15-10



「有名か無名かって言ったら間違いなく有名」
「強いんですか?何歳くらい?背は高いんですか?あと、美人…ですか?」


凄い前のめり。
でも聞きたい。

あの人の好きな人。


きっと凄く綺麗で、落ち着いてて。
…海賊っていうのは正直意外だった。
どちらかというとおしとやかな人をイメージしてたから。
でもそうか。

強さも魅力なのかもしれない。
あときっと大人って感じの人な気がする。


あの人の隣に並んでても見劣りしないような人。


「強いって戦い系の話?…なら劇的に弱い。でも狂暴。女の割に良い拳持ってる」


ん…?
その人海賊じゃないの?


「年はー…21?になったのか?背はアンよりちっこい。美人系ではないな。あと貧乳」


そこは聞いてない。
でもそうか。貧乳。


自分の胸を見下ろして勝ったと思った。
この体で良かったと生まれて初めて思った。


でも何だか思い描いてたイメージの人とは違そう。

私より年下で、背も低くて…
可愛い感じの人なの…かな。


あの人は可愛い系が好きなのか。
ちょっと意外だ。


「どんなん想像してんのか知らないけど、間違いなく予想外だと思う。あんな女他に見た事ねぇもん俺」
「ノロケですか?…ペンギンさんも可哀想ですね。そんなに好きな人はあの人を好きなんでしょう?…認めたくないけどペンギンさん、モテそうじゃないですか」


その人の事を話すペンギンさん、嬉しそうだったから。
口振りは貶してるようにしか聞こえないけど、本当に好きなんだろうなって改めて思う。


「モテるよ?モテるようにやってるもん。言って欲しい言葉もあげるし、お好みに合わせて好きそうな男で居てあげてんの。モテない訳がないでしょ」
「…嫌な人。…私やっぱりあなた苦手です」


ハッキリ言うねって、ニヤつくこの人をじと目で睨んだ。


女の敵だ。

こういう事言うってことは、好きな人が居てもペンギンさんは結構遊んでるんだろう。
好きでもない女の子を引っ掻けて、遊んでポイ捨て。





やっぱり好きになれない。







「でもなんでかアイツには通用しないの。…してんのかね?してて敵わないのかもしんない」


飄々と話すその顔は
少しだけ悲しそうで、でも仕方なさそうに笑ってた。


なんだか胸が痛む。


チャラいのかもしれない。
人を軽蔑して見下してるのかもしれない。

でも宴が始まってからこの人の周りにはクルー達がひっきりなしに訪れるし
皆の顔を見てても慕われてるんだろう事が良く分かる。


そんな人が、ずっと想ってても叶わないような人。
そこまで愛されてる人。







頑張るって決めたけど早速心が折れそうになった。


そんなに、凄い人なんだ…


「…告白、しないんですか?」
「んー…形式的にはしてない。でも知ってるよ?超絶男前なキープが居るからいつでもおいでって、…3年くらい前に言ってある」









どういう事なの…それは。


よく分からないけど振られてるって事なのかな。
それも3年も前に。


…3年、か。


いつの間にかこの人と話し込んでた。
好きじゃない筈なのに、でも話してる。

なんでだろう。


「早速どんよりモード?早くない?根性ねぇな」
「諦めてなんていません!…ただ、物凄く強敵そうだなっては…思いました」


出会って
好きになって
まだ数日。


あの人と好きな人の間には少なくとも3年間の時間がある。


3年間も好きなのか。


「折角なら頑張ってよ。“有り得ない”だろうけど応援してる。アンにぞっこんになったキャプテンに捨てられたアイツが俺の胸に飛び込んで来んのを」


細められた目とつり上がった口角。
人を小馬鹿にしたような態度。


上等だ。
やってやろうじゃない。


「そう言えば、“好きな人”って、二人は恋人同士じゃないんですか?」
「あっはっは!気付いた?そうなの。何年も両思いの癖にくっついてねぇの。すげぇまどろっこしいの」


けたけた笑いながら瓶を傾けるこの人は
あんな顔して好きな人の事を語るのに平気なんだろうか。


両思いってことは、やっぱりペンギンさんの好きな人の好きな人はあの人。


世の中には色んな形の恋愛があるらしい。







それからお酒のおかわりを取りに来た皆に連れ込まれて、また皆でお喋りしてた。


楽しかったけど、円の反対側に居るあの人と言葉を交わせることはなくて。

皆の前では言ったけどちゃんと言いたい。
これからよろしくお願いしますって、あの人に。

少しで良い
話したい。


輪の中から立ち上がったそのタイミングを逃すまいと、コップの中のジュースを飲みきってそれに続いた。


「アンどこ行くの?」
「これ、おかわり…!」


両隣に腰を降ろしてたクルー達が首を傾げてるけど、コップを突きだして取り繕った言い訳で乗り切る。


これはチャンスだ。












「あの…!本当に色々、ありがとうございました。これからよろしくお願いします!」
「上手く馴染んでんじゃねぇか」


お酒で上機嫌なのかな。
ふっと笑ったその顔にドキリと心臓が跳ねた。


やっぱり格好良い。
格好良すぎる。


それに笑ってくれた…!


