人の目はふざけてなんてなかった。
真剣だった。


私はこの人の事をまだよく知らない。


でも

突拍子もない私の話でも、ちゃんと聞いてくれてるって
そう信じてた。







「ありません。ちゃんと考えました。海賊だし、生きるとか死ぬとかそういうことも。もしも、私でも誰かの役に立てるなら。…それはあなたが良い」


言い切った言葉に嘘はなかった。
これが私の今の正直な気持ち。


わからないことが沢山ある。
でも私はあなたに着いていきたい。

この先どんな後悔が待っていようと受け入れる。
そうなったとしても、私はあなたの傍に居たい。








…拒絶されるならそこまでだ。


嘘じゃない私の気持ちを
この人に判断して貰いたい。












「…何に恩を感じてんのかは知らねぇが、俺は身勝手で褒められた人間じゃねぇぞ」
「私は…あなたに何故助けて貰えたのかが未だにわからないです。でも…そこを抜きにしても、着いて行きたい」


目の奥の奥。
私という人間の芯を見定められてるような気がして背筋が伸びた。

少しでも良く見えるように。


私を知って貰いたい。
この気持ちが知られても、困ることなんて何もない。








私は
あなたの役に立ちたいです。
あなたの傍に居たいんです。










鋭い灰色の瞳。
初めて会った時もこうやってこの人は私を見てた。


この瞳に、恋をした。






「例えこの先あなたが原因で命を落としたとしても。ここで生き別れるよりマシです」
「折角自由になったのに敢えて不自由を選ぶか。…おまえも大概物好きだな。…検討しておく」


物好きとかじゃないと思う。
あなたにはそれ相応の魅力がある。


なんて謙虚で
自分に厳しい人なんだろう。


「結論が出るまでの間、辞めたくなればいつでも言え。後悔しねぇようにな」
「望むところです」


…後悔?


上等だ。
させれるものならさせてみろ。


仲間にして、助けて良かったと思う存在に、私はなりたい。

そして…


あなたの心に居座る人から
その場所を奪ってみせる。













…覚悟してろ
“キャプテン”。






「何今更。いつも勝手に決める癖に」
「良いんじゃね?ナースなんでしょ?…俺らに出来ねぇこともアンは出来んだろうし」


アンは戦力にならねぇ。
寧ろそこで考えたら足手まといだ。


オブラートに包む気もないベポの言う通りではあるものの、流石にこれに関しては俺の独断では決められない気がした。


「医療面以外でも、役に立たなくはねぇと思ってる」
「キャプテンがそうしたいなら良いって言ってるじゃん。そういうの言われると本当に今更過ぎて…逆に鳥肌立つ」


心底引いた顔でそれを言うベポに、似たような顔を浮かべたシャチが力一杯頷く。

異存がないなら良い。
こいつらが仲間に、強さ一本を求めるのであればアンは例外だ。
そこに入りそうもない。


ずっと長らく一緒に居るこいつらのそこに関する意志は無視できねぇ。
そう思った。


「キャプテンが仲間にしたいと思うなら異存はないけど…でもなんで?なんでアンを仲間に入れようと思ったの」
「他のヤツラと大差ねぇだろ。その場の思い付きじゃねぇここに居てぇって意志。…それをあいつにも感じただけだ」