初めて見た。
あんまり笑わない人の笑顔って凄い殺傷力だ。


「礼言われる覚えはねぇぞ。命懸けられんのかって、アレは脅しじゃねぇ。俺が狙う首はそれだけのヤツらだ」
「臨むところです!誰を狙ってるんですか?…私知ってるかな」


不敵な笑みで命の保証はしない的な事を言うこの人。


変だね。
先生は私の命は保証してくれてた。

同じ誰かの管轄下。
安全ってとこを考えたら、こっちの方が悪いのかもしれない。


それでも
この人に言われるとなんだか嬉しい。
所有物みたいで、この人のクルーっていう事が誇らしい。


「七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。後は最悪四皇カイドウだな」
「それを知らない人は…中々居ないですね。でも頂点を目指すんですよね?ならいつかは倒さないと!」


思ってた以上に大きな敵。
本当にきっと、命懸けだ。


でもこの人の懸賞金だって半端ない。
さっきの部屋に貼ってあった手配書の額は4億4000万ベリー。


そこを目指すような人だ、私達の船長は。


「意外と好戦的だな。まずおまえは多少鍛えろ」
「了解です!キャプテン!」




初めて“キャプテン”って呼んでみた。


少し恥ずかしい。
でもこの人は私のキャプテン。


照れてるのを見透かされてるのか、見下ろしてくる鋭い瞳がふって笑う。





心臓が、大変な事になった。







「後は…おまえどうする。おまえも欲しいか、あのつなぎ」
「良いんですか!?」


海賊旗のロゴがプリントされた皆が着てるお揃いのつなぎ。
私も貰えるのか!

なんだかより仲間っぽくなってきた…!


嬉しくなって身を乗り出すけど
キャプテンはなんだか若干引いた顔をしてる。


はしゃぎ過ぎた…かな…


「いや、おまえが良いならそれで良い。…俺が選ぶクルーはどうも、変なとこが似通うらしい」


私がまずったと思ったのに気付いたのか、そうじゃないと否定してくれる。

それも気遣い凄いなって思うんだけどそれ以前に










“俺が選ぶクルー”







私が仲間になりたいって言ったのに。

それだけじゃないんだって
キャプテンも私を選んでくれたって
そう思ったら全身が熱くなるような、嬉しさが込み上げてきた。


「体格…いや骨格がそもそも違ぇしな…近いうちに用意する。それまで待ってろ」
「すいません、ありがとうございます!」


特注なのか。
そりゃそうか。ロゴ入りだ。


一人一人に作ってくれるなんて更に特別感。
どうしよう楽しみ…!!


それから少し話して、お酒のおかわり取りに来たクルーに私たちは連れ戻された。


折角二人で話せた時間を邪魔されたのが残念で
おかわりを取りに来たクルー達を恨みがましい目で睨んじゃう。






…でもこれからはずっと一緒。
同じ船の上で生活する。
生きていける。


話せる機会なんていくらでもあるんだ。





…こんなに明日が
未来が楽しみで仕方ない。


生きてるってこういうこと。
私はきっと物心ついてから初めて、生きてる事を実感してる。
楽しんでる。


「早速頑張ってんじゃん」
「ペンギンさ…副船長の為にも頑張らなきゃですから」


この人のこういう冷やかしみたいなのも
前ほど嫌じゃなくなった。

さっき色々話したせいかな。


期待してるって、頭に乗せられた手。








…別にときめかない。
ときめかないぞ私は。


でもきっとこういうとこが遊ばれちゃう女の子達の心を掴むんだろうなって
お酒のおかわりを取りに行く副船長の後ろ姿を見て、そんな事を思った。







ハートの海賊団としての生活にも大分慣れてきた。
毎日筋肉痛だしへとへと。
体も痣だらけ。

思ってたイメージと違うのが、清潔でとってもご飯が美味しいこと。


海賊ってお酒と干し肉なイメージだったから、エネルギー源にもなるお酒は飲めるようにならなきゃって思ってたけど
3食ちゃんとご飯が出る。

シャワーも毎日浴びれる。


結構早くに苦手なお酒に挑む事は諦めた。
飲めなくても平気な生活だ。


あと印象が強い事と言えば賭博かな。
これはイメージ通り。

トランプに麻雀、ボードゲーム。
皆それはそれは賭け事が大好き。


ルール分からないし、やることもあるから良いかなって。
そこには混ざらなかった。


キャプテンが私に読んでおけって、沢山医学書を貸してくれたから。


…嬉しかった。
期待されてるのかなって。
それを抜きにしても、医学の知識が得られるのは純粋に楽しい。


先生は私に、本当に必要最低限しか知識を与えてなかった。
医学の知識があると思ってた自分が恥ずかしい。


でもね、難しくて分からない所を聞きに行くと
キャプテンは凄く分かりやすく教えてくれるの。

凄い頭良いんだなって益々惚れ直してしまった。


毎日どんどん好きになる。
好きが大きくなる。







キャプテンの好きな人のことも
敢えて聞かなくても耳に入ってきた。


ロレイシル・ウイ。


確かに海賊じゃなくて有名人。
知らない訳がないでしょう。


知らない人なんてこの世界にきっと居ない。
天下の、ブラーヴェ。
それも天竜人お抱えの酒職人。


副船長はあの時ヒントをくれてたのか。
この船にある沢山のシードル。
新聞でも希少だって書いてあったそれがこの船にあるのは凄いなって思った。
流石キャプテン!って。


でも違う凄さだった。


朧気な記憶の中のその子の顔も、はっきり思い出す事が出来た。
リビングにスクラップしてある新聞記事に、あの子の顔写真が写ってるものが沢山あったから。


確かに美人系じゃなく可愛い系。
色素の薄い、儚げで愛くるしい感じの容姿。









カタログスペックだけで既にボロ負けだ。




destruct at reality.