異存がねぇと言ってるものの、本当になければこいつは何も口を出さない。
色々聞いてくる時点で、納得出来ない何かがある。


「キャプテンはアンがここに居たい理由って、なんだと思う?」
「…ンなもん本人にしかわからねぇだろ」


ペンギンは割とどんなことでもハッキリ物を言う。
それか、逆に臭わせて思考を誘導させる。


何考えてんのかは知らねぇが、今回は後者だ。


「仲間に入れるメリット、それがないならそれでもキャプテンが仲間にしたいって理由。…そういうのは?」
「アンを仲間に入れたくねぇ理由があるならはっきり言え」


このまどろっこしい言い方…
面倒臭ぇ。


でも確実にわかることは
ペンギンはアンを仲間にすることには反対なんだろう。





正気か。
いや、本気か。


『アンを仲間に入れようと考えてる。…おまえらはどう思う』











珍しく初代が集められた。
その場で告げられたこの一言。


正直耳を疑った。




アンに異性として好かれてる事が
そんなクルーが船にいてウイがどう思うか

キャプテンはマジでそこを考えられねぇんだろうか。


男とか女とか
戦える戦えないで仲間を選定する気はない。
キャプテンに着いて行きたいと思うその気持ちを無下にする訳でも否定する訳でもない。

ここに居るヤツラは結局が全員その動機の元でここに居る。







でもアンのキャプテンへの恋心を考えれば

ウイの件も
仲間となればどんな動機だろうと命懸けでそれを守るだろうクルー達を考えても

多かれ少なかれそこをちゃんと把握してるかは重要だと思うんだけど。


知ってて決めるのと知らずに決めるのは
大分違う。


「別に反対だって言いたい訳じゃないけど。キャプテンはどこまで理解してんの。それは色々わかってる上での意向?」
「…言質が欲しくて聞いてる訳じゃねぇ。さっきも言ったが言いてぇことがあるならハッキリ言え。おまえの意見が聞きたい」









え?ガチで気付いてない系?これ。











知ってた上で判断した方が良いんだろうけど
そこを俺が言ってしまって良いんだろうか。


本人が勝手に玉砕するならまだしも、人の恋路に直接手出しはしたくない。


っていうか何それ。
本人なら尚更わかるでしょ、アレは。


「アンがここに居たい理由が今後なくなった時、キャプテンはどうすんの」
「出て行きてぇヤツは出てきゃ良いだろ」


いや、それはそうなんだけど。


よっぽどの事がない限りそんな事は起こり得ない。
今のクルー達なら。

アイツらが船を降りるなんて想像もつかねぇし
実際…ないっしょ。
降ろそうとしても這ってでも泳いででも着いて来そう。





でもアンは果たしてそうなのか。


自分で言うのもアレだけどアンがここに居たい理由がなくなる事は

結構な確率で、起こり得る事なんでしょ?





「いや、あのさ。仮に今海軍大将乗せた船と出くわしたとするでしょ。そんでアンが捕まったとする」


すげぇ極論の例え話。
でもキャプテンは大人しく聞いてくれてる。


「アンがここ居る理由なくなっちゃってさ、船降りようとか考えてて。それでもキャプテン大将相手に命懸けでそれ助けんの」
「…有り得ねぇだろ。その仮定は流石に」


いやだから仮にって言ってんじゃん。


「…海賊旗掲げてる以上、100でないとは言い切れないっしょ」
「そっちじゃねぇ。…アイツの本心を100で理解は出来てねぇにせよ、そんな簡単に船降りようとするヤツじゃねぇと言ってる」


あ、そっち。
そっちが有り得ないの。


へぇ…










…ちょっと信じがたいけど


だってキャプテンだし。
凄ぇ頭の回るキレ者だ。


でもこれは…











「降りてぇなら止めねぇ。でも余程の事がない限りアイツはそれをしない」
「…わかんないじゃんそんなの。だってキャプテンウイの事好きで、ドフラミンゴどうにかしたら迎え行くんでしょ?」





もしかしなくてももしかするかもしれねぇ。


忘れてた。
この男は…






「?何度も言わすな。何の為にこんな回りくどい事何年もやってると思ってる」
「「「…」」」









俺らにいつウイへの恋心を自覚するのか
賭けられてたくらいの鈍感野郎だ。











なんでそっち方面はこんなに鈍いの。
ウイに向く男の気持ちには過敏すぎるくらいに噛みつく癖に。


シャチもベポも唖然として絶句してる。

前からアンの恋心に気付いてたかは知らねぇけど
こいつらも俺の話を聞いて何を言いたいかは察しが付いたみたいだった。


普通そうでしょ。
ここまで言われたら普通勘づくでしょ。




不機嫌そうな顔で腕組んで睨み付けてくるキャプテンは、何で今それを聞かれるのか理解出来てないんだろうね。


理解出来ないながらも真面目な顔して問答に付き合ってくれてるキャプテンだけが
本当の論点にこの場でただ一人気付いてなかった。







普段なら人一倍目敏い癖に。





destruct at reality.